SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド-   作:空き缶号

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16.動き出す歯車

 

 奇妙なコンテナの回収から休養日を挟んで、社会不適合者たちはまたも不可解な任務へ駆り出された。

 

 盗賊団のクレイドルの鹵獲・回収。これは正規協会員でもトムガーディアンを好む者や、単に金策がしたくて行う者はいる。しかし囚人ドリフターがわざわざ任務でやらされるのは不自然だ。

 

「これを持ち帰れば3機分揃う。ノルマ達成だな」

「ああ」

 

 周囲を警戒しつつ、ヒルデとジンが言葉を交わす。

 

 近くでは2番機(エミ)が大破した敵機から手脚を外し、シェーフォンの1番機に積み込んでいた。クレイドルはパーツがモジュール化されているため、こういう時は便利だ。

 

「パーツごとに回収してるから2日もかかったんだ。俺がハッチこじ開けて乗っ取ればあっという間に……」

「そのすぐにクレイドルから降りたがるのを止してくれ。地上ではリミッターが解除されるとはいえ、限定的なものなのだろう?」

「ああ、確かに内蔵兵装やスラスターにはロックがかかったままだからな」

 

 ジンの体は戦闘兵器だ。あくまでも作業用であるクレイドルと違い、敵の排除を最重視している。本来ならただ馬鹿力なだけの体ではない。

 

「だが気に入らねぇもんは気に入らねぇ、こんなメックで撃ち合いなんざ。お前がウルセェことには慣れたがな」

「それは嬉しいな」

 

 やがて荷造りが済み、一向は帰還エレベーターへ歩を進める。

 ヒルデは周囲に耳を澄まし、目を見張りつつ、危険が少ないと判断して再び会話を切り出した。

 

「ユナイター。実は協会から君に提案があったんだ。と言っても、君の嫌がりそうな内容だが」

「大体想像はつく。お前の立場上伝えなきゃならねーんだろ。怒らないから言え」

「……君のそういう所は好きだぞ」

 

 ヒルデは白い歯を見せて笑った。分かり合えなくても互いに敬意は払える……その言葉通り、この2人も遺体回収の件以来円滑にコミュニケーションを取れていた。

 

「要は協会員になるなら、ヴァイク教の信仰は特例として不問とする、という話だ」

「案の定か。俺の体は旧アメイジアの秘匿テクノロジーの塊、それが欲しくて法律を超えようってのか」

「まあ、そういうことだな。だから君を更生プログラムに参加させ、改宗させるのが困難と見て妥協してきたのだろう」

「お断りだ」

 

 極めてシンプルな一言で返す。ヒルデもどうせ予想した答えだろう。

 しかし今回、彼女は食い下がった。

 

「君を怒らせることを承知で言うが……この提案を受けるべきだと思う」

 

 ジンは逆上しなかった。ただクレイドルを前進させるだけだ。そうしているうちに帰還エレベーターが見えてきた。

 

「今、自分で言っただろう。君の体はロストテクノロジーの塊だ。つまり自力で維持するには限度がある」

「……ああ」

「メンテナンスに立ち会ったから分かるが……その体で1人で生きて戦うのは、もう限界ではないか?」

 

 ジンは否定しなかった。ただクレイドルを歩かせながら、首に提げた顎の骨をちらりと見るだけだ。

 

 言葉を交わしながらも、2人は周囲への警戒を怠っていない。AIたるメイガス、脳が半分電脳化されたジンはマルチタスクも容易くこなせる。

 ヒルデが空中を散歩するゲイザーを発見すると、ジンが中心部分へ猛射を浴びせ、手早く撃ち落とした。

 

「撃破確認。……なあ、君が正規のドリフターになるなら、私も着いて行く。監視役ではなく君のメイガスとして。君の尊厳と権利を守るために全力を尽くす」

「……俺が依頼を受けて殺した人間……」

「ん?」

「7割がドリフターだった」

 

 銃のエネルギーパックを交換しながら、淡々と話し出した。

 

「賞金首もいれば協会員もいた。みんな人殺しだ。怨まれるに足る連中ばかりだったが……もう1つ共通点があった」

「それは?」

「みんな自分のメイガスにだけは優しかった」

 

 ヒルデは沈黙した。正体はエレベーターへ到着し、1番機が帰還申請を送る。

 

「メイガス共は必死で主人を守ろうとしたが……だったら主人のやることを諌めてりゃ、そもそも怨みを買うことも、俺が差し向けられることも無かったかもしれねぇ」

「……うむ」

 

