SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド- 作:空き缶号
「……え?」
機械仕掛けの赤い瞳が、じっとエミを見据えていた。震える唇に怒りが滲み、言葉を紡ぐ。
「忘れたんですか? 奴らは必要無いと判断した人々を肥料にして、この『畑』を作ったんです! そんな物を守るために、奴らは……ユナイター、貴方を殺したじゃないですか!」
「……レビンちゃん!」
一瞬気圧されかけたエミが名前を呼ぶと、レビンはハッと我に帰った。目を見開いたまま、エミと自分の手を交互に見比べる。
「今のは……殺されたのは貴女じゃない。これは以前の記憶……?」
《サイカさん、レビンの状態は?》
ジュリーの問いに、エミは画面の端をチラリと見た。異常を示す表示は無い。
「大丈夫ッス、エラーは起こしてません。レビンちゃん、落ち着いて。考えるのは後で」
「は、はい。失礼しました」
ペコリと頭を下げるレビン。やはり彼女はこの地に因縁があるとエミは確信した。どの道、今更後戻りはできない。
《……地上へ出て中枢施設を目指す》
アルマンもレビンの抱える問題について知ってはいるが、今は保留するしか無いと考えたようだ。
《地上ではライトを消して暗視装置を使え。またネストの天蓋は健在だが、AO波の過密による電波障害が予想される。搭載した通信ブースターを起動しておけ》
《あたしが設計したブースターだけど、輸出用のだから連続使用は1時間が限度ね。できる限り早く目標施設へ突っ込んで》
そう補足するハレルヤの声も、先ほどまでより真剣だ。
最早進むしかない。4機のクレイドルは地下駐車場のスロープを登り、出入り口を封鎖するシャッターを突き破って地上へ飛び出した。
辺り響く不気味な低音は、AO結晶の出す波動だった。高純度の結晶はオレンジ色に光を発し、その音も大きいのだが、それが辺り一帯に響いている。廃墟と化した街の中、まるで森の木々のように多数のAO結晶が聳えたち、妖しく光を発し、合唱するかのように低音を響かせていた。
換金したら幾らになるか、などと考える者は誰もいない。エンダーズの姿も、当然ながら住民の姿も無かった。
《こちらアルマン、全員聞こえるか?》
《……1番機、聞こえる》
《2番機、感度良好》
《…………3番機は?》
「……ウス」
再び深呼吸して心を鎮めるエミ。レビンは拳を握り締め、周囲の光景を見ていた。
《クレイドルの駆動音が接近!》
ヒルデが叫ぶ。地下の物音を聞きつけたのか、警備隊が近づいているようだ。
エミは事前に命令されていた通り行動した。
「3番機、デコイ展開」
クレイドルの貨物ラックからプラスチックの箱を取り、地面へ放り投げた。全部で4つ、アトランティスから買った品だ。
「起動します!」
レビンが手をかざした。ケースの上面が開き、露わになったローターが回転し、小型のドローンと化す。
宙に浮き上がったそれらの下部からスピーカーが現れ、けたたましい機械音を発した。クレイドルのブースト音だ。
そのままAO結晶の合間を縫うように四方へ飛び去るドローン。それらに陽動を任せ、一行は前進した。目指すは中枢施設だが、その前にまだやることがある。
《暗視装置があるとはいえ、結晶だらけで視界が悪いわ。はぐれないようにね》
《さっきボクがサーチした範囲だけで、崩壊前のアメイジアが6年かけて消費する量があった。こんなことって……》
《……レビンは何か知っているのか?》
メイガスたちもジュリーを除き、異様な空気に息を呑んでいた。
暗視装置越しに見える結晶の森を一瞥し、レビンは口を開いた。
「私は……ここへ来たことがある……!」
「……いつ?」
「分かりません。ですが……ユナイター、あれを!」
相棒の指先を目で追うと、そこにあったのは1つの巨大な結晶。ただそれだけに見えたが、観察力のあるエミはすぐ違和感に気づいた。
結晶から突き出ている物があったのだ。それは結晶のサイズからすれば小さな物だったが、AO結晶から生える物体としては明らかに異常だった。
《前方上空、監視ドローン!》
《よし。ジュリー、ハレルヤ、オーバーライドを頼む!》
