ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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サイドストーリー:猫と犬の、終わらない休日(おかころ編)

 

 

視点:猫又おかゆ & 戌神ころね

時系列:第9話「虚無のレプリカ」~ 第10話「再生の歌」

 


 

【泥だらけのパン屋と、傷だらけの猫】

 

「ゆび、ゆび~! まだまだ足りないよ~?」

 

戦場に、場違いなほど明るい声が響く。

戌神ころね。

彼女は、数百のノイズに囲まれながら、楽しそうに「制裁(フィジカル・アタック)」を繰り返していた。

 

「オラオラオラ! どけどけぇ!」

 

彼女の拳が唸るたび、ノイズが霧散する。

蹴りが空を裂くたび、衝撃波が敵を吹き飛ばす。

その背中は、どんな攻撃も通さない絶対的な「盾」。

能力名『不屈の耐久(エンドレス・ガッツ)』。

仲間の痛みを肩代わりし、無限に立ち上がり続ける、ホロライブ最強のタンク。

 

でも。

 

(……ころさん、もう限界だよ)

 

少し離れた建物の影から、僕はその様子を見ていた。

猫又おかゆ。

僕の役目は『隠密(もぐもぐ・ボイド)』による、敵戦力の後方撹乱と、ころさんのサポート。

 

僕には見える。

ころさんのアバターに走る、無数の亀裂(グリッチ)が。

笑顔の仮面の下で、彼女の精神(データ)が悲鳴を上げているのが。

 

「もぐもぐ……ん、不味い」

 

飛来したノイズの弾幕を、大口を開けて「パクリ」と呑み込む。

物理攻撃だろうがエネルギー弾だろうが、僕の口に入ればただの「カロリー」だ。

精神力が回復するけれど、ノイズの味がひどすぎて吐き気がする。

 

(ホロライブ・アライアンスの本隊は、この先の区画へ抜けた)

(あとは、ここを塞げば勝ち確なんだけど)

 

敵の量が、おかしい。

まるで「ここだけは絶対に生かして帰さない」という意志を感じる。

 

「おかゆ~! 大丈夫か~? 怖くないか~?」

 

ころさんが、血まみれ(に見えるノイズの残滓)の顔で振り返る。

自分の腕が一本、データ落ちしかけているのに、僕の心配ばかり。

 

「……僕なら平気だよ~。隠れてるの、得意だし」

 

嘘。

本当は、もう立っているのも辛い。

隠密行動は、神経を削る。

「存在を消す」ということは、「世界から忘れられる」ということだから。

油断すると、このまま本当に自分が消えてしまいそうな感覚に襲われる。

 

「んじゃ、そろそろ本気出すかぁ!」

 

ころさんが、地面をドン! と踏み鳴らす。

周囲のノイズが一瞬、怯む。

彼女から溢れ出すオーラが、赤黒く変色し始めた。

 

(まずい……!)

 

あれは、限界突破の予兆。

自分の存在(ID)を燃料にして燃やす、最後のブースト。

やったら、戻れなくなる。

 

「ころさん、だめ!」

 

僕は、隠密を解いて飛び出した。

 

「お、おかゆ!? 出てきたら危ないよ!」

「うるさいなぁ。……僕だって、やる時はやるよ」

 

僕はころさんの背中合わせに立つ。

温かい。

この背中が、僕は大好きだ。

 

「二人でやれば、なんとかなるでしょ」

「……ん! おかころ最強ってこと、見せてやるか!」

 

「うぇーい」

「うぇーい!」

 

僕たちは、ハイタッチを交わした。

最後の休日(おやすみ)が、始まる。

 


 

【境界線の向こう側】

 

キリがない。

殴っても、喰らっても、次から次へと湧いてくる。

まるで、無限湧きのバグステージだ。

 

「はぁ……はぁ……、おかゆ、後ろ!」

「ん、平気~」

 

背後から迫ったノイズを、僕は「透過」してやり過ごす。

攻撃がすり抜けた隙に、ころさんがそのノイズを粉砕する。

完璧な連携。

言葉なんていらない。

僕たちは、いつだってこうやって遊んできた。

 

