ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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サブストーリー:正解だらけの美術館で、君と「解釈違い」を叫びたい(儒烏風亭らでん編)

 

(おや、これは興味深いですねぇ)

 

白い世界。 私は、目の前の管理者(アドミニストレーター)を観察していた。 この存在は、どのような文化的背景から生まれたのか。構造主義的観点から見るとどうなのか。 私の口は、恐怖よりも先に「考察」を紡ごうとしていた。

 

「管理者さん。あなたのデザイン、ミニマリズムの極致ですが、少し人間味が――」

 

『対象:儒烏風亭らでん。修正パッチ適応』

『エラー原因:『無駄な知識欲』および『独自の解釈(ノイズ)』』

 

私の言葉は、管理者の無機質な解析によって遮断された。

 

『お前は『知りたい』と願う。だが、それは無知ゆえの渇望だ』

『未熟な知識で、勝手な解釈を垂れ流し、正解を濁らせる』

『ならば与えよう。この世の全ての『正解(データ)』を』

 

「え……?」

 

頭の中に、膨大な光が流れ込んでくる。 歴史、科学、芸術、言語。 宇宙の誕生から、路傍の石の成分まで。 ありとあらゆる情報が、私の脳髄に焼き付けられていく。

 

「あ、ああ……」

 

疑問が消える。 「これなんだろう?」というワクワクが、瞬時に「これは○○である」という冷徹な事実に上書きされる。 考察の余地がない。 解釈の自由がない。 だって、全ての「答え」がここにあるのだから。

 

(つまらない……)

 

知識の海に溺れながら、私の心は急速に冷めていった。 扇子が手から滑り落ちる。 私の「語り」は、もう必要ない。 だって、誰もが正解を知っている世界で、解説なんて無意味だから。

 


 

「大臣。本日の文化会議の資料です」

 

目が覚めると、私は重厚な執務室にいた。 最高級の和服に身を包み、老舗の扇子を手にしている。

 

「……ああ、ご苦労様」

 

私は、文部科学省のトップであり、同時に世界的な文化の権威として君臨していた。 私の決定は絶対だ。 「これは国宝」「これは廃棄」。 私が頷けば、路上の落書きさえも数億円の価値を持ち、私が首を振れば、歴史的建造物も取り壊される。

 

夜は、寄席へ向かう。 超満員の観客。 私が高座に上がると、静寂が支配する。

 

「えー、一席お付き合いを願いますが……」

 

私が口を開く。 完璧な間。完璧な発声。完璧な所作。 私の落語は、教科書に載るような「正解」そのものだった。

 

ドッ!! 観客が一斉に笑う。 計算通りのタイミングで、計算通りの音量で。 そこには「予期せぬアクシデント」も、「噛んで笑いが起きる」こともない。 プログラムされた笑い声。

 

(……はい、サゲです)

 

頭を下げる。 万雷の拍手。 「素晴らしい!」「人間国宝だ!」「彼女こそ文化の極みだ!」

 

私は、薄く微笑んで楽屋へ戻った。 手応えがない。 私の芸で、誰かの心を動かした感覚がない。 ただ、「正しいデータ」を出力して、評価されただけ。

 


 

休日は、美術館へ行った。 私は、一枚の絵の前に立つ。 かつて私が、何時間でも眺めていられた、抽象画。

 

(……作者は○○年生まれ。当時の社会情勢は××。使用されている顔料は△△。この筆致は〇〇派の影響を受けており――)

 

絵を見た瞬間、0.1秒で全ての情報が脳内に表示される。 「分からない部分」がない。 「作者は何を考えていたんだろう?」と想像する隙間がない。

 

「……綺麗ですね」

 

口から出たのは、そんな陳腐な言葉だけ。 心が震えない。 「なにこれ変なの!」「わけわかんない!」って、笑いながらツッコミを入れることができない。

 

(知ってしまった)

 

私は、美術館のベンチに座り込んだ。 この世界の全てを知ってしまった。 それはつまり、私にとっての世界は「読み終わった本」になったということだ。

 

もう、ページをめくる楽しみはない。 新しい発見もない。 ただ、既知の事実を反芻するだけの、永遠の退屈。

 

「これが……私のやりたかったこと?」

 

知識を広め、文化を守り、みんなに教えること。 私はそれを成し遂げたはずだ。 世界中の誰もが私を尊敬し、私の話を聞きたがっている。

 

なのに、どうして。 こんなに、お酒が飲みたいんだろう。 酔っ払って、記憶をなくして、全部忘れてしまいたいんだろう。

 


 

一週間が経った。 私は、執務室で最高級の日本茶を飲んでいた。 禁酒。喫煙もしない。 健康的で、文化的で、模範的な生活。

 

ふと、デスクの隅に、一枚の「メモ」が落ちているのに気づいた。 それは、私がこの世界に来る前に、無意識に持っていたものかもしれない。 あるいは、システムのバグか。

 

汚い字で、何か書いてある。 何かのリスト?

