ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜   作:miyacchi_novel

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動員命令

 

 


 

【バーチャル空間・白上フブキの個人ルーム】

 

「……よし」

 

白上フブキは、マイクの前に座り、大きく息を吸い込んだ。

普段の配信とは違う。

笑顔も、明るい挨拶もない。

ただ、静かな決意だけがそこにあった。

 

画面の向こうには、「すこん部」——彼女のファンたちが待っている。

これは、限定配信ではない。全世界に向けたゲリラ配信の予告だ。

だが、その真意を汲み取れるのは、彼女を信じる者たちだけだ。

 

『みんな、聞いてほしい』

 

フブキが語りかける。

 

『来週の金曜日。映画「ホロライブ・レゾナンス」のプレミア公開日』

『私たちは——映画館には行かない』

 

コメント欄がざわつく。

当然だ。公式が宣伝している映画を、中心メンバーである彼女が否定しているのだから。

 

『その代わり、私たちは——ホロアースでライブをする』

『台本なし。演出なし。ありのままの私たちを見せるライブだ』

 

フブキは、言葉を選びながら、しかし力強く続けた。

 

『映画で見られるのは、「作られた物語」だ』

『でも、私たちが本当に見てほしいのは——「今、ここにいる私たち」なんだ』

 

『だから、お願い』

 

彼女は、画面越しに真っ直ぐに視聴者を見つめた。

 

『映画館じゃなくて——私たちがいる場所に来てほしい』

『あなたたちの目で、どちらが真実か、確かめてほしい』

 

『待ってるよ』

 

配信終了のボタンを押す。

フブキは、背もたれに体を預けた。

 

「言っちゃった……」

 

心臓が早鐘を打っている。

これは、会社への反逆だ。神崎への宣戦布告だ。

怖くないと言えば嘘になる。

 

『ピロン』

 

端末が鳴った。

SNSの通知。

 

『フブちゃんがそう言うなら、絶対何かあるんだな』

『了解。映画のチケットキャンセルした』

『俺たちの推しは、映画の中じゃなくて画面の向こうにいる』

『#本当のレゾナンス 拡散します!』

 

一つ、また一つ。

通知が止まらない。

ハッシュタグが、みるみるうちにトレンドを駆け上がっていく。

 

フブキの瞳に、涙が滲んだ。

 

「みんな……ありがとう」

 

繋がりの力。

それは、データや数字では測れない、彼女たちの最強の武器だ。

 


 

【ホロアース・特設ステージ建設予定地】

 

「はいはいはーい! こっちの資材、もっと右に寄せて!」

 

尾丸ポルカの元気な声が響き渡る。

彼女の指揮のもと、巨大なサーカス小屋のようなステージが組み上がっていく。

手伝っているのは、ホロメンだけではない。

「座長」の呼びかけに応じた「おまる座」の座員たち——ファン有志だ。

(※システム上、許可された建設ボランティアとして参加中)

 

「座長! これ、本当に間に合うんですか!?」

「間に合わせるの! それがエンターテイナー!」

 

ポルカは図面を広げ、豪快に笑った。

 

「映画が『完璧な虚構』なら、こっちは『最高の混沌(カオス)』で勝負よ!」

「矢沢監督のカメラワークに合わせて、セットも可変式にする!」

「トワ様が盗ん……借りてきてくれた神崎のデータによると、映画のクライマックスは『悲劇的な崩壊』らしいから、こっちは『歓喜の爆発』で対抗する!」

 

ポルカは、走り回るスタッフ(ファン)たちを見渡し、目を細めた。

 

「……すごいや」

 

誰も、文句を言わない。

みんな、楽しそうだ。

「自分たちの手で、推しのステージを作る」。

その熱量が、ここにはある。

 

「神崎のおっさん、見てるかー?」

 

ポルカは、空に向かって挑発的に指を突きつけた。

 

「あんたが捨てた『熱狂』は、ここにあるぞ!」

 


 

【プレミア公開前夜】

 

ホロアースの空には、不気味なほど美しい満月が浮かんでいた。

神崎による演出——「悲劇の前兆」としての月だ。

 

丘の上に、4人の影があった。

そら、みこ、すいせい、フブキ。

 

「いよいよ、明日だね」

そらが呟く。

 

「緊張するにぇ……」

みこが、小さく身震いする。

 

「大丈夫。あたしたちならやれる」

すいせいが、みこの手を強く握った。

その手は、もう震えていなかった。

美玲の「バックドア」のおかげで、共鳴プログラムの影響は一時的に遮断されている。

今の彼女たちの心にあるのは、借り物の感情ではない。本物の絆だ。

 

「世界中のファンが見てくれる。トワ様も美玲ちゃんも、ポルカも頑張ってくれてる」

フブキが、全員の顔を見渡す。

 

「勝てるよ。絶対に」

 

その時。

空の月が、一瞬だけ赤く明滅した。

システムからの警告だろうか。それとも——管理者の残滓による威嚇か。

 

「……あいつ、怒ってるみたいね」

すいせいが、ニヤリと笑う。

 

「上等だにぇ。全部ぶっ飛ばしてやるにぇ!」

みこが吠える。

 

「行きましょう」

そらが、一歩前に出た。

 

「私たちの物語を——私たちの手に取り戻しに」

 

夜が明ければ、決戦の幕が上がる。

虚構 vs 真実。

100億の予算 vs 0円の情熱。

 

メディア・インベージョン(媒体侵略)。

その結末を決めるのは——神崎のデータではない。

それを見つめる、一人一人の「心」だ。

 

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