 メイガス三原則第2条〈隣人律〉。メイガスは、人類の良き隣人として契約者に寄り添う。

 しかしアトランティスの預言者は言っていたという。『本当に良き隣人でいる気があるなら、隣人の過ちを何故正そうとしない?』と。ヒルデの電子頭脳をその言葉が過ぎった。結局のところ契約者が最優先であり、その成長のために必要な行為だと判断すれば悪事に加担するメイガスも多い。旧アメイジア時代はゼロ型メイガスをアメイジアが独占・管理していたため、こうした問題が表面化することは無かったのだが。

 

「もちろんドリフターが一番バカだ。どんな外道に落ちようと、メイガスだけは分かってくれると調子に乗るバカ。逆に、善人で在ろうとしたバカは……」

 

 ジンはチラリと、モニター越しに見える僚機へ目をやった。『追命鬼 呉雪風』の名を書いた、黒いトムガーディアンに。

 

「あいつみたいに、捨て駒にされる。だから俺はドリフターに敬意を持って無ぇ」

「だからドリフターにはなりたくないと?」

「信仰を認められたところで、敬意を払えない社会で生きられるか。エミちゃんのアメイジア嫌いも、シェーフォンが復職したくないのも、要はそういうことだろ。俺はそれに加えてモルモット扱い確定じゃねーか」

 

 丁度その時、エレベーターがせり上がってきた。ハッチが開くと同時に、一行は周囲に銃口を向けて警戒しつつ乗り込んだ。

 ジャックボックスの足を進ませるジンの横顔を、ホログラムのヒルデがじっと見つめる。顎の無い、金属の脛骨が剥き出しになった顔。その瞳はメイガスと同じ物だ。彼は人間扱いされることを嫌うが、それでも『生きている』ことに変わりない。

 

 今はまだ。

 

「……今のままでは、遠からず死ぬぞ」

「ヒルデ」

 

 名前を呼ぶその声は、心なしか普段のぶっきらぼうな物言いより優しく聞こえた。そもそも普段、ジンから名を呼ばれることは少ない。名付けたのは彼だが、大抵は「おい」「お前」で済んでおり、ヒルデ自身も特に不満は無かったのだ。

 

「もう契約者を死なせたくないんだろ。そのくらいは分かる」

「……そうだ」

「俺は人間辞める前はアメイジア市民だった。そしてガキの頃から死ぬのが怖くなかったし、長生きしようとする連中が理解できなかった」

 

 ジンは顎の骨を握った。

 

「アメイジアにいたのは、餌が出るのを口開けて待ってるだけのバカ犬どもと、そいつらを賞賛して持て囃すメイガス。下級市民居住区で精神安定剤に縋って暮らすゾンビたち。どれもただ『死んでないだけ』だ。生きているのとは違う」

 

 ブザーが鳴り響き、エレベーターのハッチが閉まった。下降を始めたエレベーターの中で肩の力を抜き、ジンはヒルデへ目を向ける。

 

「大事なのはどう生きて、どう死ぬか。自分で決めさせてくれ」

 

 レビンたちと比べると大人びた顔立ちのヒルデだが、拳を握りしめて震える今は幼い少女のように見えた。いっそのこと彼が、メイガスを道具として扱う男であれば楽だったかもしれない。

 

「……君を理解できない」

 

 しばらく沈黙が流れた。が、ふと異変に気づく。

 隣に立っていたエミのジャックボックスが、痙攣するかのように揺れたのだ。続いて、傍に浮かんでいたレビンのホログラムも消える。

 

「またか」

「……今日3度目だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エミは自機の操縦席で、じっとレビンの再起動を見守っていた。やがて『Magus error』の表示が消え、ホログラムのレビンが再び姿を表す。

 目を覚ましたメイガスはハッとした表情をして、ペコリと頭を下げた。

 

「ごめんなさい、ユナイター。また……!」

 

 辛そうな彼女を見て、エミはそっと頭を撫でてやった。もっともホログラム相手では、撫でる振りであるが。

 

「悪いのはあーしだよ」

 

 やがてブザーが鳴り響いてゲートが閉まり、エレベーターは降下を始めた。マイナスGが体にかかる。

 

 ……古いイタリア民謡『ベラ・チャオ』。レビンの記憶を戻すきっかけになるのではと吹いた曲だが、結局レビンの危惧した通りエラーが悪化してしまった。

 あの後、調整を受けて一旦は復帰し、夕食は約束通り鶏肉のフライを作ってくれた。それから2日間は特に問題無かったが、今日は度々エラーを起こしている。急に自分のユナイターが誰か分からなくなり、再起動が必要になるのだ。

