SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド-   作:空き缶号

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S3:逆位置『悪魔』
18.ブラックウィドウ作戦


 作戦の準備は淡々と進んだ。詳しいブリーフィングと新装備の説明、点検。鹵獲したトムガーディアンのセットアップ。夜戦に備えての仮眠。

 

 その後出撃まで、問題と言えることは2つしか起きなかった。

 1つは、エミが自機のシートに前の持ち主の“一部”が残っているのを見つけ、それを生ゴミに出そうとしてレビンに叱られたこと。

 もう1つは時間を潰すため麻雀を始めた所、ジンが牌の表面を指先で削り取って白を作るというとんでもないイカサマを行い、シェーフォンがマジギレしたことだ。

 

 

 そして出撃時刻の直前、エミはジュリーに呼び出された。

 

「レビンの様子はどう?」

「なんか普段より元気そうッスよ」

 

 エミは思っているままに答えた。

 

「ただネスト77って所に、何か思うことがあるっぽいッスね。自分でもよく分からないらしいッスけど」

「それは気になるわね」

「でもお陰様で今のところ、問題無さそうッスよ。何かしてくれたんでしょ?」

 

 ジュリーは少し逡巡した後、コクリと頷いた。

 

「貴女には伝えておくべきね。色々と調べたのだけど、あの3人の中でレビンだけは協会所属のメイガスじゃなかったみたいなの」

「え?」

 

 詳しい事情は不明だけど、とジュリーは補足した。前の契約者が死亡した後、協会が強引に再利用しようとしたのだろうか。

 

「だから完全に初期化できなかったことを知った協会は念のため、あの子に協会への忠誠心をプログラムとして組み込んだ。それが原因で以前の記憶を受け入れられなかったのね」

 

 現場でメイガスに背中を預けるドリフターたちを除けば、協会にとってメイガスはあくまでも道具。エミとしては、その点は意外でも何でもなかった。兄が初陣で味方に殺されたように、人間さえも消耗品と思っているに決まっているからだ。

 

「今回の作戦でいきなりエラー落ちされても困るから、そのプログラムを削除した。当然、上には内緒よ」

「それでもうエラーは起きない、と」

「ええ。でも代わりにレビンが前の記憶を取り戻したら、作戦中に私たちの望まない行動を取る可能性もある。だから彼女の頭にバックドアを設置したわ」

「えーと、不正アクセスするための経路、でしたっけ?」

 

 故郷の隣人のおかげで、エミはそうした用語も多少は知っている。そしてジュリーが何をするつもりなのかも薄々感づいていた。

 

「そう。いざとなれば私が即座にハッキングして停止させるし、最悪の場合は彼女の脳を焼却する。承知しておいて」

 

 普段の母性のある笑顔とは打って変わって、ジュリーの表情は張り詰めていた。対するエミは溜息を吐き、口を「へ」の字に曲げた。

 

「……上の連中だけじゃなしに、ジュリーさんもアイツを物扱いッスか。同じメイガスなのに」

「残念だけど、同じメイガスだからこそ同胞愛もあれば、恐ろしさも知っている。この作戦を成功させるためなら私が手を汚す」

「誰のために?」

 

 そう尋ねるエミは、薄々感づいていた。この作戦は協会が正式に命令したものではないのでは、と。

 ジュリーは微笑を浮かべた。

 

「私個人としてはユナイターため。でも万一の時は、彼ではなく私だけを怨んで欲しい。レビンの調整に関しては全部私の判断だから」

「……了解ッス。色々ありがとうございます」

「ああ、それと」

 

 ジュリーはエミの耳元へ口を寄せた。

 

「貴女が故郷へ余計なことを報せた件は不問にするわ。連絡手段も訊かない。いざという時の切り札になるかもしれないから」

「……ハレルヤから連絡あったんスか?」

「ええ、貴女には感謝しないと。ありがとうね」

 

 

 ……2人はガレージへ戻った。仲間たちは最後の準備をしている所だった。

 ドリフターには目出し帽が支給され、メイガスには盗賊団が使っている頭部全体を覆うヘルメットマスクが渡された。ヒルデはそれを何となく嫌そうに見つめて、止むを得ず被った。スイッチを入れると内部に外の様子が投影される。

 

「どうだ、似合っているか?」

「クソダセェな」

「良かった。似合うと言われたら自信を無くす所だった」

 

