人形使いは屈さない   作:波間こうど

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王道ファンタジー物を書いてみたかった。


その者遠方より来たる。

 

 人類がこの世に蔓延る数多の超常現象を研究して、魔術という誰もが使用できる理論体系として構築したのは今から二千年近く前のことだ。気の遠くなるほど昔のことで、今となってはその頃のことを知る人は誰もいない。

 

 世界最古の偉人とされるオルレイ・アルケミスはこの世に存在する超常現象、その八割以上を理論体系としてまとめ上げ、それまでは超常現象であったものに「魔術」と名前をつけて、学問として学べば誰でも使用することを可能にした。

 

 その功績は余りにも大きく、現代においては彼のことを本来の魔術師としてではなく神と同一視する宗教団体すら存在するほどだ。彼が後世に残した影響というものは計り知れない。それほどまでに偉大な存在なのである。歴史でも、魔術学でも、一般教養基礎でも学ぶ、知らぬ者はいないほどの偉人だ。

 

 そんな彼には数人の弟子がいた。伝記の一部が欠損しているため正確な人数自体は把握できていないが片手で数えられる程度の人数だったらしい。一人一人が優秀な魔術師であり、その才能は師であるオルレイに勝るとも劣らなかったとか。

 

 一度は同じ師の下で育った彼らは別々の道へと進んだが、オルレイの死後に集結し、魔術という学問を学ぶための研究機関、魔術学園都市「オルレイ・セルレグラム」を作り上げた。そこが二千年という時を超えて、今では世界の中心とまで呼ばれる大規模魔術都市になったのである。

 

「……と、いうのが伝記として後世に残された魔術学園都市オルレイ・セルレグラム設立の大まかな流れになってるね。諸説はあるけど、まぁ……どんな人に聞いても大体はこのお話が返ってくるんじゃないかな? 歴史の教科書にも載ってるような概要だよ」

 

 僕は椅子に座ったまま得意気に人差し指を立てながら横に座っている長髪の少女に説明を施した。彼女が質問してきたときはできる限り答えるようにしているのだが、僕は世間知らずなお坊ちゃんであるため答えられることはそう多くない。

 

 だから、時たまこのように答えられるものが来るとついついペラペラと長話してしまう癖があることは重々理解していて、治さなければならない癖だなとは思うもののどうにもつい話しすぎてしまう。この癖が治るのはまだまだ先になりそうだ。

 

「なるほど……つまりリリネの言うことが正しければ今から留学に向かう場所は魔術師育成の総本山、というわけですね」

「そういうことになるね。……ところでなんだけどその呼び捨てやめない? 一応お前は僕の従者って扱いなんだからさ。もっとこう、お淑やかに話せないわけ?」

 

 列車に揺られながら横の席に座る少女を見た。黒を基調とし、白を差し色にしたメイド服を身に付けた彼女は、僕は抗議の言葉を投げかけてみるも、しかし彼女は髪を指で払いながら僕の視線をどこ吹く風と言わんばかりに無視した。取り合ってくれるつもりはないらしい。

 

 彼女の名前はアフィン。実家から着いてきてくれた僕の従者、つまりメイドだ。

 

 青紫の髪を長くたなびかせ、その髪とよく似合う白い肌。髪とは違い黄色に輝くトパーズのような瞳を持った美女で、人として作り上げることができる最上の美を詰め込んだ女性だ。その上、掃除に料理、洗濯物などの一般的な家事から僕の護衛までの幅広い分野を一人で熟すことができるハイパーメイドさんでもある。いつもお世話になっています。

 

 文句があるとしたら僕のことを子ども扱いして一向に主人として認めてくれないことくらいで、欠点らしい欠点は見当たらないことで有名。大問題じゃないか。

 

「お前は僕のメイドさんとしてついてきてるんだよね? なら主人のことは立てるのが筋だと思うんだけど?」

 

 確認のために聞いてみるとアフィンは目を伏せてこくりと頷いた。まるで微風に百合が靡くみたいだ。一つ一つの行動が全て洗練されて、美しい。佇んでるだけでも周りの人がチラチラと盗み見てしまう傾国の美を携えた少女は、僕のことをまだ主人として認めていないらしい。

 

「パスキーメイド長の推薦によりリリネに同行しています。従者……メイドとして着いていくように、と」

「だよね? パスキーさんの命令なんでしょ? ほら、メイドとしてって言われてるんだからさぁ、メイドらしい言葉遣いとか……あるじゃない? 主人は立てなきゃじゃない?」

「立派な後継者として大成するまでは呼び捨てで呼んでもらって構わない、という風に奥様からはご許可をいただいておりますので。そこは問題ありません。そもそも、こんなちんちくりん、呼び捨てで十分です」

