SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド-   作:空き缶号

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15.降って湧いたチャンス

 一切の休みも無しに地上探索など不可能。それは囚人ドリフターとて同じで、彼らにも一応の休養日は設けられていた。

 

 久しぶりにゆっくり起床したエミがガレージに入ったとき、最初に聞こえたのはジャラジャラという麻雀牌の音だった。

 

「あっ、ユナイター。おはようございます」

「おはよう、レビンちゃん」

 

 嬉しそうに駆け寄ってきたレビンが、朝食のパックを差し出す。

 

「もう皆さん済ませてしまいましたよ。私たちも食べましょう?」

「わざわざ待ってなくてもいいのに」

「食事は複数人で摂った方が、精神面の健康に良いんですよ。それとも、お休みの日くらい私の顔を見ないで過ごしたいですか?」

 

 受刑者の監視というメイガスたちの任務は、基本的に地上でのことだ。本来、休日でも起床時間は守れということになっているが、その程度はメイガスたちも大目に見ていた。

 

「いんや、ありがと。食べよ」

 

 パックを受け取り、2人で椅子に座って中身を口に搾り出す。食品プリンターで作られたペースト食を、エミは不味そうに飲み下した。

 

「……これはそれほど、味の悪いタイプではないと思いますが」

 

 彼女の表情を見て、レビンが疑問を呈する。

 

「ふん。アメイジア系ネストじゃガキの頃からこういうの食って、顎の発達不良は薬で防いでるんでしょ? アホらし」

「時代に即した効率的な食事の手段ですよ」

「効率ばっか追い求めることこそ、精神の健康に悪いと思うけどね」

 

 憎まれ口を叩きながら、他の面々の方を見やる。ジンやメイガスたちもシェーフォンにやり方を教わりながら、早速麻雀に熱中しているらしい。サイコロ3つ使っているあたり、エミの知ってるルールとは違うようだ。

 

「前に言いましたけど、夕食は私たちが鶏肉のフライを作ってあげますから。歯応えのある物を食べられますよ」

「ありがと。それはガチで楽しみ」

 

 全て食べ終わり、ガレージ隅の流し台で歯を磨く。それが済むと、レビンは再び口を開いた。

 

「……ユナイターがアメイジアに良い印象が無いのは分かりますが、青い雨から生き延びようとした人類の努力の結晶です」

「あー、ハイハイ」

 

 聞き流そうとするエミだが、レビンは熱意を持って続ける。

 

「今残ってるアメイジア系ネストだって、悪い所じゃないんですよ? 衛生的で治安も良く、娯楽も充実しています」

「アルコール運んだことあるから知ってるけどさ。あーしが住むような所じゃないべ」

「そんなこと無いですよ! ユナイターならアトランティスに拘らなくても、何処でも上手くやっていけます!」

「いやそのアメイジア系ネストってさぁ。要はアメイジア様のおかげで繁栄してきた癖に、崩壊事故で避難してきたアメイジアの市民を地上へ追い出したネストでしょ? 上手くやれるわけねーべ」

 

 アトランティスのストリートキッドは仁義を重んじる。特にエミは絶対に仲間を見捨てないし、裏切り者は決して許さない。

 レビンもすでにそれを分かっていた。

 

「……確かにそうです。そうせざるを得ない理由はありましたけど、ユナイターは納得できないでしょう」

「分かってるじゃん」

「でも聞いてください。昨日、ヒストリー・フォーラムがユナイターに興味を持っていると連絡があったんです。『新月の涙』以前の伝統音楽を知る貴重な人材として、是非お会いしたいとのことです」

「ハァ?」

 

 レビンが上に報告したことが、歴史研究家の目に留まったのだろう。しかしエミは鼻で笑った。

 

「アメイジアには元々、色々な民族の人が集まってたじゃん。なのに全体主義ばっかり押し付けるから、民謡を知ってる人がいなくなったんでしょ。今更何言ってんだか」

「そうしたアメイジアの負の面への、反省もあってのことですよ」

「ならこう伝えて。アトランティスへ行けばもっと色々見つかるから、マジで興味あるなら自分でそっち行けってさ」

「もう、ユナイター! 彼らはあなたの価値を理解しているんですよ? 高待遇での仕事に就けるチャンスですし……」

「音楽の価値は理解してないでしょ、金持ちが道楽でやってる歴史調査なんて。どうせ『ウホッ! 何百年も前の曲だって! すっげぇ!』とか言って有り難がるだけで、曲の良さなんて分からないっしょ」

