らんま1/2 ~男溺泉の最強師匠、手違いで乱馬の「公認彼氏」になり、天道家公認で夜の営み(武術)に励んでます~   作:この俗物怪物くん

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──読者の皆様、ようこそ一年F組へ。

本日の授業内容は以下の通りです。

1時間目:七瀬はるかによる「乱馬の殺気削ぎ落とし講座」
副教材:気をつけロック

2時間目:乱馬 vs 七瀬はるかの謎の婚活会議(本人自覚なし)

3時間目:天道あかねの妻ポジション防衛会議(潜在意識)

4時間目:なびきのセカンドパートナー制度(勝手に導入)

そして放課後には、
七瀬はるかによる 『婿取り大作戦 第一草案』 の発表です。

授業計画がすでにおかしい。

あなたが今から読むのは

七瀬はるかの壮絶な勘違いが世界を動かす物語。

覚悟してページを開け。
あなたはもう、男子か女子か分からないらんま世界の住人だ。


はるかの謀略:婿取り大作戦

風林館高校一年F組の教室には、朝から変な緊張感が漂っていた。

 

窓際のいつもの席で、七瀬はるかが腕を組んでうーんと唸っている。頬杖ではなく、きっちり背筋を伸ばしたままの思索ポーズ。眉間にはしわ、視線は教卓の上の一点に固定。教科書も筆箱も開いていない。

 

クラスメイトたちは、そっと距離を取りながらコソコソささやき合っていた。

 

「七瀬さん、なんか悩んでる顔だね」

 

「へーきへーき。あの人は大体いつも何か考えてるわよ。たぶん地球の平和をどう守るかとか」

 

「それはないでしょ」

 

そんな中、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「よう!!」

 

いつもの元気だけが取り柄の男が、廊下から飛び込んでくる。早乙女乱馬である。鞄を肩に引っかけたまま、教室のド真ん中を堂々と突き進み、標的の机の前でピタッと止まった。

 

「七瀬! 今日こそはやってやるからな!」

 

教室の視線が一斉に乱馬へ集まる。まだホームルーム前だが、もはやクラス行事の一種として認識されている光景だ。

 

はるかは、腕を組んだまま視線だけゆっくり上げた。

 

「……おはよう、乱馬」

 

声はいつもの落ち着いたトーンだが、目の下にはうっすらクマができている。寝不足の証拠だ。

 

乱馬はそんなことには気づかない。いつも通りニカッと笑う。

 

「昨日な、遥に教えてもらった『ガマク』の応用を仕上げてきたんだよ! 今日は違うぞ、七瀬! お前に一発ぶち込んでやる!」

 

その一言で、教室の数人がビクッと肩を震わせた。

 

(※文脈を知らない耳には、いろいろ危険な発言に聞こえる)

 

はるかは小さくため息をついた。

 

「そう。で、内気は練れるようになったの?」

 

「おう! 昨日死ぬほどやらされたからな!」

 

「ふうん……」

 

はるかは椅子からゆっくり立ち上がり、机から一歩下がる。周囲の生徒たちは、慣れた動きで机ごとガタガタ後退した。教室後方には、いつの間にか安全地帯が整っている。

 

あかねが呆れながら腕を組んだ。

 

「もう、朝っぱらからやめなさいよ」

 

「うるせーな! これは武道家の真剣勝負だ!」

 

乱馬はやる気満々で前へ出る。足元のリノリウムがギシッと鳴った。

 

「行くぞ、七瀬!」

 

呼吸が一瞬で静かになる。昨日、遥から叩き込まれた「気の消し方」を思い出しながら、腰を落とした。

 

(殺気を出すな。殴る直前まで、ただ歩いてるつもりで……)

 

周囲の生徒たちが、ごくりと息を飲む。

 

次の瞬間、乱馬の姿がふっとかき消えた。

 

「!」

 

突風だけが前に走る。さっきまでの位置から、一歩で間合いを詰めたのだ。確かに以前より気配が薄く、殺気も小さい。

 

はるかの目が少しだけ見開かれる。

 

(……今の踏み込み。気の乱れが減ってる)

