ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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本日でファンに関する投稿は終わりです。それではサイドストーリーを再開し、本編第4編へと足を進めましょう。


サブストーリー:灰色世界の防衛戦線 ――名もなき盾(ナイト)たちへ

 

 

午前二時。大静寂に包まれた渋谷の地下シェルター「箱舟(アーク)・支部」。

 地上への排気口近くで見張りをしていた男が、携帯していたガイガーカウンターのような測定器を睨みつけた。

 針が、異常な数値を弾き出し、けたたましい警告音を上げる。

 

「来たぞ……。『黒い雪』だ!!」

 

 その叫びと共に、重厚な鉄扉の向こうから、無数の「何か」が爪を立てる音が響き渡った。

 キィイイイイ……ガリガリガリ……。

 ガラスを引っ掻くような不快音。ヒス(Hiss)だ。

 平和な越冬日誌の裏側で、生存を賭けた防衛戦が幕を開ける。

 


 

【シェルター防衛線:最前列】

 

「みんな、準備はいいか! 扉が開くぞ、しっかり支えろ!」

 

 最前列に並んだのは、手作りのプロテクターや、ふかふかのクッションを身につけた人たち。「ころねすきー」だ。

 

「おう! 久しぶりの運動だねぇ!」

「今日のノルマは指何本分かな?」

 

 彼らの表情は真剣そのものだけど、どこか楽しそうだ。

 扉が軋み、黒い霧と共に「ノイズ」たちが押し寄せようとしてくる。

 普通の人間なら怖くて逃げ出したくなるような冷たい風。

 

 でも、ころねすきーたちは一歩も引かない。

 彼らの能力は『耐久(エンデュランス)』。

 戌神ころねの長時間配信を、最初から最後まで笑顔で応援し続けた「根気」と「体力」。それが今、仲間を守るための「見えない壁」になっている。

 

「えいえいおー! ころね様が見守ってくれてると思えば、こんな風、へっちゃらだ!」

 

 先頭のお兄さんが、両手を広げてノイズを受け止める。

 ドン! と衝撃が走るけれど、彼はニコッと笑って押し返した。

 その体からパチパチと黄色い火花が散って、悪い霧を追い払っていく。彼らは、頼れる「ガードマン」なのだ。

 


 

「前衛チーム、そのまま耐えて! 今、道を開けるから!」

 

 ころねすきーたちが支える壁の横から、青いパーカーを着たお兄さんたちが飛び出した。

 星街すいせいのファン、「星詠み」たちだ。

 

「……右、35度。ブロックの形は……L字。よし、いける!」

 

 リーダーの男の子が、持っていたピッケル(登山道具)を振るう。

 彼らの目には、ごちゃごちゃした敵の動きが、まるでパズルゲームのブロックみたいに整って見えている。

 どこを動かせば道ができるか。どこを通れば安全か。

 それを一瞬で見極めて、ササッと片付けていく。

 

「今日もすいちゃんはァーーッ!」

「「「かわいいーーーッ!!」」」

 

 みんなで声を合わせて、リズムよく動く。

 その掛け声は、暗い地下室を明るく照らす魔法の呪文みたいだ。

 彼らが通った後には、きれいに道ができている。

 それは戦いというより、息の合った「お掃除パズル」を見ているみたいだった。

 


 

「おい! あっちからデカいのが来るぞ!」

 

 側面から迫る大型のスクリーマー。

 それに対して立ちはだかったのは、兎の耳をつけた「野うさぎ」たちだ。

 彼らに戦闘力はない。武器もただの鉄パイプだ。

 だが、彼らはニヤリと笑い、大声で叫んだ。

 

「おーっと! そっちは『地雷原』だぺこよー!!」

 

 その言葉には、兎田ぺこら譲りの『言霊(嘘)』が微量に含まれている。

 本来ならただのハッタリだ。

 しかし、この灰色の世界では「認識」こそが物理法則。

 ノイズの怪物は、その言葉を「真実」として誤認し、ピタリと足を止めて迂回しようと動きを鈍らせた。

 

「効いてる効いてる! 嘘も突き通せば現実(マコト)になるんだよォ!」

 

 彼らの役割は、敵を倒すことではない。

 嘘八百を並べ立てて敵を混乱させ、時間を稼ぐこと。

 その滑稽で必死な姿は、戦場の空気を少しだけ軽くしていた。

 


 

「野うさぎが足止めした! 今だ、突っ込むぞ!」

 

 混乱する敵陣の横腹を突いたのは、完璧な連携を見せる一団だった。

 白上フブキのファン「すこん部」たちだ。

 彼らは言葉を交わさない。

 だが、まるで白い糸で繋がっているかのように、あうんの呼吸でカバーし合い、敵の攻撃を紙一重で回避する。

 

「『見えて』るな?」

「ああ。こっちだ、ついて来い!」

 