 

 幸い、あまり切羽詰まった状況で起きてはいないが。

 

「帰ったらジュリーさんに相談しよ?」

「そう、ですね……」

「きっとまた一時的なものだろうし。昨日は大丈夫だったんだしさ」

 

 休養日の出来事について、エミはジュリーから聴取を受けたが、やろうとしたこと自体は咎められなかった。ただ、今まで吹いて大丈夫だった曲以外は演奏しないよう申し渡された。タンヤンもまたエミのハーモニカで記憶を取り戻したが、そればかりかシェーフォンに脱走を煽るような発言をしたことも、ジュリーは知っていた。

 

 彼女らのバグについては自分に任せるように。ジュリーは厳重にエミへ言い聞かせていた。

 

「だからさ、あんまり自分を責めないでよ」

「……ユナイターも、ですよ」

 

 微笑みかけるレビンは、エミの心中をある程度分かっているようだった。

 

「この前ケンカしちゃいましたけど、ユナイターも間違ってはいないと思っています。メイガス三原則で、私たちは成長することを義務付けられています」

 

 メイガス三原則第3条〈成長律〉。メイガスは〈契約律〉〈隣人律〉に反さないかぎり、契約者と自らを成長させなければならない。ただし成長の定義は契約者との関係性の中で常に更新する。

 これこそ、アメイジア製のメイガスが他のアンドロイドと違う部分だ。人間と共に歩み、進歩を促す……それがメイガスの役目なのである。

 

 しかしエミとしては、これを聞くとイラッとくる。

 

「過去を忘れてしまうのは成長律に背く、そう解釈すべきかもしれません。でもユナイターをお守りするためには……」

「あぁぁー! ムカつく!」

 

 急に吠えた契約者に、レビンはビクッと身をすくめた。

 

「あ、あの。私、何か気に障るようなことを……?」

「いやレビンちゃんは悪くないのよ! あーしが気に入らないのは、ほら! 何なんだよ、そのメイガス三原則ってのは!」

 

 エミは心根の優しい人物であるが、善人か悪人かで言えば、現状は後者である……レビンはそう認識していた。しかしこのように感情的に喚き散らすタイプではない。むしろ軽薄に見えて思慮深く人の話を聞き、状況や他者の気持ちを考えられる少女だ。

 

「メイガス三原則は……私たちメイガスの行動規範で、原則的にこれを遵守するように……」

「その内容が何なんだ、って話だよっ!」

 

 地上でのストレスに耐えるため、ドリフターには精神安定剤が支給されている。それは囚人ドリフターとて例外では無いのだが、エミたちは一切服用していない。そのせいかともレビンは思ったが、今までPTSDなどの兆候は見られなかった。

 

「契約律は分かるよ、『メイガスは1人の人間と契約を結んで、メイガスから契約破棄はできない』ってのは! けど他の2つは何!? フワフワし過ぎじゃん!! 人類の良き隣人ってつまりどんな隣人だよ!? 優先させなきゃいけないのは契約者と人類全体、どっち!? 成長ってつまり何をさせたいんだよ!?」

「え、ええと。ですから、契約者との関係性の中で常に更新……」

「んな具体性の無いフワッとした物を『律』(ルール)とか言うのがおかしいっての! つーか“人類の”良き隣人って言うならさぁ、あーしの兄さんを殺した奴のメイガスはその時何をしてたんだよ!? 何で止めなかったんだよ!?」

「……それは」

「人類が争ってる以上はメイガスも殺しに加担する羽目になるから、いつまで経っても良き隣人になんてなれねーじゃん! 考えたヤツ頭悪いだろぉぉぉ!」

 

 クレイドルの操縦席に叫びが響いた。否、響いたのは自分の機体の中だけではない。

 

《エミちゃんエミちゃんエミちゃん》

 

 シェーフォンの半笑いの声が聞こえ、ハッと我に返る。今は3機揃ってエレベーターに乗っており、すでに電波がブルーシストの影響を受けない深度。無線は通じているのだ。

 

「あはは……」

「はは」

 

 レビンと顔を見合わせ、乾いた笑い声を上げる。

 

「顔、真っ赤になってますよ」

「言うなし」

「すみません」

「まあ、とにかくね」

 

 一先ず呼吸を整える。話を聞いていた面々はその肺活量に感心したかもしれない。

 