 

内心で評価しながらも、表情は崩さない。はるかの右手が、すっと上がった。

 

パン、と軽い音が教室に響く。

 

乱馬の額に、はるかの指が軽く触れた。それだけで、乱馬の体はくるりと回転し、ピタッと直立した。

 

「……え?」

 

気づけば、顔は黒板の方を向いている。両足は肩幅、両腕は体の横。完璧な「気をつけ」の姿勢。

 

生徒たちから、感心とも笑いともつかないざわめきが起こった。

 

「またやられた」

 

「今日も決まったわね、七瀬ロック」

 

「何あれ、催眠術?」

 

はるかは乱馬の後頭部に視線を向けたまま、静かに言う。

 

「内気を練れるようになったのは立派よ」

 

「そりゃそうだろ。昨日――」

 

乱馬が胸を張ろうとした瞬間、はるかの声がかぶさった。

 

「でも、それを『気の消し方』と同時に使えていない」

 

「ぐ」

 

図星を突かれ、口が止まる。

 

「力を隠そうとして、動きが遅くなっているわ。踏み込みも悪くないけど、私に当てるにはまだ三倍は速くならないとね」

 

「さんばい!?」

 

乱馬の目が飛び出しそうになる。

 

「身体能力の向上までできるようになってから来なさい」

 

はるかは、いつもの教師モードの口調で締めくくった。

 

「乱馬、君はもっとできるはずよ」

 

その言葉は、教室全体ではなく、乱馬一人に向けた真剣な評価だ。

 

乱馬は、悔しさと納得が同時に胸に押し寄せて、複雑な顔になる。

 

(くっそー……内気のことも、気の消し方のことも、言ってることが遥と全く同じだ……)

 

昨日、公園で遥に言われたアドバイスが頭の中でリフレインした。

 

――「気を消すのと、力を出すのを別々に考えるな。両方を同時にやれるようになれ」

 

(ああもう! 師匠同士で打ち合わせでもしてんのか? 絶対裏で話し合ってるだろ!)

 

心の中で叫びつつも、技の正しさには一ミリも文句が言えない。

 

「ほら乱馬!」

 

その時、教室の入口から声が飛んだ。あかねが腕組みして立っている。

 

「チャイム鳴るわよ! さっさと席に戻れ!」

 

「うるせーな! 今いいところなんだよ!」

 

「よくない! 授業の邪魔!」

 

あかねはズカズカと近づくと、乱馬の道着の襟をつかんだ。

 

「ほら、行く!」

 

「首が締まる首が!」

 

もはやクラス名物となった光景に、誰も驚かない。

 

なびきは机に肘をついて、自分の教室でめくっていた雑誌から目も上げずにボソリと漏らした。

 

「はーい、本日も朝の夫婦喧嘩、定刻通り終了っと」

 

クラスの何人かがくすくす笑う。

 

乱馬はあかねに半分引きずられながら、しぶしぶ自分の席へ戻っていった。

 

(くそ、七瀬のやつ……言ってることは全部正しいのが余計ムカつくんだよな……)

 

机に突っ伏しながら、内心で拳を握る。

 

(でも、まだ行ける。もっと速く、もっと深く。三倍なんざ、いつか絶対超えてやるからな)

 

そんな決意とは裏腹に、先生が入ってくる頃には、黒板の前の「気をつけロック」は何事もなかったように解除されていた。

 

 

 

 

◇◇

 

 

一限、二限が終わり、休み時間。

 

教室には、お菓子の袋がガサガサ鳴る音や、椅子を引く音が入り混じっている。窓際ではカードゲーム、廊下側ではバスケの真似事。自由度の高いカオスな空間だ。

 

その中で、はるか一人だけは机に突っ伏すでもなく、いつもの姿勢の良さを保ったまま、静かにため息をついていた。

 

「……ふう」

 

正面の席から、その声を聞き逃さない人物がいた。あかねである。

 

「あのさ、はるか」

 

あかねは椅子ごと前ににじり寄った。

 

「さっきからため息ばっかりじゃない。どうしたの? なんか悩み事?」

 

