SYNDUALITY -ブラックウィドウ・スクワッド-   作:空き缶号

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S2:正位置『節制』
7.魔境から来た少女


 

 社会不適合者たちの初出撃から1ヶ月。結論から言うと、彼らはまだ生きていた。

 

 

 掘削機が唸りを上げ、赤黒い結晶を穿つ。中心部に絶え間なく杭を打ち付けられ、徐々にヒビが広がり、やがては砕け散った。AO結晶……この世界で人々の生活を支えるエネルギー源だ。純度は並だが量はそれなりである。

 

「チェイサーが2体接近!」

 

 レビンが警告し、標的を指差した。敵意剥き出しのエンダーズたちを確認して、エミは冷静にジャックボックスの手を後ろへ回し、装着された武器を取った。照準を素早く合わせる。

 

()った」

 

 ジャックボックスの無骨な指がトリガーを引く。青白いエネルギー弾が3発放たれ、続いてまた3発と断続的に発射する。それらのほとんどは、的確にチェイサーの頭部を捉えていた。

 エンダーズのタフさは普通の生き物とは比べものにならず、実際にチェイサーはしばらく止まらなかった。だが代わりに、狙いが定まらないようジグザグに走るような知恵は無い。

 

 前にいたチェイサーが頭部をエネルギー弾に焼かれ、倒れた。

 

「もう1体」

 

 エミは慌てず騒がず、機体を横へステップ。間近に迫ったチェイサーの一撃が空を切った直後、左腕のチェーンソーを振った。

 よろけるチェイサーへ立て続けに2回、3回とお見舞いすると、こちらも深い傷に抗えず、やがて動かなくなった。中途半端に動物的な挙動をするのが、エミにとっては本当に不気味だ。

 

「チェイサー撃破、お見事です!」

「やっぱフルオートの銃は苦手だから、これが丁度良いかな」

 

 手にした武器を見て、感想を漏らすエミ。

 クレイドル用兵装バーストアサルトライフル。トリガーを引くと弾を3発だけ発射する、3点バースト式のエネルギーライフルだ。それに加えてマズルジャンプを抑えるフォアグリップ、さらに銃床に機関部を内蔵するブルバップ方式を採用し、銃身長を保ったまま取り回しを改善した設計である。フルオート射撃はできないが、近中距離戦での精度は素晴らしい。

 

 しかしそもそも、3点バーストとはトリガーコントロールのできない新兵向けの機能である。そのためこの銃が支給された時、満場一致でエミが使うことになった。

 

「しっかしコイツら、耳悪いクセに結晶割る音だけは聞きつけて寄ってくるよね」

「単なる音じゃなくて、波動を感知しているらしいですよ」

「波動?」

「発電に利用されているAO波です。だから結晶を持ち帰るためのシートとケースは、AO波を遮断する素材で作られています。……そういう初歩的なことも教わっていなかったんですね」

「うん。教官のメイガスは親切だったんだけどね」

 

 エンダーズへの対処法、AO結晶の利用法は発達しても、それらの謎は未だに解明されていない。人類にできることは対症療法的にエンダーズを駆除し、結晶を採掘することだけだ。

 エミは砕けた結晶を手早く回収し、ジャックボックスの貨物ラックへ積み込む。今日のノルマ分の量になったので、帰路へ着くことにした。

 

「シェーフォンさんとジンさんは?」

「1番機のシグナルは演習場跡地を巡回中。2番機は最寄りのエレベーターの方へ向かっています」

 

 任務に慣れるに従って、地上では別行動を取ることが増えた。手分けしなくてはAO結晶の採掘ノルマ達成が困難だからだ。

 

「盗賊の連中、演習場に拠点作るの諦めたのかな?」

「そうですね。あれから他のドリフターも演習場を襲撃していますし、物資も運ばれていない様子です」

 

 会話を交わしつつ、2人の乗るジャックボックスはエレベーターへ向かう。

 

「ならシェーフォンさんがあの辺歩いてても心配ないか」

「盗賊がいても心配ないと思いますよ。ウーさんの腕前は相当なものですし、高性能型のトムガーディアンに乗っていますから」

「だから、盗賊さんたちが心配ってこと」

 

 エミの冗談で、レビンは「確かに……」と苦笑した。

 初陣でジンが鹵獲したトムガーディアンはそのまま隊の所有機となった。喪失したジャックボックスの代わりが届くまで時間がかかるためだが、ジン曰く「俺はジャックボックスでいい。いざとなりゃまた鹵獲するから」とのことで、最も腕の立つシェーフォンがトムガーディアンに乗ることになったのだ。

