百合の影から覗いて   作:細雨

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ヒルガオの始まり〜秘密の部屋篇〜

以前の予想通り、ある程度色々と騒動は起きた──主に闇の魔術に対する防衛術の授業で──が、ほとんどクィリナスがフォローして何とか事なきを得ているようだった。

怒濤の1週間が過ぎ、ようやく土曜日になった。授業の準備は無いが、ふくろうたちの世話は休みではない。いつもの様に掃除と餌やりを終えてふと気付くと、早朝にも関わらずクディッチの競技場で赤のユニフォームが舞っているのが見えた。グリフィンドールのクディッチチームだ。確かキャプテンのオリバーはクディッチに非常に熱心だった筈。この早朝練習も彼の提案だろう。

「あら?」

グリフィンドールのチームが練習している競技場に、緑のユニフォームを纏った集団が近付いている。スリザリンだ。正直トラブルの予感しかしない。私は急いでふくろう小屋を出て階段を走り降りた。

まだ朝露の残るクディッチ競技場に行くと、ロンとハーマイオニーまで参戦して既に舌戦の火蓋が切られていた。

フレッドとジョージが持っている少しクラシックな箒について、スリザリンチームが煽っている様だ。緑のユニフォームを纏ったドラコもいて、誇らしげに胸を張っている。どうやらチームに入った様だが、グリフィンドール側を挑発するのはいただけない。止めなければ、と足早に近付くと、私に気付いたドラコがバツが悪そうな顔になった。あまりドラコが挑発に参加していなかったと分かっているが、彼自身はハーマイオニーと仲が良いのに何故自慢するのを止められないのか謎である。

スリザリンチームが爆笑している中、ハーマイオニーの凛とした声が響いた。

「少なくとも、グリフィンドールの選手は、誰1人としてお金で選ばれたりしてないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」

スリザリンの子たちの顔が歪む。ヒートアップした雰囲気の中でこの発言は火に油を注ぐだけだ。急いで仲裁に入ろうと足を早めたその時。

「余計な口をきくな、『穢れた血』のくせに」

一瞬頭が真っ白になった。

何て言葉を。本当に意味が分かってその単語を発したの?

私側からはそれを言った生徒の顔は見えなかったが、双子のその生徒に飛び掛かろうとしてマーカスに立ち塞がれていた。カンカンになったロンが杖を突き付けたのと、私がその場にようやく到着したのはほぼ同時。

バーンと大きな音と共に緑の閃光が、ロンの杖先からではなく何故か持ち手側から飛び出し、彼のお腹に当たった。

「ロン!」

よろめいて芝生に尻餅をついたロンの肩を支えると、青い顔をした彼は吐き気を抑える様に口を抑えた。

「ロン!ロン!大丈夫?」

ハーマイオニーが悲鳴を上げながら側に膝を付いた。彼女の瞳には涙の膜が張り、今にも零れ落ちそうだ。

「ロン、怪我をしたの?話せるかしら?」

話し掛けても、ロンは口を開いても言葉が出て来ない。更に言葉を重ねようと思った瞬間、とても大きいゲップと共に少年の口から何とも不気味な色のナメクジが数匹ボタボタと零れ落ちだ。

スラグラス エルクト──ナメクジげっぷの呪いだとすぐに気付いた。それを手っ取り早く止める方法が、ナメクジを吐き切ってしまう物だという事も。

私がバケツを召喚してロンに渡している間もスリザリンチームが笑い転げる中、白い顔になっていたドラコが覚悟を決めた顔でチームの輪から1歩前に出て、先程ハーマイオニーに侮蔑を投げ付けた生徒──アンドリュー・ウィンチの発言だった──に向き直った。

「謝れ」

「──何だって?」

ドラコの言葉に、スリザリンチームは一斉に笑いを引っ込めた。グリフィンドールチームは思いもかけない展開に驚いて、皆ドラコを見る。ハリーもハーマイオニーもロンも、そして私も。

「グレンジャーに──ハーマイオニーに言った、先程の言葉だ。彼女に対する最低の侮蔑を取り消して、謝れと言っている」

顔色を無くしながらも毅然と言い放ったドラコに対し、アンドリューははっきり困惑していた。

「僕の聞き間違いか?謝れと言ったのか?あのグリフィンドールのマグル生まれに?」

「そうだ。ハーマイオニーは確かにマグル生まれだが優秀だし、……それに、僕の友人だ」

事ここに至り、スリザリンチームもグリフィンドールチームも大いに戸惑っていた。

スリザリンであり純血主義者である筈のドラコが、マグル生まれのグリフィンドール生であるハーマイオニーと友人?

