らんま1/2 ~男溺泉の最強師匠、手違いで乱馬の「公認彼氏」になり、天道家公認で夜の営み(武術)に励んでます~   作:この俗物怪物くん

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どうも作者です。
今回の舞台は天道家リビング。普段はほのぼの家族空間ですが、
本日は急遽「結婚相手審査会議」が開催されました。
しかも当の本人(乱馬)は不在。地獄の始まりです。

結果として、
・遥が真面目に語る → 全員が18禁方向に誤解
・遥が人生を語る → 全員が結婚宣言と誤解
・遥が感度の話をする → 放送コード的に終了
・良牙が泣く → 誰も聞かない

という、天道家名物集団脳内変換祭りが絶賛開催されました。

読者の皆様には、
「人間ってここまで一斉に間違うことある?」
という疑問を抱かせる内容に仕上がっております。

どうぞ、赤飯片手にお楽しみください。


地獄の家族会議と、愛の勝利(仮)

天道家 居間

 

そこは普段、家族団欒の温かい空気が流れる場所だが、今は違う。まるで重罪人を裁く法廷か、あるいは地球の存亡をかけた首脳会談のような、ピリピリとした緊張感が支配している。

 

ちゃぶ台の上座には、天道家の主・天道早雲と、早乙女玄馬(現在はパンダの姿)が鎮座している。早雲の顔は般若のように険しく、額には冷や汗がナイアガラの滝のように流れている。パンダは腕を組み、笹を噛むのも忘れて、厳しい視線を送っている。

 

その向かい側、本来なら客人が座る場所には、七瀬遥が正座している。

 

彼は現在、男の姿だ。筋肉質で、端正な顔立ち。タンクトップから覗く上腕二頭筋は、まるで岩石のように硬く盛り上がっている。しかし、その姿勢はあまりにも美しい。背筋は定規が入っているかのように真っ直ぐで、両手は膝の上に添えられ、微動だにしない。

 

その周囲を、あかね、なびき、かすみ、良牙が取り囲んでいる。

 

あかねは不安そうに遥を見つめ、なびきは電卓を片手にニヤニヤし、かすみは「あらあら」という顔でお茶を淹れている。そして良牙は、体育座りをしながら、怨念のオーラを立ち昇らせている。

 

沈黙が痛い。時計の秒針の音だけが、カチ、カチと響く。

 

早雲が、意を決したように湯呑みを置く。カタリ、という音が静寂を破る。

 

「単刀直入に聞こう……。君は、本当に乱馬くんの……その、お相手なのかね?」

 

早雲の声は震えている。娘の許嫁が、まさか男(正確には男の姿をした女)を連れてきて、「彼氏です」と紹介される日が来るとは、彼の子育てプランには1ミリも記載されていなかったからだ。

 

遥は、早雲の目を真っ直ぐに見つめ返す。その瞳に迷いはない。

 

「はい。確かに僕は、彼女(らんま)の彼氏です」

 

遥は堂々と答える。

 

(彼女って言った……まあ、女の時間もあるしな……)

 

(やっぱり、女の姿の時の乱馬ちゃんに惚れたってことか……)

 

一同の納得と困惑が入り混じる。乱馬が特異体質である以上、「彼女」と呼ばれること自体に矛盾はない。問題は、その関係性だ。

 

遥はさらに言葉を継ぐ。彼はこの場を、自分と乱馬の「将来のパートナーシップ」について説明する場だと認識している。

 

「それに、将来のことも真剣に考えています。結婚してほしいと言われていますし」

 

ドカン。

 

居間に見えない核爆弾が投下される。

 

玄馬(パンダ)が、持っていた看板を落とす。慌てて新しい看板を書き殴り、突き出す。

 

『なんと!結婚だと!』

 

あかねが立ち上がる。座布団が宙を舞う。

 

「け、結婚……!?乱馬が自分からプロポーズしたってこと!?」

 

あかねの声が裏返る。彼女の知る乱馬は、女心に疎く、デリカシーがなく、自分から「好きだ」なんて口が裂けても言わないような男だ。その乱馬が、結婚を申し込んだ?

