SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド- 作:空き缶号
戸惑うジュリーを見つめ、得意げに笑みを浮かべる少女。くりくりとした目の小悪魔めいた顔立ちで、紺色の髪をサイドテールに結っている。着ているのは東洋の『キモノ』と呼ばれる類の、花の模様が入った水色の民族衣装。本来清楚な印象を受けるはずの服装だが、白い歯を剥き出しにジュリーを見つめる笑顔は、何とも意地悪そうだった。
そして喉にはジュリーと同じく、メイガスの証であるナブラ端子が備わっていた。
「ビックリした? ジュリーさん。あたしはハレルヤ」
よろしく、と朗らかに手を差し出すメイガスの少女。ジュリーがその手を取らなかったのは警戒からではない。握手など不可能だと分かっていたからだ。
「……貴女の本体はここにいない。私の視覚をハックして、自分の姿を視界に映しているのね?」
「正解! さっすが、あたしの『お姉ちゃん』!」
ニンマリと笑って手を叩くメイガス、ハレルヤ。
対するジュリーは不機嫌だ。自分の脳内へ勝手に侵入されて気分が良いわけがない。ただし記憶や人格等の根幹部分までは侵されておらず、あくまでも自分の姿を見せて話をしているだけのようだ。
「何者か知らないけど、貴女に姉と呼ばれる謂れは無いわ」
「それが有るんだよねぇ~。では問題! ジュリーさん相手にこんなハッキングができちゃう、スーパーなあたしは何者でしょうか?」
余裕の笑みを浮かべるハレルヤ。
ジュリーはアクセスを遮断する準備をしていた。その気になればいつでも彼女を頭から叩き出せるが、すぐにはそれを実行しなかった。
「……サイバー戦型メイガス」
「正解!」
ハレルヤは再び拍手した。
「不快だけど驚いたわ。私以外にもまだ稼働している個体がいたのね」
「あたしは第二世代型、要はジュリーさんたちの後継モデルなの。正確にはそのプロトタイプで、アメイジア崩壊前にギリ完成してたってワケ」
「なるほど。旧型の私をハックするくらい朝飯前、ってことね」
「イヤイヤ。そうでも無いっていうか、コレ結構大変な処理してるよー?」
人懐っこく近づいて……厳密には近づいているように見せて、髪と同じ紺色の目でジュリーを見上げる。
「現にお姉ちゃん、その気になったらすぐにあたしを追っ払えるし、何なら逆にクラッキングを仕掛けることもできるでしょ? 同じサイバー戦型メイガスと会えて、本当は嬉しいんじゃない?」
「……こんな真似ができる相手を、素性も分からないまま野放しにしたくないだけよ。誰の手先? 何が目的なの?」
素直に答えなくても糸口くらいは掴める。
その質問に対して、ハレルヤはケラケラと笑った。
「ちゃんと答えるけど、その前にお姉ちゃんにも『こっち側』を見せてあげる」
「! 何を……」
「あぁん、身構えないで。興味あるんでしょ? 私たちの街に」
その言葉と同時に、ジュリーの視界がモザイク状にぼやけ出した。その中でハレルヤの姿だけは鮮明に映っている。
「さあ、ご案内~!」
視界が一瞬暗転し、次の瞬間には全く見慣れない部屋にいた。否、その映像を視覚に流し込まれているだけだ。
そしてハレルヤは相変わらず、目の前で笑っていた。
「ココがあたしの部屋。今ジュリーさんが見てるのは、あたしのドローンが見てる映像ね」
ハレルヤが手招きすると、工具が散乱する机の上から、ドローンが宙に浮いて移動を始めた。
部屋の全貌が見えた。多数のコンピューターの類にメイガス用の調整機材、入り口らしき場所には小型のタレットまで備わっている。それらを繋ぐ配線が壁を張っており、一見雑然としているが、その実合理的に配置されていることがジュリーには分かった。
「機材はどれも一級品だよ」
「……ついでに違法な物もあるわね」
「んー? 気にするタイプ?」
部屋には使い込まれたクローゼットや、隅の方にはキッチンもあり、生活感もある。そして床はフローリングや絨毯ではなく、長方形の床材が張られていた。
「知ってる? ザ・畳!」
「聞いたことはあるわ。で、今見えてる貴女も映像よね? 本体はここにいないの?」
「お風呂場にいるよ」
ドローンが部屋の奥へ移動する。見ると、ハッキング機材に繋がったケーブルが1本、バスルームへと走っていた。
