11月に入ると一気に寒くなった。風が冷た過ぎて、毎朝のふくろう小屋の掃除と餌やりが正直辛い。服は温め魔法で何とかなるが、どうしても外気に触れる目や鼻が寒さにダメージを受けてしまう。掃除と餌やりの後は厨房で温かいココアを貰うのが冬の習慣になっていた。私は後のご褒美のことを考えながらさっさと掃除を進めて行く。
生徒たちのペットは飼い主自身が世話をするのが原則だが、ふくろうに限って言えば餌やりについては学校で飼っているふくろうと一緒に行っている。どの子がホグワーツが飼育している子かは分かるが、止まり木にはバラバラに止まっているため、生徒のペットの子と分けて餌をやると手間がかかるからだ。他のペットに関しては、家からフードを取り寄せる子もいれば、ホグワーツの屋敷しもべ妖精の用意したフードをあげる子もいる。中には自分でハンティングしているペットもいるようだけれど。生活能力が高くて大変素晴らしいわよね。
ふくろうフードを餌箱に入れてふくろうたちが食べ始めるのを確認したら、朝の仕事は終了だ。私はふくろう小屋を出て階段を下り始めた。
ハロウィンに起きたトロール事件は学校中を震撼させたが、数日もすればみんな落ち着きを取り戻した。子供ならではの柔軟さなのか飽きっぽさなのか、今ではほとんどの子があの日の出来事を気にしていないようだ。
安全なはずのホグワーツに、近くには生息していないはずのトロールが侵入してくるなんて……。ただの事故なのかしら?迷いトロールなんて聞いたことないけれど……。
そんなことを考えながら、今日も厨房の隅で屋敷しもべ妖精に用意してもらったココアを飲んでいると、新たな来客がやって来た。
「「おや、ヴァレー先生じゃありませんか!」」
赤毛の双子、フレッドとジョージだ。彼らが入学して3年経つが、私にはどちらがどちらか区別はつかない。「「ママも分からない時がありますよ」」と前に笑っていたので、私が分からなくても仕方ないわよね、うん。
「2人とも今日はこんな朝早くどうしたの?」
私がそう聞いている間にも、朝食作りの手が空いた屋敷しもべ妖精たちが「坊っちゃま、今日は何をお食べになりますか?」「お菓子をお持ちしましょうか?」「それともパンを?」とわらわらと集まってきた。どうやら双子は頻繁に厨房に顔を出しているようだ。
「今日はサンドイッチがいいな!」
「そうだな、相棒。卵とハムと、それにローストビーフがあれば最高だ!」
「素晴らしいな、相棒!」
屋敷しもべ妖精にサンドイッチのリクエストをし終え、2人は貰ったココアを手にして私の向かいの席に座った。その顔は甘くて美味しいココアに満面の笑みである。
「ほら、先生、もう11月でしょう?クディッチの季節ですよね」
「レギュラーの僕たちは練習漬けの毎日でしてね」
「しかも成長期ときた!」
「1日3食ではとてもとても!」
「「だからこうやって美味しい食事を追加でいただきに参っている次第です!」」
何とも分かりやすい説明である。教師の身としては厨房に勝手に出入りしていることを咎めるべきなんだろうけれど、私はそういう四角四面なタイプではないため見逃すとしよう。それにここで厨房への出入りを禁じてしまうと、可哀想な双子は朝食まで限界まで空いたおなかを抱えていないといけないし、嬉しそうに彼らの世話を焼く屋敷しもべ妖精たちもがっかりするだろう。見なかったことにするだけで人助け──妖精助けかしら?──になるのだし、ダンブルドア校長も何も言わないでしょう、うん。
1人でうんうん頷いている私を双子は不思議そうに見ていたが、すぐに顔を見合せてニヤッと口角を上げた。
「ところでヴァレー先生は何故こちらに?」
「サボりですか?」
「ふふ、人聞きの悪いこと言わないでくれる?私はひと仕事終えた後の休憩よ」
「「これはこれは失礼いたしました」」
私がにっこり笑うと、双子は降参とばかりに両手を上げた。そのそっくりの顔は笑顔のままだったけれど。
そういえば、個人的に彼らに聞いてみたいことがあったのを思い出した。
