SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド- 作:空き缶号
「シェーフォンさんが!」
必死でジグザグに機動しつつ、エミは信じられない光景に息を飲んだ。『最強のドリフター』の機体が上下真っ二つに切り裂かれたのだ。
シェーフォンは避けきれないと悟ったのか、寸前に跳躍に移っていた。そのため敵のブレードは操縦席や動力部より下、コフィンの下部と腰に直撃した。
そのため機体が爆発することは無く、あの位置ならシェーフォンもタンヤンも無事な可能性は高いが、まだ確かめている余裕は無い。
「レビンちゃん! あんたアイツを知ってるんでしょ!?」
藁にも縋る思いで、傍らの相棒に向けて叫ぶ。
その間にも布を裂くような音でガトリング砲が放たれ、かつて人だった結晶を盾に何とか身をかわす。
「何か思い出せることは無い!? 何でもいいから!」
契約者の問いに、レビンは震えながらも必死で記憶を辿っていた。
ずっと思い出すことを拒否していた、前の契約者の記憶。理想と信念のために生き、このクレイドルに殺された、愛しき人の。
《エミちゃん、そっち行ったぞ!》
「くそっ、死んでたまるかァ!」
幅広のブレードが、獣の口吻のようなコクピットが間近に迫る。しかしエミは持ち前の反射神経で斬撃を回避した。
即座にジンとアルマンが援護射撃を行い、追撃を阻止する。
レビンはその、逆三角形のカメラアイが輝くコクピットに、ハッと目を見開く。
「……操縦席!」
「え!?」
「ジュリーさん、ハレルヤさん! あの機体のメイガスはコフィンじゃなくて、コクピットに乗っています! メイガスが操縦しているんです!」
突然の言葉だったが、ジュリーとハレルヤにはヒントになった。
《コクピット……そうか、メイガスが操縦する前提のOSだから……!》
《うわ、本当だ! よーし、操縦士を潰してやる!》
考えてみれば理に適ったことである。あれだけの機動力がある機体なら、メイガスの方がGに耐えられる。それにクレイドルの操縦がイメージコントロールである以上、人体と大きく異なる四足歩行型を人間が操縦するのは困難だろう。
《総員時間を稼げ! 接近戦に持ち込ませるな! 相互支援を行い標的を絞らせるな!》
敵は相変わらず圧倒的な機動力で攻撃を仕掛けてくる。死間近にあることを肌で感じながらも、エミはアルマンの指示通り、とにかく相手を近づけないよう努めた。
レビンのお陰で初撃を回避でき、直感的に気づいた。こいつの攻撃は基本的に初見殺しだ。現にシェーフォンなら数手は応戦できた。
自分には彼ほどの技量は無いし、仮にあってもクレイドルの性能を超えることはできない。となれば相手の土俵である接近戦を、全力で避けるしかない。
「ユナイター、左です!」
「ッ!」
敵のブレードはトムガーディアンの左腕を掠め、近くのAO結晶を切断した。見てから回避では間に合わない。レビンのサポートも含め、全感覚を動員して反射神経を頼りに回避する。
接近戦でのそうした瞬時の判断は得意だ。サンジョベーゼ構成員の喉を掻っ切ったことも何度かある。ただし生身でなら。
《ブリーチプロトコル完了! お姉ちゃん!》
《シナプス焼却、アップロード開始! みんな、後1分耐えて!》
1分。この強敵相手には長い時間だ。
しかし敵の動きを見ている内に、レビンはあることに気づいた。
「ユナイター! あの機体も、こちらと違い暗視装置がありません。だから……!」
「! そうか!」
エミは即座に銃を構えた。クレイドルの左手を銃身下部、小型ランチャーのトリガーにかける。
「
直後、敵機のガトリング砲がアルマン機の下半身に命中した。脚部の装甲が弾け飛び、トムガーディアンは膝を着く。