はるかは、少し驚いた顔をしてから、ふっと笑う。

 

「分かる?」

 

「そりゃあね。表情はあんまり変わらないけど、オーラがね。『困ってます』って背中に書いてあるわよ」

 

「オーラねえ」

 

はるかは、苦笑しながら肩をすくめた。

 

そこへ、斜め前の席からひょこっと頭が飛び出す。

 

「なになに、相談事なら俺にも聞かせろよ」

 

乱馬である。机をまたごうとして、あかねにすねを蹴られた。

 

「いってえ!」

 

「あんたは黙ってなさいよ」

 

「なんでだよ!」

 

乱馬は、痛い足をさすりながら言い返す。

 

「人の悩みを聞くのは悪いことじゃねーだろ? たまには俺も役に立つかもしれねーじゃねーか」

 

「へー。たまにはね」

 

あかねはジト目で見ながらも、完全には否定しない。

 

「その『たまに』って何よ」

 

乱馬は口をとがらせた。

 

口では文句を言いながらも、内心では少しだけ得意げだ。最近、遥との修行で、割と真面目な話もできるようになってきたという自覚がある。

 

はるかは、二人のやりとりを見ながら、少し考えてから口を開いた。

 

「まあ、そうね。二人ともここにいることだし、少しくらい話してもいいか」

 

「ほら見ろ!」

 

乱馬がドヤ顔になった瞬間、あかねの拳骨が頭に落ちる。

 

「痛っ! 何すんだよ!」

 

「調子に乗るな」

 

そんな軽い暴力はスルーして、はるかは真面目な表情に戻った。

 

「実はね」

 

「ああ」

 

あかねが身を乗り出し、乱馬もなんだかんだで耳を傾ける。

 

「最近、私のことを好きだ、と言ってくれた子がいたのよ」

 

「はあ!?」

 

あかねの声がひっくり返った。

 

「すごいじゃない! ……っていうか、そりゃそうか。はるか、美人だし、頭良いし、強いし。告白なんていくらでもされてるんじゃない?」

 

はるかは、少し困ったように笑った。

 

「まあ、告白の数自体は、もう正直数えてないけど」

 

「さすがだわ……」

 

あかねが思わず遠い目になる。

 

乱馬は腕を組んで鼻を鳴らした。

 

「ふーん。その中で、わざわざ相談するくらいの相手ってことは、そいつ、相当な変人か、腕前がすげーか、どっちかだな」

 

「乱馬、そういう分類なの?」

 

「俺の経験上な」

 

はるかは、軽く笑って肩をすくめた。

 

「腕前の方ね。武道家としても申し分ない才能を持っている子よ。そうね、乱馬。あなたくらいに才能がある」

 

「お?」

 

乱馬の顔がしれっと明るくなる。

 

「そいつ、ぜひ手合わせしてみてーな。俺に並ぶ才能だろ?」

 

「自分でハードル上げてどうするのよ」

 

あかねが即座にツッコむ。

 

はるかは、二人のやりとりを見ながら、少し視線を落とした。

 

「ただ、その子には少し複雑な事情があってね」

 

「複雑?」

 

あかねが首を傾げる。

 

「うん。その子、自分のことを女が好きだと言っていて」

 

「女が……好き?」

 

あかねの眉がぴくりと動いた。

 

はるかは慎重に言葉を選びながら続ける。

 

「つまり、同性を恋愛対象にする傾向があるんだと思う。自分でもそれを自覚しているようだった」

 

実際は、はるかの大誤解である。しかし、本人は真剣だ。

 

あかねは、「ふーん」と小さく相槌を打った。

 

「それで?」

 

「それでね」

 

はるかの声が少しだけ柔らかくなる。

 

「そんな自分の気持ちを曲げてでも、私と結婚したい、と言ってくれているのよ。婿に入ってもいい、と」

 

あかねの目が丸くなった。

 

「……え」

 

「へえ」

 

乱馬も、思わず真顔になる。

 

「自分は女性が好きだけど、それでも私のために男としての立場を引き受ける覚悟がある、と。すごく真剣に言ってくれたの」

 

