SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド-   作:空き缶号

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6.などて恐るる事やある などて猶予う事やある

 

 メイガスたちが調整を受ける一方で、社会のゴミたちの方はガレージの隅で休息を許されていた。ガレージには非人間的な外観の看守ロボットが配備されているが、メイガスほどの知能は無いし、不審な行動を検知するまではただ立っているだけだ。

 この更生プログラム自体、上層部の思いつきによって突貫工事で作られたため、収容所は古いガレージの流用で、警備もロボット主体なのである。

 

「……メイガスが3人ともエラー吐くって、偶然あることなんスか?」

「絶対違うね。みんな前から不具合を抱えていたんだ」

 

 塗料の缶を椅子、伏せた物資箱をテーブル代わりにして、3人は今回の任務を振り返っていた。もっとも、話題は専らメイガスたちの不具合の件だ。

 

 シェーフォンとジンは自分の窮地を脱した後に合流したが、2人はエミがやられたと判断して、主目的である積荷の回収を優先した。丁度レビンがエラー落ちを起こし、シグナルが消えていたためだ。その後、再起動したレビンのシグナルを掴んだため、救援に来たという流れだ。

 

「しかし何でまた、あんなエラーを……」

「決まってるだろ」

 

 ジンは憮然とした様子だ。今はまた目元以外に露出の無い状態に戻っているが、エミもシェーフォンも帰還したときに素顔を見ている。何なら、その腕、胴、脚、ほとんどが機械仕掛けだということも知った。

 

「俺らを体良く死なせるついでに、不良品の在庫処分もやっちまおうって魂胆だ」

「そういう意味じゃなくてさ。あのエラーはちょっと異常だ。しかも3人ともなんて」

 

 メイガスに最も詳しいのは、ドリフター暦の長いシェーフォンである。その彼からしても、今回の事態は経験の無いことだった。

 しかしエミには、思い当たる節があった。

 

「……地上へ出る前に、レビンちゃんが変なこと言ってたんスよ。『今度こそお守りします』って」

「今度こそ?」

「エラー落ちして再起動したときには、『私はまた守れないの?』って」

 

 それを聞いて、シェーフォンは得心がいったとばかりに数回頷いた。

 

「なるほど。多分だけど、前に契約結んでた人が死んじゃって、メイガスだけ保護されたんだ。で、協会は再利用するため初期化したけど、断片的に記憶が残っちゃって、それが原因でバグが生じている、と」

「……ヒルデも『ユナイターが呼んでいる』とか言って、コフィンから出ようとした。あれは……」

「前のユナイター、ってことだろうね。多分、タンヤンが見てた幻覚も」

 

 あくまでも予想でしかないが、考えられる中で最有力の説だろう。メイガスは極めて人間的なアンドロイドではあるが、所詮は電子頭脳で稼働しており、プログラムの植え付けや初期化で人格や記憶を変えてしまうこともできる。その一方で、普通のコンピューターと違い、全てが人間の思惑通りに動いてくれるとも限らない。

 

 3人のメイガスの外見が、レビンだけデフォルトのGrau型で、他2人は編集されていた理由も説明がつく。全員、前のユナイターがいたのだ。

 

「……アイツらみんな、大事な人を亡くしてた、ってことッスか」

 

 場に沈黙が流れた。兄を失ったエミだけでなく、他2人にも似たような経験はあるのかもしれない。

 

 

 その沈黙を破ったのは、施錠されたドアを開く音だった。入室してきたのはアルマンのメイガスだ。長身によく似合う優雅な足取りで、臆することなく社会不適合者たちに近づく。

 

「初めまして。私はジュリー。アルマン・デュカスのメイガスよ」

 

 簡潔だが友好的な自己紹介を聞いて、シェーフォンがエミの方を見た。

 

「……デュカスって誰だっけ?」

「監督官のオッサンスよ、確か」

「あれ、あのオッサンそんな名前だった? カフカさん覚えてる?」

「あー、確かにフランス系の名前だったことはギリ覚えてる。あとジンか“ピシュタラ”で構わねーよ、俺のことは」

「“ピシュタラ”の旦那はドコ系ッスか?」

「知るか。俺の親は世界がまともだった時代のことなんて、興味無かったからな」

「まあアメイジアは統一主義だったからねぇ。オレら中華系は元の数が多かったからまだ民族のアイデンティティ保ってるけど、もう風前の灯火だ」

「アトランティスはそういうの大事にしてる人が多いッスよ。民族性を失うのが嫌でアメイジアを捨てた人たちが作った街ッスから」

 