「あ! 言ったなこの野郎! コンプレックスを突きつけて来やがって……! そこまで陰湿な奴に育てた覚えはないぞ!」

「貴方に育てられた覚えはありませんが? 悔しければ私の身長を超えてみることですね」

 

 僕の身長が大体157センチ、同年代の子達から見ても小柄な身長だと思う。あんまり同年代に友達が多いわけではないけど、大体みんな僕よりは背が高くて、いい体格をしているから、人よりも劣っている自覚はある。

 

 それに比べてアフィンは身長170近くあるスラッとした細身だ。僕が彼女の身長を越えるためにはあと少なくとも10センチ以上背を伸ばす必要があることになる。そうなるのはまだまだ先になりそうだ。

 

「まだまだ先どころか、そんな未来は来ませんよ」

「なにおう! 来るから! 寝る子は育つから!」

 

 ぐぬぬ……と拳を握りながら彼女を睨みつけると通路を挟んだ先の席から大きく誇張したような咳払いの声が届いた。どうやら声量を上げすぎたようだ。

 

「……おい、怒られちゃったじゃないか!」

「リリネが身長の三倍ほど大きい声をあげるからでしょう」

「そんなにチビじゃないやい!」

 

 僕の言葉にあはは、と馬鹿にしたように笑った彼女に向かって手を振り上げる。仕返しのように叩いてやろうとしたその手を軽々と受け止めながら、窓の外に視線を向けたアフィンが「あ」と声を漏らした。

 

「そろそろ到着みたいですよ」

「ほんと!?」

 

 彼女から視線を外して窓の外へと視線を飛ばす。するとそこには蒼穹を貫くように聳え立つ塔に、浮かぶ城、空に映し出され輝く文字列、噂に聞いた魔法学園都市、オルレイ•セルレグラムが見えた。

 

「これからあそこで生活するんだな……!」

「ワクワクが止まらない、といった顔をしていますがリリネ。本来の目的をお忘れなきよう」

「わ、わかってるよ!」

「どうだか。初めてのご学友や初めての学問に心が踊って仕方がないというような顔をしていましたよ? 奥様やパスキーメイド長からも散々言われているでしょう? 大体リリネは人の話を聞かない癖がありますからね…………」

 

 鋭く指摘し、くどくどと説教をしてくるアフィンの言葉を聞き流しながら目線を目的地である街へと向ける。僕の新生活が、幕を開けようとしていた。

 

 

  × × ×

 

 

  恥ずかしい話をすると僕は実家から出たことがほとんどない。

 

 僕の家系は()()()()()がある子どもに一定の教育を施すまで外部となるべく関わりを持たせない、という独自の教育方針を取っている。僕は兄妹の中で唯一、その才能に恵まれていた存在だった。故になかなか家の外に出る機会がなかったのだ。

 

 僕は今年で十六になるが、今まで実家の屋敷から外に出たのは両手の指で数えて足りる程度で、外泊なんて片手の指でも余るほどだ。外に出るということ自体が一大イベントなのである。

 

 よって、そんな僕がこの魔術学園都市にアフィンというお供がいるとはいえ、ほとんど単身で留学することができるというのは今までの生活からは考えられないことなのである。よくこんな無茶な提案が通ったものだ。

 

 最初に父上から許可が降りたときは何かの冗談かと思ってアフィンに頬をつねってもらったくらいの出来事で、まさに青天の霹靂だった。(この際、他のメイドなら優しくつねるくらいに留めるのだが、彼女は割とほっぺたが赤くなるくらいにまで思いっきりつねり上げた。酷いよね)

 

「ふふふ、自由に生活できることのなんと素晴らしきことか!」

「リリネは十分自由に生活させてもらっていたかと思いますが」

「枠組みの中ではね。兄様やルルカに比べれば僕への制限は多かったじゃない」

「それは貴方も受け入れているでしょう? ()()()()は兄上や妹君とは違うのですから」

 

 兄様にも、妹のルルカにもない才能。僕だけの才能。

 

 そのせいで僕は鳥籠の鳥だった。どこにも飛び出せない。鳥。

 

「……だけど、やっと自由なんだ」

 

 家族でも使用人でもない人が当たり前に闊歩していて、誰も彼もが楽しそうに笑う。猫が路地裏から飛び出して、子どもがそれを追いかける。

 

 屋敷では見られない光景。

 

 僕はようやく、外に出れたのだ。

 

「……余りに自堕落な生活をしているな、と思ったら止めますからね」

「わかってるって!」

 

 アフィンの警告に快く返事をした。今の僕の懐はきっと底知れないほど深いだろう。どんな無礼も許せちゃうぜ。

 