そんな空気が双方からしっかりと出ている。

ドラコにもスリザリン寮内での立場という物があるだろうに、ハーマイオニーを庇うのは余程勇気がいっただろう。特にマルフォイ家は純血主義者として有名だ。おそらくドラコの顔色が悪いのも、先程腹を括った表情をしたのも、今後の寮内での扱われ方を考えたせいだろう。

「何を……自分が何を言ってるのか分かってるのか?マルフォイ家の後継であるお前が?」

「もちろんだ。父上も許可している。もしも、父上の許しが無くとも、僕はハーマイオニーとの友人関係を解消しない」

「「良く言った!!」」

「うわっ!」

キッパリ宣言したドラコを満面の笑みのフレッドとジョージが後ろから抱き締めて、遠慮なくガシガシと頭を撫で回した。オールバックに整えられていた髪の毛がボサボサだ。

「や、やめっ、何なんだ一体!」

何とか2人の手荒な賞賛から脱出したドラコが、手で髪を整えながら顔を真っ赤にしている。そんな少年に、双子は先程の剣幕は何処へやら、ニコニコとした笑みを浮かべている。

「いやー、見直したぜ!なあ、相棒?」

「その通りだ、相棒。マルフォイの坊ちゃんは意外にも友情に厚いタイプだったらしい!」

「な、何だ、僕を馬鹿にしているのかっ」

「「まさか!」」

「上級生と俺らの前で、良くぞ言い切った!」

「さっきの挑発は聞かなかった事にしてやる!お前は良い奴だ!」

「「なあ、オリバー!!」」

急に話を振られたオリバーが、「あ、ああ、そう、だな……?」と何とか首を縦に動かした。

ロンがナメクジを吐く合間に「何だよ……アイツやるな」と呟いた。

固まっていた雰囲気が緩んだため、ロンの背を摩る役をハーマイオニーに任せて私は立ち上がって「さて」と注目を集めた。ほとんどの生徒が今初めて私に気付いた様だ。

「生徒同士の揉め事に首を突っ込むのはどうかと思っていたけれど、それ所ではなくなったから口を挟ませてもらうわ。……アンドリュー、貴方の不適切な差別発言についてスリザリンから5点減点。その言葉がどれ程重く許されざる物か、改めて学び直しなさい。貴方だけでなくご家族の品位も問われかねないわよ。そして、ドラコ」

アンドリューは不満そうに口をへの字に曲げ、ドラコは緊張した面持ちになった。

「昨年度の終わりにダンブルドア先生が仰っていたように、味方の同窓生に立ち向かって行くのにも勇気が必要よ。貴方の勇敢な行動に、スリザリンに3点」

ドラコの頬がパッと上気して赤くなった。

グリフィンドールとスリザリンの子たちを見渡して、私は「それで」と続けた。

「何故2つのチームが競技場にいるの?」

「僕が事前にここを予約してたんです、それをこいつが──」

オリバーがマーカスを指差し、「わざわざ寮監の一筆まで持ってきて横取りしようとしたんです」と睨めつけた。

それに対し、マーカスも同じくらい不機嫌な表情になった。

「こっちにはスネイプ先生が特別にサインしてくれたメモがあるんだ。俺たちが正当な使用者だ」

両チームのキャプテン同士が睨み合い、またも一触即発の雰囲気が高まってきた。

セブルスったら、絶対グリフィンドールのチームが今日この時間に予約していると知った上で許可を出したわね、まったく……。グリフィンドールを敵視するのは好きにしたら良いと思うけれど、わざわざトラブルの種を作らなくても良いんじゃないかしら……。

「オリバー、競技場の予約は何時まで?」

「昼食の時間までです」

「マーカスは?」

「同じです」

「そう、では今からの時間を2分割にしてそれぞれのチームの練習時間とします。もちろん、お互いのチームの練習風景は見えない様に手を打つわ。それで良いわね?」

午後からはおそらく別の寮の予約が入っているのだろう、オリバーもマーカスも不承不承頷いた。

「まずは、アンドリュー、ハーマイオニーに謝罪を。練習はそれからよ」

苦々しい顔をしたアンドリューを手招き、立ち上がったハーマイオニーの前に立たせる。彼はしばし逡巡した後、練習時間が少なくなると焦れたマーカスに背中を小突かれてようやく「……すまなかった」と絞り出した。