しかし同時に、小さな発砲音と共にグレネードが射出された。AO結晶に当たって跳ね返ったそれは空中で展開し、甲高い音波を発した。
対メイガス音波擲弾。人間には猛烈に耳障りな程度で済むが、メイガスの聴覚には凄まじい刺激となる。撃つ前に警告したため味方のメイガスに被害は無い。事前に周波数を知っていたため、その音域をフィルタリングして聞こえないようにすれば良いのだ。
だがサーチライトと聴覚を頼りに戦っていた、敵機のパイロットメイガスには強烈な攻撃となった。一瞬とはいえ前後不覚になったかもしれない。アルマンを追撃しようとした動きが止まり、そこへエミとジンが追い打ちをかける。
《マルチシュート、撃て!》
《了解! マルチシュート!》
ヒルデの放ったエネルギー弾が敵を捉えた。1発はコフィンに命中したが、敵は腕を後ろへ回してブレードを盾に凌ぐ。その状態で4本の脚を稼働させ、何とか移動しようと試みた。
その脚をさらに銃撃されるが、それでもスラスターから青い排気炎を放って跳躍する。空中からサーチライトの光がジンを捉えた。高速回転するガトリング砲の砲身……しかしそこから放たれた弾はジンの機体に当たることは無かった。
《……完了!》
空中で突如姿勢を崩した四脚クレイドル。闇の中に曳光弾の光が飛散し、機体は落下していく。
鈍い音と共に、異形の機体はAO結晶に突っ込んだ。そのまま四本の脚は硬直して動かない。
エミが喉まで出かかった「やったか?」という言葉を飲み込んだ時、敵機のハッチが開いた。異様な光景だ、這い出してきたパイロットは全身から火花を散らし、やがて全身を痙攣させて倒れ込んだのだから。
ボディスーツ姿のメイガス、恐らくは女性型だ。ハッキングによって神経系を焼かれたのである。
「……そうだ、シェーフォンさんは!?」
一瞬同情が湧きそうになったのは、そのメイガスの風貌がどことなくレビンと似ていたからだ。しかしすぐに、味方の救助を優先すべきだと思い出した。
「あそこです! ウーさんは脱出に成功しています!」
レビンが指差す先に、仰向けに倒れたシェーフォン機の上半身と、その前で手を振るシェーフォンが見えた。彼は操縦席から脱出できたようだが、身振り手振りでクレイドルを起こしてくれと訴えている。仰向けに倒れたせいでタンヤンがコフィンから出られないのだ。
《別の駆動音が接近している! 今度は通常のクレイドルの音だ!》
ヒルデが叫んだ。これだけ暴れれば他の敵も寄ってくるだろう。
《サイカは残っているデコイを出し、ウー機の救助に当たれ! カフカは周囲を警戒! ジュリー、リペアを頼む!》
アルマンの指示で、すぐさま残っているドローンを地面に放り出し、レビンに起動させる。どうにか戦闘中に破損しておらず、再びクレイドルのブースト音を発しながら飛んで行った。
次いでシェーフォン機へ近づき、仰向けに倒れた上半身に手をかける。いつも乗っているジャックボックスでは苦労したかもしれないが、今は出力の高いトムガーディアンなので苦もなくひっくり返すことができた。
コフィンの下部が損傷しているが、ハッチは無事に開いてタンヤンが身を起こした。しかし動きがぎこちなく、よく見ると左足に破片が突き刺さっていた。
「怪我してる」
「大丈夫、軽傷ですよ」
即座にシェーフォンが駆け寄って、タンヤンの傷を確認した。しかしここにいては危険だ。周囲でクレイドルのサーチライトも見える。デコイドローンを追っているようだが、こちらに気づいてもおかしくない距離だ。
《よし、進むぞ! 中枢施設の貨物リフトだ!》
アルマンも機体の修復が終わったらしい。修復ナノマシンによる現地でのリペア、これが無くては地上探索は困難だ。見ると脚部の装甲は完全に直ってはいないが、内部機構は修復され、歩行に支障は無いようだ。