 冗談を交わすあたり、ヒルデも覚悟を決めたらしい。ジンの方はヒルデの首から下……レビンより一回り大きくジュリーよりやや小さい胸、その下の腰、スラリとした脚へと視線を下げる。今は制服も脱ぎ捨てて、メイガス用の汎用インナーのみに身を包んでいるため、ボディラインがしっかり出ていた。

 

「体の方はいいんじゃねーか。いつもの制服は俺から見てもダセェ」

「……大きな声では言えないが、私もそう思っていた」

 

 一方で、シェーフォンは自機に施した誤射防止のペイント……『追命鬼 呉雪風』の文字を削り落としていた。機体は全員トムガーディアン、メイガスは同族団のヘルメットを着用し、ドリフターも顔を隠す。

 

「これって要するにさぁ、盗賊団の仕業に見せかけるってことだよね?」

「その通りだ。奴らに友達でもいるのか?」

「いない」

「なら問題あるまい」

 

 無愛想に返すアルマンも、協会の制服を脱ぎ捨て、適当なミリタリージャケットを着用していた。そして彼の機体を含め、クレイドルの操縦席には歩兵用のアサルトライフル、メイガスには拳銃が支給された。どちらもサプレッサー(減音器)付きだ。その他、歩兵用の対クレイドル兵器も積み込んである。

 

 つまり、目的地に到達したら生身で戦うということだ。アルマンはこの小隊に任務が回ってきた理由の1つとして、「生身での殺し合いが好きなドリフターは他に中々いない」ことを挙げた。

 

 ヒルデとタンヤンはこの作戦への疑念を拭えないようだったが、彼女たちのユナイターは違った。ジンは「面白そうだ」としか言わず、シェーフォンもアルマンから詳しい説明を聞いてやる気を出していた。曰く、犯罪者更生課がこの作戦を成功させれば、特殊作戦室の面目を潰すことができる、と。

 

「……ユナイター」

「大丈夫だよ。オレは不死身だ」

 

 タンヤンの肩を優しく叩き、シェーフォンは操縦席へ向かった。そして他の全員も。

 

「3番機、始動準備良し。コンターック!」

 

 操縦席で高らかにコールするエミ。コフィンにレビンが飛び込んで接続し、ハッチが閉まった。

 エミの側にレビンのホログラムが寄り添い、トムガーディアンの波線型カメラアイに光が灯る。心臓の強いエミはシートに残った脳漿のシミなど気にしていない。だが近くに寄り添うレビンの姿には、少し文句を言いたかった。

 

「あーしにだけ素顔見えるようにとか、できない?」

「あ、できますよ」

 

 レビンの頭部からマスクが消え、いつもの彼女の顔が露わになった。赤い瞳に白い髪、広告に載っているのと同じデフォルトのGrau型の顔だ。

 

「ありがと。やっぱレビンちゃんは顔が見えた方がいいわ」

「あのマスクちょっと不気味ですもんね。それでは行きましょう」

「うん」

 

 シェーフォン、ジン、そしてアルマンに続き、エミのトムガーディアンも前進する。ラックから静音銃を手に取り、こちらを省みるシェーフォン機に親指を立てて見せた。クレイドルの操縦系は基本的に共通なので、初めて乗る機種でも苦労は少ない。歩行もジャックボックスよりスムーズで、出力の高さを感じながらゲートへ向かう。

 

 一方のレビンは操縦者のバイタルを確認し、ニコリと微笑んだ。

 

「ユナイター、凄いですね。危険な作戦なのに心拍数が安定しています。初陣の時とは大違いですよ」

「覚悟はできてるから。それに初陣の時はあんたを信用してなかったし」

「そうですよね。ユナイターへの扱いを考えれば当然です。今はどうですか?」

「あんたの顔が見えた方が楽しい。それが答えっしょ」

 

 今思い返しても、訓練期間3日は滅茶苦茶である。

 

「ある時はドロボー、ある時は音楽家、ある時は忍者、ある時は密輸業者、またある時はドリフター。あーしは何をやっても成功する天才少女だから。今回もあんたと一緒なら生きて帰れる」