 マイペースな社会不適合者たちに苦笑しつつ、ジュリーは持ってきたビニール袋を卓上……もとい箱の上に置いた。

 

「そのフランス系のおっさんから差し入れよ。予想外のアクシデントもあったから、このくらい甘い顔をしてもいいだろう、ですって」

 

 エミが中を覗き込むと、入っているのはチョコレートだった。板チョコやヌガー入りのチョコバー、パック入りのドリンクタイプなどが詰め込まれている。それもゲロ味の戦闘糧食とは違い、それなりに質の良い品だ。

 

「それと貴方たちのメイガスだけど、3人ともデバッグは完了したわ。次回の出撃では問題ないはずよ」

「ふん、白々しい」

 

 ジンは忌々しげにジュリーを睨みつけた。

 

「あいつらが不具合抱えてることを知ってて寄越したんだろうが、あのオッサンは」

「いいえ。あの人も私も、知らされていなかった」

 

 毅然とした態度で反論するジュリー。レビンと比べてかなり大人の印象だなと、エミは思った。

 

「私のユナイターの名誉に関わることだから、ハッキリ言っておくわ。彼女たちの不具合について、上層部からは何の事前連絡もなかったの」

「まあ、そうだろうね」

 

 シェーフォンはジンと違い、アルマンがわざとやったとは思っていなかった。いけすかないオヤジには違いないが、何もかも決められるほど偉い立場ではないだろう。それにそもそも……。

 

「あのオッサンはメイガスを粗末には扱えないと思う。ドリフター上がりだろうから」

「……どうしてそう思うの?」

 

 シェーフォンの推測は、ジュリーの興味を惹いたらしい。

 

「例えば、オレが君をぶん殴ってボコボコにしたとするでしょ。協会のお偉いさんや事務員は大抵、それをメイガスへの『損壊』って言うんだよ。でもあのおっさんは『虐待』と言っていた。メイガスを物扱いしていない、つまりメイガスに背中預けて戦った経験がある人ってことじゃない?」

「なるほど。鋭い洞察力ね」

 

 事実上、推測が当たっていることを認める言葉だった。ドリフター振興協会とは言うが、ドリフターから管理職に転向する人間は限られているのだ。第一線を離れるドリフターは大抵、敵対組織に亡命する者か、手脚を何本か失った者か、ドリフターという単語そのものに嫌気が差したかである。デスクワークをやりたがる者はなかなかいない。

 

 会話を聞きながら、エミはすでにチョコバーに手を出していた。他のヤツに取られる前に食うのがストリートキッド流だ。チョコレートとヌガーの濃厚な味を堪能して飲み下し、そして挙手する。

 

「あーしからも質問、いいッスか?」

「どうぞ。答えられる範囲で答えるわ」

 

 受刑者相手でもにこやかに対応するジュリー。契約者とは随分と違うものだ。

 

「レビンちゃんたち、デバッグしたって言ってましたよね。でも、そんなチョチョイのチョイで直るとは思えないんスけど?」

「……そうね。再発の可能性があることは否定できないわ」

 

 正直に答えたのは、隠しても無駄という判断からだろう。簡単に修正できる不具合なら、そもそもあのような状態でここに送られてはいないはずだ。

 

「観察と定期的な調整が必要になる。それは私が最善を尽くすとしか言えないわね。仮に代わりのメイガスを要求しても、上層部が聞き入れる可能性はかなり低いわ」

「そうッスか。ま、あーしはレビンちゃんでいいッスけど」

 

 そう言って、エミはチラリと他2人を見る。あんたらはどうよ、という視線で。

 

「しょうがないんじゃない? タンヤンが廃棄処分にされちゃっても可哀想だし」

「まあいいさ。俺はいざとなりゃ、クレイドルもメイガスも無しで何とかなるから」

「……ありがとう。同じメイガスとして、感謝するわ」

 

 安堵した様子のジュリー。メイガスは自分がどんな扱いを受けるか、自分で決められない。その点は結局アンドロイドなのだ。

 

 他に質問は無いか問うジュリーに、3人は無いと答えた。エミは内心、「そのご立派なお胸は監督官の趣味なんスか?」と訊いてみようかと思ったが、自重した。

 

「それじゃ、失礼するわ。今日は本当にお疲れ様。これからも無事でいてね」

 

 最後まで優雅な立ち振る舞いで、ジュリーは退室していった。シェーフォンが「Lynn型か。良い趣味してるね」とぼやく。レビンたちとは役目が違うためか、社会のゴミたちに更生を促すようなことは言わなかった。