トムガーディアンの腕にシェーフォンとタンヤンをしがみつかせ、2人を抱きかかえるようにして後を追った。シェーフォン機の銃も回収してラックに積んでいる。アトランティスが関わっていると知られない方が良いと判断したためだ。
「……ユナイター」
振り向くと、レビンはそわそわした様子でこちらを見ていた。不安そうな瞳で。
「何か、言ってください」
「……『何か』。これでいい?」
その答えを聞いて、レビンはふっと笑い、続いて安堵の息を吐いた。
「……よかった。また失わずに済んで」
中枢施設は巨大なビルで、屋上がVTOL機の発着場となっている。天蓋に輸送機が通れるサイズのダクトがあり、必要があればそれを通じて空路でネストから出入りできるのだ。無論飛行機は目立つため、ネスト77の真相が世間に知られぬよう、サンジョベーゼの構成員は普段地下道を使っているようだが。
そしてビルの外部には、屋上へ重量物を運ぶためのエレベーターがある。当然ながら警備部隊は残っており、遠隔操作式のタレットの他、APKと呼ばれる強力な武器を装備したクレイドルも配備されていた。
が、彼らはその威力を発揮することはできなかった。敵影を感知したと思った瞬間、いきなりタレットが自分たちに向けて火を吹き、自慢のAPK兵装も突然弾詰まりを起こしたのだから。
「……なんかもう、ジュリーさんのソレ反則じゃないッスか?」
抵抗力を削がれた敵クレイドルを銃撃して片付け、エミは思わずツッコミを入れた。ハレルヤの言った通り「睨めば相手が倒れる」バジリスクの効果は抜群だった。いかなる装備の格差も打ち破ってしまうデウス・エクス・マキナにさえ見える。というか、こんな危ないプログラムを作れる奴が隣に住んでいたのか。
リフトには対物クレイドル武器を持った歩兵もいたが、愛機を失ったシェーフォンが生身で片付けてしまった。
《確かにバジリスクが無ければここまでスムーズには行かなかったけど、私のリソースも無限じゃないわ》
《ジュリー、オーバーヒートは大丈夫か?》
《平気よ、ユナイター。ハレルヤが手伝ってくれてる分負担も少ないし。とにかく屋上へ行かないと》
全員が機体をリフトへ乗せ、ジュリーが降りて制御盤を操作する。同時にそのアクセスポイントから、ハレルヤが中枢施設内のネットに潜り込んだ。ハッキングで敵味方の識別を書き換えたタレットが周囲を見張ってくれる。
シェーフォンは怪我をしたタンヤンを横たえて、脚に刺さった破片を取り除いていた。流れ出る白い人工血液を拭き取り、持ち出した救急キットの包帯を巻く。
「ユナイター、大丈夫だよ。血は自分で止められるし、包帯が勿体ないよ」
「傷口にゴミや埃が入ったら嫌だろ。ちゃんと処置しとかないと」
殺し合いの最中でも、仲間、特に相棒へ向ける言葉は優しい。例えこのネストの惨状に、内心では相当凶暴になっている今でも、タンヤンへの思いやりだけは変わらなかった。タンヤンの顔はヘルメットマスクのせいで見えないが、小さく「嬉しいよ」と呟いた。
《しかしあの四脚クレイドルは何だったのか。フィベリオ……内通者からの情報にもあれは無かった》
「……あの機体の存在は極秘でしたから。知っているのは幹部でも極一部だけ」
アルマンの疑問にレビンが答えた。錯乱している様子は無いが、声は微かに震えていた。
「レビンちゃん、大丈夫?」
「平気ですよ、ありがとうございます。皆さんが無事でホッとしてます」
《……レビン、知っていることがあるなら教えて欲しい》
《あの機体からはエンダーズ反応があった。一体何なのだ?》
ヒルデも意を決して尋ねる。単に強敵だったというだけではない、得体の知れない不気味さを感じるクレイドルだった。
「EEC……エンダー・エンジン・クレイドル。クレイドルの動力及びメイガスを、活動状態のエンダーズに置き換えた機体です」
