代わりがいるからと婚約破棄されてしまいましたが、見る目がなかったのは貴方だったようです。~わたくしは本物の幸せを見つけさせていただきます~   作:true177

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第1話:不憫な一家

 全王国民が憧れる、夢のような地位。貴族と平民の間には、計り知れない壁があります。

 

「ほら、ルイーズ、クワを持ってそっちへ!」

「はい、お母さま! そっち……と言われましても……。土ばかりで作物も何も……」

「へこみがあるでしょう? そこを耕して、畑の形を整えるのよ!」

 

 そう思われるのも無理はないでしょう。事実、平民はいくら金を払っても称号を付けられないのだから。

 

 使用人を雇い、自らは宮殿に住んで贅沢三昧。暇を持て余せば、交友の深い別の家を呼んで娯楽に勤しむ……。それが、平民の考える『きぞく』とやらなのでしょう。

 

 先日、お忍びで市場へと潜り込んでみました。食料の買いだ……なんてはしたない行為ではなく、国民の生活を視察するために、です。

 

 そこには、子ども向けの絵本が置いてありました。

 開いてみて、わたくしは尻もちをつきそうになりましたわ。

 

『かべのむこうでは、したをまんぞくさせたきぞくがおどっています』

 

 描かれているような生活ができるなら、今すぐにでもこのクワを放り投げてやりたいですわ! ドレスを着て、ぜひ宮殿にわたくしの部屋を準備しましょう。

 

「……ルイーズ! 上の空を向いていないで、あなたも手伝いなさい? お父さまがいない分、あなたが頑張らなくてはいけないのよ?」

 

 小言の多いお母さまから小石が飛んできやがりました。まだ二十年しか生きていない愛娘に対する行動ですか、あれは? お母さまでなかったら、わたくしが絵本の貴族であったら、ここら一帯を全部更地にしてさしあげますのに……。

 

 わたくしが生まれたマルシャン男爵家は、この王国でも下も下。陰では『入れ替え戦』と叩かれているとか……。生意気な子どもの頃は頭に血をのぼらせていましたが、今となっては『商人の方が豊かな生活を送れるのでは……?』などと考える毎日ですね……。

 

 しかししかし、地方はずれの底辺貴族とは言えど、やはり『貴族』という冠は大きいようでして。周辺で営んでいる平民は、皆口をそろえて『マルシャン様一家』と呼んでくれています。……憐れみの目を向けられているかもしれませんが……。

 

「……お母さま、この単純作業からはいつ解放されるのですか? わたくしがいい家に嫁に行けば、この生活は解消されますか?」

「そうですね……、王様に近い爵位の家にとつげば、何とかなります。ただ……、ルイーズ、あなたが行けるとは思えませんけど……」

 

 いつも一言多いお母さまです。質問には過不足なく答える、と教えてもらわなかったのでしょうか。貴族のお作法を教えてくださったお母さまなら、それしきは弁えていると思いますが。

 

 ともかく、この生活から抜け出す方法は『爵位を上げること』なのです。それも、並大抵のことではひっくり返りません。新しい家庭を築くしかないのです。

 

「そんなことありませんよお母さま! パーティーに行った度伝えているでしょう、あの『ゴーダン公爵家』の御子息、セドリック様と友好していると」

 

 セドリック・ゴーダン様。わたくしの表面だけそろえたドレス姿でも文句のひとつもお漏らしにならないお方です。正直、爵位や生活などは二の次ですが、わたくしは彼のことが忘れられないのであります。ベッドの裏に隠してある日記を読まれでもしようものなら……。天に旅立ってもおかしくありません。

 

 またか、とお母さまはため息をつかれてクワをおろされました。そんなに手を横に振られても、事実は事実、書き換えることはできません。

 

「変な夢物語は見るものじゃありませんよ、ルイーズ。今は畑を耕すことだけを考えなさい。秋になって作物が取れないことでもあったら、このマルシャン家は大変なことになるのだから……」

 

 お母さまが主張したいことも分かります。

 

 マルシャン家は、代々農家のような生活を強いられてきました。いや、周りの視線を気にしなくていい意味ではわたくしたちの方が貧乏なのかもしれません。

 

 もちろん、その歴史には縁談話もいくつか持ち込まれました。どれもこれも、序列最下位の家からすれば大変な出世になります。ご先祖さまは、事あるごとにその話を認めてきました。

 

 しかし、結果は残酷でした。すべての話において相手の家の要求に踊らされ、あるいは出来の悪い末端の一族を切り離す目的を達成され、一度も浮上することはできませんでした。

 

「お母さま……。セドリック様は、過去騙されてきたような悪人ではございません。わたくしが、この目ではっきりと見ています」

 

 それでも、彼の目には青空が広がっていました。他の令嬢に目を移ろわせることもありませんでした。わたくしを、真っすぐ見てくださっていたのです。

 

「またまた、ルイーズ。前に種を買いに行くよう言ったとき、何があったか覚えていますか?」

「きちんと買いに行きましたよ……? 盗賊に襲われたわけでも、淫らな場所に近寄ったりもしていませ……」

「ルイーズが買ってきた種、全然違う種類のものでしたよ? その節穴で、よく『この目ではっきりと』なんて言えましたね……?」

 

 ああ、なんと凝り固まった考えのお母さま! 植物を正しく見られるのは、専門のお方しかいません。人の心は、その限りではないのです。

 

 来週に行われるパーティーに胸を躍らせて、わたくしはまたクワを振り下ろしました。

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