 すでにチョコレートを貪っているエミに続き、ジンが袋の中身を出し始めた。

 

「液体タイプのはもらうぞ。俺、固形物食えねーから」

 

 そう言うなり、ポップなイラストと字体で『チョコレートリキッド』と書かれたパックを手に取り、蓋を開ける。次いで服の襟元を少しずらし、人間で言うところの鎖骨に当たる金属フレームを露出させ、そこにある小さな穴にパックの中身を絞り出す。

 

「あぁ……美味ぇ」

「……それで味分かるんスか?」

「ある程度はな」

「生身の体どのくらい残ってんの?」

「脳ミソが半分だけ残ってる。顔はメイガスと同じアニマトロニクスだ」

「クレイドルひっくり返せるってホントッスか?」

「ああ。けど逮捕された後、体にリミッターかけられてな。地上にいる間だけ解除されるんだわ」

 

 特に遠慮せず質問する2人と、嫌がる様子も無く話すジン。共に窮地を脱したためか、今日だけで距離が縮まったらしい。さすがに何故そんな体になったのか、詳しく踏み込むことはなかったが。

 次いで、シェーフォンは残った固形チョコレートをちらりと見て、袋ごとエミに押し付けた。

 

「残りあげるよ」

「え、いいんスか!?」

「オレ、チョコ苦手なんだわ。それに今日、エミちゃんに助けられたし」

 

 微笑を浮かべながら言うシェーフォン。流石の彼も1対6では危なかったようで、エミが半分を引きつけてくれたことに感謝していた。

 

「生身でステゴロだったら、10人くらい余裕なんだけどね」

 

 おどけた口調で話すシェーフォンだが、エミはその言葉がハッタリではないと考えた。スラムのストリートで色々な人間を見て来たが、敵に回してはいけないタイプはピンとくる。シェーフォンは一見優男だが、身のこなしに隙はないし他人をよく見ている。富裕層出身のようだが、ただのボンボンではない。

 

「マジでエミちゃん頑張ったよ、今日。初陣で追い詰められて、現地で武器作って反撃とか、なかなかできることじゃないって」

「だな。天才少女じゃねーか」

「いやー、あーしも2人が来てくれなきゃ死んでたッスよ」

 

 改めて考えると、本当によく上手くいったものだ。即席クロスボウで撃ったグレネードがちゃんと命中したのは、レビンが弾道計算をしてくれたからだ。それでも敵の指揮官機に接近されたときは、一か八か多目的チェーンソーで格闘を挑むことも考えた。エミが助かったのは、仲間たちが人間離れしていたおかげと言っても良い。

 

 その時、ジンが空になったチョコレートのパックをエミに差し出した。

 

「捨てて来い」

「……は?」

 

 いきなりの傲慢な言葉に、エミは一瞬戸惑った。だが相手は素手でクレイドルをひっくり返すサイボーグ男であり、逆らっても得は無い。

 まあ助けてもらったし、とゴミを受け取ると、ジンはガレージの隅のゴミ箱を指差した。

 

「ゴミ箱の中、ちゃんと押し込んでおけよ。ちなみにあのゴミ箱、死角らしいぞ」

「……なるほど?」

 

 意図を察したエミは、自分が食べたチョコバーの包み紙も持ってゴミ箱へ向かった。

 

 金属製の蓋を開けて覗き込むと、ズダ袋が一つあった。ゴミ箱から出さずに中身を確認して、僅かに目を見開く。

 リボルバー拳銃、弾の入った小さなケース。そしてバタフライナイフ。ジンが盗賊から得た戦利品だ。

 

 エミはそれらを素早く取り出して、ジャケットの隠しポケットへ仕舞い込んだ。協会の安全管理がガバガバで、ジャケット自体が没収されなかったのが幸いだ。

 

 テーブル……もとい箱へ戻り、再び着席する。

 

「もらっていいんスか?」

「俺なりのリスペクトだ。お前に隻腕の軍神の加護があらんことを」

「……あざっす」

 

 ヴァイク教のことを、エミは少しだけ知っている。遥か昔の多神教が元で、簡単に言えば名誉の戦死を遂げた者だけが天国へ行けるという教義なのだとか。近年軍人やドリフター、無法者たちの間で信者が増えているらしいが、アメイジア暫定政府はテロを招きかねない危険思想として取り締まりを行っている。だからジンがここにいるわけだ。

 

 エミは神様の類をあまり信じている方ではなく、神よりも人に目を向けるのが、危ない橋を渡り切るコツだと考えている。だから故郷で仲間を見捨てたことは無いし、そうして得た信頼のお陰で、自分が危ないときには助けてもらえた。