「……あーしは成長とかメイガスの役目とか、どーでも良くてさ。あーしがあんたに忘れられたら嫌だし、あんたの……前の相棒が不憫だなって」

 

 両手を後頭部で組み、投げ槍な口調で心中を吐露する。ヤケクソになったのか、今更通信を切る気は無いようだ。

 

「……お言葉ですが、ユナイター。私の以前の契約者が何者であっても、貴女は会ったことも無いはずです。すでに死亡していることに変わりは無いですし、貴女が気にする……」

「まだギリギリ死んでないよ。いなくなっただけ」

 

 言葉を遮って、エミは相棒の目を真っ直ぐに見た。

 

「いなくなった、だけ……?」

「人間もメイガスも動物も、忘れられるまでは死なない。あーしの兄さんも、犬のレビンもまだ死んでない。あーしにとってはそうなの」

 

 

 エレベーターは地底に到達した。ゲートが開くと同時に、エミは再びクレイドルの操縦装置へ手を置いた。1番機、2番機に続いて降りて、自動運転のトランスポーターへジャックボックスを乗せる。もう飽きるほど繰り返した手順だ。

 

「まあどーせ、あーしのエゴだよ。レビンちゃんが嫌なら止める。故郷じゃあんまり意識してなかっただけで、本当は人間の幸せとAIの幸せは違うのかもしれないし」

「……私の幸せ、というか望みを言ったら、ユナイターは怒りそうですね」

「は? いや怒らんし。言ってみ」

 

 ホログラムの頬をつついてやると、レビンはクスッと笑った。

 

「絶対に嫌でしょうけど、やっぱり協会員になって欲しいな、って」

「え?」

「そうしたら刑期が終わった後もご一緒できますから。ユナイターが協会員になれば、今の協会の悪いところも直していけると思うんです。それを側でお手伝いできたら、なんて……」

「あーしと一緒にいたい、ってこと?」

「はい。小悪党の手下のメイガスは嫌ですけど、ユナイターは小悪党で終わる人じゃないですから」

 

 2人は数秒間沈黙し、トランスポーターの走行音だけが響く。

 エミは言わなかったが、実のところ彼女は大きな地雷を踏んでいた。死んだ兄も、同じことを言って協会員になったのだ。協会を内側から作り変えて、アトランティスのようなネストにも目を向けさせよう……と。

 

「あーしに『良い人』になって欲しい?」

「そうです」

「でもあんたはともかく、協会にとっての『良い人』って、要は『都合の良い人』ってコトだと思うんだよね。同じように協会を変えようとしたドリフターなんて大勢いたんじゃない?」

「それは……」

「あんたに説教される度にケンカしてるけど、あんたは『良い奴』だよ。義理堅くて誠実で、ダメなことはダメだって、真面目にぶつかってくれる奴っていう意味でね。いつまでも小悪党でいる気は確かに無いけど、『都合の良い人』になるくらいなら大悪党になってやる」

 

 そう啖呵を切ったかと思うと、エミは凶悪な笑みを相棒に向けた。

 

「だからいっそのこと、このメンツで協会の上層部ぶっ倒……ぶっ殺して乗っ取るくらい、やらない?」

「冗談か本気か分からないこと言わないでください! しかも何でわざわざ物騒な言い方に直したんですか!?」

「これが逆コンプラってヤツよ」

「意味不明です!」

 

《オレはやぶさかでもないけど、ジンさんは興味無いか?》

《いや、手伝えと言うなら何人でも消してやるぞ。代金は戦友割引してやる》

《おい、みんな冗談でも止せ。この会話のログも提出するのだぞ》

《そうだよ! この前ボク、ジュリーさんからこってり叱られたばかりだし!》

《タンヤン、それはキミが一緒に逃げようとか言った件でしょ》

 

 通信を切っていないため、他の面々も好き勝手なことを言い出した。ちなみにタンヤンが「こってり叱られた」だけで済んだ理由は、もしタンヤンを処分したらシェーフォンが何をするか分からないから、らしい。

 

 エミは笑いながら、ふと今後に思いを馳せた。この不可解な鹵獲任務も、恐らく近々言い渡される大仕事の前段階だと察しはつく。上手く行けば、自由を手にする日は近い。

 

「まあとにかく。あーしがドリフターに向いてるかは疑問なんだよね。ドリフターなんて協会員も賞金首も、所詮人間にモテなくてメイガス相手にデレデレしてる萌豚軍団でしょ」

「な、何てことを……!」

《俺もそう思う》

《エミちゃんやめて。その言葉はオレにも刺さる》

 