アルマンは予定通り作戦を進行していた。監視ドローンを通じてネストのセキュリティへ侵入するのだ。アトランティスから直接アクセスできなかったハレルヤも、ジュリーがここにいれば彼女を経由して侵入できる。
しかしエミは機体を前進させ、彼に詰め寄った。
「オッサン! AO結晶から人間の手が生えてるんスけど!」
《……こっちには顔もあるぞ》
ジンも近くの結晶を指差した。苦悶の表情も生々しい、子供の顔。たまたま結晶の形や模様が顔に見えるという訳ではない。肉と肌のある本物の人体だった。その皮膚にさえごく細かな結晶が生えている。
ヒルデも口を抑えて息を飲んだ。
《教えろよ、オッサン。何なんだよ、コレは!》
散々地獄を見てきたシェーフォンさえ、声を荒げた。
かと言って、アルマンもまた平静を保っているとは言い難かった。
《……旧アメイジア時代に構想されていた、AO結晶人工生成。崩壊事故の後、ヒュウガという科学者が実現した。口減しも兼ねた、最悪の方法でな》
《つまり人間を材料に結晶を作るってのか?》
《そんなことが……!?》
そんなことが可能である、という事実を、目の前の光景が証明していた。そして必死で心を落ち着けるエミは、あることに思い至った。アメイジア崩壊後、このネストの拡張・開拓のため移住者を呼び込んでいた件だ。
「じゃあ移住キャンペーンは最初からコレが目的だったんスか!?」
《ああ。AO結晶を育てる畑、その肥やしを集める……権力者共が手前勝手な理由で『エネルギーの無駄』と判断した人間を、エネルギー源にリサイクルしようという企みだ!》
アルマンの声もまた、怒りに震えていた。そのお陰で社会不適合者たちは冷静になれたかもしれない。少なくともこの状況に怒りを感じるという意味で、アルマンは自分たちの味方だと判断できた。
《つまり移住キャンペーンやってた暫定政府と協会もグルってことか》
《そうだ。今ここを守っているのはサンジョベーゼだが、奴らだけでこんな真似はできん》
《協会が……そんなことが……! そんな組織に仕えていたのか、私は……!?》
《ボクの……前のユナイターも、そんな奴らのために死んだの……!?》
ヒルデとタンヤンの嘆きが、波動音の中で小さく響く。
《どの組織も一枚岩ではないから、組織全体が関わっているわけではないがな》
《オーバーライド完了!》
ジュリーが報告した。上空で停止していたドローンが反転し、引き返して行く。監視装置の類を掌握したのだ。
《これで監視ドローン、監視カメラは私の制御下。ハレルヤ、そっちは?》
《防壁のオーバーライドも完了。ゲートオープン、エンダーズ様御一行いらっしゃーい!》
ネスト内にサイレンが鳴り響いた。彼らが見つかったわけではない、防壁のゲートが1つ開け放たれたのだ。ネストの外に集っていたエンダーズはかなりの数が雪崩れ込んでくるはずだ。
これで大半の警備部隊が大慌てで迎撃に向かう。その隙に中枢施設を叩く、そういう作戦だ。
「……ユナイター。このネストを破壊すべきです」
レビンがエミをじっと見据えた。相変わらず拳を握り締めているが、錯乱しているわけでも無いし、怯えているようにも見えない。ただ強い決意を人工の瞳に宿している、少なくともエミにはそう思えた。
「そうしなければならないという、強い感覚があるんです。誰のためかは分からないけれど、私は……」
「誰かのためじゃなくたって構うもんか。ねぇ、オッサン!」
《監督官だ》
いつものように返すアルマン。
「あーしらがやることは変わらないんスよね!? 中枢施設でデータを奪って爆破してずらかる!」
《そうだ。ただし実際には施設だけでなく、ネストを丸ごと破壊する。詳しくは施設到達後に話す》
《……面白くなってきやがった。隻眼の神よ、ご照覧あれ》
再び前進を始めるアルマンに、最もイカレているジンが真っ先に追従した。
《……やはり、君を理解するのは難しいな》
《ヒルデ。お前が嫌ならクレイドルはやるから帰れ。俺は徒歩で行く》
《馬鹿にするな。契約者を置いて行く不名誉は二度と犯さない》
《そうか。悪かった》
ヒルデも覚悟を決めたようだ。そしてシェーフォンとタンヤンも後を追う。
《チャラチャラと自己中に生きたいと思ってたけど、案外難しいな。このネストの人たちは赤の他人なのに、やっぱり『義憤』ってのは感じるもんだね》
《……今から何とかなることを何とかしよう、ユナイター》