「ねえ、あくまで個人的興味なんだけれど、貴方たちはどうして悪戯をするのかしら?」
お説教と誤解されないように、できるだけ軽い調子で問いかけたのだが、双子は目を瞬いてきょとんとした表情になってしまった。ひとまずどう答えるのか待ってみると、彼らはすぐに満面の笑みを2つ揃えた。
「「まさか先生からそんなことを聞かれるとは!」」
「いやはや、僕たちの方が驚かされてしまったな、相棒!」
「その通りだ、相棒。なんせ先生方からはいつもありがたーいお説教をもらうばかりだから!」
「さすがに、廊下でネズミ花火を暴れさせた人たちを野放しにはできないわね」
この間も、「今年だけでも何度目になるやら」とミネルバがカンカンだったことは記憶に新しい。
「それでも僕たちは悪戯に誇りを持っていますよ!」
「なんせみんな笑顔になってくれるので!」
「僕たちも楽しい、みんなも楽しい!」
「「素晴らしいと思いませんか?」」
「考え方はね」
満面の笑みの双子にそう答えると、2人揃って「「悪戯もですよ!」」と返ってきた。本当に何から何まで息ぴったり。この子たちが離れることなんてあるのだろうか?
「先生たちも大変だから程々にしておいてね」
「「はーい」」
大変良いお返事だけれど、どこまで守ってもらえるかは双子のみぞ知る、というところだろう。
彼らの赤と金のネクタイを見て、ふと思い出したことがあった。
「そういえば、貴方たちはハリーと同じグリフィンドールよね?」
「「ええ、そうですよ。それがどうかしましたか?」」
「ハリーのことなんだけれど、できるだけおなかいっぱいご飯を食べさせてあげてくれる?あの年頃にしてはちょっと細過ぎるわ」
ハロウィンの事件の時にハリーの身体に触れる機会があったのだが、同じ歳のロンと比べると全然肉が付いていなかった。何か事情があるのかもしれないが、知ってしまった以上はさすがに見過ごせない。
「私が声をかけてもいいのだけれど、重荷に感じるかもしれないし、他の生徒の手前、あまり1人の子を気にかけ過ぎるのもね……。だから先輩である貴方たちに少し気にしてて欲しいんだけど、お願いできる?」
「「もちろんですよ、先生!」」
「ハリーは弟のロンの友達だし、僕たちの可愛い後輩でもあります」
「大船に乗った気持ちでお任せください!」
2人揃って胸を拳で叩く動作をするものだから、可愛らしいやら頼もしいやらで私は吹き出してしまった。「頼むわね」と言うと、双子は大きく頷いた。
その日から、ハリーのお皿に大量の料理を取り分ける2人の姿が良く見られるようになったのだった。
もう明日にはハリーのシーカーデビュー戦──「極秘」らしいがホグワーツでは「秘密」は「秘密」ではない──という、金曜日の夜。私は訳あってわざわざ職員室に来ていた。
というのも、遡ること今日の昼間、セブルスがフィルチに治療の手伝いをするよう頼んでいる場面に出会したのだ。
「その手伝い、私がやるわ」
そう声をかけると、2人ともぎょっとしたような顔をして私の方を振り返った。気にせず2人に近付くと、フィルチは顰め面のまま軽く会釈をしてさっさと立ち去った。残ったのは、すぐに相変わらずの無愛想な表情に戻ったセブルスと私だけ。
「……手伝いは不要だ」
「いいじゃない。私も怪我の治り具合が気になるのよ。処置した者の責任としてね。じゃあ、また夜にここで」
有無を言わさず約束を取り付けると、セブルスは観念したかのように大きな溜息をついたのだった。
そして、今。目の前には深い皺を眉間にくっきり刻んだ男が突っ立っているわけなのだが。
「……あの、座ってくれない?やりにくいわ」
男は無言で椅子に座った。そこはかとなく不機嫌なセブルスに構わず、膝をついた私は彼のスラックスの裾を迷わずたくし上げた。包帯を取ると、眼前に現れるズタズタの傷。一部にはまだ血が滲んでいる。
「……やっぱり治りが遅いわね……手当が遅れたからかしら……」
ブツブツ呟きながら消毒して包帯を巻き直していると、頭上でセブルスが唸るのが聞こえた。