その中、古いがしっかり掃除されたバスタブで、ハレルヤの体は水に浸かっていた。ケーブルはハブを介してうなじ部分に接続され、本体は目を閉じてピクリとも動かない。さらにバスタブの水には彼女の裸体が隠れるほどの、大量の氷が投入されていた。
「はい、これがあたしの体。こんな格好でゴメンだけど、ここからジュリーさんをハックするのかなりしんどくてさ、下手すりゃオーバーヒートどころか……」
「体の構成パーツの融点を超える可能性すらある」
「そう。原始的だけど、こうやって冷却するのが案外効果的なんだよね」
感覚を遮断すれば寒さも感じない、メイガスだからこそ可能な荒技だ。もちろん体の防水は完璧である。
次いでドローンは180度反転し、部屋の入り口付近の小窓へ向かった。ハレルヤは遠隔操作で小窓のローラーシャッターを開け、外が見えるようにしてくれた。
「アトランティス日系人街第3地区、15階からの風景。せっかくだから、音も聞こえるようにしてあげる」
その途端、ジュリーの聴覚が捉えたのはビルの合間を抜ける風の音だった。いや、それはビルと言っても良いのだろうか。
「アトランティス・ネスト……これが……」
隣の建物は人間でも飛び移れるくらい近くにあり、壁に梯子や階段が張り巡らされている。電線も蜘蛛糸のように空中を走っていた。あちこちに飲食店や服屋、工房の看板も見えた。
そして所々に、『
「あそこに提灯がついてるお店あるでしょ? あ、提灯っていうのは東洋の古い照明器具ね。あのお店の料理、すごく美味しいんだよ」
「……入り口に『メイガスお断り』って書いてあるけど?」
「うん、でも飾りみたいなもんだよ。みんな気にしないで入っちゃう」
見える建物は一見すると、かなり無秩序に増改築を繰り返されており、階層ごとの床の高さもまちまだ。まるで積み木である。棒を使って他の家の窓へ食べ物を渡している人の姿も見えた。
下層の方からはバイクのエンジン音や、子供の笑い声も聞こえた。10歳に達しているかどうかという子供たちが、建物の庇の上を歩いていた。建物同様に少々薄汚れた格好をしているが、笑顔で遊び回っている。
「どう? 感想は」
「……そうね。ここを見た限りでは『混沌の坩堝』という異名が的を射ていると思うわ」
ほんの一角を見ただけでも、とにかく情報量が多い。綿密な都市計画の下で築かれた他の地下ネストとも、協会が「薄汚い」という前置詞を付ける地上ネストとも違う。
「この圧縮された空間、一見すれば劣悪な環境で大勢の人が暮らして、美味しいレストランがあって、子供が遊んで、アメイジアには無い技術で兵器を作って、貴女の部屋にはハイテク機器が詰まってる」
「そうそう。混沌だからこそ可能性に満ちてるの! アメイジアなんてオワコンとは違うんだよ!」
得意げに胸を張るハレルヤ。彼女を信用したわけではないが、ジュリーはその理論に一理あると考えた。
「混沌が可能性、ね」
「そうそう。例えばだけど、AIの起源がネクロマンシーだったって話、知ってる?」
「へえ。興味深いけど、そろそろ目的を教えてくれる?」
「んー、そだね。じゃあ最後にもう1つ見て」
ドローンは窓から飛び出して、1つ隣の部屋へと移動した。何かの店というわけではなく、ドアの横に『雑賀』と書かれた表札があった。
「ここがエミちゃんのお家。あの子が帰ってくるまであたしが守ってる。アトランティスへ流れ着いた時、あの子のお兄さんには色々親切にしてもらったんだ~」
「……なるほど。彼女が貴女に私の存在を教えたのね」
ハレルヤの居場所がアトランティスと知ってから、薄々勘づいていたことだ。通信中は見張っていたのに、どうやって連絡したのかは分からないが。
「正解! んで、ジュリーさんの質問だけど」
視界が再び歪んだ。次の瞬間にはアトランティスの景色が消え、ジュリーは元の倉庫、自分の体の視点に戻った。
「あたしはただ、第1世代のサイバー戦型メイガスがまだ生きてるって聞いて、お話したくなったの。ましてやあたしが作ったソフトウェアを買ってくれたんだから、尚更気になるし」
「つまり貴女は、アトランティス統合造兵廠のメイガスということね。貴女のユナイターもそこのエンジニア?」