「ハーマイオニー、許すか許さないかは貴女に任せるけれど、今はこれで勘弁してもらえる?」

「はい、分かりました」

一先ず差別発言の件については手打ちとし、グリフィンドールとスリザリン、どちらが先にコートを使用するかはコイントスで決めさせた。結果はスリザリンが先に使う事となり、グリフィンドールチームには更衣室に向かってもらった。

まだナメクジを断続的に吐き続けているロンについても、ハーマイオニーとハリーが付き添って更衣室へ連れて行く。そんな3人の背を、ドラコが心配そうに見つめていた。

グリフィンドールチームが離れた事を確認して、私は練習を開始しようとするマーカスを呼び止めた。

「少し聞きたい事があるのだけれど、良いかしら?」

「何ですか?」

「スリザリンチームはラフプレーが多いと聞くわ。どうして?」

「え?どうしてと言われても……」

マーカスは明確な答えを出せずにまごついていた。恐らく、ずっと昔からラフプレーの多さが普通となっていたのだろう。だから、何故ラフプレーを多用するのか答えられない。

「別に咎めている訳ではないわ。でも、ラフプレーには弱点もある。分かる?」

「い、いいえ」

「『それをしないと勝てない』──そう思われる可能性があるのよ。もちろん、これはトリックプレーも同じ事が言えるわ」

マーカスやチームのメンバーがハッとした顔になる。チームの伝統──悪習だが──について、深く考える機会など少ないだろう。私の様な第三者に指摘される事で気付く事もあるのだ。

「貴方たちは勝つために練習するんでしょう?正々堂々とプレーしても勝てる自信があるんでしょう?」

「もちろんです!」

「なら、それを見せつければ良いのよ。自分たちの実力に自信を持って、正々堂々勝てば良い」

「はい!」

「ちなみに、普段はいつも1チームだけで練習してると思うけれど、合同練習してみたら新しい刺激を貰えるかもしれないわよ?戦略や動き方のね」

さすがにこの提案には複雑そうな顔をされてしまった。そんなにすぐには受け入れられないわよね。グリフィンドールと、って話ではなくレイブンクローや、クディッチに特に力を入れているハッフルパフとの合同練習は良い刺激になる筈だ。お互いに得意分野が違うから。

目標は同じなのだから切磋琢磨し合えると思うのだけれど、皆がそれぞれどれだけ歩み寄れるかが鍵だろう。

マーカスが練習開始の声掛けをするのを確認して、私は更衣室へと向かった。

更衣室では、グリフィンドールチームが眠そうに立ち尽くしていた。ロンは隅の方でハーマイオニーとバケツを抱えながら座っている。

「あら、皆どうしたの?」

「急に時間が空いて、どうすれば良いか分からなくて……」

オリバーが困った表情でそう言った。既にある程度の打ち合わせは終わっていたらしい。

「うーん、そうね、じゃあ他寮のチームの長所や短所を考えてみてはどう?自分たちの動きは見直すでしょうけど、他のチームについては深く考える機会は少ないでしょう?」

「そうですね……」

「自分たちが彼らならどう動く?グリフィンドールと戦う時にどんな作戦でいく?色々と思考実験してみると、面白い発見があるかもしれないわ。もし何も見つからなくても、自分たちを見直す機会になると思うわよ」

キャプテンのオリバーを始め、チームの面々は頷いた。彼らはすぐにクディッチ競技場の大きな図面を掲げ、ぎこちないながらもディスカッションを始めた。

その様子を確認し、私は更衣室全体に防音呪文をかけた。スリザリンの練習音も、グリフィンドールの議論の声もお互いに聞こえない様に。

それから更衣室の端へ行き、ロンを挟んでハーマイオニーの逆隣に座った。

「ロン、具合はどう?」

「……良くはないです……マルフォイが言い返してスッキリはしたけど。これ、止められないんですか?」

「薬はある事はあるけど、吐き切ってしまった方が楽に収まるわよ。薬を飲むと、どうしても吐くのを我慢しないといけなくなるから。どうする?」

「ナメクジと最後まで対面します……」

ナメクジを吐き切る事を選んだロンは、ガックリと項垂れながらまたナメクジを吐いた。バケツがいっぱいになる前に、1度エバネスコで大ナメクジたちを消しておいた。魔法薬に使えない事もないが、人の唾液のついた物はさすがの私も遠慮したかったから。