 今日シェーフォンを助けに行ったのも、レビンに対しては合理的と思われる理由で説き伏せたが、エミなりのそうした哲学に依るところも大きい。

 

 その流儀で3年間生き延びられるか、それはまだ分からない。しかしどうあろうと自分を曲げる気は無いし、協会の思い通りにだけはならない。

 

 その気持ちは、さらに強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……その後、調整を終えたメイガスたちがガレージへ入り、クレイドルの整備を始めた。囚人らはすでに独房へ戻されており、言葉を交わすことはできなかった。そしてジュリーは妹たちの面倒を見るかのように、調整終了後も彼女たちに付き添っていた。

 

「ジュリーさん、ありがとうございます」

「整備まで手伝ってくれて……」

「いいのよ。こういうのは助け合うべきでしょ」

 

 恐縮するレビンとタンヤンに、ジュリーはにこやかに笑いかける。メイガスたちは手分けをして、効率よく機体各部の点検、注油、清掃、修復ナノマシンの投入などを行っていく。レビンら3人はまだ、自分のエラーのせいで契約者が死にかけたことを引きずっており、人間であればそうしたメンタルがミスを呼ぶことも多い。しかしアンドロイドであるメイガスは、『それはそれ』と切り替えて作業をこなせるのだ。

 

「本音を言うと、コレを見たかったのもあるわ」

 

 ジュリーが目をやったのは、エミが作ったクレイドル用クロスボウだった。壊れた銃やその他廃材を寄せ集め、即席で作った代物だ。使い続ければすぐにガタは来るだろうが、重要なのはその場で危機を凌げること。

 実際にグレネードをより遠くまで飛ばすことができ、メイガスの弾道計算能力による補助があれば、あの状況では有効な兵器だった。

 

「あり合わせの物でコレを作って、ローテクで危機を乗り切る……こんな才能のある人が、小悪党に甘んじていたなんてね」

「本当にそう思います」

 

 レビンは心から頷いた。

 

「それに根は優しい人なんです。今はまるで反省していませんけど、ちゃんと改心していただきたいです」

「ええ。それが貴女たちの役目ではあるけれど、くれぐれも焦らないでね」

 

 優しく、しかし毅然とした口調で諭すジュリー。人間を変えるのは、そう簡単にできることではないのだ。

 

「しばらくは淡々と任務のサポートに徹して、相手を理解・学習し、ゼロから信頼関係を築くことに専念して」

「信頼関係か……」

 

 タンヤンが拳を握りしめる。

 

「レビンはまだ良いかもしれないけど、ボクはマイナスからのスタートかな。頑張らないと」

「私もそうだ」

 

 ヒルデも頷いて、鹵獲したトムガーディアンを見上げる。ジンがコフィンを開けるために破壊した部分を修復し、今後も任務で使えるようになっている。この犯罪者更生プログラムには色々とややこしいしがらみもあるが、現地調達した装備を使うことについては監督官の裁量で決められるらしく、すでに許可は出ていた。

 

「彼は私のせいで死ぬかもしれなかったが、私を見捨てず連れ帰ってくれた。彼のプライドもあったのかもしれないが」

「うん、ボクのユナイターも」

「さっき3人に会ってきたけど、確かにエラーについて貴女たちを責める気は無さそうよ。その代わり、怒りの矛先は協会に向きそうだけど」

 

 更生は前途多難ね、と苦笑するジュリー。だがレビンは前向きだった。

 

「まずは着実に距離を縮めましょう。あの人たちのことを、みんなで学習を重ねて、一緒に歩んで行けるように」

「そうだね。できることから始めないと」

「ああ。そして互いに情報交換をしよう」

 

 メイガスたちは好奇心をもち、学ぶことを好む。知らないことを知りたい。分からないことは理解していけば良い。そういう風に作られたアンドロイドだ。

 そうした資質こそ、人類の最も美しい能力であり、普通の機械に持ち得ない力。過酷な世界で更なる発展を求めるなら、そうした能力を持つ『機械の友』が必要。

 

 ……メイガスを生み出した者たちは、そう考えたのだ。

 

 

 

 





お読みいただきありがとうございます。
MSFS2024のPS5版を買ってみたのですが、やはりただのゲームじゃなくてフライトシムなんでメチャクチャ苦戦してます。
着陸のコツを掴めたと思ったのにもうできなくなっていたり。
飛行艇を操縦できるようになるまでどのくらいかかるか……。
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