「忌々しい奴だ。3つの頭に同時に注意することなんてできるか?」
「だから気を付けてって言ったのよ。私にはそれしか言えないわ」
「分かっている」
包帯をしっかり巻き直し終え、私が立ち上がろうとした瞬間。
「ポッター!」
急に鬼の形相になって立ち上がったセブルスが吠えた。私が目を白黒させている間にセブルスはスラックスの裾を戻してガウンも降ろしていた。
そして職員室の出入口には、とても困った顔をしたハリーの姿が。
「本を返してもらおうと思って」
「出て行け、失せろ!」
セブルスの怒鳴り声に、ハリーはぴゃっと飛び上がって走り去ってしまった。私が声をかける暇も無かった。
「セブルス、さすがに大人気ないわ」
まだ軽く息を荒らげているセブルスにそう言うと、「……うるさい」と低い声が返ってきた。図星だ。セブルスの心情も理解はできるが、さすがに先程のは八つ当たりにも等しいと思う。
「ハリーの言ってた本って何のこと?」
「『クディッチ今昔』だ。奴が校外に持ち出していたから減点の上没収した」
その「校外」もちょっとだけ出ていた、くらいの物なんだろうなぁ……。何とも子供っぽいが、そこを指摘すると更に意固地になるだろうことは予想できる。黙っておくのが吉だ。
「本は私から返しておくわ。図書館の本なら貸出期限もあるだろうし、規則を破らせないようにするのも教師の仕事の内よ」
セブルスは無言で本を呼び寄せ、私に手渡した。
明けて、土曜日。私はクディッチの競技場にいた。両隣にミネルバとセブルスを置いて。
これから対戦する寮同士の寮監が隣なんて、正直とっても気まずい。
なんて思っていると、セブルスがフィールドの方を見たまま口を開いた。
「珍しいな、君がここにいるとは」
「朝、ハリーに本を返した時に誘われちゃってね。可愛い生徒からお願いされたら断れないわ」
本当は禁じられた森の奥を散策しようかと思っていたのだが、言わぬが花だろう。私はもう学生ではないのに何故だか怒られそうだ。ついでに、ハリーの名前を出しただけでセブルスの眉間に寄った皺も見ないフリをする。
「私は貴女が見に来てくれて嬉しいですよ、メリル」
「ありがとう、ミネルバ」
セブルスと反対隣からミネルバが微笑んでくれた。グリフィンドールにとっては期待の大物新人シーカーがデビューする日とあって、朝から彼女のテンションは高かった。
以前も、「誰か」からハリーにニンバス2000が贈られた時に思わずミネルバを見た際、とっても可愛らしくウィンクを返された、なんてことがあった。あの時も、私的には分かりやすくウキウキソワソワしていた。生徒たちには全く分からなかっただろうけれど。
そんなこんなでハリーのデビュー戦は順調に──スリザリンの明らかなラフプレーや、実況のリー・ジョーダンがミネルバに叱られるという場面を含めて──進んで行った。
そうして、それは突然起こった。
「……ハリーの動きがおかしいわ」
「何?」
私の呟きにセブルスがいち早く反応した。眉間の皺を更に深くしてハリーを見遣る。
上空では箒が乱高下を繰り返しており、少年は今にも落ちそうになっている。その顔はスニッチを探す集中した物ではなく、酷く焦っている。
「箒に呪いがかかっているのかもしれない」
「何ですって?」
思わずセブルスを見ると、険しい表情の彼は「我輩が反対呪文を試す。解呪を試みるよりは早いだろう」と囁いてきた。視線は相変わらずハリーに固定したままだ。
「私は下で万が一に備えるわ。ついでに怪しい人間がいないかも探してみる」
セブルスが無言で頷くのを確認して、私は観客席の下に向かった。
誰もいない骨組の間を縫って、フィールドが見渡せる位置につく。辺りに人の気配は無く、みんな試合や新しいシーカーに注目しているようだ。
「ここら辺にいないのなら観客席に……?」
