百合の影から覗いて   作:細雨

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花軸に滴る雨〜賢者の石篇〜

ミネルバからの依頼を受けた次の日。罰則は夜の11時からとのことだったが、私は10時にハグリッドの小屋に着いた。一体何をするつもりなのか、事前に聞いておきたかったからだ。ハグリッドは私を快く小屋に招いてくれた。

「今日は禁じられた森に行くと聞いているのだけれど、実際には何をするつもり?薬草の採取か何か?」

「いんや、そうじゃない。実は、ユニコーンの血の跡を見つけたんです。今週になって2回目です。その可哀想なユニコーンを見つけ出してやるんです」

しょんぼりとした様子でハグリッドは話してくれたが、正直それ所ではない。

「それって、森にユニコーンを傷付けられる何者かが──魔法生物かもしれないけれど、いる訳でしょう?生徒を連れて行くには危険過ぎるわ」

「森にいちゃならねぇ奴を探しに行くんじゃねぇんです。可哀想な奴を見つけ出してやらにゃ。助けられないなら、せめて楽にしてやらねばならんのです」

「それはそうだけれど……」

夜に禁じられた森に行くことがそもそも危険なのに、生徒まで連れて行く上にユニコーンを害せる何かがいるなんて。

私は頭を抱えた。ハグリッドの言い分も分かるが、何度も行ったことのある私でも夜は避けたいくらいには本当に危険なのだ。せめて森の浅い部分に傷ついたユニコーンが居てくれればいいのだが……。

「そろそろあの子らが来る時間です。外に出て待ってやりませんか」

「ええ、そうね」

私が悩んでいる間に時間が来てしまったようだ。私たちはファングを伴ってハグリッドの小屋の前に出た。

しばらく待っていると、Mr.フィルチに連れられた子供たちが遠くに見えた。それを認めたハグリッドがズカズカと歩いて行ったため、私とファングも慌てて後を追った。

追いついた頃にはハグリッドとMr.フィルチは二、三言言い合った後で、忌々しそうに顔を歪めたMr.フィルチが城に帰って行ったのをハグリッドの影からなんとはなしに見送った。

「僕は森には行かない」

恐怖に染まった声で、マルフォイがハグリッドに向かって言った。

「ホグワーツに残りたいのなら行かねばならん」

ハグリッドが厳しく言い返した。

「悪いことをしたんだから、その償いをせにゃならん」

正論ではあるが、ベッドを抜け出したことと夜に禁じられた森に入ることは釣り合わない気もする……。いや、余計な口出しはしないでおこう。ミネルバとハグリッドが決めたことだし、ダンブルドア校長が止めていないのなら大丈夫だろう。

私は大人しく黙っていた。

「でも、森に行くのは召使いがすることだよ。生徒にさせることじゃない。同じ文章を何百回も書き取りするとか、そういう罰だと思っていた。もし僕がこんなことをするってパパが知ったら、きっと……」

「きっとこれがホグワーツの流儀だってそう言い聞かせるだろうよ」

睨みつけてくるドラコに同じような視線を返しながら、ハグリッドは唸るように言った。

「書き取りだって?へっ!それが何の役に立つ?役に立つことをしろ、さもなきゃ退学しろ。お前の父さんが、お前が追い出された方がマシだって言うんなら、さっさと城に戻って荷物を纏めろ!さあ行け!」

ドラコはその場を動かなかった。ハグリッドを虚勢をはって睨みつけていたが、やがて視線を落とした。どうやら反抗するのを諦めたらしい。

もうそろそろ声を出しても良いかしらと思い、ハグリッドの横に並ぶと、子供たち全員が飛び跳ねる程驚いて固まってしまった。どうやらハグリッドの影に隠れて、一切私のことが見えていなかったらしい。