はるかは、机の上で指を組んだ。

 

「それが嬉しくないわけじゃないの。むしろ光栄だし、武道家としても信頼している。でも……」

 

そこで、はるかは少し言いよどむ。

 

「自分の本心を曲げさせてまで、婿として迎えるのは、良くないのかなって。そう思っている」

 

教室の雑音が、少しだけ遠のいた。

 

あかねは、真剣な顔でうなずいた。

 

「たしかに、それは複雑よね。そこまで好きになってくれるのはすごく嬉しいけど、あとから『やっぱり違った』ってなったら、その子もしんどいだろうし」

 

乱馬は腕を組み直して、珍しく落ち着いた声を出した。

 

「そうだよな」

 

二人分の視線が一斉に乱馬へ向く。

 

「お、どうしたの乱馬。珍しくまともなこと言いそうな顔をしてるわよ」

 

「いつもまともだっつーの!」

 

乱馬は一応怒鳴ってから、言葉を続けた。

 

「後でさ、『本当は同性の相手の方が良かった』とか、心のどっかで思い続けることになるならさ。」

 

机の上の自分の拳を、じっと見つめる。

 

「そいつの人生、半分縛ることになるだろ? 俺だったら、そんなのイヤだな」

 

あかねは、意外なほど素直に頷いた。

 

「それは、あんたにしては名言かもね」

 

「うるせえ。でもよ。七瀬は女なんだからそんなに悩むものではないんじゃないか?」

 

そんなツッコミはさておき、はるかの脳内には、高速で情報が流れ込んでいた。

 

(なるほど……)

 

乱馬の言葉が、そのままメモとして書き込まれていく。

 

(本人の指向を曲げさせるのは良くない。分かってる。でも、らんま君は女が好き。つまり、私が普段女でいれば、本望ということになるのでは?)

 

頭の中で、急ピッチの設計会議が始まる。

 

(作戦開始、だね)

 

グルグルと回り続けていた歯車が、カチッと噛み合った。

 

(私が男の遥として、らんま君に「婿になってもらう」総帥は形式上らんま君。私は右腕に回る。そうすれば、面倒な跡継ぎ問題は片付く)

 

さらにもう一枚、資料が追加される。

 

(でも、らんま君は女が好き。なら、普段は私が女でいる時間を増やせばいい。夫婦生活は女の姿で送る。らんま君の「女性が好き」という気持ちも守れる)

 

頭の中で、線と矢印が増えていく。

 

(子供を産むときだけ、申し訳ないけど男に戻る。そこで頑張ってもらえば、後継者問題も解決。私は戦える時間を確保できて、らんま君は武道に専念できる)

 

完全に一人で結論に到達した顔になっていた。

 

(これは……かなりのウィンウィンじゃない?)

 

にこり、と口元が吊り上がる。

 

(私も自由度が上がる。らんま君は武道と恋愛と家を全部手に入れる。完璧)

 

もちろん、どこからどう見ても完璧ではないが、本人だけは真剣だ。

 

ただ、一つだけ引っかかりがあった。

 

(とはいえ、この体質をいつ、どう話すかが問題ね)

 

自分の胸元をさりげなく見下ろす。

 

(「水をかぶると男になります」なんて、普通に考えたら怪談だよね。気持ち悪がられて嫌われる可能性もある。ここは慎重にステップを踏まないと)

 

水、風呂、雨、バケツ。頭の中で「NGワードリスト」が並ぶ。

 

(うっかり目の前で変身したら、その場で破談コースだし……)

 

こめかみを押さえながら、ため息をつく。

 

「……はあ」

 

「やっぱり、だいぶ重症ね」

 

あかねが心配そうにのぞき込んだ。

 

「今、頭の中でどんな難しい数式を解いてたの?」

 

「方程式というより、人生設計?」

 

はるかは、くすっと笑った。それから顔を上げる。

 

「でもね」

 

さっきまでの陰った表情が嘘のように、ぱっと明るい笑顔を見せた。

 

「乱馬、ありがとう。あかねちゃんも」

 

「お、おう?」

 

名前を呼ばれた乱馬が、条件反射で胸を張る。

 