「それは会ってみないと分からないじゃないですか。それに歴史と文化の保全は、決して道楽などでは……」

「まったく、ああ言えばこう言う~」

「それはユナイターでしょ!」

 

 このような2人のやり取りを、麻雀卓に着くヒルデとタンヤンは複雑そうな面持ちで、チラチラと眺めていた。

 ヒルデはジンの違法宗教信仰などに関して一時保留しており、タンヤンに至ってはバグさえ自覚して受け入れ、任務から逸脱するレベルでシェーフォンに入れ込んでいる。つまり本来の役割に則り、現状最も熱心に契約者を更生させようとしているのはレビンなのだ。

 

「あのねぇ、レビンちゃんはAIだけど、音楽の持つ力は分かるでしょ?」

「もちろん分かります! 音楽が人の心理に与える影響は軽視できません」

「そう。あーしはそういう力を持った『生きた音楽』が好きなの。アトランティスで色々な魂が宿った曲を、ただのデータとしてショーケースで展示されるのはまっぴらゴメンだわ。そうなった時点であーしの音楽は死ぬの。だからお断り!」

 

 きっぱり言い切るエミ。するとレビンはムスッとした様子でそっぽを向き、口を尖らせた。

 

「私ハ所詮AIナノデ、ソウシタ抽象的ナ表現ハ、理解致シカネマス」

 

 わざとらしいロボ声でふてくされる彼女に、エミは思わず吹き出した。

 

「……やっぱ協会はクソだけど、あんたは好きだよ。レビンちゃん」

「ふーんだ」

「おーい、エミちゃんとレビンちゃんも麻雀やらない?」

「結構奥深くて面白いよコレ」

 

 シェーフォンとタンヤンが2人を誘う。彼女たちの口論を一休みさせようと思ったのだろう。

 

 エミはレビンの膨れっ面をちらりと見て逡巡した。ボードゲームの類は好きだが、今日はそれ以上にやりたいことがある。

 

「……んじゃその前に、新曲披露していいッスか?」

「あー、昨日届いた楽譜か」

「いいんじゃねーか。こっちも一休みで」

「そうだな。サイカ殿の音楽は興味深い」

「それでは」

 

 手製のベンチに座り、ハーモニカを取り出すエミ。

 

「レビンちゃんも聴いてよ。感想聞かせて」

「……それは喜んで聴きますけど、ユナイター」

 

 隣に腰掛け、赤い瞳でじっとエミの顔を見てくる。まだお説教したいのか、と思ったが、実際には違った。

 

「それを夜遅くまで練習していたから、寝坊したんですか?」

「あー、うん。まあ休みだし」

「駄目ですよ、体調管理は大事です」

「それはフツーにごめん」

 

 実は夜更かしの理由は他にもあったのだが、それは言わない。

 そして必死で習得した新曲が、レビンのためであることも、まだ言わない。

 

「それでは」

 

 ハーモニカを口に当て、奏で始めたのは短調気味の暗い曲だった。前に陽気な曲や長閑な曲を吹いていたため、一同は少し意外に思っただろう。

 

 横目でチラリとレビンを見ると、赤い瞳はじっとこちらを見つめていた。瞬きもせずに。

 

 いつもと違う反応だ……そう思って少しテンポを上げる。その時だった。

 

 

 

 ーUna mattina mi son svegliata(ある朝 僕は目覚めて)

 

 

 ふいに、間近から聞こえた小さな歌声。

 

 

 ーO bella, ciao! bella, ciao! bella, ciao, ciao, ciao!(さらば さらば 愛しき人)

 

 ーUna mattina mi son svegliata(ある朝 僕は目覚めて)

 

 ー E ho trovato l'invasor(侵略者を見たり)

 

 

 最早聞き慣れた、レビンの声。透き通った歌声は小さく、しかし確かにエミの記憶にあるイタリア語の歌詞だった。

 