「何をやっても、って……マシンガンの弾は半分くらい空に撃ってたじゃないですか」

「それはしょーがない。あーしは倹約家だから、ああいう弾と音を無駄遣いする武器は向いてないの」

「何にせよ、音楽家とドリフター以外の看板は降ろしてください。そもそも逮捕された時点で密輸人は失敗してるでしょ」

「そのお陰であんたと会えたんだから成功だよ」

「……物凄い屁理屈ですね」

「そこは感動しろし」

「ええ。そう言ってもらえるのは心から嬉しいので、尚更悪い事を辞めてください。色々才能あるんだから、真っ当な仕事でもお金持ちになれるでしょう?」

「お酒を売るのだって本来は真っ当な仕事だったんだよ。あーしは自分なりに、アメイジアがアルコールを禁止したのは間違いだと思うから密輸してたの。単に稼げればいいならヤク売った方が儲かるもん」

「人心荒廃の原因になるのは同じです!」

「違うね! ヤクは良い人間もダメにする。アルコールは人間のダメっぷりを暴く。要はアルコールでダメになる人間は元からダメな奴なんだよ」

「どちらにせよ結局実害が出るじゃないですか!」

「まったく、ああ言えばこう言う~!」

「それはユナイターでしょ!」

 

 もうすっかり慣れたやりとりをしつつ、エミはふと疑問が生じた。

 

「レビンちゃんが口喧しいのってさ、元からの(サガ)なの?」

「ふーんだ。悪かったですね!」

「いや別に悪かないんだけど、アメイジアや協会への忠誠心でガミガミ言ってるわけじゃ無いのかな、って」

 

 そう言われて、レビンはきょとんとした後に考え込んだ。

 

「忠誠心は……言われてみれば、ありましたね。今は不思議とどちらでも良いというか、ユナイターが1番大事だと思ってますよ」

「……そっか」

 

 考えてみれば、レビンに兄の事を打ち明けて以来、協会員になれと勧めて来なかった。お節介気質やエミに悪事を辞めさせたいという気持ちは、忠誠プログラムに言わされたのではなく、明確に彼女の自身の意思ということか。

 今まで相棒として付き合ってきた彼女の姿は、偽物ではなかった。

 

「何でニヤニヤしてるんですか? 本気ですからね」

「分かってる。あんたが本気じゃなかった所なんて見たこと無いし」

「絶対に悪事から足を洗ってもらいますから! 刑期を終えたらお別れするとしても、です!」

「……そうはならないかもよ」

「え?」

 

 再びきょとんとするレビンに、「帰ったらまた話そ」とだけ返して話を打ち切る。この任務さえ終われば、受刑者と監視役ではなく、本当の相棒になれるかもしれない。真面目にぶつかってくれる友人として。

 

 改めて決意を固め、エミはトランスポーターへ乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 …………

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 夜間行軍は順調に進んだ。特にシェーフォンからすれば拍子抜けするほど簡単だっただろう。

 クレイドルにはアトランティス製の暗示装置が搭載され視界良好、エンダーズもすぐに発見できる。徘徊する賞金首もやり過ごして、苦もなくトンネルに入った。

 

「ライトに切り替える。暗視装置切って」

「了解、通常カメラに切り替えます」

 

 トンネル内には光源が一切無く、可視光増幅タイプの暗視装置では無理がある。そのため静音突撃銃にはサプレッサーとアンダーバレル式ランチャーだけでなく、側面にライトも備わっていた。

 シェーフォンはその説明を聞いて、「何で囚人になってからの方が良い装備貰えるんだよ。これがあの時あればさぁ……」などと愚痴り続けていた。

 

 エミ以外の3機もライトに切り替え、警戒しながらトンネルの奥を目指す。昨日調査したとはいえ、寄生型の1匹くらいは生えているかもしれない、とシェーフォンが言っていた。

 

「ところで、あのオッサン……督戦のため出撃する、とか言ってたよね」

「はい。そう仰っていました」

 

 エミは先頭を行く味方機の背にライトを当てた。いつものようにシェーフォンの黒いトムガーディアン、その隣にはアルマンとジュリーの駆る機体が歩いていた。

 

「あーしあんま教養ある方じゃないけど、督戦って味方が真面目に戦うように監視することだよね? もし逃げるなら後ろから撃っちゃうぞ、みたいな」

「ですね……今の監督官は督戦というより、単に陣頭指揮を執っているように見えます」

 

 レビンも同じことに疑問を覚えたようだ。ここまでの道中、何度かエンダーズに絡まれた際、アルマンは率先して迎撃していた。現場上がりだと知ってはいたが、ブランクを感じさせない反応速度と射撃の腕を見せた。

 