「二人の話を聞いて、なんとかなりそうな道筋が見えてきたわ」

 

「そう?」

 

あかねは素直に微笑んだ。

 

「それならよかった。私で良ければ、いつでも話聞くからね」

 

「助かる」

 

はるかは素直に頭を下げた。それから椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ私は、ちょっと席を外すわ」

 

「どこ行くんだ?」

 

乱馬が首を傾げる。

 

「作戦会議」

 

はるかはニッと笑った。

 

「人生のね」

 

その笑顔には、何かを思いついた武術家特有の、危険なキラキラが宿っている。

 

あかねは、少し背筋に寒気を覚えた。

 

(……今、ろくなこと考えてなさそうな目してたな)

 

「お、お手柔らかにね?」

 

一応そう言って見送る。

 

はるかは手を軽く振り、そのまま教室をスタスタと出て行った。

 

教室の外に消える直前、視線だけ乱馬に向けて、意味ありげな笑みを一つ残す。

 

(よし。まずは情報収集からだ)

 

廊下を歩きながら、はるかの頭の中にはチェックリストが浮かんでいた。

 

「らんま君の好きな食べ物」「らんま君の得意技」「らんま君の結婚観」「らんま君が嫌がるプレゼントランキング」「水場の配置」

 

最後の一項目だけ、明らかにおかしい。

 

「……ふふ」

 

自分で思って自分で笑っているあたり、すでに手遅れ感がある。

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

教室には、妙な静寂が一瞬だけ残された。

 

乱馬は、はるかが消えた扉を見つめながら首をひねる。

 

「なんなんだ、七瀬の奴」

 

「ん?」

 

机へ戻ろうとしていたあかねが振り向いた。

 

「さっきの顔、絶対なんか企んでる顔だったぞ。あれ、必殺技思いついたときの顔だ」

 

「それは説得力あるわね」

 

あかねも腕を組んで頷く。

 

「あなた、必殺技思いついたとき、いつもあんな顔してるもの」

 

「してねーよ!」

 

乱馬は全力で否定した。

 

「お前だって新メニュー思いついたときニヤニヤしてんだろ!」

 

「新メニューって言うな!」

 

「言ったな!」

 

また口喧嘩のスイッチが入りかけた瞬間、なびきがやってきて口を挟んだ。

 

「はいはい、そこまで」

 

雑誌を閉じ、頬杖をついたまま、面倒くさそうに二人を眺める。

 

「だいたい見えたわ」

 

「何がだよ」

 

乱馬が眉をひそめる。

 

「はるかちゃん、完全にあんたの彼氏に会う準備してる顔だったじゃない」

 

「誰が彼氏だ!」

 

乱馬の声が裏返る。

 

「駅前のファミレスのイケメンくんでしょう? あかねから聞いたわよ」

 

なびきはニヤニヤ笑いを深めた。

 

「ふふーん。しかも今日は、はるかちゃんにも公認されたんでしょ? 『男の相手もアリ』って」

 

「人を勝手に多方面にオープンなやつにすんな!」

 

乱馬は机を叩いて抗議するが、なびきは全くひるまない。

 

「まあまあ」

 

なびきは肩をすくめながら続けた。

 

「今のところ、あかねは『妻ポジション』で安泰。イケメン彼氏は『セカンドパートナー』しかもはるかちゃんのお墨付き付き」

 

「なんだよそのざっくり区分は!」

 

乱馬は大声でツッコんだ。

 

「俺は普通に女が好きだって、何回言わせんだよ!」

 

「はいはい。口ではそう言いながら」

 

なびきは、じっと乱馬の顔を覗き込む。

 

「イケメン彼氏の話になると、顔赤くなって目そらすよねー」

 

「なっ……!」

 

顔を真っ赤にして、口がパクパクする。

 

(遥のことを思い出しただけで、なんで意識しなきゃなんねーんだよ!)