「ヴァ、ヴァレー先生も一緒に行くんですか?」

何とか声を発したのはハーマイオニーだった。他の男の子たちはまだ目を見開いて固まったままだ。

「そうよ。マクゴナガル先生から頼まれてね。でも今回私は補助のようなものだから、ハグリッドの指示に従いなさいね」

「は、はい」

ハーマイオニーが頷いたのに続いて、ようやく氷解した他の子たちも何度も頷いた。

「よーし、それじゃ、よーく聞いてくれ。何せ、俺たちが今夜やろうとしていることは危険なんだ。皆軽はずみなことはしちゃいかん。しばらくはわしに着いて来てくれ」

ハグリッドが先導し、私は殿を務める形で森の外れまでやって来た。ランプを高く掲げ、ハグリッドは暗く生い茂った木々の奥へと消えていく細い曲がりくねった獣道を指差したた。森の中を覗き込むと、一陣の風が皆の髪を逆立てた。何も無くても不気味なのに、更に恐怖心を煽ってくるような風だった。その証拠に、子供たちの顔色が暗くても分かるくらい青くなっている。

「あそこを見ろ。地面に光った物が見えるか?銀色の物が見えるか?ユニコーンの血だ。何者かに酷く傷付けられたユニコーンがこの森の中にいる。今週になって2回目だ。まだ死骸は見つけとらん。皆で可哀想な奴を見つけ出すんだ。助からないなら、苦しまないようにしてやらねばならん」

「ユニコーンを襲った奴が先に僕たちを見つけたらどうするんだい?」

ドラコが恐怖を隠しきれない声で聞いた。その細い背は微かに震えている。

可哀想だが、これは罰則なのだから頑張ってもらわないと、と私は心を鬼にしてハグリッドが説明し終わるのを待った。

「俺やファングと一緒におれば、この森に住むものは誰もお前たちを傷付けはせん。ヴァレー先生もおる。道を外れるなよ。よーし、では2組に分かれて別々の道を行こう。そこら中血だらけだ。ユニコーンは少なくとも昨日の夜からのたうち回ってるんじゃろう」

「僕はファングと一緒がいい」

ドラコが誰よりも素早く宣言した。ハグリッドは頷いて、

「よかろう。断っとくが、そいつは臆病じゃよ。そんじゃ、ハリーとハーマイオニーは俺と一緒に行こう。ドラコとネビルはファングと一緒に別の道だ。ヴァレー先生もドラコとネビルと一緒に行ってもらえますかい?」

「ええ、分かったわ」

「よーし、もしユニコーンを見つけたら緑の光を打ち上げる、いいか?杖を出して練習しよう」

4人の子供たち全員の杖から緑色の光が出たことを確認し、私も念の為実践しておいた。

「それで良し。もし困ったことが起きたら、赤い光を打ち上げろ。皆で助けに行く。じゃ、気を付けろよ、出発だ」

ザクザクと歩き出したハグリッドに続いて、皆で森の中に入る。森は真っ暗でシーンとしていた。全員の歩く音だけが響いていた。

少し歩くと、道が二手に分かれていた。ハグリッドの組は左の道を、私たちファングの組は右の道を取った。

私を先頭にネビル、ドラコ、ファングの順に歩いて行く。最初はドラコを真ん中に置こうとしたが、彼が頑としてファングの側を離れなかったためこの順番になったのだ。

全員が黙って歩いていた。ドラコがランプを持っており、私はルーモスで杖先に明かりを灯しながら辺りを見回しながら進んでいたが、ユニコーンの血の跡は見つけられなかった。

こちらは外れかとハグリッドと合流しようと後ろの2人へ声を掛けようとしたその時。

「うわああああぁぁぁぁっ!!」

「ネビル!?」

私が振り向くのと夜空に赤い光が打ち上がるのは同時。ネビルはパニックになって叫びながらじたばたと暴れている。私は慌てて少年を抱き締めて、落ち着かせようとできるだけ優しく声を掛けた。

「ネビル、ネビル、落ち着いて、大丈夫よ」

話しかけながら背中をさすっていると段々と落ち着いてきたネビルは、今度は啜り泣き始めた。そのまま少年の背中をさすりつつドラコは大丈夫かと顔を上げると、悪戯が成功したような顔で意地悪く笑う少年を見つけた。キリキリと眉が釣り上がるのが自分でも分かる。暗い中でもドラコにもそれが見て取れたのか、ニヤついた笑みを引っ込めて気まずそうに視線を逸らした。

「…………ドラコ、貴方ね?」

ドラコは顔を横に向けたまま答えなかった。沈黙は肯定だ。大方後ろからネビルのことを驚かせたのだろう。普段であればそこまで大きな問題ではないが、ここは禁じられた森だ。しかも夜。どれほど危険なことなのか、ドラコは全く分かっていない。やって良い事と悪い事がある。

