らんま1/2 ~男溺泉の最強師匠、手違いで乱馬の「公認彼氏」になり、天道家公認で夜の営み(武術)に励んでます~ 作:この俗物怪物くん
天道家のちゃぶ台がまたしても悲鳴を上げる回です。
舞台は日曜の朝。
光は爽やか、空気は穏やか、なのに──
天道家は嵐の中心でした。
・乱馬ボコボコ
・あかね怒号
・かすみほんわか
・なびき課金制
・早雲ため息
・パンダ震える
・はるか、全てを誤解する
今回の騒動は、
「七瀬はるかの洞察力」が高すぎるせいで
誤解が理論武装をまとって進化する
という珍しい現象をご覧いただけます。
あなたの腹筋が無事であることを祈りつつ、
本編へどうぞ。
日曜日の朝。カーテンの隙間からさわやかな光が差し込んでいるはずなのに、天道家の居間には一切さわやかさが存在しない。
ちゃぶ台を挟んで、正面に座るあかねの背後には、黒い炎のようなオーラがゆらゆら揺れている。目は据わり、口元はひきつっている。
その視線の先には、ボコボコに腫れ上がった乱馬が正座させられていた。顔は原形をとどめておらず、頭には色とりどりのタンコブが並んでいる。
乱馬は、氷嚢を頬に当てながら、しくしくと肩を震わせた。
「……納得いかねえ……。人の話は最後まで聞けよ……」
声が漏れるたびに、あかねの眉がぴくりと動く。
ちゃぶ台の横では、かすみが湯呑みにお茶を注いでいる。顔はいつものほんわか笑顔だが、視線が乱馬とあかねの間を行ったり来たりして状況を察している様子だ。
廊下の奥では、早雲が新聞を読みながら「はあ……」とため息を繰り返している。
庭の縁側には、パンダが一頭。看板に「ワシハカンケイナイ」と書いてガタガタ震えていた。どう考えても無関係ではない。
その時、インターホンが明るい音で鳴った。
『ピンポーン』
あかねは、鬼気迫る表情のまま立ち上がる。足音がずしんずしんと床を揺らす。
「……はーい」
玄関の戸を開けると、そこにはにこやかな笑顔のはるかが立っていた。爽やかな私服姿で、手には手土産らしき箱を提げている。
「やあ、あかねちゃん。遊びに来たわよ。お邪魔してもいい?」
あかねは、はるかの顔を見た途端、張りつめていた表情を少しだけ緩めた。
「来てくれたのね、はるかさん……!」
「おっと」
はるかは指を一本立てて笑った。
「呼び方は『はるか』でいいよ。友達なんだから」
「あ……うん。じゃあ、はるか」
玄関から居間へと通されたはるかは、靴を揃えて上がり、障子戸を開けた瞬間に固まった。
視界の中央で、乱馬がピクピクと痙攣している。頬は風船のように膨らみ、片目は線になり、口からは綿のような息が出ている。
「……なるほど」
はるかは、しばらく沈黙したあと、真顔でつぶやいた。
「流石に何があったのか分からないわね。空襲でも受けたのかしら」
「空襲なわけあるかよ……」
乱馬が小声で抗議するが、誰も聞いていない。
はるかは、乱馬の周りに転がる壊れた座布団と、ちゃぶ台のひび、壁に残った拳の跡などをざっと見て、状況をだいたい把握した。
「ふむ。物理的な話し合いが行われたのね」
「はるか、聞いて」
あかねが、今にも泣き出しそうな顔で振り向く。
はるかは姿勢を正し、真剣な目つきになった。
「いいよ。落ち着いて話して」
「乱馬がね……乱馬が浮気したの!」
居間の空気が、更にどよんと重くなる。
かすみが手に持った急須を落としそうになり、早雲は「な、なにいぃ!?」と新聞を床に投げ出した。
パンダは「ソンナハズハナイ」と書いた看板を取り出してぶんぶん振る。
はるかは、腕を組みながら首を傾げた。
「乱馬が浮気?誰と?かすみさん?まさかなびきさん?」
「違うわ!」
あかねは、大きく首を振る。頬には薄く涙の跡が光っている。
「知らない男の人とよ!!」
居間に沈黙が落ちた。
はるかは、きっちり三秒ほど瞬きを止め、その後でゆっくりともう一度瞬きをした。
「はい?」
思考が一瞬フリーズした結果、出てきたのはその一言だけだ。
乱馬は、正座したまま顔を上げた。
「だから、その言い方やめろっての……」
声はかすれているが、ツッコミの本能はまだ生きている。
あかねは、乱馬を睨みつけてから、はるかに向き直った。
「はるか、聞いて。全部話すから」
「うん。順番に聞こうか」