《そうだね。このネストはもう無理だけど、他のネストは助けられるかもしれない》
そしてエミも、相棒へ拳を突き出した。
「一緒にぶっ壊そう。堅き心の一徹は石に矢の立つためし有り」
「はい、ユナイター。石に立つ矢のためし有り」
拳をぶつけ合い、ドリフターとメイガスは進軍する。
全員を引き連れるアルマンは、ジュリーの微笑みを横目に見ると、社会のゴミたちへ向けて小さく呟いた。
《……感謝するぞ、貴様ら》
……エンダーズは地上にいる者共通の脅威だ。そんな時勢でも争いを止められない人間の愚かさはさて置き、ネスト内の警備部隊は大半がゲートへ防衛に向かった。
当然ながら、中枢施設の司令部は上を下への大騒ぎだった。寝ようとしていた人員も叩き起こされ、全力で対処に当たる。
「早くゲートを閉めろ!」
「プログラムが書き換えられて、攻性防壁までしかけられています! 無理に閉めたらここの機材が焼かれます!」
「マローダーは可能な限り防御砲塔に任せ、クレイドルは小型エンダーズを排除せよ!」
「予備戦力、配置に着きました!」
モニターやコンピューターの前で、オペレーターたちが指示を飛ばす。その様子を一瞥し、金髪の青年が側近を顧みた。
「侵入者について報告は?」
「ショッピングモール地下から異常な振動を検知した、という報告以降、まだ何もありません」
都市型の迷彩服を着込んだ女性型メイガスは、凛々しい口調で答えた。本当に侵入者がいるのかは分からないが、ネスト内部からハッキングされた可能性が高いようだ。監視カメラやドローンの制御も奪われた以上、敵の行動を探知する手段は少ない。そしてエンダーズへの対処もしないわけにはいかない。
「クソ、俺たちが使っている地下道がバレたのか?」
「その可能性は低いですが、何らかの方法で地下から侵入したと思われます」
「何にせよ、そいつらを始末しないことには収まらん」
怒りを滲ませながら、彼はオペレーターの肩を掴んだ。怯えたような表情で振り向く相手に、彼は毅然として告げる。
「スキッソールを出せ。侵入者の捜索と対処に当たらせろ」
「あ、あれは重要機密です。ヒュウガ博士とお父上の許可が……」
「非常事態だ! こういう時のための秘密兵器だろうが。責任はお前じゃなくて俺が取る」
「……了解しました。EECスキッソール、出撃要請!」
青年は再びメイガスを顧みて、着いてくるよう顎で指示した。メイガスは従順に応じ、2人並んで司令部を出る。
「親衛隊を招集しますか?」
「そうだ。侵入者共の狙いはおそらくここの中枢だろう。我々で守りを固める」
「承知しました、ユナイター」
戦力の大半はエンダーズの迎撃に向かっても、中枢施設付近で歩哨に立つクレイドルは残っていた。
ジュリエッタアンバーと呼ばれる機種だ。がっしりとした無骨なフォルム、特徴的な半透明の角型アンテナと、如何にも強そうなイメージの機体である。実際に対クレイドル戦に特化した機体だが、それ故に積載量等作業機械としての性能が低く、潰しの効かない不人気機種だ。
「ったく、何が起きてるんだ? こんなこと初めてだぞ」
悪態を吐きながら、サンジョベーゼのドリフターは眠気覚ましの薬を飲んだ。そろそろ歩哨の交代時刻だったのに、交代要員が防衛に駆り出されてしまった。お陰で当分はクレイドルから降りられない。
《仕方ねぇだろ、俺たちがエンダーズの大群とやり合うよりゃマシだ》
近くに立つ同僚が宥める。アンバーの貧弱な積載スペースには大型の通信機が搭載され、高密度AO波の中でも会話はできる。
ただし、会話が楽しいかは保証されない。
「チッ……あーあ」
だらけた声を出しながらも、クレイドルのサーチライトで警戒は続ける。死にたくないからだ。
周囲にはまだ、ゲートへ向かう仲間たちのブースト音が響いていた。
「重要拠点に配備されてるんだから、メイガスも汎用型じゃなくてゼロ型の可愛いヤツでも支給してくれりゃいいのに。少しはやる気が出る」
《ゼロ型は契約者に離叛を促したヤツがいたから禁止って、言われただろうが》
「それメイガスのせいじゃなくて、単に待遇悪かったせいじゃねーの? こんなドエライ計画を守ってるんだから、もっと贅沢させてくれてもバチは当たらねーって」