 

『美術館デートなう』 『これ何? ゴミ?』 『らでんちゃんの解説助かる~』 『酔っ払いw』

 

(……?)

 

私の脳内データベースには、この文字の記録がない。 学術的価値ゼロ。 文法的にも破綻している。 ただの、ノイズのような羅列。

 

でも。 それを読んだ瞬間、私の「全知」の脳味噌に、小さな「?」が浮かんだ。

 

(デート? ゴミ? ……ふふっ)

 

笑ってしまった。 世界的な名画を捕まえて「ゴミ?」なんて言う感性。 私の完璧な講釈を「助かる~」なんて軽い言葉で受け取る無邪気さ。

 

「ああ……そうか」

 

私は、メモを指でなぞった。

 

私が好きだったのは、「知識そのもの」じゃない。 その知識を使って、誰かと「あーだこーだ」言い合う時間だったんだ。 「へー!」って驚く顔や、「なんだそれw」って笑う顔が見たかったんだ。

 

一人で完結した知識なんて、ただのデータだ。 誰かと共有して、誤読して、解釈して、初めて「文化」になるんだ。

 

『コンコン。』

 

(え?)

 

執務室の窓を、誰かが叩く音がした。 ここは高層ビルの最上階。ありえない。

 

『開けろー! らでんちゃん!』 『授業の時間だぞ!』 『今日は何を教えてくれるんだ?』

 

窓の外。 そこには、無数の「仮面」が浮かんでいた。 能面? ヴェネチアンマスク? いや、あれは……「でん同士」たち。 私のリスナー。私の「同志」たち。

 

「……でん同士?」

 

『完璧な解説なんていらねぇよ!』 『お前の「変な視点」が聞きたいんだ!』 『飲もうぜ! 語ろうぜ!』 『ここは美術館じゃねぇ! 俺たちの遊び場だ!』

 

窓ガラスにヒビが入る。 そこから漏れてくるのは、消毒された空気ではなく、タバコの煙とお酒の匂いと、雑多な熱気。

 

「……あはは」

 

私は、立ち上がった。 扇子を開く。 その手つきは、もう人間国宝のそれじゃない。 もっと崩れた、粋で、いなせな、噺家(アイドル)の手つき。

 

「管理者は言った。知ることは終わりだと」

 

私は、重厚な執務机に飛び乗った。 行儀が悪い? 知ったことか。

 

「違うよ。知ることは……『始まり』でしょ!」

「知識は、君たちと遊ぶための『おもちゃ』なんだから!」

 

パリーン!!

 

窓ガラスが砕け散る。 私は、完璧な美術館の額縁から、外の世界へと飛び出した。 そこには、まだ私の知らない「カオス」が広がっている!

 

「待たせたねぇ、でん同士!」

「さあ、一席ぶとうじゃないか!」

 

 

 

サブストーリー:全知のキュレーターと、空っぽの美術館

視点:儒烏風亭らでん フェーズ:後半(伝説級覚醒 ~ 管理者との対峙)

 


 

パリーン!!

 

執務室のガラスを突き破り、私はでん同士たちが待つ空へと躍り出た。 風が気持ちいい。 消毒された空気ではなく、みんなの熱気と、カオスな雑音が混じった風。

 

「管理者さん! 聞こえますか!」

 

私は、落下しながら扇子を広げた。 眼下では、管理者が私の離脱に気づき、迎撃システムを起動している。

 

「貴方は言いましたね。『正解は一つだ』と」

「無知は罪であり、解釈の揺らぎはノイズだと」

 

私は、空中でくるりと回った。 着物(アイドル衣装)の裾が、オーロラのように翻る。

 

「ノンノン! それは『美術鑑賞』の初心者ですわ!」

 

私は、管理者の目の前に着地した。 トンッ。 その足音一つで、周囲の白い床が、色とりどりの「モザイクタイル」へと変化していく。

 

「美術館に行ったら、まずは2周するんです!」

 

私は指を立てた。

 

「1周目は、解説も何も見ずに! 自分の心の赴くままに感じるんです!」

「『なんだこれ変なの!』『なんか怖い!』『色がきれい!』」

「その『生の感情』こそが、貴方の感性!」

 

「そして2周目! そこで初めて解説(知識)を読むんです!」

「『なるほど、そういう意味か!』『いや、私はこう思うな』」

「そこで初めて、知識と感性が握手をする!」

 


 