ちゃぶ台の横に座布団が並べられ、はるかはあかねの隣に腰を下ろした。かすみが新しいお茶を出し、なびきもどこからか現れて、メモ帳を構えながらちゃぶ台の反対側に座る。
乱馬は、依然として正座のまま、逃げ道を完全に封じられていた。
あかねは、深呼吸をしてから話し始めた。
「まずね、昨日の夕方よ。私、買い物から帰ってきたとき、お姉ちゃんから呼ばれたの」
なびきがすぐに口を挟む。
「正確には『あかねちゃん、面白い話があるわよ。聞く耳あるなら千円ね』だけど」
「そこは省略しなさい!」
はるかは、内心(やっぱりお金は取るのね)と思いつつ、表情には出さず頷いた。
「あのね」
あかねは、ぐっと拳を握る。
「なびきお姉ちゃんがね、クラスの子から聞いたと言うの。『駅前のファミレスで、乱馬が超絶イケメンの男と、窓際でデートしていた』って」
「窓際でデート」
はるかの眉がわずかに動く。
「その二人がね、とにかくすっごい雰囲気で。『見つめ合ってて』『すごく楽しそうで』
『二人の世界だった』って」
「だいぶ主観が混ざっている気がするけど、続けて」
「あげくにね、『夜はすっごい運動してた』って話まであるの!」
「はい?」
はるかの顔が固まる。
「『もっと激しく』とか、『中をかき回す』とか、公園でそんな会話してたって!」
「あかね、それは多少脚色入ってるわよ」
なびきがメモ帳を閉じながら、肩をすくめる。
「実際は『もっと強く押せ』『中の筋肉を意識しろ』だったはず」
「どっちにしろアウトでしょ!!」
あかねは机を叩いた。ちゃぶ台がビクンと跳ねる。
はるかの頭の中で、単語だけが残る。
「夜の運動」「もっと激しく」「中をかき回す」
そのどれもが、武術的な文脈ならセーフだが、知らない人が聞けば完全にアウトだ。
乱馬は必死に叫んだ。
「だから違うと言ってるだろ! 運動は運動でも、体幹操作の話で……」
「黙りなさい!」
あかねのこぶしが机の上で鳴る。
「女の子もいる前で、そんな紛らわしい言葉使う方が悪いのよ!」
「いや、オレもあんまり自覚なかったけどよ……」
乱馬は、昨日の練習を思い出す。
『もっと強く押してくれ』『中の方を意識しろ』『全部吸収してやる』
思い出せば思い出すほど、顔が赤くなる。
「ほら、顔赤くしてるじゃない!」
あかねが指さす。
「やっぱりやましいことしてたんだわ!」
「してねーよ!!」
乱馬は全力で否定した。
「オレはただ、あいつに技を教えてもらってただけなんだよ。すげえ強くてさ。オレのこと、ちゃんと見てくれて、何にも言わなくても分かってくれて……」
「照れながら言うなぁぁぁ!」
あかねの叫びが居間に響いた。
はるかは、その様子をじっと観察していた。
「あかねちゃん。乱馬がその人のことをどう思っているか、もう少し具体的に聞いていい?」
「どうぞ」
はるかは、乱馬の方へ体を向けた。
「その人の、どこがそんなに良かったの?」
「え?」
乱馬は目をぱちくりさせる。
「どこかと言えば、そりゃ……強いし」
指を折りながら、ひとつずつ挙げていく。
「オレの癖も、一発で見抜いたし。『気の流れがどう』とか、『体の意識がどう』とか、ちゃんと分かりやすく教えてくれて」
「ほう」
「それに、オレが失敗しても怒らねーんだ。ちゃんと『そこは半分成功だ』とか、『今のはよくできた』とか言ってくれてさ」
乱馬の表情は、殴られた跡が残っているにもかかわらず、だんだん柔らかくなっていく。
「あいつといるとさ、オレ、もっと強くなれると言うかさ。自分のこと、ちゃんと認めてもらえてる感覚があって……」
「……」
はるかは、無言で聞いていた。
「オレ、あいつのこと……その、尊敬してるし。悪いやつじゃねーどころか、むしろいいやつだし……嫌いではないと言うか……」
頬がじわっと赤くなる。
「あーもう! 何言わせんだよ!」
乱馬は顔をそむける。
あかねは、その様子を見てさらに涙目になった。
「ほら見なさいよはるか! これが浮気の証拠よ!」
「どこが証拠だよ!」
「顔が全部証言してるのよ!」
はるかは、二人を交互に見ながら、顎に手を当てて考え込む。
「ふむ……」
(乱馬は、その男の人をかなり好意的に語っている。尊敬、信頼、安心感。表情も柔らかい。嘘をついている様子はない)