 あの日、レビンがエラーを起こした際に口走った歌でもある。

 

 

 ーO partigiano, portami via(パルチザンよ 連れて行け)

 

 ーO bella, ciao! bella, ciao! bella, ciao, ciao, ciao! (さらば さらば 愛しき人)

 

 ーO partigiano, portami via(パルチザンよ 連れて行け)

 

 ーChé mi sento di morir(死の近いこの僕を)

 

 

 その譫言のようなか細い声は、次第にしっかりとした歌声となっていく。シェーフォンとジンは怪訝そうに、タンヤンとヒルデは自分の契約者の顔と交互に、レビンの様子を見守っていた。

 

 

 ーE se io muoio da partigiano(パルチザンに 殉じたなら)

 

 ーO bella, ciao! bella, ciao! bella, ciao, ciao, ciao!(さらば さらば 愛しき人)

 

 ーE se io muoio da partigiano(パルチザンに 殉じたなら)

 

 ーTu mi devi seppellir(僕を葬り給え)

 

 

 その時、レビンは俯いて頭を抱えた。歌声が途切れ、エミもハーモニカを口から離した。

 

「レビンちゃん……?」

「これは……私は何処でこの歌を……ユナイター? 違う……私のユナイターは……」

 

 目を見開いて譫言を発するレビンに、他のメイガス2名が反応した。

 

「エラーだ! 離れろ!」

「サイカさん、離れて再起動コードを読んで!」

 

 しかし、エミはそのまま、レビンの肩に手を置いた。

 

「レビンちゃん、落ち着いて。何か思い出したの?」

「違う、違う、私はレビン、レビン、これは私じゃない、私のユナイターは、ユナ、ユナ……」

「おい、ヤバそうだぞ」

「エミちゃん、再起動コードを!」

 

 シェーフォンらも危機感を覚えた。ジンが立ち上がり、エミをレビンから引き離そうとする。

 その時、レビンが突如席を立ち、駆け出した。

 

「出て行け! 私の中から出て行けェェェーッ!」

 

 普段の彼女からは想像できない金切り声を上げ、ガレージから飛び出して行くレビン。

 

 エミは慌てて後を追う。暴走状態かもしれないという危機感から、他の面々も続く。

 しかしエミが半自動ドアを開けた途端、反対側からやってきた人物と鉢合わせした。

 

 ジュリーだ。

 

「……何があったの?」

 

 いつもより強い口調の尋ねる彼女の腕の中に、目を閉じてぐったりとしているレビンがいた。全く動かない。

 

「レビンちゃんは……」

「エラーで錯乱しているようだったから、ハッキングして眠らせたの。それで、状況は?」

「……エミちゃんがハーモニカ吹いただけだ」

 

 ぶっきら棒に答えたのはジンだった。ジュリーがメイガス陣へ視線を送り、ヒルデが「事実その通りだ」と証言する。

 

 ガレージ内を一瞥し、不審な点が無いかを確認すると、ジュリーはエミに目を向けた。

 

「レビンは調整室へ連れて行くわ。サイカさん、貴女だけ一緒に来て」

「……ウス」

 

 

 エミは後悔という言葉の似合わない人間だ。しかし事によると、今回ばかりは後悔することになるかもしれない……

 

 そう覚悟しつつ、ジュリーの後に従った。

 

 

 

 そしてレビンは調整ポッドへ収められ、静かに寝息を立て始めた。この『寝息』も人間にとことん近づけるための機能だ。

 ジュリーがパネルを操作して、電子頭脳を検査し始めた。

 

「……治りそうッスか?」

「大丈夫。一時的なものよ」

 

 詳しく説明せず、ジュリーは「これで良し」と言って操作を終えた。

 

「デバッグ完了まで時間はかかるわ。サイカさん、後で詳しくお話を聞かせてね」

「なら、今でも……」

「待って。その前に、私のユナイターから貴方に用があるの」

「……あのオッサンが?」

 

 訝しむエミに、ジュリーは微笑みを向ける。

 

「安心して、殺されたりはしないから。むしろ、貴女にとっては良い話だと思う」

 

 そう言うなり、彼女はエミの耳元に口を寄せた。髪から良い匂いがする。

 