震える声での、しかしハッキリとした説明だったが、周囲の反応は数秒遅れた。
「……つまり、あいつのコフィンの中にはメイガスじゃなくて、エンダーズが詰め込まれてるってこと?」
「はい」
《そんなことが……可能なのか!?》
《人間をAO結晶にするような連中だぞ。もうタイムマシンでも出て来なけりゃ驚かねーな、俺は》
驚愕するヒルデに対し、ジンが冷静に返した。アルマンも驚きはしたものの、彼と同意見だった。
《うむ。奴らの研究からすると不思議ではない。AO結晶もエンダーズも青い雨に由来する存在だからな》
「はい。エンダーズはAO波に敏感だから、それを利用したセンサーも備わっています。このようなAO波に満ちた場所をクレイドルが通ると、その部分には穴が空いたように見えるんです」
「あーしらの位置がバレたのはそのせいか」
あの機体の薄気味悪さも納得だ。動きが単に素早いだけでなく、生物的すぎたのだ。エミとしては丁度、地上で初めてエンダーズを見た時の感覚に似ていた。
そうこうしている間に、ジュリーがリフトを上昇させた。結局敵の追撃は無い。丁度敵のハッカーが北門を閉じたところ、ハレルヤの罠が作動して西門が開いてしまい、入り込んだエンダーズの処理で手一杯らしい。
「……レビンちゃん、そこまで知ってるってことは」
相棒の正体……仏教的に言うなら『前世』とでも表現できるだろうか。サンジョベーゼも元はアトランティスのそれと同じく、アメイジアの全体主義に反発したイタリア系の互助組織だ。レビンの以前の契約者も恐らくイタリアと縁があり、尚且つこの計画を知っていたとなれば。
「……ユナイター」
レビンは少し不安げに、今の契約者を見つめた。
「以前の私が何者であっても、貴女の“レビン”でいさせてくれますか……?」
「……ったり前でしょーが」
拳を突き出すエミ。元より相手が人間かメイガスかをあまり気にしていない。ただ好きか嫌いか、信頼できるか否か、彼女にとって重要なのはそれだけだ。
「あんたがそう望んでくれる限り、あーしの相棒だよ」
「ありがとうございます。それなら過去を思い出すのも、怖くありません」
2人は肉体とホログラムで、触れ合わない拳を突き合わせる。レビンの微笑みはいつも通り優しげだったが、どことなく力強く見えた。
………………
…………
……
「北部ゲートを閉じたら西部が開いた!? ふざけてるのかお前!」
青年は無線機に向けて怒鳴った。若年ながらリーダーシップを取れる男だが、流石にこのような事態では声を荒げたくもなる。
しかし頭を抱えながらも、すぐに冷静さを取り戻す。
「至急部隊をそちらへ急行させ、防衛戦を張れ。ゲートを可能な限り早く閉じろ。閉じたら今度は東が開いた、などということになったら流石に許さんぞ」
通信を切った後、招集した部下たちへ向き直る。当人含めてボディアーマーとヘルメットを着込み、室内戦向けに最新鋭のサブマシンガンと拳銃で武装している。本来なら暫定政府軍の特殊部隊か、協会の特殊作戦室にしか供給されていない銃だ。
全部で30人、1個小隊と言った所だ。
「ユナイター、連絡の途絶えていたスキッソールが見つかりました。機体の損傷は軽微ですが、パイロットメイガスが機能停止していると」
傍に立つメイガスが伝えた。彼女も同じように武装して、左腕に装着したウェアラブルコンピュータで状況を探っていた。
「どういう状態だ、それは?」
「詳細は不明です。現場には敵らしきトムガーディアンの1機の残骸があったと」
「仕留めたのは1機だけか? クソが」