目の前に並ぶ大量のAO結晶を見て、男はた溜め息を吐く。それらが元人間だったことを思えば、彼らとて良心が痛まないわけでもない……が、考えないようにしていた。
《我慢しろ。ツェッペリーニ様が
「ああ。末代まで楽しく暮らせるくらいの見返りを頂きたいね」
《お前が末代だろ。金持ちになったらメイガスでハーレム作って子孫残さねぇだろうから》
「ヘッ、自分の女房子供を殺したヤツに言われたかねーな!」
《あいつが浮気しやがったんだよ! 証拠は無かったが、息子だってどうせ間男の種ーー》
ふいに仲間の言葉が途切れた。もしかして泣いてしまったか、向こうから吹っかけてきたとは言え、トラウマを刺激したのは悪かったかな……そう思った時だった。
「警告、2番機が撃破されました」
「は!?」
汎用型エンダーズの言葉に、慌てて愛機を振り向かせる。
サーチライトを浴びせると、倒れたアンバーの姿が浮かび上がった。機体に残っているのは実体弾の弾痕……銃声は聞こえなかったが、エンダーズの襲撃ではない。
「無線を司令室へ繋げ!」
メイガスに向けて叫んだ直後、急に視界が闇に包まれた。クレイドルのモニターが切れたのだ。
「おい、何だ!?」
「ハッキングを検知。警告、ハッキング、ハッキング、ハッ、ハハハハハhahahaha」
刹那、弾丸の雨が装甲を叩いた。モニターが割れて飛散し、火花が散る。
男は何が起きたのかは理解できなかった。しかし最期の瞬間、自分が末代になったことは認識した。
大破する敵クレイドルを確認しつつ、アルマンは弾倉を交換した。管理職となって以降もシミュレーターによる訓練や体力トレーニングを続けており、その操縦技能はブランクを感じさせない。
「敵クレイドル、撃破」
「よし、前進だ。貨物リフトを目指す」
夜間の上に大量のAO結晶が遮蔽物となり、ゲートへ向かうクレイドルの駆動音でこちらの音も聞こえにくい。監視ドローンも掌握した今、隠密行動も容易かった。
「……全く、大したものだ」
目的地へ歩を進めつつ、傍にいるジュリーに呟く。ホログラムのジュリーはレビンと同様、彼にのみ素顔が見える設定にしていた。大破したアンバー2機を尻目に「そうね」と応じる。
「弾は普通のなのに、本当に大した静音性よ。重いのだけが欠点ね」
「銃ではない。君の新しい力……バジリスクと言ったか」
《でしょ。RPGで言うなら、後衛の魔法使いみたいな感じね》
得意げに話すハレルヤ。彼女の協力でジュリーのメイガスシステムはアップグレードされていた。
敵の解析を瞬時に行えるだけでなく、戦闘中に敵クレイドルのシステムを遠隔ハックし、ウィルスをアップロードして動作不良を引き起こせる。その気になればコフィン内のメイガスのシナプスに過負荷をかけ『焼き殺す』ことも可能だ。
アップロードにはいくらか時間を要するため、ハレルヤの言葉通り『後衛の魔法使い』的な運用にはなるが、対クレイドル戦では強力な武器となる。
「そうね。今までメイガスやクレイドルをハックするには直接触れるか、予めバックドアを設置しておく必要があったけど」
《これからは睨めば相手が倒れる。だからバジリスク!》
視線だけで命を奪う伝説上の怪物。しかしアルマンを見つめる瞳はどこまでも優しげだ。
「……こんな時に言うのも何だけど、ユナイター。貴方やっぱりクレイドルに乗ってる方が似合ってるわよ」
「管理職も板についてきたと思っていたがな」
思えば管理職になろうとした時が、ジュリーと初めて喧嘩した時だった。それほどまでに当時は不向きと思われていたし、ジュリーからすればそもそも動機に問題があった。
もっとも、今は過去を懐かしんでいる場合ではない。
「ハレルヤ、北部ゲートの状況は?」
《警備部隊が防御陣地でエンダーズを食い止めてる。ちゃんとこういう場合の訓練はしてたんだね》
「ゲートは開いたままか?」
《うん。相手のハッカーが必死で閉めようとしてるけど、あたしが仕掛けた罠には気づいてない。閉めたら今度は西部ゲートが開く仕組みにしちゃった》
タチの悪さで言えば、ジュリーも妹に敵わないようだ。
「よし。このまま貨物リフトを奪って屋上の着陸パッドを制圧し、輸送機を確保……」
「待って。駆動音が近づいてくるわ!」
ジュリーが言った直後、アルマンの耳にも聞こえた。知っているクレイドルのそれとは違う、かなり甲高いブースト音だ。
