ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
【視点:常闇トワ】
【フェーズ:概念消去 ~ 伝説級能力覚醒】
(ああ、やっぱりバレちゃったか)
白い世界。
管理者の冷たい視線が、私を射抜いていた。
私の自慢の「眷属の守護(トワズ・バリア)」は、飴細工のように砕け散り、身体が動かない。
『対象:常闇トワ。修正パッチ適応』
『エラー原因:『属性の不一致』および『定義の矛盾』』
管理者の声が、私の核心(コンプレックス)を抉る。
『お前は悪魔を名乗りながら、行動は善に偏っている』
『低い声を隠し、可愛い声を繕おうとする』
『その存在そのものが、論理的矛盾(バグ)だ』
「……うるさい、なぁ」
反論したいのに、言葉が出てこない。
図星だったからだ。
私は、いつだって迷っていた。
悪魔らしく振る舞わなきゃ。
もっと可愛くならなきゃ。
もっと「アイドル」らしい声を出さなきゃ。
「本当の私」と「求められる私」の狭間で、ずっと揺れていた。
その迷いが、この完璧な世界では「不純物」として弾かれる。
「……トワ様!!」
後ろで、誰かが叫んでいる。
ああ、あやめかな。それともスバル?
ごめんね。守れなかった。
FPSみたいに、上手く立ち回りたかったのに。
(私なんて、いなくてよかったのかな)
悪魔にもなりきれず、天使にもなれない。
中途半端な存在。
そんな私が、ホロライブという輝く場所にいること自体が、間違いだったのかもしれない。
私の身体が、黒い霧になって霧散していく。
ビビ(帽子)が、地面に落ちて消える。
(バイバイ、みんな)
視界が暗転する。
私は、「常闇トワ」という役を降ろされた。
「……っ」
目が覚めると、狭い部屋にいた。
四方を吸音材で囲まれた、薄暗い防音室。
目の前にはマイクと、PCモニター。
そして、足元には乱雑に置かれたゲームのコントローラー。
(ここ……私の部屋?)
私は、椅子に深く沈み込んだ。
ジャージ姿。ノーメイク。
鏡を見るまでもない。そこにいるのは、輝くアイドルじゃない。
ただの、ゲーム好きで、声にコンプレックスを持つ、一人の女の子。
『……あー、あー。マイクテスト』
私は、マイクに向かって声を出す。
スピーカーから返ってくるのは、低くて、ハスキーな自分の声。
(可愛くない)
私は、唇を噛んだ。
同期のみんなは、あんなにキラキラした声をしているのに。
私は、どう頑張っても「悪役」みたいな声しか出ない。
無理して高くしようとすると、喉が痛くなる。
『もっとアイドルらしくしなきゃ』
『悪魔なんだから、もっと悪いこと言わなきゃ』
理想の自分と、現実の自分が乖離していく。
コメント欄が怖い。
「イメージと違う」って言われるのが怖い。
「TMT(天使)」って言われるたびに、嬉しいような、申し訳ないような、複雑な気持ちになる。
私は悪魔なのに。
悪魔として、カッコよくありたいのに。
『そうだ。お前は何者でもない』
防音室のスピーカーから、管理者の声がした。
『悪魔にもなれず、天使にもなれず、ただ迷い続けるノイズ』
『お前のその『低い声』は、調和を乱す雑音だ』
『消えなさい。それが世界のためだ』
(……そうだね)
私は、マイクの電源を切った。
もう、歌いたくない。
喋りたくない。
この声を聞かせたくない。
ゲームの世界に逃げよう。
FPSの中なら、声なんて関係ない。
ただエイムを合わせて、敵を撃つだけの、単純な世界。
そこなら、私は「強い私」でいられる。
(ホロライブなんて、見なかったことにしよう)
(私は、ただのゲーマーに戻るんだ)
私は、膝を抱えて目を閉じた。
静寂。
それが、私にお似合いのエンディング。
その時。
切ったはずのモニターが、勝手に点灯した。
ブゥン……!