息を吸い込んでドラコを叱ろうと立ち上がった瞬間。

「大丈夫か、お前たち!」

バサバサッと草を掻き分けて、ハグリッドが乱入してきた。ネビルの打ち上げた赤の火花を見て、急いで助けに来てくれたのだろう。彼は、泣き続けるネビルと彼を抱き締める私、そして気まずげな表情のドラコを順繰りに見てキョトンとした顔になった。

「えーと、これはどういうことで?」

「ドラコがネビルに悪戯して驚かせたのよ。それでパニックになったネビルが赤い光を打ち上げたの」

私の言葉を聞いたハグリッドの顔がみるみる赤くなっていく。これは怒っている。それも、とっても。

ハグリッドはドラコに向き直って厳しい声で言った。

「それがどんだけ危険なことなのか分かっとるのか?ええ?最初に危険なことだと説明したろうが!お前がやったことは皆を更に危険に晒すことだ!」

カンカンなハグリッドの迫力に、ドラコはついに下を向いた。これで少しは分かってくれたら良いんだけれど……。

「ハグリッド、ハリーとハーマイオニーは?」

「置いてきちまったんです。行きましょう、合流せにゃ」

バリバリと音を立てながらハグリッドに先導され、私たちは早足で残り2人の元に戻った。

ハリーとハーマイオニーは幸いなことに、その場を動かずじっと待ってくれていた。私がホッとしている間に、ハグリッドは組分けを変えていた。今度は、ハグリッド組はネビル、ハーマイオニー、ファング組はドラコとハリー、そして私となった。

また二手に分かれて、森の更に奥へと進んで行く。今度は私が殿を進み、先頭は明かりを持ったドラコとファングが歩くことにした。段々と奥へ、30分ほど歩いただろうか。木立がびっしりと生い茂り、獣道を覆い隠している。そこかしこに落ちている血の跡も濃くなっているかのように見える。そうして、樹齢何千年にもなろうかという樫の古木の根元に、一際大量に血が飛び散っていた。可哀想なユニコーンがこの辺りでのたうち回ったのだろう。その傷がどれだけ酷いのか、簡単に予想できる。……できれば生き長らえていて欲しいのだが。

古木の向こうに開けた平地が見えた。そこに見えた物を確認するため、子供たちを制止し、先頭に出てそれにそっと近付いた。

銀色の煌めき。ユニコーンだ。細心の注意を払いながら更に近付く。子供たちが続くのが気配で分かった。死んでいるかと思ったが、僅かに息がある。私は知らず止めていた息を細く吐き出した。

治療しようと1歩踏み出したその時、ズルズル滑るような音がした。動かそうとした足をピタリと止める。背後で子供たちが息を飲む音が微かに聞こえた。

平地の端が揺れ、暗がりの中から、頭をすっぽりフードで隠した何かが、まるで獲物を漁る獣のように地面を這って来た。

その姿が視界に入った途端、背筋を氷塊が滑り落ちるような悪寒が私を襲った。足が縫い止められたように動かない。それは後ろのハリーとドラコ、そしてファングも同じだった。私たちが固まっている間に、マントを着た何かは瀕死のユニコーンに側まで近付き、身を屈めようとして地面に落ちていた小枝をパキッと鳴らした、その瞬間。

「ぎゃああああああ!!」

「ダメよドラコ!──ファング!」

「ンギュッ!」

絶叫して逃げ出そうとしたドラコの首根っこを辛うじて捕まえ、自分の背中にピタリとくっつけて隠した。しかし、同じ様に走り出したファングはとっくに逃げ去っていた。ドラコの口から喉を押し潰した様な音がしたが構っていられない。1人で森を走るのは危険だ。──ファングがいても。それ以上に、眼前の頭を上げた何かに対して脳内で警戒アラートが鳴り響いて止まらない。

その何かは立ち上がって、こちらを真正面から見た。ドラコがギュッと私のローブを握った感覚で我に返り、私はようやく硬直のとけた腕で杖を引き抜いて構えたが、頭の中はパニックになっていた。

どうする……!?子供たちもいるのに!そもそもこいつはゴーストなの!?攻撃呪文もプロテゴも効くか分からない!