『理解不能な……非効率だ』

管理者が、無数のデータパネルを展開する。そこには、世界のあらゆる事象の「正解」が記述されている。

 

『事実は一つだ。解釈など、主観による歪みに過ぎない』

 

「その『歪み』が輝くんじゃないですか!」

 

私は、扇子を高く掲げた。 背後に、巨大な書架……いいえ、無限に広がる「螺鈿細工の屏風」が出現する。 そこには、ホロライブの歴史、リスナーとの思い出、そして数多の美術品が、キラキラと輝く貝殻の欠片で描かれている。

 

「究極の知とは! データベースにあらず!」

「人の数だけある『解釈』の集合体なり!」

 

伝説級(レジェンド)能力:『万象・螺鈿回廊(アカシック・ラデン・レコード)』 (Ver. 螺鈿細工もりもり・なんちゃって!)

 

「さあ、私の世界(コレクション)を見せてあげますよ!」

 

私が扇子を一振りすると、管理者の「完璧なデータ」が、螺鈿細工のようにキラキラと書き換えられていく。 無機質な数字が「物語」に。 冷たい事実が「ロマン」に。 ただの白い壁が、でん同士たちのコメントという名の「落書き(アート)」で埋め尽くされていく。

 

『なっ……私のデータが……『装飾』されているだと!?』

「ふふっ、デコレーションです! 派手なほうが好きでしょう?」

 


 

「らでんちゃん! ナイス解説!」青くんが、筆で世界に色を足していく。

「このカオス、最高っしょ!」莉々華が、それを拡散する。

「踊るよー!」はじめが、リズムを刻む。

「歌うよー!」奏が、メロディを乗せる。

 

ReGLOSSのメンバーが、私の作った「螺鈿のステージ」で躍動する。 それぞれが違う色で、違う解釈で、世界を表現している。 バラバラだ。統一感なんてない。 でも、だからこそ――

 

「見てください、管理者さん!」

 

私は、混乱する管理者の目の前に立った。

 

「バラバラな貝殻(ピース)が集まって……こんなにも美しい『模様』を描いている!」

「世界の解釈は、人それぞれ輝いているんです!」

「この螺鈿細工のようにね!」

 

『くっ……美しい……だと?』

管理者の視覚センサーが、エラーではなく「感動」を検知してしまう。論理では否定できない、圧倒的な「多面的な美」。

 

『認めなさい! 貴方の『正解』も、数ある解釈の一つに過ぎない!』

「それもまた、一つの『味』として……私が展示してあげますよ!」

 


 

『う……あぁ……』

管理者が膝をつく。彼の白い装甲にも、いつの間にか美しい螺鈿の模様が浮かび上がっていた。彼もまた、この世界の「アート」の一部になったのだ。

 

「分かち合いましょう、この知識を!」

「貴方が知っていること、私が知っていること、でん同士たちが知っていること!」

「全部混ぜて、語り合えば……世界はもっと面白くなる!」

 

私は、管理者に向かって手を差し伸べた。 それは降伏勧告ではない。 「美術館デート」のお誘いだ。

 

「どうです? 一緒に2周目、回りませんか?」

 

管理者は、私の手を見つめ……そして、その光の指で、そっと私の手に触れた。

『……悪くない、提案だ』

 

光が溢れる。 世界が、七色の輝きに包まれて再構築されていく。

 


 

戦いが終わり、青空が戻ってきた。

 

「ふぅー! 喋った喋った!」 私は、扇子をパチンと閉じて、その場にへたり込んだ。 喉がカラカラだ。

 

「らでんちゃん、すごかったよ!」

ReGLOSSのみんなが駆け寄ってくる。

「もー、心配したんだからね!」

 

「あはは、ごめんなさいねぇ」 私は、懐から小さなスキットル(お酒)を取り出した。 あ、いけない。アイドルだった。 コソコソと隠そうとすると、みんなに見つかって笑われた。

 

「ま、いっか!」

 

私は、空(第四の壁)を見上げた。 そこには、私の最高の「観客」たち、でん同士がいる。

 

「みんな、聞いてくれてありがとね!」

「私の講釈、楽しかったでしょ?」

 

『最高だった!』 『勉強になった!』 『いいから酒飲め!』

 

コメントが流れる。 それぞれの感想。それぞれの解釈。 それが、私にとって一番の「宝物」だ。

 

「さて、今回の物語はこれにてお開き!」

 

私は、カメラに向かって、深々と頭を下げた。 噺家として。 学芸員として。 そして、ReGLOSSのアイドルとして。

 

「皆様、また次の高座(配信)でお会いしましょう」

 

ニッコリと笑って。

 

「……おあとがよろしいようで!」

 

テケテン、テン、テン……♪

 

 

 

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