 そして今も、囚人ドリフターに後ろから撃たれるリスクを承知で先頭を歩いている。その隣にいるシェーフォンは最強のドリフターと称される男で、1人で先頭を任せても構わない実力者なのだが。

 

「個人的に成功させたい理由あるのかな、この作戦を」

「私もそう思います。昇進目的か、またはサンジョベーゼに怨みがあるのかもしれませんね」

「うん。ま、あーしも親がヤクで死んだらしいし、ヤクだけはマジ許せないから。襲撃成功させて、トラ・トラ・トラ! って叫んでやろう」

「……前にも言ってましたけど、何ですかそれ?」

「アトランティスの日系人に伝わるスラングでね、『してやったり』とかそういう意味。由来は知らんけど」

 

 行軍中の雑談も、精神の安定を保つために必要なこともある。エミはそれを本能的に分かっていた。

 

 そうしてエミなりに自分とレビンの士気を高めながら、奥を目指した。途中インキュベーターが1体出たのみで、特に損害もなく進軍する。

 

 やがて道中で隔壁を潜り、その先に鎮座する巨大な掘削機械……シールドマシンへ到達した。クレイドルを使って操作する前提のマシンで、トンネルカッターとエンジンの後部に丁度クレイドル4機を搭載するスペースがある。あちこち錆が浮いているが、まだ使えることは確認済みだ。

 

《全員、聞こえるか?》

 

 アルマンから通信が入った。地表が遠いため、無線もブルーシストの影響を受けないようだ。

 

《1番機、聞こえてる》

《2番機、聞こえる》

「3番機も聞こえまーす」

《よろしい。ではこれより目的地まで掘り進む。進路制御は私が行い、貴様らは打ち合わせ通りの配置に着け》

 

 極めて巨大なシールドマシンに見とれていたエミも、土の排出機構の制御盤の前へ機体を寄せた。すぐにレビンがスキャンし、操作方法を解析する。掘った土の運び出しに使う自動運転トラックも5台放置されており、これでピストン輸送を行う。

 

「オッサン、今更だけどコレ、運び出した土で敵に気づかれないッスか?」

《監督官だ。このトンネル付近は一般ドリフターの夜間作戦圏に含まれていない。加えて土はトンネル内に捨てるので問題ない」

「え? 帰り道が埋まっちゃうんじゃ?」

《捨てる土は全体の20%程度だから大丈夫よ》

 

 ジュリーが説明を引き継いだ。

 

《このシールドマシンは旧アメイジ最先端テクノロジーの塊。掘った土の大半を材質変換して、壁のコーティング材として即座に再利用するの》

《ああ、アレか。軍にいた頃聞いたことがあるが、実用化されてたのか。》

 

 ジンも感心したように声を上げた。

 

《コレの応用で錬金術が現実になるとか、いずれはAO結晶の人工生成も目指すとか、世迷言も随分聞いたな》

《……世迷言で終われば良かったがな》

「は?」

《それともう1つ、外部から呼んだ協力者を紹介する》

 

 不意に意味深なことを呟いたかと思えば、アルマンは話題を変えた。次の瞬間、全員のクレイドルのモニター隅に見慣れない少女の顔が表示された。ただし、エミには見慣れた顔だった。

 

《チャオ~! アトランティスからこんにちは~》

「おおっ、ハレルヤじゃん!」

 

 陽気な挨拶に、エミも顔を輝かせた。他の面々は大半が「何だコイツ」「なんか変なのが出てきた」などと思っていた。

 

《エミちんお久~。元気~?》

「だ、誰ですかこの方……?」

「あーしの近所の姉ちゃん」

《何だ? メイガスなのか?》

《なんか初めて見るボディタイプだな。お尻の形どんなだろ……》

《ユナイター、後でビンタするからね》

《……彼女はハレルヤ。私の後継機に当たるサイバー戦型メイガスよ。アトランティスにいるけど、私との間にホットラインを設置して、連絡を取れるようにしたの》

 

 エミの説明はアバウトすぎたが、ジュリーが大幅かつ簡潔に紹介してくれた。

 

《彼女はこの作戦がアトランティスの利益に資すると考え、利害の一致から協力してくれることになった。サイカはよく知っているだろうが、彼女の能力は極めて強力かつ重要だ。決して失礼の無いように。特にメイガスフェチの変態野郎、貴様には特に厳重に言っておくぞ!》

《誰のこと?》

《ユナイター以外いないでしょ》

 

 シェーフォンとタンヤンのボケツッコミを他所に、エミはいよいよこの作戦が怪しく思えてきた。

 ハレルヤの協力は心強いが、『アトランティスの利益に資する』という点がどうも気になる。サンジョベーゼとは敵対関係にあるため矛盾はしないが、協会やアメイジア暫定政府とて味方ではない。それらの組織からはむしろ『地下世界の癌』として疎まれているのがアトランティスだ。

 

 本当に協会から課せられた任務なのか?