 

「レビンを連れて、アトランティスへ帰りたいんじゃない?」

 

 

 エミの心臓が跳ねた。

 

「ふふっ。当たったかしら」

 

 悪戯っぽく微笑み、エミを執務室へと連れて行く。

 

 昨晩の会話を聞かれたのだろうかと思ったエミだが、実際には違う。ジュリーはレビンたちから受刑者の様子について逐次報告を受けており、蓄積されたエミの言動等のデータから行動原理を割り出し、望みを予測しただけのことだ。

 

「ユナイター。サイカさんを連れて来たわ」

 

 ジュリーが執務室のドアをノックすると、中から「入りたまえ」と返答があった。以前のシェーフォンの見立て通り、メイガスには優しいようだ。

 

「不機嫌そうだな、エミ・サイカ」

 

 エミの顔を見るなり、開口一番にアルマンは言った。

 

「気持ちは分かる。私もオフの日に上司の顔を見るのは大嫌いだ」

「そりゃ気が合いそうなこって。ま、ようやく直接対面できたッスね」

 

 いつもモニターで見ていたアルマン・デュカスと、当たり前ではあるが外見に違いは無い。胸に着けた勲章の類にも、エミは敬意を示さない。精々パクれば高く売れるかな、程度だ。

 しかし直感的に分かる隙の無さは、この男がただの中年管理職ではないことを示していた。

 

「座れ」

「立ったままで結構ッス」

「それがアトランティスの礼儀か?」

「そうッスよ。同胞以外への礼儀ッス」

「ふん、まあいい」

 

 アルマンが端末を操作すると、デスク上にホログラムが表示された。エミが近づいて確認すると、いくつかの武器とガジェット類……見覚えのある物だった。

 

「これらを手に入れたい。貴様の協力が必要だ」

「……協会がアトランティスの武器を?」

「私が貴様らの装備として個人的に買う物だ。外部には使わせん」

「オッサンが独断で?」

「だから監督官と呼ばんか。代金も私のポケットマネーから出す」

「つまり密輸入ッスか? もっと偉い人たちに知られたらヤバイやつなんじゃ?」

「そうだな」

 

 アルマンはあっさりと答えた。

 

「もし貴様が協会への忠誠心に目覚めたなら、メイガスを通じて上へ密告する手もあるぞ。私は電気椅子、ジュリーは解体工場へ送られ、貴様は高待遇で協会のドリフターになれるだろう。勲章ももらえるかもしれんな」

「……アホくさ」

 

 吐き捨てながらも、エミはこのいけ好かないオヤジが、自分のことをある程度理解していると察した。協会に怨みがあることくらいレビンが報告していただろうし、例え利益になっても協会に尻尾は振らない奴だと判断したのだろう。

 

「ま、お目が高いとは思うッスけど、そうまでしてコレが欲しい理由を聞かせてくれませんかね?」

「概略しか話せんが。要は近々、貴様らに大仕事をやってもらう。私も出撃するつもりだ」

「オッサンが?」

「監督官だ。それだけ重要な任務ということだ。今話せるのはそこまでだが……」

 

 ホログラムのリストを指差すアルマン。

 

「これらの品があれば、任務の成功率も、私や貴様を含めた小隊の生還率も大きく上がる」

「銃を向ける相手は? 同胞の不利益になるならお断りッスよ」

「……サンジョベーゼ・ファミリーの拠点を襲撃する」

 

 協会及びアメイジア暫定政府と敵対する、ダークマーケットを仕切るマフィア集団。協会に嫌気が差したドリフターを支援したり、協会が見放した貧困ネストからは頼られる存在だ。

 

 とはいえ、所詮マフィアはマフィア。独自の闇市場を形成するアトランティスにも度々侵入して妨害工作を仕掛けてくるため、エミもやり合ったことがある。本当に奴らがターゲットなら、エミとしては良心も痛まない。

 

「……見返りは?」

「あるぞ、貴様の戦死報告書だ。任務に成功した後は、死んだことにして貴様をここから逃がしてやる」

「なるほど……」

 

 そういうことか、とジュリーに視線を送ると、微笑みが返ってきた。アルマンは続ける。

 