 

遥は頷く。彼の脳裏には、数日前の出来事が再生されている。彼が自分の家の事情(跡継ぎ問題で困っていること)を話した時、らんまは力強く言ったのだ。「俺が何とかしてやる」と。

 

「ええ。僕の家の事情(跡継ぎ問題)を話したら、『俺に任せろ』と。勇気のあるプロポーズでした。あんなに力強く、僕の人生を背負うと言ってくれた人は初めてです」

 

遥はうっとりと語る。彼にとって「跡継ぎになってくれる(嫁に来てくれる)」という申し出は、最大級の愛の告白に等しい。

 

しかし、周囲の解釈は違う。「家の事情」=「結婚の障害」「俺に任せろ」=「障害を乗り越えて一緒になろう」完全にメロドラマの文脈だ。

 

良牙が叫び声を上げて立ち上がる。

 

「き、貴様ぁ……!あの乱馬にそこまで言わせるとは……何をしたんだ!どんな汚い手を使って乱馬をたぶらかしたんだ!」

 

良牙は涙目だ。彼にとって乱馬は永遠のライバルだ。その乱馬が男に「結婚しよう」と言った事実は、彼の精神を粉砕するのに十分な威力を持っている。

 

「何もしていないさ。ただ、互いの魂が共鳴しただけだ」

 

遥は涼しい顔で答える。

 

なびきが、興味深そうに身を乗り出す。彼女の目は、スキャンダルの匂いを嗅ぎつけたハイエナのように輝いている。

 

「へぇ〜。でもさ、お兄さんみたいなイケメンが、なんでまた乱馬くんなの?乱馬くん、ガサツだし、言葉遣い悪いし、色気ないし、貧乏だし」

 

なびきは容赦ない。乱馬の株価を意図的に暴落させている。

 

「それに、お兄さんならもっといい女の子、選び放題でしょ?なんでわざわざ、あの『半分男』を選んだわけ?」

 

なびきの問いは核心を突く。確かに、遥の外見スペックは高い。なぜ乱馬なのか。

 

遥はフッと笑う。その笑顔は、最高級のステーキ肉を見つけた美食家のように官能的だ。

 

「外見だけの問題じゃないさ。彼女は……すごくいい体をしている」

 

ピシッ。

 

空気が凍る。

 

一同の動きが止まる。

 

「ッ!!??」

 

全員の顔が一斉に赤くなる。

 

あかねが顔を手で覆う。

 

「か、体目当て!?」

 

あかねの脳裏に、乱馬(女)のナイスバディが浮かぶ。確かにスタイルはいい。悔しいけれどいい。でも、それをこんな公の場で、しかも「結婚の理由」として挙げるとは。

 

遥は手を振る。あくまで冷静に、誤解を解こうと解説を始める。しかし、その解説がさらに泥沼を招くことを、彼はまだ知らない。

 

「誤解しないでほしい。ただの肉体の話じゃない。表面的なエロティシズムの話をしているわけではないんだ。(武道家としての)骨格、筋肉の質、柔軟性……全てが僕の好みだ」

 

遥は熱く語り始める。彼にとって筋肉は芸術であり、機能美こそが至高だ。

 

「特に、あの腰回りのバネとしなやかさ。あれは天性のものだ。触れた瞬間に分かったよ。この体は、どんな激しい動きにも耐えられる、最高の素材だとね」

 

遥の手が、空中で何かを形作るように動く。まるで乱馬のボディラインをなぞるような動きだ。

 

なびきがゴクリと喉を鳴らす。

 

(腰回りのバネ……激しい動き……最高の素材……)

 

なびきの脳内フィルターが、言葉の意味を180度変換して出力する。これは完全に深夜のトーク内容だ。

 

遥はさらに続ける。

 

「それに、とても素直で、僕の教えをスポンジのように吸収できる。感度が素晴らしいんだ」

 

「感度!?」

 

あかねが悲鳴を上げる。

 

「ああ、感度だ。僕が指先で少し刺激を与えるだけで、ビクッと反応して、すぐに体の使い方が変わる。のみ込みが早いんだよ」

 

遥は「神経伝達速度」の話をしている。しかし、周囲には「性感帯」の話にしか聞こえない。

 