 鼻歌を歌いながら街中を歩く。初めて列車に乗ったのも興奮したが、自分の足で屋敷の中以外を好き勝手に歩いていいということ自体が僕からすればなかなかに興奮することなので鼻歌も出るだろうというものだった。

 

「街中で当たり前のように魔術が使われてるね。屋敷じゃ無闇矢鱈に魔術を使うのは下品って言われてきたけど……世間一般ではそうでもないのかな……?」

 

 道ゆく人が荷物を浮かせることで軽くしたり、羽を生やして空を飛んでいるのを見ながら自分がどれだけ狭い世界の中で生きていたのかということを自覚する。

 

 外はこんなにも自由だ。

 

「着きました。ここが、リリネの割り振られた学生寮のようです」

「おぉ〜……」

 

 街中を歩いていくと、アフィンが急に立ち止まって一つの建物を指差した。白い壁に看板としてなのか【暁の宿(ドーン・イン)】と書かれたプレートが埋め込まれている。大きさとしては三階建ての、外から見て十数部屋くらいはありそうな大きさの建物だった。

 

 中に入る。鍵はもうこの部屋を契約した段階で送られてきたらしく、アフィンが持っていた。中の構造もまるで見たことがあるというようにスタスタと僕の前を歩いていく。2階の突き当たりまで僕を案内すると、そこの鍵を開けた。

 

「……小さいですね」

「そんなこと言わない! どこでだって雨風が凌げれば天国みたいなものだよ!」

 

 割り振られた部屋に足を踏み入れる。部屋の広さ自体はアフィンの言う通り別に対して広くもないが、よく整頓され、綺麗に保たれた部屋だった。ある程度の家具は備え付けられていて、実家から入寮するに先んじてこの部屋に送りつけた荷物も見える。トイレとお風呂も存在して、キッチンもついてる上にお部屋が二つ……屋敷に比べればもちろん狭いが、僕の部屋と同じくらいの広さはある。暮らしていく分にはなんの不自由もなさそうだった。

 

「じゃあ部屋決めよ! 僕こっちの部屋がいい!」

「……? 部屋を決めるとは?」

「え? 僕とお前の部屋割りだけど……二部屋あるし、一人一部屋だろ?」

「えっ」

 

 何やら鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているアフィンに首を傾げつつ部屋の片方を散策してみる。これはクローゼットかな? ベッドもあるし、勉強机もある。とりあえず学校生活を送ることには事欠かなさそうだ。刻印するための作業台がないて……けどまぁ、それくらいは別になんとかなるか!

 

 あ、でも本棚がないのは困るかも。これはアフィンに言って本棚を買う必要がありそう……というか必要なものは後でアフィンに言って揃えてもらわないとね。む? もしかして買い物も好きな者自分で買えちゃったりする感じか? 本当に? 最高すぎるんだけど。そうと決まれば荷解き終わったら外に出なきゃ。

 

「アフィーン、荷解き終わったらちょっと買いたいものがあるんだけど〜……アフィン? いつまで固まってんの?」

「……はっ、い、いえ……なんでもありません……いつだかの様に同じベッドで寝れるなどと恥ずかしい勘違いしたわけではなく……あ、別に一緒のベッドで寝ることが嫌というわけではもちろんなくてですね……?」

「なんの話? 荷物出すの手伝ってよ」

 

 実家から送られてきた木箱をコンコンと手で叩きながら何やらゴニョゴニョと呟く彼女にお仕事を急かすとムスッとした顔をした後に袖をまくりながら近づいてきた。なんか怒ってるんだけど、まぁ、後で撫でてあげれば解決だ。

 

 

 こうして、僕と僕の従者であるアフィンの、二人暮らしが始まった。

 

「リリネ、私の部屋に入る際はノックをお願いします」

「お前は僕の部屋に入るときにノックしないのに?」

「抜き打ちで入室しなければ勉学に励んでいるかサボっているのかがわからないでしょう? それと、この部屋の名義は奥様で、私は貴方の監督役ですから。貴方は学業を疎かにしないように勉学に励んでください。家事全般は私がしますので、わかりましたか? ご学友ができて、外に遊びにいくのは構いませんが基本的に私がお側に付きますので。また、女学友ができた時はすぐにご報告ください。私としても……はい、色々と準備がございますので」

 

 ……始まったが、どうやらこの家での主導権は彼女にあるらしい。

 

 なんとも情けのない出だしで、僕の学園生活はその最初の一歩を踏み出したのだ。

 

 





 波間こうどです。はじめまして。オリジナル書きます。

 頑張っていきます。目指せオリジナルランキング入り!
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