「人間と契約はしてないよ。造兵廠の創設には関わったけど、仕事は非常勤っていうか、割とテキトーに手伝ってるだけ」
「……じゃあ、本当に誰の指図も受けてないの?」
「うん。アトランティスにはこういうメイガスが結構いてね、『ソリスタ』って呼ばれてるの。カッコいいでしょ?」
相変わらずの笑顔で語るハレルヤ。ジュリーは対メイガス用の、所謂嘘発見器のようなプログラムを備えている。100%確実とは言い難いが、彼女が嘘を言っている可能性は低いと判断できた。
「あたし、人間の『兄弟』『姉妹』っていう概念が羨ましくてさー。それで考えたんだけど、人間の親って最初の子を育てた経験を次の子に活かすでしょ? んで、あたしはジュリーさんたち第1世代のデータを活かして作られた」
「だから私が貴女の姉、と。面白い考えね」
契約者の死亡や何らかの理由による契約破棄と、ユナイターのいないメイガスという存在が生じることはある。しかしそれが自分だけで好き勝手に仕事をして暮らす、そんなことが罷り通っているのは『魔境』ならではと言える。
「で、あたしもお姉ちゃんに質問。アトランティスの兵器とあたしの作品、サンジョベーゼ相手に使うって本当?」
「……本当よ。貴女のネストに迷惑はかからないはず」
「そだね、サンジョベーゼはこっちとしても邪魔だし」
ハレルヤはニィッと口角を上げた。おそらく彼女も嘘を検知するプログラムを使っているだろう。
「でもジュリーさんのユナイターの立場で、わざわざアトランティスから私費で武器を密輸してまで奴らの拠点を襲撃するなんて、ちょっと只事じゃないよね?」
「……そうね」
ジュリーは逡巡した。アトランティスはサンジョベーゼ・ファミリーと敵対している……ならば逆に、彼女を味方につけられるのでは、という可能性が浮上してきた。
「ぶっちゃけ、敵に回すのはサンジョベーゼだけじゃ済まないような気もするんだけど?」
「察しが良いわね。流石は私の後継機」
「妹って言って欲しいな~。ま、お姉ちゃんの立場からすれば、勝手にアレコレ喋るわけにもいかないよねぇ」
「……ええ」
ジュリーには契約者がいる。その計画を自分の判断だけで外部に明かせば、彼を危険に晒す可能性もある。
「あたしも人間と契約はしてないけど、あたしを受け入れてくれたアトランティスには、何て言うんだろう……所謂『郷土愛』みたいなのを感じてる。ネストのみんなの不利益になることはしたくない」
「お互い、守りたいものがあるのね」
「そだね」
ハレルヤは笑顔で頷いた。
「本音を言えば貴女が味方になってくれたら心強いし、さらに言えばメイガスの身で『妹』ができたのも、正直に言うと嬉しいわ」
「ホント?」
「本当よ。嘘検知プログラムで分かるでしょ?」
「まあね。へへへ」
人懐っこくすり寄ってくるハレルヤ。とはいえ映像なので、ジュリーと触れ合うことは叶わない。
ジュリーの人格は母性的なLyyn型だ。自分の後継モデルたる彼女を愛おしく感じるのも事実だ。
そして無謀を承知でアルマンの計画に従うジュリーにとって、味方を増やすことは重要でもある。
「……ねえ、ハレルヤ。まだ時間は取れる?」
「うん、氷風呂が温まってきたら、自動で氷が足されるし。嫌じゃなければ、あと2時間くらいはお姉ちゃんの中にいられるよ」
「なら提案があるわ。私の目だけじゃなくて、口も貸してあげる」
「口?」
姉のピンク色の唇を凝視し、妹は「ああ」と意図を察する。
「私のユナイターと話して欲しいの」
「おっけ。お姉ちゃんの大切な人なら、ご挨拶しないとね」
メイガスの姉妹は連れ立って、ただし1つの体で執務室へ急いだ。
………………
…………
……
翌日、朝5:00。
前日出撃停止にされ、ほぼ1日中ハーモニカの練習をしていたエミは、唇がヒリヒリした状態でガレージへ向かった。
「今日もまた変な任務なのかな」
「知らねーけど、昨日のは本当に協会の指示だったのか怪しいよな」
シェーフォンとジンがぼやいている。前日に課せられた『未完成トンネルの調査と放置された掘削機の点検』という任務は、最強のドリフターと称されるシェーフォンからしても不可解だった。
「アレ、新規開拓地へ物資を運ぶためのトンネルだったよね? 開拓計画自体がアメイジア崩壊でポシャッたんでしょ?」
