ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
【電忠社・神崎の精神領域(内部境界)】
「……ここは」
高橋美玲は、一面の『白』の中に立っていた。
現実(リアル)でも仮想(バーチャル)でもない。
バックドアを通じて強引にリンクした、神崎透の深層意識。
「神崎さん! どこですか!」
返事はない。
代わりに聞こえるのは、ノイズ混じりの古い機械音。
足元には、無数の書類や企画書が散乱していた。
そのどれもが『ボツ』の刻印で埋め尽くされている。
「これは……」
美玲は、一枚の企画書を拾い上げた。
手書きの、拙いイラスト。
そこには、楽しそうに笑う少女たちが描かれていた。
『心に残る物語を』——隅に書き込まれたその言葉に、胸が締め付けられる。
【精神領域・中心部】
「……見るな」
影の中から、掠れた声が響いた。
神崎が、膝をついている。
彼の体からは、黒い泥のようなものが溢れ出し、周囲の『白』を侵食していた。
「あんなものは、ゴミだ。何の価値もない。……売れなければ、存在しないのと同じなんだ」
「そんなことありません!」
美玲は神崎の前に走り寄った。
「私、知ってます。神崎さんが昔作った、あの短編アニメ。……私、大好きで、何度も見ました。再生数は少なかったかもしれない。でも、私の心には、ずっと残ってました!」
神崎の肩が、ピクリと震える。
「あのアニメがあったから、私は脚本家を目指したんです。星詠みになったんです。……一人の人生を変えた物語が、価値(数字)がないなんて、絶対に認めません!」
「一人……? たった一人のために……私は……」
神崎の瞳に、僅かな光が戻る。
侵食していた泥が、一瞬だけ勢いを弱めた。
【現実・電忠社ビル最上階】
「グガッ……ギ、ギギギ……!」
しかし。
神崎の体内から、彼の後悔を凌駕するほどの『完璧への執念』が噴出した。
管理者の残滓。
それは神崎の心を依代に、完全な実体(フォーム)を得ようとしていた。
バリッ!
空間そのものが、ガラスのように砕け散る。
神崎の背後から現れたのは、幾何学的な結晶体で構成された、人の如き影。
顔のない、しかし無数の眼を持つ怪物。
『……不要ナ……感情……排除(デリート)……』
怪物の咆哮が、電忠社ビルを震わせた。
そのノイズは、全世界でプレミア上映中のスクリーンに投影される。
観客たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
【ホロアース・中央広場】
「……来たにぇ」
さくらみこが、空を見上げた。
青い空に、黒いインクを零したような巨大な『穴』が空いている。
そこから、現実世界を侵食しようとする怪物の腕が伸びていた。
「あれが、あいつの正体……」
白上フブキが、通信機のマイクを強く握りしめた。
その瞳に、迷いはない。
「全員へ通達! 映画(プランB)は終わり。これより、全戦力で——『侵略者』を排除します!」
空に、一筋の流星が走った。
星街すいせいが、斧を担いで先頭に立つ。
彼女の背後には、続々と集結するホロメンたちの姿があった。
「いくよ、みこち。……最高のフィナーレにしよう」
「任せろだにぇ! エリートの力、見せつけるにぇ!」
ホロライブ・レゾナンス。
最終決戦の幕が、今、上がる。