 

 当人は相変わらず、つまらなそうに仕事をしているが……盗賊に会えば、ベイルアウトした生身の人間でさえ容赦無く踏み潰すだろう。

 

「到着、っと。帰還申請お願い」

「了解、帰還申請送信」

 

 普通のドリフターなら好きなタイミングで帰れるが、囚人ドリフターは任務未達での帰還は原則禁止なので、同時に積荷情報も送らねばならない。ちゃんとノルマ分のAO結晶を積んでいたので、すぐに承認された。

 

 エレベーターが上昇してくるまで周囲を警戒し、乗り込み、下降を待つ。その一連の動きも様になってきた。

 

「ユナイター、今日もお疲れ様でした」

「レビンちゃんもね」

 

 エレベーターのゲートが閉まるのと同時に、2人は互いを労った。下降が始まり、地上とはまたしばしの別れだ。

 

「ユナイター。今日で配属から1ヶ月目ですね」

「あーそっか。今んとこ初陣よりピンチになったこと無いね」

「その件は本当にご迷惑をおかけしました」

「良いって。助かったし」

 

 窮地の中でレビンがエラー落ちしたときはどうなるかと思ったが、他2人に比べると深刻な被害を受けたわけではない。タイミングがまだ良かった。

 あれからメイガスたちは定期的な調整もあってか、地上探索中にエラーを発症したことは無い。

 

 そしてヒルデはジンとなかなか距離を縮められずにいるようだが、レビンとタンヤンに関しては契約者とそれなりの信頼関係を築きつつあった。

 もっともそれは、受刑者たちが社会不適合者なりに彼女らの境遇を察したためでもあるが。

 

「刑期を終えた後は何をするか、考えていますか?」

 

 エレベーターでの昇降中は、2人だけで安心して話ができる時間だ。だからレビンは彼女にとって大事な話を切り出したのだが、エミは鼻で笑った。

 

「まだ2年と11ヶ月も先のことじゃん。まずそれまで生き残ってからの話でしょ」

「確かにそうですが、目標と希望を持つことは、窮地を乗り切る原動力にもなるはずです」

 

 そう言われ、エミは「うーん」と数秒考えた。

 

「……確かに、前からやってみたい仕事はあったんだよね」

「わあ、どんなお仕事ですか?」

 

 興味津々に尋ねるレビン。だが次の瞬間、彼女はそれを後悔した。

 

「アトランティスに帰ったら……今度はアルコールを運ぶだけじゃなくて、作る方もやれたらって……」

「ダメですよそんなの! リアルアルコールのせいで人生が台無しになった人は大勢いるんですよ!」

「別にいいよ、私の人生じゃないしー」

 

 怒るレビンをおちょくるように、笑いながら嘯くエミ。レビンは赤い瞳で彼女を睨み、ムスッとした表情をする。

 

「自分を犠牲に私を助けようとした人の言葉とは思えませんね」

「人間誰しも二面性があるもんなのー」

「もう! お金さえ稼げれば、悪いことをしなくてもいいはずでしょ? それにユナイターならきっと、アトランティス以外でも上手くやれますよ!」

「じゃあ何? アメイジア系の金持ちネストへ行って、銀のスプーンをケツ穴に刺して生まれてきたクソコーポと一緒に、一生懸命働いてるフリして暮らせっての? いっそ殺せ」

 

 ギャングなだけに、下品な言葉を使うのにも躊躇はない。

 

「……だったら協会員になれば良いじゃないですか。ユナイターにドリフター適正があることは明白ですし」

 

 レビンはクレイドル内にホログラムの資料を表示した。長ったらしい説明文にクレイドルやガレージの写真、金の話など……要は刑期を終えた後協会員になるなら、ドリフター生活を支援するという内容だ。

 

「更生プログラム完了後、ドリフターとして協会に登録すれば、かなりの特典があるんですよ。設備の整ったガレージに、装備類、それに高性能クレイドルのデイジーオーガも支給されます」

「……デイジー、オーガ……」

 

 静かにその名を呟くエミ。彼女が興味を持ったと判断したレビンは、そのクレイドルの画像を拡大した。白を基調に四肢は紫、黄緑のアクセントカラーが加えられた機体で、流線型のボディが特徴的だ。

 