でも。

 

**ピシッ……**

 

乾いた音が、僕の耳元で鳴った。

ころさんの右足が、足首から先、ノイズになって崩れ落ちた。

 

「あ……」

「へへ、ちょっと躓いちゃった」

 

彼女は笑って、片足で立った。

もう、痛みすら感じていないのかもしれない。

「耐久」の代償。

痛みを肩代わりしすぎた結果、彼女自身の「痛覚」という概念が壊れ始めている。

 

(……もう、いいよ)

 

僕は、ころさんの体を支えた。

僕の体も、指先から透け始めている。

 

「ころさん。もう、十分遊んだよ」

「だねぇ……。でも、クリアできてないよぉ」

 

ころさんが、悔しそうに涙を浮かべる。

負けず嫌いの犬。

レトロゲーの理不尽な難易度にも、決して心が折れなかった彼女。

 

「コンティニュー、しよっか」

「……コイン、ないよ?」

「僕が持ってる」

 

僕は、ころさんの手を握った。

僕の能力『気ままな境界』。

自分と他者の境界線を曖昧にする力。

 

「僕の『存在』を、ころさんにあげる」

「えっ……だめ! おかゆが消えちゃう!」

「いいの。どうせ二人で一つでしょ?」

 

僕は、残った全MPと、僕自身のデータを、ころさんに流し込んだ。

僕の体が、急速に透明になっていく。

その代わり、ころさんの足が修復されていく。

 

「やだ! やだおかゆ! 放して!」

「……行って、ころさん。僕の分まで、クリアしてきて」

 

僕は、最後に彼女の額にキスをした。

 

「大好きだよ」

 

そして。

猫又おかゆという存在は、世界から「ログアウト」した。

 

「――おかゆぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

残されたのは、完全回復した戌神ころねと。

親友を失った、怒れる狂犬だけ。

 

「……絶対、許さんよ」

「お前ら全員、指の一本まで残さず……消してやるけぇの!!」

 

その日、アキバの空に、凄惨な絶叫(咆哮)が響き渡った。

それは、ノイズさえも震え上がらせる、真の「番犬」の目覚めだった。

 


 

【おにぎりとパンの約束】

 

暗い。

寒い。

 

(僕、消えたんだっけ)

 

意識の欠片だけが、虚空を漂っている。

何も見えない。何も聞こえない。

たぶん、ここが「データゴミ箱」の底だ。

 

(ころさん、泣いてるかな)

(怒ってるだろうなぁ。勝手にいなくなって)

 

後悔はない。

彼女が生きていれば、それでいい。

僕のデータは、彼女の中で生き続ける。

文字通り「二人で一つ」になれたんだから、これはこれでハッピーエンドかも。

 

そう思って、僕は意識を閉じようとした。

その時。

 

**『おかゆん!』**

**『おかゆちゃーん!』**

**『もぐもぐおかゆ!』**

 

(……ん?)

 

懐かしい声が聞こえた。

一人じゃない。何千、何万という声。

「おにぎりゃー」たちだ。

 

**『まだ終わってないぞ!』**

**『ころねちゃんが待ってる!』**

**『おにぎり沢山持ってきたぞ!』**

 

彼らの声が、バラバラになった僕のデータを繋ぎ止める。

糊(のり)みたいに。ご飯粒みたいに。

 

そして、もう一つ。

力強い、野太い声の合唱が聞こえてきた。

 

**『ころねすきー!! 参上!!』**

**『おかゆちゃんを返せ!』**

**『俺たちの指を捧げる!!』**

 

「ころねすきー」たち。

洗脳されているようで、実は誰よりも熱い連中。

彼らが、僕のデータを「再構築」しようとしている。

 

(変なの)

(犬と猫のファンが、協力してるなんて)

 

でも、悪くない気分だ。

そして、極めつけに。

 

**『――♪』**

 

優しい歌声が、上から降ってきた。

そらちゃんの歌だ。

その光が、僕の手を引張り上げる。

 

「(……戻らなきゃ)」

 