 

《そういうワケで、微力ながら助太刀しちゃうよ。みんなで『ブラックウィドウ作戦』を成功させよう!》

《作戦名あったんだ》

《ハレルヤが勝手に決めたのよ。何か名付けた方が良いって》

《話はここまでだ。作業にかかるぞ!》

 

 アルマンの号令と共に、ジュリーが掘削機のシステムへ侵入した。セキュリティを解除して始動準備にかかり、やがてアルマンの操作で轟音と共にカッターが回転を始める。

 シェーフォンとタンヤンは壁面のシールド、ジンとヒルデはエンジン出力をそれぞれ監視し、エミはレビンの指示に従って土の排出操作を行った。もっともシールドマシン自体にある程度のAIが搭載されており、それさえジュリーの支配下に置いてしまえば、作業自体は単純だったが。

 

 時折機器に不具合も生じたが、ハレルヤが各員にアドバイスを飛ばし、すぐに対処できた。

 自動運転トラックがマシンへ追従し、ノズルから荷台へ土が落ちる。荷台が満杯になると別のトラックに交代する。その繰り返しを監視していた。

 

 余裕ができた頃、レビンがふと口を開いた。

 

「ユナイター。ハレルヤさんとは仲が良いのですか?」

「うん。あーしがまだチビだった頃、隣に引っ越して来てさ。お姉ちゃんみたいなもんだったよ」

 

 今じゃ見た目の歳は追いついたけどね、と笑うエミ。対するレビンは、任務と直接関係のないことで思う所があったようだ。

 

「私、今までアトランティスは犯罪の蔓延する、有害なネストだと決めつけていて」

「うん、だろうね」

 

 今まで何かと言うと「エミなら他の土地でもやっていける」と訴えてきたのも、要はそういうことだろう。そしてエミも故郷の実態について、現状は協会の手先であるレビンに迂闊には話せないという事情があった。

 

「ユナイターにとっては生まれ故郷で、大事なお友達もいる場所だということを考えず、ちゃんと知ろうともしませんでした。無神経でしたよね。ごめんなさい」

「なんか最近謝ってばっかだね、レビンちゃん」

「そうでしょうか……そうかも」

「しゃーないよ。あーしもあんま話さなかったし」

「帰ったら、色々教えてもらえますか? ユナイターの故郷のこと」

「そうだね。話せることは話すよ」

 

 これも忠誠プログラムが削除されたことによる変化、だろうか。もしくはハレルヤの存在から気づきを得たのか、その両方か。

 

「何ならアンタにも見せて上げよっか? アトランティスを」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 エミとレビンは同時に声を上げた。突然、着物姿のハレルヤが目の前に現れたのだ。レビンと同じくホログラムの姿で。

 

「アンタがレビンちゃんね。エミちんの面倒見てくれてありがと~」

「コフィンをハッキングしたんですか!? は、早く出て行ってください!」

 

 嫌悪感丸出しでパンチやキックを繰り出すレビン、それを避けるハレルヤ。紺色のサイドテールがゆらゆらと揺れる。ホログラム同士だと接触できるのだろうか。

 

「まあまあ。エミちゃん結構アンタのこと大事に思っててさ~」

「いいから! 早く! 私たちの機体から出て行きなさい!」

 

 いつになく怒って、かつ珍しく暴力的なレビンに驚きつつも、エミは笑い出しそうになった。

 

「……コフィンをハックされるのってそんなに嫌なの?」

「うーん、人間のエミちんに分かるように言うなら、下着の中にオタマジャクシが10匹くらい入り込んだ感覚に近いかな~」

「うわ、それは嫌だわ」

「分かってるならやらないでください!」

 

《楽しそうだねー、3番機》

《同じクレイドルに女の子が3人も集まれば、こうもなるよ》

《今から殺し合いに行くんだがな、俺ら》

《彼女らなりに平常心を保っているとも言えなくは……》

 