呪いをかけている人間は、事前に箒に細工したのでないなら、必ずこの場に、ハリーが見える位置にいるはずだ。そして、観客席の下にいるのでないのなら、その人間は観客として席のどこかにいる。しかし、今は大勢の生徒や先生たちが蛇行して飛ぶハリーに注目してしまっている。これでは誰が呪いをかけているのか、判別が難しい。
そうこうしている間に、ハリーの飛行が安定してきた。セブルスの反対呪文が効いているのだろう。少年の表情もまた引き締まり、何かを見つけたかのように一気に速度を上げた。
──ジェームズ・ポッターもこんな風に飛んだのかしら。
結局一切シーカー姿を見ることなくいなくなった彼を、今目の前の少年は想起させた。ジェームズ・ポッターに対しての思い入れはほぼ無いが、1度くらいは見てみても良かったかもしれない。せっかく同学年だったのに、私はハリーに話してあげられる思い出がほとんど無いのだ。
胸を掠める申し訳なさに気を取られている間に、地面スレスレまで降りてきたハリーが箒の上に立っていた。必死にバランスを取りながら、そのまだまだ細い手を伸ばして、伸ばして。
「ハリー……!」
思わず息を呑んだ。箒から落下してゴロゴロとフィールドを転がったハリーは、すぐに立ち上がり、嘔吐いたかと思うと、口からスニッチを吐き出し、満面の笑みでそれを掲げた。
瞬間、フィールドは割れんばかりの拍手に包まれた。グリフィンドールの勝利が大声でアナウンスされ、次々と選手たちがフィールドに降りて来る。擦り傷だらけのハリーが他の選手たちと凱旋してきたところへ、私も駆け寄った。
「ハリー!」
「ヴァレー先生!来てくれたんですね!僕、僕、勝ちました!」
「ええ、ええ、見ていたわ、おめでとう。怪我は?どこか痛いところは無い?」
「大丈夫です!全然痛くない!」
興奮しきった様子のハリーに「痛いところが出てきたらすぐ医務室に行くのよ」と念押しして、お祭り騒ぎの状態でロッカールームに雪崩込んでいく彼らを見送った。
興奮でざわめく人々の波を縫ってセブルスと合流すると、何故かローブの裾が焼け焦げていた。
「貴方、裂傷の上に火傷まで負ったの?」
「喧しい。好き好んで怪我する馬鹿がどこにいる」
私が軽口を叩くとすぐにそう返ってきたものだから、どうやら中々の機嫌の悪さのようだ。セブルスは鼻を鳴らして焦げたローブの裾を翻すと、足早にどこかに行ってしまった。取り残されてしまった私は、溜息ひとつ吐いてとぼとぼと城へと戻ったのだった。
12月ともなると、ホグワーツの城中どこかソワソワとした雰囲気に包まれる。クリスマスが近くなるにつれ、それはどんどん顕著になっていく、というのが毎年の恒例行事だ。
最近ようやくセブルスの足の怪我も良くなって、包帯からは卒業できた。後は瘡蓋が自然に取れるのを待つばかりで、私も一安心だ。何度か包帯の巻直しをしたのだが、その度に清潔を心がけるように伝えなければならなかったし、その上ハリーの愚痴をしこたま聞かされていたものだから。セブルスとの時間自体は正直嬉しいが、忠告やら愚痴やらで過ごすのはあまり歓迎できない過ごし方だった。たまにあるお茶会のように、紅茶でも飲んでゆったり過ごしたい。
そんな12月も半ばを過ぎた、ホグワーツに深い雪が積もり、湖も凍りついた日。私はショックを受ける事件に遭遇することとなった。
その日は朝から日課であるふくろう小屋の掃除と餌やりをさっさと済ませ、厨房でご褒美のココアを楽しんだ後、冷え切った廊下を早足で歩いていた。すると、前方から見覚えのあるプラチナブロンドが珍しく1人で歩いて来るのが視界に入った。
「おはよう、ドラコ」
「おはようございます、先生」
「今から朝食?いつも一緒にいる2人はどうしたの?」
「クラッブとゴイルのことですか?あの2人なら、寝坊したので置いて来ました」
ツンと澄ました顔に少しの憤りを乗せたドラコを微笑ましく思う。
まだ朝の早い時間だから、2人は寝坊したのでなくドラコが早起きしたのだろう。おそらく1人になりたくて。行動理由がまだまだ分かりやすい。髪色はMr.マルフォイそっくりだけれど、中身は違うみたい。私は会ったことのないお母様似なのかしら?