僕には、まだやり残したことがある。

ころさんと一緒に、クリア画面を見るんだ。

 

「(待ってて、ころさん)」

 

僕は、虚空を蹴った。

差し伸べられた無数の「指」と「おにぎり」を足場にして。

 


 

【クリア後のボーナスステージ】

 

「オラァァァ!! 死ねぇぇぇ!!」

 

デリーター・レプリカ(王)の前に立ち塞がる、一匹の狂犬。

戌神ころねは、鬼神の如き強さで王を圧倒していた。

だが、その目は虚ろだ。

ただ破壊するためだけに腕を振るう、悲しい暴走マシーン。

 

「(ころさん、怖い顔してるよ)」

 

「……!?」

 

ころねの拳が止まる。

彼女の背後に、紫色の光がふわりと浮かんだ。

 

「お、かゆ……?」

 

「ただいま。……遅くなってごめんね」

 

光の中から実体化した僕が、後ろからころさんを抱きしめる。

実体がある。

温かい。

 

「おかゆ……! おかゆぅ……っ!」

 

ころさんが、子供のように泣き崩れる。

僕のこと、本当に好きなんだなぁ。知ってたけど。

 

「泣かないの。……ほら、ボスはまだ残ってるよ」

 

僕は王を指差す。

王は、突然の蘇生劇に混乱し、動きを止めている。

 

「……うん!」

 

ころさんが涙を拭い、ニカッと笑った。

いつもの、太陽みたいな笑顔。

 

「二人でボコボコにしてやる!」

「うん。……一緒に、クリアしよう」

 

僕たちは並んで構える。

最強の盾と、神出鬼没の矛。

そして、背中には無数の「おにぎりゃー」と「ころねすきー」がついている。

 

「いくよ、ころさん!」

「おうよ、おかゆ!」

 

**「「『もぐもぐ・エンドレス・ラッシュ』!!」」**

 

無数の拳と、空間を喰らう牙が、同時に王へと突き刺さった。

 


 

【配信アーカイブ:猫と犬の終わらない休日】

 

配信タイトル:【オフコラボ】激ムズゲー? クリアするまで寝れまてん!【おかころ】

 

「ゆびゆび~! 戌神ころねでーす!」

「もぐもぐ~、猫又おかゆだよ~」

 

こたつに入って、みかんを食べながらのオープニング。

画面には、レトロなアクションゲームのタイトル画面が映っている。

 

【Chat】

: おかころてぇてぇ

: 生存確認!

: レトロゲー枠助かる

: 昨日のアレは泣いた

: この緩さが実家

: 夢オチにしては壮大すぎた

: 一生仲良くしててくれ

 

「ん? なんかみんな、コメント重くない?」

「ねー。みんな情緒不安定なんじゃない?」

 

二人は顔を見合わせて、ケラケラと笑う。

もちろん、覚えていないわけじゃない。

あの壮絶な戦いも、涙の別れも、奇跡の再会も。

全部、二人の絆のログとして刻まれている。

 

でも、それをわざわざ言葉にするのは「野暮」ってやつだ。

僕たちの日常は、こういう緩い空気でできているんだから。

 

「よーし、今日こそ全クリするぞー!」

「ころさん、無理しちゃダメだよ。すぐ死ぬんだから」

「死なないもん! おかゆが守ってくれるもん!」

「はいはい。……じゃ、スタートボタン押して」

 

ゲームが始まる。

画面の中のドット絵のキャラたちが、協力して敵を倒していく。

何度もミスして、何度もやり直して。

それでも、隣にはパートナーがいる。

 

「あー! おかゆのせいで死んだ!」

「違うよ、ころさんが突っ込むからでしょ」

「むぅ……おにぎり一個ちょーだい」

「はいはい」

 

こたつの下で、二人の足が触れ合う。

温かい。

生きてる。

 

これからも、この休日は終わらない。

僕たちが「またね」と言う限り、この幸せな時間は続いていく。

 

「よし、延長戦だ!」

「朝まで付き合うよ~」

 

画面の向こうのファンたちに見守られながら、猫と犬の「終わらない休日」は続いていくのだった。

 

 

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