「ボウイラビットをベースとした特別仕様機です。以前、特定の新人ドリフターに無償提供されましたが、自力で入手するのは困難で……」

「知ってる。だからそれに乗ってカモられたルーキーが大勢いたんでしょ。ウィドウメーカー(未亡人製造機)ってヤツじゃん」


 

 こんな縁起の悪い物いらないよ、とエミは目を背ける。ウィドウメーカーとはつまり、事故によるパイロットの死亡率が異様に高い兵器を指す蔑称だ。

 デイジーオーガは事故率が高いわけではない……が、支給された新人たちが明らかにルーキー臭い動きで高級機体を乗り回し、悪辣なドリフターからカモにされる事態が多発したのも事実だ。それも盗賊やダークマーケットのドリフターではなく、同じ協会員に襲撃されるのも決して珍しくはない。そして慢性的な人手不足を理由に、そうした行為への罰則が手緩いことも有名だ。

「そういう事例も確かにありますけど……それ、ウーさんから聞いたんですか?」

 そんなことを吹き込むとしたらシェーフォンだろう。彼は協会を、もしかしたらドリフターという存在自体を憎んでいる。

 しかしエミの口から出たのは、予想外の答えだった。

 

「違う。あーしの兄さんがデイジーオーガに乗って、初陣で殺されたの。他の協会員にね」

 

 コクピットの中は水を打ったように静まり返った。メイガスらは囚人たちの個人情報を知ってはいたが、素性全てを把握しているわけではなかった。ましてやエミに至ってはその出自故に、経歴や家族のことまで分かっていなかったのだ。

 

「……ごめんなさい」

「レビンちゃんは悪くないよ。何処に地雷があるかなんて、普通分からないんだから」

 レビンは画像を消した。エミが微笑んでくれたことに安堵した一方、自分が浅はかだったことを反省する。一定の信頼関係を築けたと判断したし、それは間違いではなかったと考えている。

 しかし、彼女のことをもっと知らなくてはいけなかったのだ。

「……協会への貢献度はゼロってことで、遺族への保証金は無し。まあ、それは世の中そういうもんだけど」

 


 沈んだ様子のレビンを見て、エミは話し始める。

 

「協会の事務所に遺骨と死亡証明書を受け取りに行ったとき、事務員のババアが笑ってやがったよ。ルーキーはジャックボックスに乗ってれば良かったのにねぇ、これだからスラムのドブネズミは……ってさ」

「……酷すぎますね、それは」

「うん、それがもしフィクション……例えばゲームだったら、クソゲーで済むけどさ。マジで肉親が死んだ時にそれ言われるとね……」

 


 レビンは話を聞きながら、『エミに協会員になるよう勧める』という案を今後の選択肢から消した。しかし、彼女にちゃんと更生して欲しいという思いは変わらない。協会にそう命令されたから、そうプログラムされたから、というだけではなかった。これだけ才能があり根の優しい人が、ただ犯罪を重ね小悪党として生きていくなんて、あんまりじゃないか。

 

「話してくれて、ありがとうございます。ユナイター」

「……うん、まあ」

 

 対するエミは、このピュアなAIの相棒に若干の罪悪感を覚えた。本当のことを全て話したわけではない。

 具体的に言うと、先程の『事務員のババア』は自分が刺殺した、ということである。ドブネズミの歯の鋭さを教えてやったのだ。

 

「あんたは良いヤツだよ、レビンちゃん」


 

 それだけ言って会話を終わらせた頃、エレベーターは地下プラットフォームへ到達した。後は指示通りトランスポーターへクレイドルを乗せて、ガレージへ帰還するだけだ。


 

「……ところで、ユナイター。ようやく上層部から、任務中以外でもユナイターとお話ししたり、一緒に遊んだりして良い、という許可が降りたんです」

「お? ってことは」

「はい、やっとユナイターのハーモニカを聞けるんです。後でガレージへお邪魔しても構いませんか?」

「もち。曲は何がいいかなー。アイリス・マイの曲も良いけど、ここはやっぱり故郷の音楽か……」

 

 談笑しながら、荷台へ機体を固定する。やがて自動運転のトランスポーターはゆっくりと走り出した。

 

「……じゃあ、サイカさんも協会員にはならないか」

「はい。ウーさんも……今更、戻る気にはならないでしょうね」

「うん。ユナイターのお父さんは戻ってきてほしいみたいだけど、現実的に考えて無理だよ」

 

 帰還後、調整を終えたメイガスたちはガレージへと向かっていた。歩きがてら、今日あったことを報告し合う。契約者たる社会不適合者たちを理解するため、移動時間や入浴中など、空いている時間で仲間内での情報交換を行っているのだ。