「あの、さっきの言葉ってどういう意味なんですか?」

ハーマイオニーがおずおずと聞いてきた。周囲の雰囲気から余程タブーな単語である事は予想していそうだが、マグル生まれの彼女は今までそれを聞いた事は無かっただろう。

「本当に酷い悪口さ。スリザリンの奴ら──「ロン、スリザリンの子の全てが差別的な訳ではないわよ」──ごめんなさい、ああいう奴らが思い付く限り最悪の侮辱の言葉だ」

私の訂正に律儀に謝罪して、ロンはそう言ってまたバケツと対面した。ナメクジの波は未だ押し寄せてくるらしい。

どうして呪いが持ち手側から出たのか、後で問い質さないと。

「『穢れた血』って、マグルから生まれたっていう意味の──つまり、両親共魔法使いじゃない者を指す最低の汚らわしい呼び方なんだ。魔法使いの中には、さっきのアイツみたいに、皆が『純血』って呼ぶものだから、自分たちが誰より偉いって思っている連中がいるんだ」

またもバケツに首を突っ込んだロンが、しばらく口からナメクジを出現させた後に青い顔をあげた。

「もちろん、そういう連中以外は、そんな事全く関係無いって知ってるよ。ネビル・ロングボトムを見てごらんよ──あいつは純血だけど、鍋を逆さまに火にかけたりしかねないぜ」

ネビルが緊張しやすい事は知っているが、魔法薬学ではそんなに上がっているのだろうか。セブルスが怖いのかしら?

「『穢れた血』だなんて、まったく。卑しい血だなんて。狂ってるよ。どうせ今時、魔法使いはほとんど混血なんだぜ。もしマグルと結婚してなかったら、僕たちとっくに絶滅しちゃってたよ」

またナメクジの波が来たロンの背を摩りながら、私は大きく頷いた。

「その通りよ。マグル生まれかどうかなんて関係無いわ。私も所謂半純血だけれど、ホグワーツの教員になれている。それにね、ハーマイオニー、貴女はこの上なく優秀だし、習った中で使えない呪文は無いでしょう?」

にっこり笑って言うと、ハーマイオニーは頬を紅潮させて嬉しそうに微笑んだ。

「ロンが呪いをかけたくなったのは分かったけれど、どうして逆噴射したの?」

ロンが汗だくのままノロノロと杖を取り出した。見ると、ほぼ真ん中で折れかけた杖をテープでぐるぐる巻きにしている状態だった。こんな物を見たら、オリバンダーが卒倒しかねない。魔法が使えている事が奇跡なくらいだ。

「アー……ロン?杖を買い替えた方が良いんじゃないかしら?」

「そうしたいんですけど……また吠えメールが来そうで……」

小さなゲップと共に、ロンの口から1匹ナメクジが飛び出した。何とかバケツに落ちたそれを、ロンは「うえー」と顔を顰めて杖先で突っついた。

さすがに家庭事情にまで口を出す訳にはいかない──ハリーは特例だ──ため、私は「新しい杖が手に入ると良いわね」と言うに留めた。

そんな風にハーマイオニーやロンと話しながら時間を過ごし、そろそろスリザリンチームと交代しようかという時間で私はオリバーに声を掛けた。

「オリバー、少し良いかしら?」

「はい、何でしょう」

私はマーカスに伝えたのと同じ様な提案──他のチームと合同練習するのはどうかという物だ──を伝えた。

「やってみても面白いかもしれません。特にハッフルパフは、クディッチに力を入れていますから」

オリバーは何度も頷きながらそう言った。クディッチにとても情熱を注いでいる彼の事だ、すぐにでも実現するかもしれない。

「何かあったら相談してね」

私の言葉に、グリフィンドールの面々は頷いた。

更衣室の外に出て、スリザリンのチームに交代を告げる。彼らは存外素直に応じてくれた。

次々と地面に降り立つメンバーに更衣室に行くよう告げて、マーカスに防音呪文が施されている事を伝えた。

ぞろぞろと緑色の集団が更衣室へ消えて行き、代わりに赤色の集団が競技場に出てくる中、ドラコがこちらに歩み寄って来た。

「ヴァレー先生」

「どうしたの?」

「あの、ウィーズリーの様子はどうですか?それに……ハーマイオニーは、怒っていませんでしたか?」

不安気に眉を寄せて言うドラコに、彼が今までの価値観を変えてハーマイオニーと友情を築いている上、ロンやハリーと交流している事も垣間見えて、私は何だか嬉しくなった。せっかくの機会なのだ、広い視野で色んな人と触れ合った方が良い。