なびきが顔を赤らめながら、メモを取る。

 

「(顔を赤らめて)教えを吸収……刺激に反応……キャッ。これ、特ダネどころか発禁本レベルじゃない?」

 

遥は、自分の指導がいかに乱馬にマッチしていたかを誇らしげに語る。

 

「僕が手取り足取り教えると、最初は戸惑うが、すぐにコツを掴んで『もっとやってくれ』とねだってくる。……実にいい子だ。あんなに求めてくる子は、そうそういない」

 

これは、第6話で行われた「体幹操作の特訓」の描写だ。乱馬が「もっと教えてくれ!強くなりたいんだ!」と言ったことを指している。

 

しかし、文脈が死んでいる。

 

「手取り足取り」+「ねだってくる」+「求めてくる」

 

この方程式が導き出す答えは一つしかない。

 

かすみが、ポットを持ったまま、おっとりと頬に手を当てる。

 

「あら〜。乱馬くん、積極的なのねぇ。若いって素晴らしいわねぇ」

 

かすみの天然爆弾が炸裂する。彼女は全てを「愛の営み」として肯定的に受け入れたようだ。

 

玄馬(パンダ)が、ガクガクと震え出す。看板の文字が震えている。

 

『わしの教育が間違っておったのか……。男らしく育てたつもりが、まさか男にねだるようになるとは……』

 

玄馬はショックのあまり、白目を剥いて倒れ込む。

 

早雲は、娘の許嫁が「男に体を開発された」という事実に直面し、魂が抜けかけている。

 

「おのれ乱馬くん……!破廉恥な!武道家としてあるまじき……いや、しかし相手も武道家……いや、しかし……!」

 

早雲の倫理観がショートしている。

 

そして、最も被害を受けたのは、純情な少年・良牙だ。

 

「き、聞きたくない!俺はそんなこと聞きたくないぞーっ!」

 

良牙は両手で耳を塞ぎ、畳の上をゴロゴロと転がる。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「……そ、それで、二人の馴れ初めは?どこで出会ったの?」

 

あかねが身を乗り出す。彼女の手には、いつの間にかメモ帳が握られている。

 

遥は、湯呑みのお茶を優雅に啜る。彼はこの尋問を、結婚前の親族顔合わせだと認識している。自身の誠実さをアピールする絶好の機会だ。

 

「馴れ初めか。……そうだな。あれは雨の日だった」

 

遥が遠い目をする。彼の周囲だけ、なぜか照明が少し暗くなり、スポットライトが当たったような演出効果が発生する。

 

「雨の降る交差点だ。視界は最悪だった。そこで彼女(らんま)は、電車に気づかず、立ち尽くしていたんだ」

 

「えっ……危ない!」

 

あかねが思わず声を上げる。

 

「僕は迷わず飛び出した。彼女の体を抱きかかえ、アスファルトの上を転がり、間一髪で電車を避けた。泥だらけになった彼女を腕の中に抱いた時、僕は感じたんだ。……運命を」

 

遥は胸に手を当てる。

 

あかねの頬が赤くなる。

 

「(ド、ドラマチック……!雨の中の救出劇なんて、少女漫画の王道じゃない……!)」

 

あかねの脳内で、映像が再生される。スローモーションで雨粒が弾け、逞しい遥が乱馬(女)を守り、二人の視線が絡み合う。背景にはバラの花が舞う。悔しいが、絵になる。

 

なびきが、電卓をパチパチと叩きながら冷ややかなコメントを挟む。

 

「はいはい。『吊り橋効果』ってやつね。恐怖や興奮を恋と勘違いする心理現象。命の恩人にコロッといっちゃったわけか、乱馬くん。チョロい男ねぇ」

 

なびきの分析はドライだ。彼女にとって恋とは、感情ではなく計算式の解だ。

 

遥は、なびきの指摘を否定しない。むしろ、それを肯定材料として利用する。

 

「きっかけは何でもいい。重要なのは、その後に何を感じたかだ。僕は、自分より強い……いや、芯のあるパートナーをずっと求めていた。彼女はそれに相応しい強さと、しなやかさを持っていた」

 