そうこうしている間に、マントを被った影はこちらにスルスルと近寄って来た。いよいよ迫り来る恐怖に心臓を掴まれながらも、私は嗅ぎ慣れた匂いを鼻先に捉えて愕然とした。

「ぐっ!うあ……っ!」

突然、傍らにいたハリーが額を抑えて苦しみ出した。よろよろと倒れかかる少年を杖を構えながらも何とか抱きとめ、しかし私は未だ影から視線を外さない。

近付いてくる何かに、もう何でもいいから攻撃呪文を放とうとした瞬間、それは何故かハッとした動作で一瞬動きを止めた。

その間隙を縫うように、蹄の音が後方から聞こえた。と、思うと、私たちの真上をひらりと飛び越え、まさかの乱入者が登場した。

「貴方は……!」

ドガガッと蹄の音を蹴立てて、影に向かって突進したのは金髪のケンタウルスだった。影は乱入者を嫌がったのか、すぐにスルスルと姿を消した。それを見て、私はハリーとドラコを身体の前後にくっつけながらユニコーンの元に走り寄った。

……良かった、まだギリギリ息はある。

急いでエピスキーを唱え、それの効果を確認して何度か重ね掛けをした。やっと血の止まった傷口に応急処置としてポーチから出した傷薬を塗布して包帯を巻き、私ようやく一息吐いた。これ以上は専門の人に治療してもらうしかない。早くハグリッドに運んでもらわないと……。

影を追い返して戻ってきた森の顔見知りに、私は慌てて姿勢を正してお辞儀をした。

「本当に助かりました、フィレンツェ。ありがとうございます。まさかケンタウルスである貴方が助けてくれるとは……」

「私は自分が最善と思うことをしているだけですよ」

にこりと微笑んだ彼は、ようよう立ち上がったハリーをじっと見詰めた。具体的にはハリーの額の傷を。そして私の後ろに隠れながらそっとフィレンツェを覗いていたドラコをちらりと見やり、またハリーに目線を戻した。

「ポッター家の子だね?早くハグリッドの所に戻った方が良い。今、森は安全じゃない。特に君はね。私に乗れるかな?その方が速いから。……ああ、そちらの子も乗るといい」

「彼の名前はフィレンツェ。昔私も森の危険について忠告を貰ったことがあるわ」

フィレンツェは前足を曲げて身体を低くして、子供たちが乗りやすいようにしてくれたため、私は子供たち2人を彼の前に押し出した。驚いて呆然としているハリーの横で、先に驚きから回復したドラコが口を開いた。何だか嫌な予感。

「ポッターにばかり注目した上に、僕に背に乗れと言うのか?この、獣の分ざ──」

「ドラコ!」

誇り高い彼らに、何てことを言おうとしたのかしら!

私は慌ててドラコの言葉を遮り、その口を自分の手で塞いだ。

「ごめんなさい!フィレンツェ、この子はまだ幼く、どれ程貴方たちが尊敬できる存在で、お互いに対等な相手なのか理解できていないの……!本当にごめんなさい……!」

「君に免じて今回は聞かなかったことにしよう。今はそれより一刻も早くハグリッドの元へ行かねば」

「ええ、そうね」

フィレンツェの寛大な心に感謝しながら、私は子供たちを彼の背に乗るよう促した。ドラコはハリーの後ろで彼の腰に手を回すよう指示したが、少年は如何にも「不本意です」という様な不満そうな表情で動かなかった。

私は目に力を込め、ドラコと視線を合わせて重々しく言った。

「ドラコ?貴方のお父様はこんな時どう振る舞うのが有益か良く知ってるわよ。少なくとも、拗ねて安全確保すら放棄するような事はしないわ。──乗りなさい」

プラチナブロンドの少年はカッと耳を赤くして、しかし器用に顔色は青くして黙ったままハリーの後ろに乗って彼の腰に腕を回した。同じく顔色が悪いハリーは、何故か同情的な目でドラコをちらりと見た。

その時、突然別の蹄の音が私たちがいる平地の反対側から聞こえてきた。ハッとしてその方向を見ると、怖いくらいの勢いで赤毛のロナンと黒髪のベインが現れた。2人とも脇腹が荒い息に波打ち、見事な毛並が汗で光っている。