「ロンはまだナメクジを吐いているけれど、命に関わる物ではないわよ。吐き切った方が楽だからそのままにしているわ。ハーマイオニーは、そうね、自分で聞いてみたらどう?」

ちょうど競技場に出てきて観客席に向かおうとしている2人を見て、私は微笑んだ。ドラコも気付いたようで、少し躊躇ってから彼らに走り寄って行った。

ドラコが気まずそうにロンに声を掛け、ロンは手をヒラヒラと振ってそれに応えている。大方、「吐いてるだけで問題無い」という様な内容を伝えているのだろう。次にハーマイオニーに話し掛けたドラコは、彼女の言葉でホッとした顔をしていた。もしかしたら、絶交されるかもと考えていたのかもしれない。冷静に考えればハーマイオニーはそこまで短絡的ではないが、ドラコも動揺していたのだろう。ドラコは嬉しそうに微笑みながら更衣室へ移動して行った。

観客席でグリフィンドールの練習を見学し、昼食の時間近くに空を飛び回っているメンバーに時間である事を伝えた。ちなみにいつの間にか先に観客席にいたコリンがカメラを持っていたため、スリザリンの練習を写真に撮ったか確認したところ、「ハリーに誓って撮ってません!」と答えたため、一先ずカメラの没収はしないでおいた。

次々と地面に降り立つ彼らを確認しつつ、更衣室に向かい、スリザリンチームにも時間であると伝える。そのまま全員で競技場に戻ると、グリフィンドールチームもまだそこに留まっていた。

「あら、皆どうしたの?」

「フリントに聞きたい事があって」

チームの集団からズイッと前に出てきたオリバーが、スリザリンチームの先頭にいたマーカスの前に立った。反射的にマーカスの眉が上がる。

「何でラフプレーばっかりするんだ?」

「何だと?」

煽られたと思ったのか、マーカスの声が険を帯びる。またひりついた空気が渦巻き始めたため、私は改めて2人の間に入った。

「マーカス、落ち着きなさい。オリバーは続きを」

「はい、先生。……スリザリンは皆身体がデカいだろ。それなら派手なパワープレーや、ゴールを阻止してそのまま相手ゴールを奪う事もできる可能性があるじゃないか。ま、うちはやらせないが」

オリバーの指摘に、マーカスは押し黙ってしまった。先程私から言われたのと似たような事を同学年のオリバーからも言われてしまい、響く物があったのかもしれない。

「正直お前の方が俺より背が高い。羨ましくはあるが、俺はそこをカバーできる技術を持っている。お前はどうなんだ、フリント?そのデカい図体をフル活用できているのか?」

「……もちろんできてるさ。お前に言われるまでもない。正面からぶつかり合っても、勝つのは俺達スリザリンだ」

「フン、言ったな?それなら勝負だ。まさかしっぽ巻いて逃げるなんてしないよな?」

「当たり前だ!」

どうやら、グリフィンドールとスリザリンの非公式試合が行われる事が決定したらしい。私はさすがに審判はできないので、誰か他の先生に頼んでもらうとして、今は差し迫る昼食の時間に遅れないように皆を大広間に連れて行かなければ。

「はいはい、歩きながら日程の擦り合わせをしてくれるかしら?もうすぐ昼食よ」

慌てて城に向けて足早に移動しだした集団の背中を見送り、私も急いで飼育場に向かった。

何とか素早く餌やりを終わらせ、私は昼食に滑り込んだのだった。軽く呆れた様に見てくるセブルスの視線には気付かないフリをした。

 