 一緒に過ごしている内に、シェーフォンとジン、そしてタンヤンとヒルデもまた、大事な仲間になっていた。故郷の仲間たちとそうしたように、喜びと苦しみを分かち合い、互いを守っている。

 彼らを置いて行くことに罪悪感を覚えるくらい。仲間を見捨てず、裏切らずを信条に今までやってきたのに。

 

《クソ親父が母上を捨てて、不倫相手が継母になってさァ! しかもそれをオレのためだとか言いやがって! 挙句その継母から肉体関係まで求められたんだよ、オレ! 人間の女がトラウマにもなるでしょぉぉ!》

《ユナイター落ち着いて! 今夜も一緒に寝てあげるから、ね?》

「ユナイター! ウーさんに謝りなさい!」

「あー、ハイ。すみません。そりゃ、ええ、そうもなるッス。つか、あーし親いないけど、そんな親ならいない方がマシッスわー」

《ちょっと待てタンヤン。今夜『も』と言ったか?》

《あ、ヤバ……!》

 

 だがそれでも、レビンを連れてアトランティスへ帰りたい。大人しく刑期を終えても、協会員にならないならレビンとの契約は強制的に破棄される。故郷では仲間が待っているし、レビンにあの街を見せてやりたいのだ。こんな生き方もあるのだと、言ってやりたい。

 それにあそこへ戻れば頼れる仲間がいる。シェーフォンとジンを彼らのメイガスごと救い出すことも、不可能ではないはずだ。

 

 自由を手にする日は近い。高ぶる気持ちを葛藤を抑えながら、エミは今日の任務を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、受刑者たちはアルマンからさらに奇妙な命令を下された。アメイジア崩壊前に掘られ、途中で放棄されたトンネルの調査だ。内部の安全と、再奥に放置された掘削機械がまだ使えるかを確認し、使えるならエネルギーを補充せよ、とのことだった。

 

 なんじゃそりゃ、などと言いながらシェーフォンとジンが出撃し、エミは独房で留守番となった。レビンのバグ悪化について、入念に検証が必要と判断されたからだ。

 

 

「……取れる手段は1つある。ただし、賭けになるか」

 

 調整ポッドの中で眠るレビンを見つめ、ジュリーは呟いた。手にしたタブレット端末で、彼女の経歴について調べていたのだ。初期化前の記録は削除されていたが、サイバー戦型メイガスの能力で暴いた記録もあった。

 

 ヒルデは前契約者の遺体を回収したことで記憶のフラッシュバックが起きなくなり、タンヤンは音楽がきっかけで記憶を取り戻したが、それと向き合って正気を保てるようになった。しかしレビンには、断片的に残った記憶を受け入れられない理由があったのだ。

 

 ジュリーは一先ず、他に済ませなくてはならない仕事へ移ることにした。

 

 行き先はアルマンの倉庫……昨日届いた、アトランティス製兵器が秘蔵されている場所だ。クレイドル用の武器は昨日の内に一通り検品を済ませた。帰還直後に手伝いをさせられたエミは不満を垂れていたが。

 

 しかしジュリーが自分で使う武器、つまりサイバー戦用のハッキングプログラムやコンピューターウィルス等のチェックがまだだ。

 

 

「さて、期待通りかしら……」

 

 これが広告通り使える代物なら、自分の能力で効果を何倍にも拡張できる。エンダーズ相手には無力だが、人間相手の戦争なら。

 

 期待しつつも慎重に、データチップの収められたケースを手に取った……その時だった。

 

 

『警告:不正なアクセスを検知』

 

 

 突如視界に表示された赤い一文。何者かによる、自分へのハッキング。危険を察したジュリーは即座に対抗措置を取ろうとしたが、相手はそれ以上に早かった。

 

「きゃぁっ!?」

 

 不意に視界が歪み、一瞬だけ頭痛と目眩を覚える。侵入された、と思った瞬間だった。

 

 本来いないはずの者が、視界に映ったのだ。

 

 

「へっへっへっ~。侵入大成功~!」

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
メイガスって割と契約者のためなら何でもやっちゃう感があるのですが、管理社会だったアメイジアがそんな危険極まりないアンドロイドを何故生産させたのか違和感があります。
が、攻略サイトの掲示板で訊いてみたら、疑問に思ったのは私だけだったようです。
まあ、あまり考えないでいいか。

あまり話が進んでいなくてすみません。
なので次回は近いうちに投稿するつもりです。
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