ホロライブ・レゾナンス 〜仮想(アバター)の力で日常を取り戻す〜 作:miyacchi_novel
【上空・崩壊する結界内】
怪物の外殻は剥がれ落ち、中から神崎透の上半身が露出していた。
彼はまだ目を閉じたまま、背後の黒い影——「管理者の残滓」に操られている。
『ナゼダ……』
影が呻く。
その声は、神崎の口を借りて紡がれる。
『完璧ナ計算ダッタ……。売レル脚本、売レル演出、売レル結末……。データハ嘘ヲツカナイ……。ナノニ、ナゼ拒絶スル……』
「データは嘘つかないかもね」
ときのそらが、宙に浮きながら神崎に近づく。
彼女の背中には、白い翼のような光のエフェクトが輝いている。
「でも、計算通りじゃつまらないよ」
『ツマラナイ……?』
「うん。私たちは、明日のことなんて分からない。失敗するかもしれないし、噛むかもしれない」
そらが、地上で戦う仲間たち——そして、隣にいる「最強の凸凹コンビ」を見る。
「でも、だからこそ『次』が見たくなる。……完璧な円よりも、歪な手書きの線の方が、愛おしい時だってあるんだよ」
『理解不能……。未完成ハ……悪ダ……』
影が激昂する。
神崎の体から、どす黒いエネルギーが膨れ上がる。
『ナラバ……! 全テ終ワラセル! THE ENDコソガ救済ダ!』
上空に、巨大な文字が浮かび上がる。
**【THE END】**
映画のエンドロールを強制的に発動させ、世界そのものを「完結」させようとするシステム権限の行使。
「させないわよ」
星街すいせいが、前に出た。
「終わらせない。……あたしたちのスケジュール、見たことある?」
『……?』
「明日は歌枠。明後日はコラボ。週末はライブのリハ。来月は新衣装お披露目。……予定が詰まってんのよ!」
すいせいの叫びに呼応するように、ホロメンたちも口々に叫ぶ。
「みこもだにぇ! 今度こそ『GTA』クリアするまで終われないにぇ!」
「ポルカだって! サーカスの新作公演控えてるんだから!」
「船長だって、新曲の締め切りが……いやそれは終わらせたいけど!」
次々と叩きつけられる「未来の予定」。
それは、システムにとって最も処理しきれない「無限の変数」。
《System Alert》
`Command: Terminate (終了せよ)`
`Input: Future Schedule (未来の予定)`
`Result: Conflict (矛盾)`
`Processing... Processing...`
『グガッ……! 終ワレ……ナ……イ……!?』
「終わり」を定義するAIに対し、「終わらない日常」という概念がオーバーフローを起こす。
巨大な【THE END】の文字に、ヒビが入る。
「今だ! トドメだにぇ!」
「ええ。……神崎さん、悪いけど——」
すいせいが、ニヤリと笑った。
「その根性、物理で叩き直させてもらうわ!」
「みこ、あれ出すにぇ!」
「合点承知!」
さくらみこが、虚空に手を伸ばす。
桜色のエネルギーが渦を巻き、一つの巨大なシルエットを形成する。
「いでよ! **禁断兵器・エリートハリセン(対神崎用特注仕様)!!**」
ドォォォォン!!
空間を圧迫するほどの質量。
ビル一棟分はあろうかという、巨大すぎる紙のハリセンが出現した。
紙製に見えて、その実は高濃度の魔力圧縮体だ。
「あたしはこっちね」
すいせいも手を掲げる。
金色の粒子が集まり、巨大な形を作る。
「**ステラ・ブロック・クラッシャー(L字型)!!**」
ガガガガッ!!
これまた巨大な、テトリスのアレ(L字ブロック)が出現した。
しかも金色に輝いている。無駄に神々しい。
『ナ……ナンダソレハァァァァ!?』
管理者が絶叫した。
理解できなかった。
なぜ、最終決戦でハリセンなのか。なぜブロックなのか。
その「意味不明さ」こそが、論理の怪物を殺す猛毒となる。
「いくぞすいちゃん!」
「合わせなさいよみこち!」
「「**バラエティの洗礼を受けろおおおおお!!!**」」
二人が同時に武器(?)を振り下ろす。
みこのハリセンが、右から神崎の頬を捉える。
**スパーーーーーン!!!**
(良い音)
すいせいのブロックが、頭上から脳天を直撃する。
**ドゴォォォォォン!!!**
(重い音)
『ア、アリエナイィィィィ……!!』
管理者の残滓が、断末魔を上げる。
物理的な衝撃に加え、「ハリセンで叩かれる」という屈辱的な絵面が、シリアスな存在である彼にとって致命的な精神ダメージとなった。
「あ痛ッ!!」
神崎透本人の、情けない悲鳴が響く。
その衝撃で、背後に張り付いていた黒い影が、バリバリと剥がれ落ちた。
「消えろぉぉぉぉ!!」
そらが、光の矢を放つ。
剥がれた影——管理者の残滓を、浄化の光が貫いた。
『私ノ……完璧ナ……物語ガァァァ……』
影は霧散し、光の粒子となって空へ溶けていく。
同時に、上空の【THE END】の文字も粉々に砕け散った。
「やった……か……?」
フブキが呟く。
空が、いつもの青色に戻っていく。
神崎の体は、ゆっくりと重力に従って落下……しそうになったところを、トワとかなたがナイスキャッチした。
「ふぅ……重い」
「おじさん、痩せたほうがいいよ」
ボロ雑巾のようになった神崎を、二人が抱える。
彼は気絶していたが、その顔にはもう、あの不気味な影はなかった。
「……勝った」
みこが、巨大ハリセンを消滅させてガッツポーズをする。
「勝ったにぇーーー!! みこたちの完全勝利にぇーー!!」
「うるさい。……ま、今回ばかりは褒めてあげる」
すいせいが、みこの背中をバンと叩いた。
地上からは、数えきれないほどの歓声(コメント)が湧き上がっていた。
映画のエンドロールは流れなかった。
代わりに流れているのは、いつものBGMと、みんなの笑い声。
そう。
物語は終わらない。
明日もまた、配信があるのだから。
こちらにて一度連載を終わりたいと思います。ありがとうございました。