「先生は何か僕にご用ですか?」
「貴方に、というか……アー、お父様はお元気かしら?」
「はい、父は健勝ですが。……先生は父とお知り合いですか?」
少年の細い眉が訝しげに寄る。Mr.マルフォイは色んな意味で有名だから、不審に思われていそうだ。
「知り合いというか、学生時代に少し話したことがあるのよ。貴方が彼の息子だとセブルスから聞いたものだから、お元気にしてるか聞いておきたくて」
「そうだったんですね」
得心がいったという風に頷くドラコ。私はほっと胸を撫で下ろした。
「お元気なら良かったわ。ドラコ、貴方のお母様は、えっと、確かブラック家の方だったわよね?」
「はい。ナルシッサ・マルフォイといいます。自慢の母です」
色素の薄い少年の頬にパッと朱が走る。心からお母様のことを尊敬していると分かる。ブラック家が事実上瓦解している今、純血貴族の中でトップに立っているマルフォイ家だが、貴族に対するイメージとは違って家族仲は良いのだろう。
「貴方を見ていれば分かるわ。素晴らしいお母様なのね」
「ええ、そうなんです!」
ほんのり上気した頬のドラコは煌めく瞳で力強く頷いた。
「ヴァレー先生、機会があればぜひ母上に会ってください。母上の素晴らしさがより分かると思います」
「ええ、分かったわ」
私が頷くと、ドラコは「では、これで」と満足気な笑みを浮かべて去って行った。色々と仄暗い噂のある家ではあるけれど、あの真っ直ぐさを持ったまま成長して欲しいと思った。
ドラコの純粋さに癒されたのも束の間。中庭が何だか騒がしく、私は好奇心に駆られてそちらに足を向けた。そして、見てしまった。
「ジョージ、もうちょっと上だ!」
「追加の雪玉はまだか、フレッド?」
「わ、あ、な、何事ですかっ?」
木の後ろに隠れながら愉快そうに笑うウィーズリーの双子と飛んで行く複数の雪玉、そしてその先でターバンに跳ね返る雪玉に翻弄されているクィリナス。周囲の生徒たちは笑って見物しているだけだ。
止める者は、誰もいない。あの時のように。
頭を金槌で殴られたような衝撃。
脳裏に、学生時代の光景がフラッシュバックしてくる。
同じような、冬の日だった。湖も凍りつく寒さの中、ホグワーツの3階の窓からたまたま中庭を見た私の目に飛び込んできたのは、グリフィンドール生から雪玉をぶつけられるセブルスの姿だった。
「セブルス!」
思わず窓枠に駆け寄るが、嵌め込み式のそれは私の身体を外気に晒さない。その間にも次々と雪玉が魔法で投げられて、セブルスがどんどん白く染まっていく。周りに学生が多い中、よく見ると、投げているのはいつもの2人──ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックだ。彼らの後ろには、立ち尽くすリーマス・ルーピンとせっせと雪玉を作るピーター・ペテグリューもいる。いつもの4人組だ。
どうしよう、先生を呼ぶべき?助けに行った方が早い?