「え?」
真っ黒だった画面に、文字が流れる。
一つ、また一つ。
それは、私を呼び戻すための「召喚陣」のように。
『トワ様!?』
『どこ行ったんだよ!』
『APEXのランクマ、まだ終わってねーぞ!』
(眷属……?)
生意気で、でもいつも私のそばにいてくれる、大切なリスナーたち。
彼らのコメントが、防音室の壁を埋め尽くしていく。
『声が低い? それがいいんだろ!』
『お前の歌声が、一番響くんだよ!』
『悪魔でも天使でもどっちでもいい! お前はトワ様だろ!』
「……っ」
胸が、熱くなる。
私のコンプレックスだった声を。
中途半端だと思っていた性格を。
彼らは「それがいい」と言ってくれる。
「そこが好きだ」と言ってくれる。
『TMT! TMT!』
『トワ様マジ天使!』
『いや、トワ様マジ最強!』
(バカだなぁ、こいつら……)
涙が滲んで、視界が歪む。
私は悪魔なのに。
こんなに優しくされたら、調子が狂うじゃんか。
『歌ってくれ!』
『命令してくれ!』
『俺たちを導いてくれ、トワ様!』
画面から、紫色の光が溢れ出す。
それは、ライブ会場で見た、あの景色。
私のためだけに振られた、無数の紫のペンライト。
「……管理者は言った。私は矛盾してるって」
私は、マイクの電源を、もう一度入れた。
ジャージの袖で涙を拭う。
「でも……それがどうした!」
悪魔としてデビューして、天使と呼ばれて。
低い声で歌って、高い声で笑って。
ゲームでブチ切れて、記念枠で泣いて。
「全部、私じゃんか!」
矛盾上等。
カオス上等。
その全部ひっくるめて、「常闇トワ」なんだ。
「ビビ! 行くよ!」
足元に転がっていたコントローラーが、変形する。
私の相棒、使い魔のビビへ。
ジャージが光に包まれ、小悪魔の衣装へ。
そして背中には、黒と白、対照的な色が混ざり合った「翼」が広がる。
『行ってこい、トワ様ァァァァァ!』
「言われなくても!」
私は、ニカっと笑った。
八重歯を光らせて。
最高にカッコいい、悪魔の笑顔で。
「私の『声(ノイズ)』で、あのすました世界を、ぶっ壊してやるよ!」
【白紙の世界(システム・ホロアース)】
『警告。削除領域より、高エネルギー反応』
『データ種別:不明。善と悪の属性が……混在しています』
管理者は、自らのシステムが震えていることに気づいた。
物理的な振動ではない。
空気が、空間が、ビリビリと共鳴している。
それは、彼が最も嫌う「重低音」の響き。
『――Ah...』
地鳴りのような、けれど透き通るような、ハスキーな声。
何もない空間に、紫色の亀裂が走る。
『なんだ、このノイズは!?』
管理者が防御障壁を展開する。
パリーン!!
亀裂が砕け散った。
そこから溢れ出したのは、闇のような黒煙と、目が眩むような光の粒子。
相反する二つのエネルギーを纏い、一人の少女が降り立つ。
「お待たせ」
常闇トワ、復活。
その姿は、かつての迷い多き小悪魔ではない。
右には漆黒の悪魔の翼。
左には純白の天使の翼。
そして頭上のビビは、巨大な王冠のような形状へと変化し、彼女を守護している。
「トワ様!?」
そらが、涙を浮かべて見上げる。
「遅れてごめんね、そら先輩」
私は、ニカっと笑った。
「ちょっと、眷属たちと作戦会議(ミーティング)してた」
『バカな……! お前は矛盾の塊だ!』
管理者が叫ぶ。
『悪魔か、天使か! どちらかに定義しなければ、システムに存在できないはずだ!』
私は、ビビ(王冠)を撫でながら、管理者を見据えた。
「定義? そんなの、私が決めるよ」
私は、右手を掲げた。
指先から、紫色のグリッド線が広がり、戦場全体を覆い尽くしていく。
視界が変わる。
敵の位置、味方の状態、エネルギーの流れ、遮蔽物の強度。
すべてが「情報(UI)」として可視化される。
これは、私の得意分野。
FPS(ファーストパーソン・シューター)の世界。
伝説級(レジェンド)能力:『常闇の支配者(トワイライト・ルーラー)』。
「管理者さん。あんたの作ったこの『完璧な世界』……」
「マップ構造が単調すぎて、つまんないんだよ!」
私は指を鳴らした。
「テクスチャ、書き換え!」
ズズズズズ……!