遥の言葉には熱がこもる。彼は「武道家としての芯の強さ」を語っているのだが、周囲には「精神的な支柱としてのパートナー」に聞こえる。

 

「彼女はすぐに姿を消してしまったが、再会できた時は嬉しかったな。運命の赤い糸は、確かに存在したんだ」

 

遥がニッコリと笑う。その笑顔から、キラキラとした光の粒子が放出される。

 

良牙が、部屋の隅で呻き声を上げる。

 

「ううう……!聞きたくない!運命だと!?俺と乱馬の腐れ縁こそが運命のはずだ!なぜ俺はいつも、雨に濡れて風邪を引くだけなんだ!」

 

良牙は自分の不幸と比較し、絶望する。彼の人生において、雨はただの冷たい水でしかない。

 

ここで、今まで沈黙を守っていた天道早雲が動く。

 

彼はハンカチを取り出し、滝のように流れる涙を拭う。ズビズビという音が響く。

 

「うっ、ううっ……!」

 

早雲がちゃぶ台に手をつき、身を乗り出す。

 

「しかしだ君!話は分かった!君が本気なのも分かった!だが……乱馬くんはその……アレだぞ!??同性愛的な……その、世間体とか、生物学的な問題とかはどうなるんだ!?」

 

早雲の訴えは切実だ。彼は古い人間だ。男同士の結婚(に見える状況)に対し、脳の処理が追いつかない。それに何より、無差別格闘流天道道場の跡取り問題がある。男同士では、次世代の跡取りが生まれない。

 

早雲は続ける。

 

「天道道場の看板はどうなる!わしは孫の顔が見たいのだ!乱馬くんが君とくっついたら、わしの夢は……わしの老後は……!」

 

早雲が泣き崩れる。

 

玄馬(パンダ)も、うんうんと激しく頷き、看板を掲げる。

 

『わしも孫が見たい!』

 

重苦しい空気が流れる。性別の壁。それは現実的で、高く、分厚い壁だ。

 

遥は、静かに目を閉じる。

 

(ふむ……。お父さんは、らんまがレズビアンであることを気に病んでいるのか。つまり、僕が男(の姿)であることが障害だと言いたいのか)

 

遥の思考回路は、根本的にズレている。彼は自分が「生物学的には女」であることを棚に上げ、現在の「男の姿」としての責任感を感じている。そして、乱馬を「女」として認識しているため、早雲の懸念を「同性愛への偏見」あるいは「身分違いの恋への懸念」だと解釈する。

 

(ここは男として、覚悟を見せるべきだな。父親の不安を取り除くのが、婿の役目だ)

 

遥はカッと目を開く。

 

その眼光は鋭い。迷いを断ち切る、王者の眼差しだ。

 

彼は背筋をさらに伸ばし、正座のまま早雲を見据える。

 

「お父さん」

 

遥の低い声が、部屋の空気を震わせる。

 

「確かに性別は大変な壁です。世間の目も厳しいでしょう。常識という物差しで測れば、僕たちの関係は歪なものに見えるかもしれません」

 

一同が息を飲む。

 

「(自覚はあるんだ……)」

 

あかねが感心する。ただの勢いだけのバカップルではない。社会的な困難を理解した上で、それでも進もうとしているのだ。

 

遥が立ち上がる。

 

彼は天井の照明を背に受け、逆光の中で仁王立ちする。その背後から、物理的な後光が差す。ま、眩しい。直視できないほどのイケメンオーラだ。

 

「ですが、愛があれば乗り越えられると、僕は信じています」

 

遥が拳を胸に当てる。

 

「形にとらわれる必要はありません。魂が惹かれ合っているなら、男だとか女だとか、そんなことは些細な問題でしょう?性別など、着ている服の違いに過ぎません」

 

遥の言葉には、不思議な説得力がある。彼自身が性別を超越して生きているからこそ、その言葉は重い。

 

「二人が力を合わせ、手を取り合えば、どんな困難も打破できます。流派の掟も、世間の常識も、僕たちの愛の前では紙切れ同然です!」

 

遥が宣言する。

 

早雲が顔を上げる。彼の涙で濡れた瞳に、遥の輝く姿が映る。

 