私がその場でオロオロと迷っていると、セブルスが杖を引き抜き、コンフリンゴだろうか、炎を出して飛んでくる雪玉や周囲の雪を蒸発させた。その水蒸気の煙幕が中庭を覆っている間に、彼はその場を離れたようだ。風が白い煙幕を攫った後には、見物の生徒たちと4人組しか残っていなかった。
セブルスを追いかけたくても、どこに行ったか分からない。そもそも彼は私を近付かせてくれないだろう。私は、何もできなかった。
眼前のクィリナスが、あの日のセブルスに重なった。双子はあの4人組に。色々な感情がせめぎ合って、頭がクラクラする。
気付けば走り出していた。驚いた顔で振り返る生徒たちの間をすり抜け、私は騒ぎの中心である中庭に踏み込んだ。
「Mr.ウィーズリー!!」
「げ!って、え!?」
「ヴァレー先生!?」
大声で名前を呼びながら駆け込んできた私を、驚愕の表情で双子が見る。ミネルバが来たとでも思ったのだろうか。クィリナスでさえも驚き過ぎて固まっている。シンと静まり返った中庭を、ザクザクと雪を踏み締めながら彼を背に庇う形で2人と向かい合う。
「自分たちが何をしていたのか分かっているの?グリフィンドールから1人につき5点減点です!クィリナス、怪我は?」
「え、あ、い、いいえ、あ、ありません」
「そう、良かったわ」
声をかけられたクィリナスはびくりと大仰に肩を跳ねさせたが、質問には答えてくれた。怪我が無いならまずは何よりだ。
「一体何事です!?Mr.ウィーズリー、また貴方たちですか!」
タイミング良く、ミネルバが中庭にツカツカとやって来た。クィリナスのターバンについた雪や周囲の雪玉で概ね事態を把握したようだ。
「クィリナスに怪我は無いようです、ミネルバ。減点は僭越ながら私が行いました」
「分かりました。ご苦労でした、メリル。Mr.ウィーズリーには罰則です。朝食の後私の所に来るように」
「その後で構いませんから、2人と話す時間をいただきたいのですがよろしいですか?」
私の言葉に、ミネルバは重々しく頷いた。
「いいでしょう。2人の罰則が終わったら知らせます」
「ありがとうございます」
もう一度頷いたミネルバは、双子を連れて大広間へと歩いて行った。今目を離すわけにはいかないと思ったのだろう。
私は周囲の生徒たちを解散させ、ターバンや服についた雪を払っているクィリナスに近付いた。
「クィリナス、大丈夫?」
「ひ、は、はい、大丈夫です」
クィリナスは大仰に身体をビクつかせた。怖がらせてしまったのかしら?話しかける度にそんな反応されると、流石の私も少し傷つくわ……。
「この後私の部屋で朝食でもどう?部屋というか、半分物置だけど、それでも良ければ」
「い、いえ、そんな……。わ、私は大丈夫です「嫌なの?」…はいっ?」
私は驚いて口をポカンと開けたクィリナスの目をじっと見つめた。
「私との朝食は嫌かしら?」
怖がらせないようにできるだけ柔らかく微笑むと、彼は慌てて首を横に振った。
「め、滅相もありません。ご、ご一緒させていただきます」
「良かった、ありがとう」
お礼を言うと、クィリナスは何故か俯いてしまった。とりあえず移動しようと彼を促し、2人揃って歩き出す。
ポツポツと世間話をしながら私の部屋へと向かう。途中で厨房に寄ってバスケットに朝食を詰めてもらうのも忘れない。「紅茶は後ほどお部屋にお届けします!」と、キラキラした瞳で屋敷しもべ妖精が言うのでお願いした。
クィリナスは移動中常に視線をあちこちに彷徨わせていて、ずっと何かを気にしているような、何かに怯えているような様子だった。それが少し、気になった。
4話目です。
賢者の石篇となりますが、書きたい所を書いていってるので、読む人によっては「私の好きなシーンが飛ばされてる!」となる方もいらっしゃるとは思いますがご了承ください。
※捏造過多 ※薬草や魔法生物周辺は特にフワッとしてます、ご了承ください
※他人の地雷は気にしませんので自衛お願いします