 

 

 

 ……斯くして、社会不適合者たちとメイガスらは退屈することなく地中を掘り進んだ。アルマンは頭を抱えていたかもしれないが。今掘り進んでいる真上には大量のエンダーズがひしめいているはずだが、それを分かっていても恐れない彼らは人間として何処かが壊れているのかもしれない。

 

 

《地下駐車場到達まで1分よ》

《総員、戦闘準備!》

 

 しかし、今回彼らが戦う相手はエンダーズではない。静音アサルトライフルをウェポンラックから取り、いつでも降りられるよう準備する。同時に支給されたカメラ付きの目出し帽で顔を隠した。

 

《10、9、8、7、6……》

 

 エミはゆっくりと深呼吸し、レビンに向けて親指を立てた。契約者が平常運転なのを見て、レビンも微笑んで頷く。

 

《5、4、3、2、1……》

 

 轟音と共に、回転するカッターがコンクリートの壁を突き破った。瓦礫と土砂が降り注いだ後、シールドマシンは停止した。

 

《全員降りろ!》

 

 4機のクレイドルが飛び降りる。舞い上がった粉塵を突破すると、コンクリートで覆われた地下駐車場の光景が広がっていた。銃を四方八方へ向け、敵影が無いのを確認する。あるのは所々に放棄された自動車のみ。

 

 禁足地の地下は静かだった。

 

《クリア!》

「で、地上へ出ればいいんスか?」

《その前にやることがあるわ》

 

 アルマンの傍で、ジュリーがシェーフォン機へ目を向けた。

 

《タンヤンは天候対応型よね。AOサーチを使ってみて》

《あ? ……タンヤン、AOサーチ》

 

 AO結晶探知は全メイガスの標準装備だが、特に天候対応型はその点で高性能だ。結晶の大きさから純度まで知ることができ、探知範囲も広い。

 しかし本来、戦闘を前にやることではない。シェーフォンが不審に思いながらも指示を下した。

 

《了解、AOサーチ! ……何コレ!?》

 

 タンヤンが頓狂な声を上げた。通信ができるため、サーチ結果は全機に共有された。

 

 三馬鹿とそのメイガスたち、全員が唖然とした。辺り一帯、恐らく都市の地上部を埋め尽くすが如く、AO結晶がひしめいていたのだ。それも全て、極めて純度が高い。

 

《うわー。正直半信半疑だったけど、やっぱマジだったんだねー》

 

 ハレルヤが嫌そうな口調でぼやく。エミは画面端に映る彼女の顔を見た。

 

「ハレルヤ、何か知ってるの?」

《うん、ココは何か怪しいとは思っていたんだけどね。アトランティスからだと、内部のネットへのアクセスが難しくて》

《彼女には全て話した。貴様らは実際に見るまで信じないだろうから、ここが麻薬工場だと嘘を言ったのだ》

 

 いつも通り傲岸な言葉遣い、しかしその声は微かに震えているのが分かった。緊張や怒りが入り混じった口調で、アルマンは続ける。

 

《サンジョベーゼがこのネスト77で作っているのは麻薬ではない。AO結晶だ》

「ハァ!?」

《マジかよ、錬金術実現してたってのか?》

《ちょっと待ってオッサン、まさかここが壊滅したのはエンダーズのせいじゃなくて……》

 

 シェーフォンの言葉でエミもハッと察しがついた。AO結晶の出すAO波は、エンダーズも引き寄せるのだ。

 

《そうだ。ネストがAO結晶だらけになったからエンダーズが集まってきただけだ。ネストの外壁は突破されていない》

「じゃ、住んでた人たちはどうなったんスか!?」

 

 エミは思わず叫んだ。自分の想像を超えた陰謀が、このネストには渦巻いている。心拍数が上がってくるのを感じた。

 

 その時、レビンが暗い声で呟いた。

 

 

「肥料にされたんですよ」

 

 

 

 






お読みいただきありがとうございます。

Q.
原作ゲームはチーミング厳禁なのに、この小説では何故小隊で行動しているのですか?

A.
二足歩行だから前方投影面積がデカイ、弱点部位がやたらとデカイ、動きが鈍重、複数火器の同時使用やマルチロックオンとかもできない。
どう考えても単独で行動する想定の設計のメカじゃないでしょクレイドルって。
2〜3機で死角をカバーし合いながら行動する方がリアリティあるでしょ。
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