悪態を吐きつつも、敵が相当な手練れであること、こちらの知らない手札を持っていることを把握した。外部への増援要請は迅速に行ったものの、敵に乗っ取られたドローンがアンテナへ特攻してきたため返答は得られていない。修理させてはいるが、一先ずは現有の戦力のみで対処するしかないだろう。
ましてや、この計画はファミリーの首領にも極秘である以上、増援が来るにしてもどの程度の兵力を動かせるか。
「これだけ発見に手間取るなら敵は少数だ。しかし1機ということは無いだろう」
「お待ちを。今、屋外の貨物リフトが動いているようです」
メイガスは味方から送られて来た映像を主人に見せた。屋上の警備部隊からのようで、サーチライトに照らされてトムガーディアン3機の姿が見えた。
青年が確認した直後、映像は途切れた。
「屋上警備隊から、交戦開始の連絡が」
「……屋上は放棄、撤退するように伝えろ。クレイドルを奪われないよう自爆させて、輸送機はそのまま残しておけ」
「了解」
「よろしいのですか? 敵の狙いは輸送機では……」
集められた戦闘員の1人が尋ねる。屋上は発着場になっており、制圧されれば当然輸送機を奪われ、取り逃しかねない。
しかし青年の考えは違った。
「ここまで大掛かりなことをやって、ただ飛んで逃げるだけと思うか? わざわざ屋上から侵入しようとするなら、狙いは26階のサーバールームだ。俺たちも今からそこへ向かって、生身でケリをつける。続け!」
青年は隊を率いて駆け出した。
当然ながら施設内までクレイドルが入って来れるわけが無い。機数からして、生身で乗り込んで来るならメイガス混みで6人、撃墜した機のドリフターが生きていたとしても8人だ。
十分に制圧できる数だし、EECスキッソールを倒すような化け物相手なら、生身の時を狙うべきだ。
「輸送機も破壊した方が良いのでは?」
「退路を完全に絶てば死に物狂いになって始末が悪い。逆に輸送機を逃走に使えるなら、見張りに何人か残すかもしれないだろ」
上手く行けば敵を分断できるかもしれない、というわけだ。
しかしその時、駆け上がろうとした階段が突然封鎖された。非常シャッターが勝手に降りたのだ。
「今度は何だ!?」
「お待ちを!」
メイガスは即座に、シャッター横のアクセスポイントにデバイスを接続した。そして目を見開く。
「敵のハッカーの仕業です! 施設内のシステムにまで潜入されています!」
「クソが! 解除できるか!?」
「できますが、物理的にシャッターを破った方が早いかと! プラズマカッターを!」
すぐさま工具を持った者が進み出て、シャッターを焼き切りにかかる。
そんな光景を、監視カメラ越しに盗み見ている者がいた。
………………
…………
……
「屋上の敵がクレイドルを爆破して撤退した」
《輸送機は?》
「無事。精鋭っぽいヤツらが上の階へ向かってるよ。生身で決着つけた方が早いと思ったみたいだね」
氷風呂に本体を浸し、ハレルヤの意思はサイバー空間から一行を見守っていた。ハックした監視カメラの映像が周囲に表示され、施設内の敵の動きを把握している。
そして各自の目出し帽やヘルメットマスクに装着されたカメラを通して、一行の様子も見ることができた。
《あーしは生身でも強いから大丈夫》
《オレはむしろ生身の方が強いよ》
《俺もだ。生身とはちょっと違うが》
能天気な会話をしながら、小隊は屋上へ到達した。
鎮座している2機の
《よし。あの四脚型には参ったが、それ以外は予定より早く進んでいるな》
《ええ、ハレルヤのお陰ね》
本来、アルマンとジュリーの立てた作戦はもっと隠密性を重視した慎重なものだった。このようなハッキングを多用した『ゴリ押し』とも言える作戦に変更されたのは、ハレルヤの協力を得られたためである。
「いやー、何にせよ並のドリフターとメイガスじゃとっくに死んでたよ。とりあえずビル内のシャッターとかタレットとかで敵の動きを封じるけど、アイツら物理的に突破してくるから急いでね」