《何かヤバげなクレイドルが真っ直ぐそっち向かってるよ! 凄いスピード!》
ハレルヤも叫んだ。
結晶の影に身を隠せ。そう命じようとした瞬間、不意にブースト音が止んだ。
《避けてーッ!》
金切り声の直後、重い衝撃音が響く。
即座に振り向くと、エミが辛うじて敵機の攻撃を回避した所だった。レビンの警告のおかげで。
そして敵は、すぐ近くにいた。
果たしてそれはクレイドルなのか。暗視装置越しのため色は判然としない。
鋭角で構成されたボディの両脇にはチューブが露出し、前方に迫り出したコクピットには逆三角形のカメラアイが光っている。背中に半球型のコフィンらしき物を備えてはいた。
右肩には小型のガトリング砲、両腕には幅広のブレード。多目的チェーンソーや掘削機の類は見当たらない。
最も異様なのはその下半身。細く長い脚の、四足歩行型だったのだ。
《何コイツ!?》
《エンダーズ反応があるぞ! 寄生型か!?》
タンヤンとヒルデが叫ぶ。対エンダーズ型システムのヒルデの分析とは言え、表面にコアが浮き出ている様子も無く、寄生型エンダーズには見えなかった。
いずれにせよ敵は2つのサーチライトでアルマン機を照らし、急接近してくる。
「排除しろ!」
アルマンは即座に発砲。サプレッサー構造の重心から、空気の抜けるような音と共に弾丸が吐き出される。
しかしその瞬間、四脚クレイドルはその昆虫じみた細長い脚を伸縮させ、跳躍した。周囲の巨大な結晶を軽く超える高さまで上昇し、コフィン側面に並んだスラスターで姿勢を制御する。
刹那、肩に備えられたガトリング砲が火を吹いた。
「チィッ!」
空中からの攻撃だったが、アルマンはAO結晶の間を縫うように機動して凌いだ。数発被弾したが辛うじてコフィンは避け、入射角が浅いため致命傷にはなっていない。
《ワタリガラスよ、導き給え!》
ジンが敵の着地点を狙って発砲。しかし相手は寸前でスラスターを吹かし、狙いとややズレた場所に着地した。そのまま間髪入れずにAO結晶の陰から陰へと移動する。
《この動き、本当にクレイドルか!?》
《戦っちゃ駄目! 逃げてください!》
悲鳴を上げたのはレビンだった。いつもの様子とは明らかに違う必死の叫び……彼女は明らかにこのクレイドルを知っていた。
《この機体には勝てません! 逃げて!》
《逃げたいけど機動性が違いすぎるよコイツ!?》
エミの言う通り、クレイドルらしからぬ異様な動きだった。計4つの銃口に狙われながらも、時に身を捻り、時に高く跳躍し、宙返りなどのアクロバットで回避する。
単に脚とスラスターの数が多いだけではない、今まで見たことの無い技術が注ぎ込まれているのは明白だ。
「ジュリー、ハックできるか!?」
「やってるけど、普通のクレイドルとはシステムの構造が……ハレルヤ!」
《ええっと、これがこうで……コイツ、コフィンに入ってるのメイガスじゃないのかも……!?》
その時、また敵のブースト音が止んだ。
《オッサン! バックしろ!》
シェーフォンの声が辛うじて間に合った。反射的にアルマンがバックステップを取ると、背後から跳躍攻撃を仕掛けてきた敵が頭上を通り過ぎた。
鋭利なブレードが空を切り、そこへシェーフォンが突撃しながら発砲する。
数発は命中したかも知れない。しかし相手を止めるには至らない。
あたかも獣のように左右へステップを踏み、次の瞬間には眼前まで跳躍してきた。
「ウー!」
“追命鬼”シェーフォン・ウー、『最強のドリフター』。彼だからこそ対応できた。左右のブレードでフェイントもかけながらの攻撃だったが、それを全て左腕のチェーンソー1つで弾き、捌き切ったのだ。
が、敵の動きはさらに予想を超えていた。
4つの脚のうち1本のみを支点に、まるでコンパスで半円を描くようにシェーフォンの背後を取ったのだ。
「……!」
シェーフォンは反応できた。
しかしクレイドルがそれに追従できず……
ブレードが彼の機体を切り裂いた。
お読みいただきありがとうございます。
今回出てきた敵クレイドルは攻略サイトでアイディアを頂いた敵で、ちなみにスキッソールという名は古代ローマの切断闘士から取りました。
二刀流だからディマカイルスかなとも思ったのですが、他のゲームとかで結構使われている名前のようなのでスキッソールに変更した次第です。