「ううっ……!なんという純愛……!なんという覚悟……!」

 

早雲の心が揺さぶられる。彼は「愛」という言葉に弱い。妻を早くに亡くした彼にとって、真実の愛を貫こうとする若者の姿は、涙腺を崩壊させる最強の武器だ。

 

「わしが……わしが間違っておったのか……!形にこだわり、本質を見失っておったのは、わしの方かもしれん……!」

 

早雲が号泣する。

 

玄馬(パンダ)も、感動して笹を落とす。そして、新しい看板を掲げる。

 

『美しい……。これが若さか……』

 

あかねは、遥を見つめたまま動けない。

 

「(悔しいけど……カッコいい……。乱馬が惚れるのも分かるかも……。こんな風に、真っ直ぐに愛されたら……)」

 

あかねの胸がときめく。乱馬に対する不満(素直じゃない、優柔不断)の裏返しとして、遥のこの直球な愛情表現は、あまりにも魅力的だ。

 

なびきが、溜息をつきながら電卓を閉じる。

 

「はぁ。これはもう、認めるしかないんじゃない?パパ。ここまで言われちゃ、反対する方が野暮ってもんでしょ」

 

なびきは損得勘定をする。このイケメンで金持ちそうな彼氏を味方につければ、将来的にメリットがあると踏んだのだ。

 

良牙だけが、納得できない顔で床を叩く。

 

「認めん!俺は認めんぞ!魂が惹かれ合うだと!?俺だって乱馬の魂と惹かれ合いたい……いや、違う、戦いたいんだ!俺をのけ者にするな!」

 

しかし、良牙の声は、感動的なBGM(早雲の泣き声)にかき消されて届かない。

 

遥は、場の空気が完全に自分に傾いたことを確信する。

 

(よし、説得成功だ。お父さんは泣いて喜んでくれている。これでらんまを嫁に迎える外堀は埋まった)

 

遥は心の中でガッツポーズをする。

 

「お父さん、安心してください。僕が必ず、らんまを幸せにします。道場のことも、僕たちに任せてください」

 

遥が早雲の手を握る。

 

「頼む……!頼むぞ遥くん!乱馬くんを……よろしく頼む!」

 

早雲が遥の手を握り返す。男と男の、熱い握手が交わされる。

 

ここに、天道家史上最大の誤解に基づく、感動の公認シーンが完成する。

 

乱馬は不在のまま、彼氏(遥)と父親(早雲)の間で、結婚の合意形成がなされてしまった。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

天道家の居間は、今まさに、聖なる光に包まれている。

 

まるで宗教画のような構図だ。涙を流して頷く父親・天道早雲。笹を落として感動に震えるパンダ(早乙女玄馬)。そして、後光を背負って仁王立ちするイケメン・七瀬遥。

 

「愛に性別は関係ない」

 

このパワーワードが、昭和の頑固親父たちの脳髄を貫通し、常識という名のハードディスクを初期化してしまったのだ。部屋の中には「二人の愛を祝福しようじゃないか」という、温かくも狂ったムードが充満している。

 

あかねは唇を噛み締めながらも、憑き物が落ちたような顔をしているし、なびきは「玉の輿確定」の算盤を弾いている。良牙だけが世界の終わりのような顔をしているが、彼の悲劇は大抵無視されるのが世の常だ。

 

その時だ。

 

この感動的なフィナーレをぶち壊す、無神経な音が響く。

 

ガララッ!!

 

玄関の引き戸が、壊れんばかりの勢いで開け放たれる。

 

「ただいま〜!いやー、腹減った腹減った!死ぬかと思ったぜ!」

 

ドカドカと廊下を歩く足音。そして、居間の襖がスパコーンと開く。

 

そこに立っていたのは、赤い髪のおさげの少女――らんまだ。

 

彼女の手には、湯気を立てるコンビニの袋が握られている。そして、その体はほんのり濡れている。どうやら帰宅途中に水を被るようなアクシデントがあったらしい。

 

らんまは、居間の異様な空気になど、これっぽっちも気づかない。彼女のセンサーは現在、「空腹」という一点のみに集中している。

 

「ん?なんだみんな揃って。……お?」

 