《了解した》
3機のクレイドルはリフトを降り、輸送機の側で停止。足を損傷したタンヤンは上手く歩けないようで、シェーフォンに支えられていた。
そしてジンとヒルデを除き、全員がクレイドルを降りた。ここからは生身での勝負だ。
《では予定通り、カフカとヒルデはここで輸送機を死守しろ。リフトは動かないようにしたが、開いたゲートからゲイザーが入り込んでくる可能性もあるので注意せよ》
早口で説明し、アルマンはタンヤンに目を向けた。
《お前も怪我をしている。私のクレイドルを貸すから、ここでカフカたちを手伝え》
《……了解、です》
本当は契約者に着いていきたいんだろうな、とハレルヤは察した。しかしタンヤンらが初陣で契約者たちを危険に晒したことも聞いている。満足に歩けないまま着いて行っては同じことが起きるだろう。
《私とジュリー、ウーの3人でサーバールームへ向かい、データを奪う。サイカとレビンにはこれを託す!》
アルマンが持ってきたトランクを開いて見せると、社会不適合者とそのメイガスたちはどよめいた。今の時代はあまり使われないマークとはいえ、その爆弾に描かれているマークの意味は全員が知っていたようだ。
そう言えばエミには自分がハザードシンボルの意味を教えたんだっけ、と思い出すハレルヤ。
《それ、本物ですか!?》
《今時よく手に入ったね》
《私にも色々とコネがあってな》
短く答え、トランクをエミへ渡すアルマン。
《やることは分かっているな?》
《20階で地下動力炉行きのエレベーターに仕掛けて、後は地球の重力に任せりゃいいんスよね?》
《それで良い》
目出し帽で表情は見えないが、ハレルヤは2人の口調から緊張を検知した。命懸けの作戦だからか、人類史上最悪の兵器を手にしているからか、その両方か。
日系人であるエミの心境に興味はあったが、そんなことを訊いている場合ではない。
《けどいくら核爆弾でも、このサイズでネスト丸ごと逝くのは無理じゃないッスか?》
《詳しく話している時間が無い。騙されたと思ってやってくれ!》
「ぶほっ!」
ハレルヤは吹き出した。自分もたまに使う言い回しだが、まさか『騙されたと思って』核爆弾を仕掛けてこいなどという無茶苦茶なセリフを聞く日が来ようとは。
それはエミも同じだったようで、半笑いで「了解ッス!」と答えてトランクを受け取った。
《よし、突入する!》
アルマンの号令一下、5人は駆け出した。だがその直前、シェーフォンが着ていたジャケットを脱ぎ、タンヤンへ放るのが見えた。
《羽織ってなよ、寒いから!》
そう言ってアルマンに続く彼の姿はタンクトップ1枚。どう見てもメイガス用のインナーより寒そうだ。
「面白っ、この人たち。……29階、28階にいる警備はタレットでほとんど殺ったけど、死角に隠れてるかもしれないから気をつけてね」
またしても笑いそうになったハレルヤだが、気を取り直して真面目にナビゲートを始めた。
彼女は生まれた直後に故郷であるアメイジアを失い、アトランティスへ流れ着いた。そしてエミを含む地元民と助け合い、契約者のいないメイガスとして、三原則から逸脱して生きてきた。
強いて言うなら、自分のユナイターはアトランティス・ネストそのものだと、ハレルヤは考えている。だから姉やアルマンから話を聞き、この作戦に協力することを決めたのだ。下手をすればアトランティス住民全員の命に関わる、重大な作戦なのだと。
お読みいただきありがとうございます。
ちなみにスキッソールの出番はこれで終わりではありません、流石に。
ようやく出てきた強敵だし。
ここ何日か筆が進まなかったのですが、気を取り直して書いていきます。
進まなかった理由は……シンデュアリティ界隈の人に言ったら顰蹙買いそうだなー。