 

「ボクも色々話してて、ユナイターには自分の好きなことをして欲しいって思ったんだ」

「ウーさんの好きなことって、何ですか?」

「ユナイター、武術が得意なんだって。後は気功と風水」

 

 前者は分かるが、後者2つは知らない言葉だった。素早く検索して、どちらもアジア由来の健康法と開運法であることを突き止める。


 

「……武術はともかく、後の2つはオカルトなのでは……?」

「ユナイターは違うって言い張ってるけど、違法になる可能性はあるかも……。まあとにかく、子供向けの武術教室とかやってみたら、って提案したんだよね」

「そうしたら?」

「それは考えてみてもいいかもね、だって」

 

 タンヤンは嬉しそうに語る。厭世的にも見えたシェーフォンが、多少でも未来に希望を持ってくれるならそれに越したことはない。

 

「なるほど。けど大丈夫なんですか? あの人の……倫理観とか」

「あー、うん」


 

 極めて人間的に作られたメイガスは、言葉に含まれた意味をある程度察することができる。この場合レビンが懸念しているのは、シェーフォンが初対面時にタンヤンへした行為だ。


 

「これも色々話してて分かったんだけど、彼はメイガスが大好きなんだよ。ボクたちが人間じゃないっていうことも含めて。だから人間に『ああいうこと』はしないと思う」

「まあ、3人とも真っ当な生き方はできるはずだ。当人たちがその気になるよう、少しずつ促していくしかない」

 

 前向きにそう言うのは、最も厄介な相手を担当するヒルデだ。今でも任務中にジンの機嫌を損ねることはあるが、探索では成果を上げており、エンダーズ討伐数はトップだ。もちろんヒルデのシステムが対エンダーズ型ということもあるが、ジンの判断力と技量に寄る所も大きい。


 

「カフカさんの方はどう?」

「更生という点では前途多難だな。宗教というものが人間にどれだけ大きな影響を与えるか、データとしては知っていたが」


 

 メイガスは元から様々なデータを頭へ詰め込まれており、知らない知識は検索し、それらの情報から量子演算によって最適解を見つけ出す。しかしそれらの情報は『誰かが過去に見つけたデータ』に過ぎない。人と交流し、時に傍観し、『生きたデータ』を収集、学習してこそ、優秀なメイガスとして成長していけるのだ。

 

 その意味では、狂信者でありサイボーグである彼との交流で学べることは多い。


 

「決して根本から悪人ではない。野蛮な教義を信仰していても、彼自身は誰にでも暴力的というわけではないし、他者に信条を押し付けようともしない。自分を律することもできる。それにメイガスに反感を持っていても、私の働きに文句は無いと言ってくれた」


 

 だからこそ、彼という人間を理解するのは難しい。そもそも経歴もかなり特殊だ。元アメイジア軍特殊部隊伍長、地上探索の効率化を目的としたサイボーグ兵計画に志願し、アメイジア崩壊事故の後脱走。その後ヴァイク教に入信し、傭兵として複数の事件に関与。

 

 人生のターニングポイントになったであろうサイボーグ化について、詳細な記録は残っていない。強いて言うなら、ジン当人が最も確度の高い資料となる。彼からの信頼を得るために必要な情報が、当人の信頼無くしては手に入らないのである。

 

「前途多難はみんな同じですよ。一緒に学習を続けましょう」

「そうだな。きっと分かり合える」


 

 会話を終え、3人はガレージの入り口へ到着した。監視カメラによるスキャンを受け、ドアのロックを解除する。


 

 メイガスは契約者と共に成長することを求められるため、本来ドリフターとは日常生活でも交流を持つ。しかしこの犯罪者更生プログラムは、ドリフター不足を補うため急遽作られたもので、何かとややこしく非合理な制約や、面倒な手続きが纏わりつく。

 

 レビンらは以前から契約者との交流の場を設けて欲しいとアルマン監督官に訴えており、アルマンもその必要性を理解して上層部に掛け合ってくれていた。そして先日、アルマンが上層部へ乗り込んで2時間怒鳴り続け、ようやくその辺りの制約が撤廃されたのだ。

 

「みなさん、お疲れ様です!」


 

 ドアが開くと同時に、レビンが元気良く挨拶した。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。
考えてみれば重い展開もあるから「コメディ」のタグは外し、残酷描写あれば「R-15」は別にいらないかなと外しました。
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