「いくらかは金も払うし、望むならレビンを『持ち逃げ』させてやる。事前に彼女の脱走防止プログラムを削除し、後は貴様と一緒に死んだことにすれば、彼女は晴れて貴様のメイガスというわけだ」

「……へえ。オッサンにとって、メイガスは『壊れる』じゃなくて『死ぬ』もんなんスね」

「監督官だと言っておろうが。……やるか、やらんのか?」

「ちなみに、仮にアトランティスの武器が手に入らなくても、任務は決行されるわ」

 

 ジュリーが補足した。

 アトランティス製兵器の性能はエミも知っている。つまり協力すれば、自分が生き残れる確率が上がる、というメリットもあるのだ。それにリストに乗っている品はどれも地上ネスト等に売っている物で、アトランティスから流出したら不味いというわけでもない。

 

 そしてアルマンはクソオヤジだとは思うが、比較的信用できる部類だ。ヒルデの前契約者が見つかった際の態度などから、エミは直感的にそう判断した。修羅場を潜るには慎重さも必要だが、即断即決は最良でなくても良である。

 

「レビンちゃん連れて行く以外に、もう1つお願いあるんスけど」

 

 ならば、見返りは少しでも多くするに限る。

 

「私の権限で約束できる範囲なら聞いてやる。何だ?」

「ケン・サイカ。あーしの兄ッス」

「ああ、初陣で他の協会員に騙し討ちされて機体(デイジーオーガ)を奪われ、死んだそうだな」

 

 受刑者たちの言動はメイガスを通じ、ジュリーとアルマンに報告されている。エミもそれを分かっているので、レビンに対してもアトランティスの内情までは話さない。

 

「気の毒なことだ。それで?」

「兄さんを殺した奴を見つけてください」

「やってもいいが、見つけてどうする?」

「……殺す以外にどうすると思うんスか?」

「恨み言を言いたいだけの者もいるだろう。貴様の罪状は無免と密輸だけだが、殺人を犯したことはあるのか?」

「黙秘しまーす」

「ふん。まあ、会うなら殺してもらった方が、後々余計な憂いを残さずに済む。良いだろう」

 

 アルマンはジュリーへ目をやり、「調べておいてくれ」と言った。「やれ」ではなく「やってくれ」と言う辺り、やはりメイガス、少なくともジュリーには優しいようだ。

 

「では、これで取引成立と見ていいな?」

「はい。通信機使わせてもらえるなら、すぐにでもアトランティスのダチに連絡しますよ」

「ではそうしろ。なお、この作戦は極秘であり、ここで話したことは全て他言無用だ。分かったな?」

「了解ッス」

「よし。ジュリー」

「ええ」

 

 心得顔に頷き、エミを部屋から連れ出そうとするジュリー。

 

 ジュリーの背が高くエミが小柄なため、丁度エミの目線はある部分に近くなる。すると、初陣の後に飲み込んだ疑問が蘇ってきた。

 

「……オッサン。もう1つ質問、いいッスか?」

「監督官だ! さっさと言え!」

「ジュリーさんが巨乳なのって、オッサンの趣味なんスか?」

 

 その『巨乳』を指差しながらの質問。アルマンは唖然とした後に頭を抱え、当のジュリーは思わず吹き出した。

 

「貴様なぁ……!」

「ふふっ。正規協会員でも、ドリフターが自由に設定できるのはメイガスの顔くらい。体型はあまり変えられないわね。ユナイターも本当は、私のバストより2センチ小さいくらいが理想だったのよね?」

「な、何故それを……!?」

「へ~。ウェストとヒップは?」

「それは理想通りみたいよ」

「出て行け! いいから出て行け!」

 

 エミ1人だったら拳銃で撃たれたのではないかという剣幕で、2人は執務室から追い出された。

 

 

 こうしてアルマンをおちょくって多少気が晴れたエミは、ジュリーと共にメイガスの調整室へ戻った。秘密裏に使える通信装置もここにあるからだ。

 

 故郷へ連絡する前に、エミは調整ポッド内で眠るレビンをチラリと見た。静かに眠っているが、パネルの表示によるとデバッグはまだ終わっていないようだ。

 

「ああ、通信中にデバッグが完了しても、この子が勝手に目を覚まさないようにしてあるから、安心して」

 