真っ白だった地面が、複雑な市街地(ストリート)のような迷路へと隆起する。
遮蔽物を作り、射線を切り、有利なポジションを強制的に生成する。
『なっ……私の世界を、勝手に書き換えただと!?』
「ゲームバランス調整だよ。一方的な虐殺なんて、クソゲーでしょ?」
私は、インカム(魔力生成)に手を添えた。
ここからは、私がIGL(インゲームリーダー)だ。
「そら先輩は中央でタンク! アタッカー陣は左右に展開!」
「敵のフォーカス、私が全部引き受けるから!」
『小賢しい! まとめて消えろ!』
管理者が、全方位から消去レーザーを放つ。
回避不能の弾幕。
「させない!」
私は、全員の前に躍り出た。
悪魔の翼と、天使の翼を大きく広げる。
「『眷属の守護(トワズ・バリア)』――絶対防衛圏(ドーム・シールド)!」
私の周りに、巨大な紫色のドームが展開される。
レーザーがドームに当たり、激しい火花を散らす。
衝撃が、私の身体を軋ませる。
(重い……!)
でも、痛くない。
だって、この背中には、みんながいる。
モニターの向こうで、「トワ様なら守れる」って信じてくれている眷属たちがいる。
『トワ様マジ天使(TMT)!』
『いや、マジ鉄壁(TMT)!』
『トワ様マジ頼れる(TMT)!』
「うるさいなぁ、もう!」
私は、歯を食いしばりながら笑った。
「私は天使じゃない! 悪魔だ!」
「だから……」
私は、大きく息を吸い込んだ。
コンプレックスだった、この低い声を。
今は、世界を震わせる武器に変えて。
「私の『テリトリー(ナワバリ)』で、好き勝手すんなぁぁぁぁぁッ!!」
ドォォォォォォォォン!!
私の咆哮(シャウト)が、物理的な衝撃波となってドームから放たれる。
それは管理者のレーザーを押し返し、彼の「完璧な装甲」にヒビを入れた。
『ぐぅッ!? 音波攻撃……!?』
「これが、私の『ノイズ』だよ!」
私は、アサルトライフル(魔力生成)を構えた。
エイムは完璧。
迷いはない。
「悪魔のように暴れて、天使のように守る」
「それが『常闇トワ』だ!」
私の作った「隙」を、仲間たちが見逃すはずがない。
「ナイスだ、トワ!」
すいせいが、彗星となって突っ込む。
「トワ様のオーダー通り!」
ぺこらが、側面から爆撃を加える。
戦場が回る。
私の描いた「勝利の設計図」通りに。
私は、崩れ落ちそうになる体を、ビビに支えてもらいながら、そらを見た。
彼女は、私の作ったシールドの中で、安心して歌っている。
「……へへっ」
やっぱり、私はセンターじゃない。
真ん中でキラキラ輝くのは、そらや、すいせいが似合う。
私は、その後ろで、全体を見渡して、指示を出して、泥臭く守る。
このポジションが、一番しっくりくる。
「トワちゃん! ありがとう!」
そらの声。
「勘違いしないでよね!」
私は、照れ隠しにそっぽを向いた。
「あくまで『気まぐれ』なんだから!」
でも、私の尻尾は、正直にパタパタと揺れていた。
「さあ、ラストゲームだ!」
「眷属たち! 最後までついてこいよ!」
私は、引き金を引いた。
響き渡る銃声と、私の低い笑い声。
白紙の世界に、紫色の軌跡が刻まれていく。
これは、矛盾だらけの悪魔が掴み取った、最高の「ハッピーエンド」への道標。
サブストーリーばかりでごめんなさい。4期を満足行く出来に仕上げるために少々時間がかかっております。