らんまの視線が、部屋の中央にいる人物を捉える。

 

タンクトップ姿の筋肉質な男。七瀬遥だ。

 

らんまの顔がパァッと輝く。それは恋人を見つけた乙女の顔ではない。餌をくれる飼い主を見つけた犬、あるいは組手の相手を見つけた戦闘狂の顔だ。

 

「あ!遥!来てたのか!」

 

らんまは嬉しそうに駆け寄る。遠慮も会釈もない。彼女はズカズカと畳を踏み鳴らし、あろうことか、遥のすぐ隣に腰を下ろす。

 

距離感がおかしい。

 

通常、客人の前では対面に座るのがマナーだ。しかし、らんまは遥の真横、肩と肩が触れ合うか触れ合わないかのゼロ距離ポジションに陣取る。

 

バシッ!!

 

らんまが遥の筋肉質な肩を、親しげに叩く。いい音だ。

 

「なんだよ、来るなら連絡くれよな!水臭いじゃねーか!……って、なんだみんな?お通夜みてーな顔して。誰か死んだのか?」

 

らんまはキョトンとして家族を見回す。口元には、肉まんへの期待と、無邪気な笑顔が浮かんでいる。

 

居間の空気が凍る……いや、沸騰する。

 

早雲と玄馬の目が、カッと見開かれる。

 

(ち、近い……!)

 

彼らの目には、こう映っている。美男(遥)と美女(らんま)が、寄り添うように座っている。らんまの赤い髪と、遥の黒い髪がコントラストを描き、まるでファッション誌の表紙のような完璧なカップル画を作り出している。

 

しかも、そのボディタッチの自然さ。長年連れ添った夫婦のような、あるいは深い絆で結ばれたパートナーだけが許される距離感だ。

 

遥は、肩を叩かれた衝撃を心地よさそうに受け止め、横を向く。

 

「やあ、おかえり。……今、お父さんたちに挨拶を済ませたところだよ」

 

遥は意味深な微笑みを浮かべる。

 

彼にとっての「挨拶」とは、「娘さん(君)を僕にください(婿養子として)」という決意表明の報告だ。

 

しかし、らんまの解釈は違う。

 

「挨拶?ああ、道場破りと間違われないようにな!律儀だなお前は!」

 

らんまはニカっと笑う。彼女の脳内辞書では、「武道家が他人の道場に来る=道場破りor挑戦」であり、それを避けるために仁義を切ったのだと解釈している。

 

「へへっ、お前みたいに強そうな奴がいきなり来たら、親父たちビビっちまうもんな!」

 

らんまは遥の背中をバンバン叩く。

 

遥は微笑んだまま、されるがままだ。

 

「そうだね。誤解のないように、しっかりと『関係』を説明しておいたよ」

 

「おう!さすが師匠!話が早いぜ!」

 

会話が噛み合っているようで、絶望的にズレている。しかし、周囲には「二人の世界」にしか見えない。

 

らんまは、ガサゴソとコンビニ袋を開ける。

 

中から現れたのは、ホカホカの肉まんだ。ジャンボサイズだ。

 

「そういやお前、腹減ってねーか?ここの肉まん、すげー美味いんだぜ」

 

らんまは遥の顔を覗き込む。上目遣いだ。計算のない、純粋な親切心による上目遣い。これが一番タチが悪い。

 

「もらうよ。君のおすすめなら間違いない」

 

遥が答える。

 

らんまは「よし!」と言うと、肉まんを両手で持つ。

 

白い湯気が立ち昇る中、彼女の繊細な指が、肉まんの中央に力を込める。

 

ふわっ。

 

生地が割れる音が聞こえるようだ。肉汁の香りが弾ける。

 

らんまは、綺麗に二つに割れた肉まんの片方を、ハイっと遥に差し出す。

 

「ほら、食うか?半分こしよーぜ!」

 

「ありがとう。頂くよ」

 

遥は自然に手を受け取る。指先が触れ合う。

 

そして、二人は同時に肉まんを口に運ぶ。

 

パクり。

 

咀嚼のタイミングまで完璧にシンクロしている。右、左、右、ゴクリ。

 

その阿吽の呼吸。

 

言葉などいらない。食欲という人間の根源的な欲求を共有する姿。

 

早雲の手が震える。

 

(こ、これは……デキてる……完全にデキてる……!)