 能力『狐の連携(フレンズ・リンク)』。

 フブキの「集結令」の劣化版だが、半径数メートル以内なら思考が共有されたかのような超反応が可能になる。

 

 そして、そのすこん部の影に紛れて、音もなく移動する者たちがいた。

 猫又おかゆのファン「おにぎりゃー」だ。

 

「……すーっ」

 

 彼らの存在感は異常に希薄だ。

 能力『気ままな隠密(ファントム・ウォーク)』。

 敵の認識から外れることで、戦場を幽霊のようにすり抜ける。

 彼らの手には武器はない。代わりに、負傷して倒れた仲間がいる。

 

「回収完了。……じゃ、ずらかるね」

 

 敵の目の前で負傷者を引きずり出し、安全圏へと退避させる。

 派手さはないが、彼らがいなければ前線の崩壊はもっと早かったはずだ。

 


 

「ぐあっ……!?」

「クソッ、数が多すぎる……押し込まれるぞ!」

 

 前線の奮闘も虚しく、圧倒的な「量」の暴力がシェルターの入り口へと迫る。

 ころねすきーの盾が砕かれ、星詠みのピッケルが折れた。

 

「もうダメか……」

 

 誰かが膝をつきかけた、その時。

 シェルターの入り口から、柔らかく、温かい光が漏れ出した。

 

 そこに立っていたのは、青い制服や装飾を身に着けた「そらとも」たちだ。

 彼らは武器を持たない。

 ただ、祈るように両手を組み、静かにハミングしていた。

 

『 ♪ ―――― 』

 

 ときのそらの歌声を模した、拙い、けれど真剣な祈り。

 能力『清らかなる残光(ピュア・ライト)』。

 それは敵を倒す力ではない。

 だが、その光を浴びた瞬間、戦士たちの心臓を鷲掴みにしていた「恐怖」が、すうっと和らいだ。

 

「……まだだ」

「ああ……まだ、立っていられる」

 

 震える足に力が戻る。

 彼らは知っている。この光の後ろには、「彼女たち」がいる。

 自分たちがここで倒れれば、あの歌声が途絶えてしまう。

 その事実だけで、彼らは限界を超えて拳を握り直すことができた。

 


 

【シェルター:救護スペース】

 

 おにぎりゃーによって運び込まれた負傷者は、直ちに「救護スペース」へと放り込まれる。

 そこには、鉄と油の匂いではなく、甘い香水の香りがふわっと漂っていた。

 

「はい、そこの悪い子。腕出して。……んっ、じっとしててね」

 

 白衣を羽織ったお姉さんやお兄さんたち。「ちょこめいと」だ。

 癒月ちょこのファンである彼らの能力は『癒やしの手当て(チャーム・ヒール)』。

 

 怪我をして戻ってきたころねすきーの腕に、優しく包帯を巻いてくれる。

 まるで、ちょこ先生が「痛いの痛いの飛んでいけ」をしてくれているみたいに、不思議と痛みが引いていく。

 

「あら、我慢強くて偉い偉い。先生、ご褒美にアメちゃんあげる」

「……へへ、なんか元気出てきたかも」

 

 彼らの手当は、ただの包帯や消毒だけじゃない。

 「大丈夫だよ」「頑張ったね」という言葉が、心の疲れまで取ってくれるのだ。

 顔をちょっと赤くした兵士たちは、元気いっぱいに立ち上がって、また仲間を守るために走っていく。

 それは魔法みたいな、とっても優しい保健室の風景だった。

 


 

 数時間に及ぶ激闘の末、最後のノイズが霧散した。

 朝日が、ビルの隙間から差し込んでくる。

 

「……終わったか」

「ああ。また生き残っちまったな」

 

 ボロボロになったころねすきーと、武器を杖代わりにする星詠みが、瓦礫の上で肩を並べる。

 体は鉛のように重い。けれど、心は翼が生えたように軽い。

 その横では、すこん部がおにぎりゃーを労い、野うさぎが「嘘じゃなく本当に勝ったぺこ!」と騒いでいた。

 

 そこへ、地下から甘い匂いが漂ってきた。

 

「おーい! 戦闘組! 下でココア作って待ってるぞー!」

「そらともさんが守ってくれた入り口から、いい匂いがするね」

 

 誰かの声が響く。

 戦士たちの顔が、ふっと緩んだ。

 

 彼らは知っている。

 自分たちがここで泥だらけになって守った扉の向こうに、ささやかだけど温かい「日常」があることを。

 そして、その日常を守ることこそが、いつか帰ってくる「彼女たち」への最大のアピール(推し活)であることを。

 

「帰ろうぜ。……アーカイブ(休息)の時間だ」

 

 名もなき盾たちは、朝日を背に、温かい地下室へと戻っていく。

 その背中は、かつて画面の前でペンライトを振っていた時よりも、少しだけ大きく見えた。

 

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