(あかねちゃんの話では、二人きりでよく会っている様子だ。身体を近づけて、夜まで運動している。言葉のチョイスは最悪だが、本人たちは真面目なつもりだろう)
(乱馬は女の子にも人気があるし、あかねちゃんへの好意も見え見え。だけど、その男の人にも心を許している)
(これは、武術家としての敬意だけなのか。それとも、それ以上の……)
「うーん」
はるかは眉間にしわを寄せた。
「嘘は言っていないけど、何か隠している感じもない。となると……」
脳内で、膨大な量の仮説が組み上がっては崩れていく。
『実はその男は親戚』『実はその男は兄弟弟子』『実はその男は幽霊』『実はその男は未来から来た自分』
最後の案は一瞬で却下され、別の案が浮かぶ。
はるかは、こめかみをトントンと叩きながら首をひねった。
「??何かがおかしい。でも、全部聞いた範囲では、そういうことになる雰囲気だわね……」
そして、ある瞬間。
頭の中に一筋の光が走った。
「そうか」
ピコーン、と自分の中で何かがはねた気がする。
「分かったわ」
はるかはポンと手を打った。
「今は多様化の時代だものね」
にっこりと笑い、乱馬の肩をぽんぽんと叩く。
「乱馬。私は応援するよ」
「へ?」
乱馬は、何を応援されたのか分からず、間抜けな声を出した。
「応援って……打倒・七瀬のことか?」
「違うわよ」
はるかは軽く笑う。
「愛の話よ」
「……は?」
「隠さなくていいわ。愛に性別は関係ない。私は、そういう偏見を持つつもりはないから」
乱馬は、本気で意味が分からなかった。
「はあああ!?」
声が裏返る。
あかねも目を丸くする。
「え……?」
はるかは、二人の反応を見てうんうんと頷いた。
「大丈夫。驚いているのは分かるけど、少しずつ受け入れていけばいいわ」
「何を!?」
乱馬のツッコミは虚空に吸い込まれる。
はるかは腰を浮かし、あかねの背中にそっと手を置いた。
「まずは、あかねちゃんからね」
「えっ、私?」
はるかは、落ち着いた声で語り始める。
「泣くことはないわ」
「で、でも……」
あかねは唇を噛む。
「乱馬があかねちゃんのことを大事に思っているのは、私には分かる。君を見るときの目は、いつも熱がこもっているもの」
「……ほんと?」
あかねの視線が揺れた。
「本当よ。照れ隠しで口が悪いだけで、こっそり君を守ろうとしているのも、何度も見ているし」
はるかは、乱馬の方をちらりと見た。
「ねえ、乱馬?」
「いや、オレは別に……」
乱馬は顔をそむけるが、耳まで赤くなっている。
「ほらね」
はるかは笑う。
「そのうえで、あの彼のことも好きなのよ」
「だーかーらー!」
乱馬の抗議を、はるかはさらっとスルーした。
「いいじゃない。今は、そういう心の持ち方も認められる時代だわ。誰を好きになってもおかしくない」
「ちょっと待て! 誰を好きになったとかいう話じゃねえ!」
乱馬は必死で否定するが、その顔は先ほどの回想のせいで真っ赤だ。説得力がない。
はるかは、あかねの肩をぽんと叩いた。
「よく考えてごらん、あかねちゃん」
「な、何を」
「もしライバルが女だったらどう?」
「う……」
あかねの顔が引きつる。
「でも、相手が男なら?」
はるかは、人差し指を立てた。
あかねは少し考え、ぽつりと言った。
「……子どもは産めないわね」
「そう」
はるかは満足げに頷く。
「つまり、『妻』になれるのは、あかねちゃんだけなのよ。そこは揺らがない」
「……あ」
あかねの表情が少し変わった。
「乱馬にとって、あかねちゃんは『帰る家』その男の人は、外で一緒に汗を流す『趣味の相手』」
はるかは真顔で言う。
「そう考えれば、むしろ安定しているでしょ?」
乱馬はちゃぶ台をひっくり返しそうになる勢いで前のめりになった。
「待て待て待て! 人の人生勝手に設定するな! オレは外に男囲うつもりなんてねーから!」
「囲うというより、戦友かしらね」
はるかは肩をすくめる。
「男の浮気相手が女だと泥沼だけど、男同士なら、ある意味で友情の延長線上よ。『一緒に強くなる仲間』として受け止めればいい」
なびきは、メモ帳を取りながら吹き出しそうになっていた。
「すごい理屈が飛び出してきたわね……。これは新しいビジネスモデルかも」
かすみは、ぽやんとした笑顔のまま感想を述べる。