 

早雲の脳内で、ウェディングベルが鳴り響く。

 

(あの乱馬くんが……食べ物に執着するあの乱馬くんが、自分の食い扶持を半分分け与えるとは……!これは愛だ!愛以外の何物でもない!)

 

玄馬(パンダ)も、目頭を押さえて看板を出す。

 

『親より彼氏か……』

 

あかねは、その光景を呆然と見つめる。

 

悔しい。

 

悔しいけれど、お似合いだ。

 

男の姿の遥と、女の姿のらんま。ビジュアル的な相性が良すぎる。それに、あの空気感。自分が乱馬と肉まんを分け合おうとしたら、きっと「俺の方が小さい!」とか「もっと寄越せ!」とか、色気のない喧嘩になるだろう。

 

あかねはガクリと肩を落とす。

 

(もう……入り込む隙間もないじゃない……)

 

あかねの中で、敗北宣言に近い感情が湧き上がる。肉まんの湯気が、二人の間に見えない結界を作っているように見える。

 

そして、部屋の隅で、響良牙が涙を流している。

 

「乱馬……お前、幸せそうだな……(涙)」

 

良牙の目には、らんまの笑顔がスローモーションで映っている。肉まんを頬張り、遥と顔を見合わせて「美味いな!」と笑うらんま。

 

「俺が差し入れたパンは『変なもん入ってねーだろうな』って疑うくせに……!」

 

良牙の嫉妬は、もはや哀愁へと変わっている。彼は悟る。自分は、あの二人の間にある「信頼」という名の聖域には、決して踏み込めないのだと。

 

なびきは、冷静にその場の空気を換金する。

 

「はい、公認カップル決定〜。証拠写真も撮ったし、これでもう言い逃れはできないわね」

 

パシャリ。

 

なびきのカメラが、肉まんを分け合う二人を永遠に記録する。

 

らんまは、モグモグと口を動かしながら、ようやく周囲の視線の強さに気づく。

 

「んぐっ……」

 

らんまは肉まんを飲み込み、怪訝な顔をする。

 

「??なんだよ、みんなしてジロジロ見て。……言っとくけど、肉まんはもうやらねーぞ?これは俺と遥の分だからな!」

 

らんまは残りの肉まんを抱え込み、威嚇するように言う。

 

その言葉が、最後のコンクリートを流し込む。

 

「俺と遥の分」

 

それは、二人で一つという宣言。

 

早雲が泣きながら拍手をする。

 

「おめでとう……!おめでとう乱馬くん……!」

 

「は?何がめでたいんだよおじさん」

 

「いいんだ。何も言わなくていい。今日は赤飯だ!かすみ、赤飯を炊きなさい!」

 

「は〜い、お父さん。お祝いですね〜」

 

かすみがニコニコと台所へ向かう。

 

らんまは首を傾げるばかりだ。

 

「赤飯?……よく分かんねーけど、ラッキー!俺、赤飯好きなんだよな!」

 

らんまは遥に向かって笑いかける。

 

「やったな遥!今日はご馳走らしいぜ!」

 

「ああ。君の家族は温かいな」

 

遥もまた、何も疑わずに微笑み返す。

 

かくして、天道家の居間において、世紀の大誤解に基づく「公認カップル」が誕生した。

 

誰も真実を知らない。

 

乱馬はただ、肉まんが美味くて、師匠(遥)と会えて嬉しいだけ。遥はただ、弟子(乱馬)と家族に認められて、婿入り計画が順調だと信じているだけ。家族はただ、娘(?)の幸せな結婚が決まったと安堵しているだけ。

 

窓の外では、満月がこの喜劇を静かに見下ろしている。




ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

今回特に読者の皆さんに伺いたいのは、

・どの誤解ポイントで一番笑ったか
・誰の反応が好きだったか
・乱馬登場後の破壊力シーンどうだったか
・遥の演説、心に響きました?それとも笑いました?

などなど、あなたの推し誤解ポイントをぜひ聞かせてください。
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