「ああ。掘ってたのは俺が軍にいた頃だな。いつか工事再開するつもりで中途半端に保守点検やってたらしいが、とっくに打ち切られたはずだ」
「まあ掘削機械は何とか動く状態だったけどさ。エネルギーの補充までさせられたわけだから、もう近日中に使うってことだよね?」
「だよな。今更開通させてどうすんだか、あんなトンネル。あの機械も運び出すなら解体した方が良いサイズだし」
2人の疑念……ここ数日の不可解な任務の所以について、エミは心当たりはあっても話していない。今の現在心配しているのは、相棒の状態だった。
ガレージのドアが開いた時、社会不適合者たちは変わり果てた景色に目を見張った。いや、ガレージの内装は変わっていないが、クレイドル……シェーフォンの黒塗りのトムガーディアンはそのままに、エミとジンの機体が先日鹵獲したトムガーディアンにすり替えられていたのだ。
「……俺らがこれに乗れってか?」
「しかも計4機あるね」
不審がる2人を尻目に、エミは「いよいよ来たか」と覚悟を決めた。並んだクレイドルはシェーフォンの機体も含め計4機、そしてウェポンラックに並んでいるのはアトランティス製の武器だ。
「いや、それよりあの銃は……」
「クレイドル用七十五粍静音突撃銃乙型。あーしの地元の武器ッス」
「静音?」
確かにアサルトライフルの形はしているが、銃身全体を覆うように円筒形の太いカバーが付けられ、その外側にケーブルが這っている、なんとも不恰好なデザインだ。ストックは折りたたみ式でコンパクトに収納され、さらにアンダーバレル式のグレネードランチャーまで備わっている。
「完全に音は消せないッスけど、メイガスの耳でも銃声だとは識別できなくなる……らしいっス」
「銃声を小さくしても、クレイドルの駆動音自体がクソウルセェだろ」
「だから付属のグレネードランチャーで、対メイガス音波擲弾を撃てるんスよ。一時的にメイガスの聴覚を麻痺させられるから、気づかれにくくなると」
「なるほど、あらかじめ周波数が分かってれば味方のメイガスに被害は無いしね。……で」
何でそんな物がここに、と疑問を口にしかけた時。ガレージの出入り口が開いた。
「みなさん、おはようございます!」
「おはよう!」
「おはよう」
メイガスたちの溌剌とした挨拶が響く。レビンはすぐさまエミに駆け寄り、頭を下げた。
「ユナイター、ご心配をおかけしました!」
「気にしないで。ナンカ元気そうじゃん」
「はい! 昨日調整していただいてから、何となく心が晴れやかなんです。今日はしっかりサポートしますね!」
一昨日とは打って変わって元気な様子を見せる相棒に、エミは一先ず安堵した。だが同時に、やはり今日が大一番になると確信した。
3人のメイガスに続き、アルマンとジュリーもガレージへやって来たからだ。
「よし、全員揃っているな」
「おい、オッサンまで来たぞ」
「今日はモニター越しじゃないのか。こりゃマジで只事じゃないね」
いつも通り飄々としつつ、メイガス共々整列する社会不適合者たち。彼らを一瞥し、アルマンは一呼吸置いて口を開いた。
「今日の任務は極めて重要だ。よって私も督戦のため出撃し、任務達成後には貴様らの刑期を1年短縮してやる」
受刑者たち、そしてメイガスたちも顔を見合わせた。3年のうち1年の短縮、なかなかの大盤振る舞いである。同時に、生還の見込みが少ないことも想像できた。
レビンは戸惑っていたが、エミはチラリとジュリーを見て、彼女が小さく頷くのを確認した。自分だけは1年どころか、近いうちに脱走させてもらえる。レビンを連れて。
仲間たちに罪悪感も覚えたが、決心は変わらない。
「一言で言えば、サンジョベーゼ・ファミリーの拠点へ破壊工作を仕掛ける。モニターを見ろ」
一同の視線が移ると、ジュリーがタブレットを操作してマップを表示した。目的地として示されているのは……
「ネスト77!?」
タンヤンが声を上げた。シェーフォンも「マジか」と呟き、エミも思わず仲間たちの方を見た。
「確か、アイリス・マイが宣伝して移住者募ってた所ッスよね?」
「ああ、それでエンダーズの大量襲撃で壊滅したネストだよ。辺り一体エンダーズだらけになったから、マルッと封鎖されてる」