「男の方とも仲良くできるなんて、乱馬くんは社交的ね〜」
「なんでそういう解釈になるんだよ、かすみさん!」
早雲は、腕を組んだまま天井を仰いだ。
「むう……時代は変わったのか……。天道家の跡取り問題はどうなるのだ……」
しばらくぶつぶつ言ったあと、あかねを見てうなずく。
「そうか。あかねがしっかりしていれば、孫の顔は見られるのだな」
「お父さんまで何納得してるのよ!」
はるかは、すかさずとどめを刺すように続けた。
「だからね、あかねちゃん」
「あ、うん」
「乱馬がその男と会っているときは、『ああ、男同士でストレス発散してるんだな』と思えばいいわ。趣味の時間は尊重してあげる。帰ってきたら、『おかえり』って笑って迎えてあげなさい」
あかねは、少しだけ考え込んだ。
「……私、心が狭かったかもしれない」
「いいえ、普通よ」
はるかは優しく笑う。
「でも、ここで一歩大きく構えられたら、奥さんとしてワンランクアップね」
「お、奥さんて……」
あかねは顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうだ。
「そうよね。私がドーンと構えてればいいのよね」
「その通り」
はるかは親指を立てた。
「乱馬が外で男と仲良くしていても、『まああの子はそういうのも好きなのね』くらいで済ませる。天道家の本妻の座を守るのは、あかねちゃん。これは揺らがない」
「本妻と言うなあぁぁぁ!!」
乱馬の叫びは、再び空しく反響する。
なびきは、こっそり録音ボタンを押していた。
「これは高く売れそうねえ。『新時代の婚約の形・講義編』」
はるかは、乱馬の方へ向き直った。
「よかったわね、乱馬」
「どこがだよ!」
「これで、あかねちゃん公認で、その彼と会えるわよ」
はるかはウインクする。
乱馬は、返す言葉が見つからなかった。
「ぐ……。まあ、あかねがもう怒らないなら、それはそれで助かるけどよ……」
「怒らないわよ」
あかねは腕を組み、堂々と宣言する。
「私は許嫁として、どーんと構えることにしたの。あんたが男の人と会ってても、『また修行ね』くらいに思ってあげる」
「修行ではあるんだが!」
乱馬は頭を抱えた。
「何なんだよこの状況……」
はるかは、すっかり一件落着したつもりで手を叩いた。
「よし。解決ね」
「解決した覚えがねえ!」
「細かいことは気にしない気にしない」
はるかは立ち上がり、かすみに向かって微笑む。
「かすみさん、お茶、もう一杯もらってもいい?」
「はい、すぐに用意しますね〜」
こうして、天道家の居間ではなぜか平和な空気が戻りつつあった。
乱馬だけが一人、納得いかない顔で正座を続けている。
はるかは湯呑みを手に取り、ふぅと息をついた。
(乱馬にも、あかねちゃんにも、いい方向にまとまったわね。あとは、その彼ときちんと会って礼を言っておかないと)
自分が誤解していることに、かけらも気づいていない。
乱馬が夢中になっている「謎のイケメン」が、男になった自分自身であることも。
その相手との関係を、「公認のセカンドパートナー」として認めてしまったことも。
天道家のちゃぶ台の上には、湯呑みとお茶菓子が並び、奇妙に明るい笑い声が響き始めた。
その裏で、風林館高校のゴシップ担当たちは、「早乙女乱馬、男のセカンドパートナー公認」という衝撃的な新ネタを手に入れたことにまだ気づいていない。
こうしてまた一つ、風林館高校の七不思議が増えていくのであった。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
今回のテーマは、
「誤解が誤解を呼び、最後に真実から一番遠ざかる」
という、らんま世界にぴったりの大混乱コメディでした。
・はるかの推理(全部外れてる)
・あかねの本妻覚醒
・乱馬の抗議(届かない)
・早雲の時代への敗北宣言
・パンダの無関係アピール
どこが一番ツボに入ったか、ぜひ教えてほしいです!
「ここで死ぬほど笑った!」
「はるかが天才すぎる」
「乱馬が可哀想で可愛い」
「七不思議が何個目か気になる」
などなど、
あなたの好きなポイントを一言でももらえると、
次の話づくりの励みになります。
ぜひ、感想を聞かせてね!