 

自分でも謎なモヤモヤが胸の中で膨らむ。

 

「べ、別にあいつのことなんか」

 

「ほら出た」

 

なびきがニヤリ。

 

「あかね、聞いた? 『別に好きじゃねーし』っていう定番のセリフ」

 

「う、うるさい!」

 

あかねは耳まで赤くしながら、半分は乱馬に、半分は自分にツッコんだ。

 

「私は別に、乱馬が誰と仲良くしてようと関係ないし!」

 

「それはそれで刺さるんだよ!」

 

乱馬の方も、よく分からない傷を負っている。

 

なびきは、そのやり取りをニヤニヤ眺めてから、結論を出した。

 

「ま、とりあえずね」

 

くるっと乱馬の方へ指を向ける。

 

「あんたは、本人の知らないところで『セカンドパートナーくん』として正式認定されたから。おめでとう」

 

「ああああああああああ!?!?」

 

乱馬の悲鳴が、教室じゅうにこだました。

 

「やかましい!」

 

隣のクラスからも苦情が飛ぶ。

 

あかねは、腕を組んだまま、ふんと顔をそらした。

 

「ま、私ももう怒らないから」

 

「え?」

 

乱馬が固まる。

 

「はるかの話で、ちょっと考え直したの」

 

あかねは、少しだけ真面目な顔になった。

 

「相手が女の子だったら、妻の座を取り合うところだけど。男なら……まあ、いっかって」

 

「『まあ、いっか』じゃねーよ!」

 

乱馬は机に突っ伏した。

 

「何勝手に許可出してんだよ!」

 

「いいじゃない」

 

あかねは、ふっと笑う。

 

「あんたが誰とどんな修行しようと、最終的には私のところに戻ってくるんでしょ?」

 

「なっ……!」

 

その一言に、乱馬の顔が一気に赤くなる。

 

「だ、誰が戻るなんて……!」

 

「あら、違うの?」

 

あかねは首を傾げた。

 

「じゃあ、あの時『俺は普通に女が好き』って言ってたの、全部嘘?」

 

「ぐ」

 

今度は乱馬が言葉に詰まる番だ。

 

なびきは、その様子を眺めながら、机に置いた電卓をポチポチたたくふりをした。

 

「ふむ。妻ポイント、あかね。セカンドパートナーポイント、駅前イケメン。どっちも好調ってところね」

 

「そんなポイント制いらねー!」

 

乱馬は机をバンバン叩きながら叫ぶ。

 

「俺の人生を勝手に採点すんな!」

 

教室のあちこちから笑いが漏れた。

 

ホームルームのチャイムが鳴る頃には、乱馬の「セカンドパートナー」という残念な肩書きは、すでにクラスの半分に共有されていた。

 

風林館高校一年F組。今日も平和で、ややこしい。

 

そして、その少し先の廊下の曲がり角では、七瀬はるかが、一人でノートを開きながら、真剣な顔で何かを書き込んでいた。

 

ページの上には、大きな文字でこう書かれている。

 

『婿取り大作戦 第一草案』

 

下には箇条書きが並んでいた。

 

「1 らんま君との信頼関係の強化」

「2 天道家との事前根回し」

「3 水関係の事故防止マニュアル作成」

「4 体質カミングアウトのタイミング調整」

「5 跡継ぎ問題と道場経営プラン」

「6 らんま君の気持ちを最優先すること(重要)」

 

最後の一行に、はるかは赤ペンで二重丸をつける。

 

「よし。ここだけは絶対にぶれちゃいけない」

 

自分に言い聞かせるように頷いた。

 

近くを通りかかった別クラスの生徒が、ちらっとノートを見て首を傾げる。

 

(……『婿取り』?)

 

声には出さない。そのまま静かにその場を離れた。人生には、触れない方がいい謎もある。

 

七瀬はるかの謀略は、静かに、しかし確実に進行し始めていた。




はい、読了お疲れ様でした!

七瀬はるかさん、勝手に婿取り草案作成。

しかも議題:

らんま君との信頼関係

天道家への根回し

水場NGマニュアル

跡継ぎ問題

らんま君の気持ちを最優先(ここだけまとも)

完全に結婚準備じゃん。
もう籍だけ入れてもらえ。

そして今回、ぜひ読者の皆様にお聞きしたい。

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