 つまり監視役でもあるレビンたちにも、この件は極秘ということか……エミはそう推察した。協会が何をしようとしているのか、アルマンが自腹を切ってまで装備を整えようとするのは何故か。

 

 不可解な点は多いが、レビンを連れて脱走できるチャンスなど、もう来るか分からない。

 

「……ところで、色々調べていて知ったのだけど」

 

 通信機の設定を始めたとき、ジュリーが再び口を開いた。

 

「アトランティス・ネストの実態は、アメイジア圏で流布されているイメージとかなり違うようね?」

「あー、まあ。あーしが小さい頃は実際に酷かったッスよ。アメイジア崩壊後からッスね、ちょっとずつ良くなったのは」

 

 愛想良く答えつつも、話して構わないラインをちゃんと考えている。兄が協会員になったように、故郷は協会と必ずしも敵対しているわけではないが、少なくとも味方ではないのだ。

 ジュリーも、そしてレビンも協会の手先には違いない。今はまだ。

 

「噂によると、ネスト内のギャングの抗争をハーモニカ1つで終わらせた、伝説の少女がいるとか」

「……あーしのことだけど、流石に誇張し過ぎッスよ。ただ話し合いを円滑に終わらせる手伝いをした、ってだけッス」

「なるほどね。そして団結したギャングの総攻撃で、サンジョベーゼに乗っ取られた警察署が壊滅したっていうのは本当?」

「本当ッス。まあ警察は派遣元のアメイジアが崩壊して帰るところ無くなって、そのうち暫定政府にも捨てられたから、サンジョベーゼに擦り寄るしかなかったんでしょうけど」

 

 ふと、エミは作業の手を止めた。

 

「ジュリーさん、そんなことまで調べるとは凄いッスね?」

「……ええ。私、サイバー戦型メイガスなの」

「サイバー戦型……!?」

 

 ジュリーには背を向けていたが、エミの表情が少し変わった。

 ドリフターが使うゼロ型メイガスには、ボディタイプとは別にメイガスシステムが5種類ある。クレイドル整備型、対エンダーズ型、対クレイドル型、天候対応型、防衛型。しかしそれらに分類されない個体も、極少数ながら存在していた。

 

「アメイジア崩壊前、地上に新たなネットを構築する計画があったの。エンダーズの出現情報や地上ネストの動き、気象情報などが手に取るように分かるようになって、将来的には遠方の国家との連絡と交流も視野に入れて……実現していれば、今の世界は全く違っていたでしょうね」

「……アメイジア崩壊でおじゃんになった?」

「そういうこと」

 

 少し切なげに頷くジュリー。

 

「極少数生産されたサイバー戦型メイガスの役目は、その計画の実現と、出来上がったネットの防衛。だから計画が潰れて以来、1体も作られていないわ」

「……地上で戦ったり結晶採ったりする上で、強みが無いからッスか」

「流石ね。後はコストが高いのも理由。協会が把握している限り、稼働しているのはもう私だけ。貴女からすれば、もうオバサンね」

「アハハ。いや、あんたら(メイガス)年取らないっしょ」

 

 稼働期間の長いメイガスは、たまにこうした自虐ネタを言う。そうしておどけて見せるジュリーが、エミにはどこか寂しげに見えた。以前にレビンたちについて話した時から、少なくとも彼女には他のメイガスに対して同胞愛があるように思える。

 自分の同族がいないのも、本当は辛いのではないか。

 

「レビンから貴女のハーモニカ……アトランティスに伝わる古の音楽の話を聞いたから、調べてみたの。興味深い場所ね」

「オッサンが定年退職でもしたら、一緒に遊びに来てくださいよ。あーしがガイドしますから」

「ふふ、楽しみね。……邪魔してごめんなさい、アトランティスと通信はできそう?」

「設定に後少し、ッスね」

 

 微笑むジュリーに見守られ……正確には監視されつつ、エミは作業を続けた。

 

 

 今思いついた企みを悟られないよう、注意を払いながら。

 





明けましておめでとうございます。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は一週間後くらいになるかもしれません。
もうすぐ盛り上がるところだから早く書き進めたいのですが……。
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