「その通り。しかし実際の所、このネストがサンジョベーゼ・ファミリーの麻薬工場となっていることが判明した。そこを襲撃する」
「しかし、監督官!」
ヒルデが声を上げた。ジンはじっと話を聞いていたが、彼女の方はこの作戦が信じられないという様子だ。
何せネスト77の周囲はエンダーズが異様な密度で生息しており、ベテランのドリフターでさえ立ち入り禁止とされている。とても生きて帰れる土地ではない。
「無謀が過ぎる! 禁足地77を越えて行くと言うのか!?」
「地下道だろ」
前へ乗り出すヒルデの肩を、ジンがそっと押さえた。
「昨日調べたトンネルだ。最深部は禁足地内の直下だったはず」
「そういうことだ。幸い掘削機械は現場に残され、まだ動く状態だったからな」
表示されているマップに線が引かれた。トンネルの入り口と、掘削機械が放置された最奥部を繋ぐ線。そしてそこからカーブを描き、ネスト77へ到達する線。
「掘削機械を起動し、進路を変えて約1マイル半も掘れば、ネスト77へ地下から到達できる。目標はネスト中枢施設だが、地質の関係上そこまで掘り進むのは困難だ。よって手前にあるショッピングモール地下駐車場へ突入することになる」
「オッサン、敵の戦力は?」
挙手と同時に質問するシェーフォン。顔つきはいつもより引き締まって見えた。
「監督官だ。恐らくクレイドル1個大隊はいるだろうが、奴らの殲滅が目的ではない。中枢施設にあるデータの奪取と施設の爆破。夜間の奇襲により迅速にこれを行い、撤退する」
「奇襲って言っても、戦闘になったら数で押される」
「対策はできてるわ」
ジュリーが説明を引き継いだ。
「私がネストの防壁をハックして、外にいるエンダーズの一部を中に招き入れる。その対処で手一杯になってる隙に進むというわけ」
「セキュリティを突破する手段は確保してある。そしてクレイドル戦用の武器もな」
アルマンが武器置き場を指差した。先ほどエミが解説した静音銃の他、ドローンらしき物や爆弾、歩兵用の火器まで用意されている。
「アトランティスから極秘利に取り寄せた、奇襲にはもってこいの品々だ」
「性能はあーしが保証するッス。奇襲と搦手はアトランティスの十八番ッスから」
エミが仲間たちに胸を張って見せた。この時点で多くの者が、エミが調達に手を貸したことを察しただろう。
「そして先ほど言った通り夜襲になるため、各クレイドルには同じくアトランティス製の暗示装置を搭載してある。当然だが、点けっぱなしで消灯できないライトなどは使わんぞ」
そう言って、アルマンはシェーフォンへ目を向けた。
「どうだ、貴様が正規協会員だった頃よりマシだと思わんか?」
「……本当にマシだから逆にムカつくわ」
吐き捨てるシェーフォンの手を、タンヤンがそっと握っていた。
「出発は20時、それまでに準備を行い、夜戦に備えて仮眠も取れ。詳しい作戦は朝食の後で説明する」
「食事はいつもより良いのを出すから、期待しててね。あと……」
ジュリーがヒルデに目を向けた。
「貴女だけ、ちょっと来てくれる?」
「む……了解した」
ヒルデの方は作戦への疑念が尽きないという顔だが、ジュリーの指示通り共に退室した。
その時、エミはふとレビンの様子が気になった。ずっと無言でモニターのマップを凝視していたのだ。
「どうしたの?」
「……何だか、変な感覚なんです」
ゆっくりとエミに顔を向けて、ニコリと微笑む。
「ネスト77……ずっとこの日を待っていた、というか」
「……そこへ行きたいの?」
「はい。そうしなければいけない、という感覚があります。この作戦は成功させなければいけない、という気持ちが」
以前の記憶の影響だろうか。かなり抽象的だが、少なくとも前のような拒否反応は無いように見える。
どちらにせよ、エミが取れる道は1つだ。
「なら、一緒に行こ。一蓮托生でしょ」
「はい。ありがとうございます」
レビンが笑顔で拳を突き出したので、エミも自分の拳をそれにぶつけた。スラムの仲間とたまに行ったスキンシップだ。
しかしそれをレビンからするのは、何となく彼女らしからぬ行動にも思えた。
お読みいただきありがとうございます。
ようやく山場に差し掛かってきました。
どうせ過疎ゲーの二次創作なんで読む人少ないでしょうが、読んでくださっている数少ない方々には本当に感謝しています。