そんな日々にも何とか慣れてきて、9月が過ぎた。

昼食後、重たい足に疲労の蓄積を感じて、たまたま通りかかった中庭の隅のベンチに座り込んだ。ローブの内側で砂時計──逆転時計がシャラリと揺れる。

「本当に大丈夫なのですか?」

これを借り受ける時、ミネルバは眉を寄せながら心配してくれた。

「貴女が優秀なのは承知していますが、決して無理はしないように」

言い含められ、私は「もちろんです」と頷いた。逆転時計は学生時分も使った事は無かったが、今学期ケトルバーン先生の全ての授業を見学する為には絶対に必要な物だ。

使用方法や禁止事項の説明を受け、ミネルバはようやく逆転時計を貸与してくれたのだった。

もう学生ではないのだし、そんなに心配しなくても……と思わないでもないが、情が深い所はミネルバの美点なので心配は素直に受け取っておく事にした。

人の気配にサッと逆転時計をローブの内側に仕舞うと、見慣れた燃える様な赤毛を視界の隅に捉えた。そちらへ顔を向けると、青い顔をしたジニーがフラフラと歩いて来るところだった。

「ジニー?具合が悪いのかしら?」

「……ヴァレー先生」

ゆっくりと私を見たジニーはどこかぼうっとしていて、とても健康そうには見えなかった。

「こちらへ来て座ってはどう?」

優しく隣を勧めると、コクリと頷いた彼女はストンとベンチに腰を下ろした。熱でもあるのかと思って断ってから額を触ったが、いたって平熱だ。

「何か不安や心配事でもあるの?」

その問いにジニーは何も答えなかったが、その沈黙は肯定と取って良いだろう。ホグワーツは思春期の少年少女が集団生活をしているから、それぞれトラブルや悩みを抱えている事が多い。ジニーもそうなのかもしれない。

私はポーチの中を探って、ドライフルーツの入った袋を取り出した。小腹が空いた時や甘い物が食べたい時に少しずつ食べている物で、大きさが丁度良いので常備しているのだ。部屋に籠りたい時にも重宝している。

「ジニー、手を出して。……皆には秘密よ?」

「え、あ、ありがとうございます」

袋からコロリとまろび出たドライイチゴに、ジニーは目をパチパチさせた。あまり食べた事無いかしら?結構美味しいと思うのだけれど。

そっとドライイチゴを齧ったジニーは、口内に広がる甘さにキラキラと目を輝かせた。残りを一思いに食べて、彼女は頬を赤くさせた。どうやら気に入ってくれた様だ。

「色々悩む事や心配事があるかもしれないけれど、限界になる前に誰かに聞いてもらってね。もちろん私に話しても良いわ。同性同士の方が喋りやすい事もあるでしょうしね」

「はい、ありがとうございます」

口をモグモグさせながらも、ジニーはお礼を言って微笑んだ。

ジニーとの交流で少し癒されたお陰で、足は先程より軽い。私は気合いを入れ直して温室へと歩き出した。

 

10月になると、チラホラ体調を崩す生徒が出始めた。ホグワーツでの生活に慣れて緊張が緩む頃だ、毎年恒例の事ではあるのでマダム・ポンフリーも元気爆発薬を多めにストックしてあると言っていた。念の為私も緊急時用に持ち歩いてはいるが、今の所そこまで切羽詰まった体調の子には遭遇していない。

オリバーによる早朝練習は定期的に続いているらしく、たまにふくろう小屋から赤色のユニフォームが飛び回っているのを見る事ができた。赤色だけでなく、緑色やその両方のユニフォームが飛び交っている事もあった。オリバーもマーカスもクディッチが大好きな事は共通しているのだし、良い刺激を与え合えるかもしれない。

赤毛の双子が攫って行った火トカゲを取り戻しにグリフィンドールの寮に乗り込んだり──火が無いとすぐに死んでしまうのに!もちろんフレッドとジョージには減点した上で魔法無しで飼育場の清掃をする処罰を与えた──、薬草の世話の手伝いを続けているネビルと湖に植生を見に行ったりして、10月を過ごし、ハロウィン当日を迎えた。

今年度の波乱は、またもこの日から始まった。




ヒルガオの花言葉「絆」「友達のよしみ」

19話目です。

グリフィンドールとスリザリンって常に煽り合ってるイメージがあります。本質的に真逆なタイプが多いんだろうなぁとは思いますが、そこで無視するのではなく対立するのは寮杯があるからなのかお互い意識しまくってるのか、どちらなんでしょうね。

書き上げてから思いましたが、ロックハート全然出てきませんでしたねwほぼ生徒しかいませんw

あとハグリッドの出番を1つ夢主に担って貰いました。競技場使えたらハグリッドの小屋には行かないと思いまして……。
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