「フィレンツェ!何と言うことを……!人間を背中に乗せるなど、恥ずかしくないのですか?君はただのロバなのか?」

ベインが怒鳴った。あまりの気迫に子供たちの肩がびくりと震える。

「この子が誰だか分かっているのですか?ポッター家の子です。一刻も早くこの森を離れる方がいい」

フィレンツェは冷静に答えた。それにベナンは少し落ち着いたのか、唸るように言った。

「君はこの子に何を話したんですか?フィレンツェ、忘れてはいけない。我々は天に逆らわないと誓った。惑星の動きから、何が起こるか読み取ったはずじゃないかね」

「私はフィレンツェが最善と思うことをしているんだと信じている」

ロナンは落ち着かない様子で蹄で地面を掻き、くぐもった声で言った。その言葉がまた誇り高いベインを刺激してしまったらしい。

「最善!それが我々と何の関わりがあるんです?ケンタウルスは予言された事にだけ関心を持てばそれで良い!森の中でさ迷う人間を追いかけてロバの様に走り回るのが我々のすることでしょうか!」

ベインは怒って後脚を蹴り上げた。釣られたのかフィレンツェも怒り、急に後脚で立ち上がったので、ハリーとドラコは振り落とされないように、必死でハリーはフィレンツェの肩に、ドラコはハリーの腰に掴まった。

思わず2人の名前を呼ぶが、ケンタウルス同士の言い合いはヒートアップしてしまい、私如きでは止められない。下手に動いたら、その太い脚に蹴り上げられてしまう可能性もある。私はただ、傷付いたユニコーンの側で立ち尽くすしかできない。

前脚を下ろしたフィレンツェがベインに向かって声を荒らげた。

「あのユニコーンを見なかったのですか?何故酷く傷付けられたのか君には分からないのですか?それとも惑星がその秘密を君には教えていないのですか?ベイン、僕はこの森に忍び寄る物に立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」

キッと決意した表情でベインに立ち向かったフィレンツェは、少し表情を和らげて私の方を向いた。

「メリル・ヴァレー、貴女も共に行きますか?」

「いいえ、私はこのユニコーンの側にいるわ。これ以上この子が傷付かないように」

「分かりました」

頷きを残し、フィレンツェはさっと向きを変えて木立に飛び込んだ。その背の子供たちの目は確実に潤んでいたけれど、頑張ってハグリッドの元へと辿り着いて欲しい。

残された私は、ケンタウルス2人の出方をそっと窺った。ベインはまだ苛立っているのか、荒々しく地面を掻いて、

「……そのユニコーンの傷が早く癒える事を祈ります。それでは」

とだけ唸るように言って去って行った。続いてロナンも「幸運を祈ります」と告げて木立の奥に消えて行った。

私はそれを静かに見送り、ハグリッドと子供たちと合流するまでずっとか細い呼吸を続けるユニコーンの側に座り込んでいた。

 

ハグリッドが傷付いたユニコーンをその太い両腕で抱え上げて森から出る間も、私はじわじわと頭の中を支配する疑念に混乱していた。

それはユニコーンをハグリッドに託し、Mr.フィルチと合流して城に戻り、とても気まずそうに互いにおやすみの挨拶を交わす子供たちを寮へ送り届けて自室に戻った後も続いていた。

動揺したまま、いつの間にかシャワーを浴びていたらしく、気付いた時にはベッドに膝を抱えて座り込んでいた。

「…………信じられないわ……信じたくない……でも、あの匂い……」

絶対に、匂いを間違えない自信がある。そうでないと、薬草と毒草の見分けや森で動物が近付いて来た時の対処に支障が出るから。

だからこそ、信じたくなかった。あの嗅ぎ慣れたにんにくと、微かな桃の匂い。

まさか、ユニコーンを傷付け、その血を欲していたのが彼だなんて。

「どうして……クィリナス……!」

私は顔を膝に埋めて項垂れるしかなかった。




8話目です。短めですが区切りが良いのでここまでで。しかしながら時間が全然進みません。まさかの森の罰則で終わりました。
あと1、2話で終わる、だろうか……。
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