しかし、裏側へ行くためのパスを手に入れなくてはならなった。
C93で頒布したCCCコラボ一週目の小説です。
ここで全文を順次公開していきます。
まだ在庫が御座いますのでぜひイベントでお求めください!
また、C107で頒布予定の「メルトリリスは踊らない(https://syosetu.org/novel/393807/)とも若干の関連があります。
こちらも併せて読んでいただけると幸いです。
◇◇◇
パッションリップがセンチネルを
けれど、探索し終えた立香とメルトリリスはほかに行くべき場所がなかった。
残るは胸だけ。さりとてそこにはパッションリップがおり、メルトリリスは彼女に対抗するにはまだ未熟であった。
セラフィックスが海溝の底に到達するまで残り一時間と十分。既にSE.RA.PH内時間で五日を切っていた。
◇◇◇
「つまり、このSE.RA.PHには今まで探索していた面とは別の面があるの?」
「そういうことになります」
探索を終えて教会に帰投した立香はメルトと今後の方針を話し合っていた。SE.RA.PHの全てを探索し尽くしたと思っていたが、メルトリリスの説明に頭を抱えることになった。
「完全に考えていなかった……。でも、そうだよね。人間には腹側があれば背中側がある。今までの場所が顔や胸なら、同じように背中やお尻があってもおかしくないもんな」
「……申し訳ありません。もっと早くに話すべきだったのですが」
メルトリリスが縮こまって
「いや、仕方ないよ。“仕様”、なんでしょ」
「……はい」
小さく頷く彼女を立香は責める気はない。何より謝罪しているメルトを追い詰めたところで事態が解決するわけでもないし、彼女を傷つけたくもない。
メルトリリスたちはもともとBBによって召喚された。その際にAIとしてメルトリリスに「このSE.RA.PHに関わる機密事項への開示制限」が課されている。このために一部の情報、例えば今回のように「SE.RA.PHには表と裏がある」といった情報がメルトリリス自身の口からは決して言えず、立香が請求して初めて話すことができた。
「一応、聞いておくんだけど、まだ話していないこととかある?」
「……はい」
そしてまたメルトは一段と小さくなってしまった。
「私、力になれないばかりか隠し事ばかりで……ごめんなさい、マスター……」
「そんなに自分を責めないでいいから、メルト。これは仕方ないから。顔をあげてよ」
「……」
しずしずと向けられた彼女の表情は今にも死んでしまいそうに思い詰めていた。
「これはメルトが悪いわけじゃないんだよ。だから、今はその裏側へ行く方法を考えよう?」
「……それなのですが」
これまたメルトは言い辛そうに視線を部屋の隅へと投げた。
「私は背中側のセンチネルでした。その特権の一部は生きていて、裏から表へ“ひっくり返す”ことならできます。けれど逆となると、権限のない私では何もできないのです……」
メルトの長い髪が顔をベールのように隠す。
「他に裏側へ行く方法とかある?」
「残念ですが、私にはセンチネルの特権を使う以外の方法を知りません。ごめんなさい……」
「そっか。なら仕方ない」
メルトが知らない以上、他の方法はないのだ。
なら、この教会でうだうだと時間を潰している暇はない。
よし、と立ち上がる。
「それじゃ行こうか、メルト」
「……どこにですか?」
彼女の問いにうーん、と悩む。
「とりあえず、もう一度探索したエリアを探索し直してみようよ。もしかしたら裏側に行けるヒントがあるかもしれないし、まだ戦ってない敵もいるかもしれないじゃん」
未知のエリアならいざ知らず、既知のエリアなら今の体調でも余裕をもって調べられる。
「……」
立香を見るメルトリリスは驚いたように目を丸くして呆気に取られている。
「どうしたの?」
「……いえ」
くすりとメルトは笑った。
「アナタは、とても不思議な方だなと、そう思ったのです」
「……そうかな?」
「ええ、そうですよ」
ぽりぽりと頬をかく立香の隣にメルトが立ち並んだ。
「ですから、私もお供します。まだ何か見落としているかもしれませんしね」
「ああ。まだ時間はあるんだ。諦めるにはまだ早いよ」
そう、既に五日は切っているが、まだ四日と二十時間近くも残っているのだ。
唯一残っている胸はまだ行けないが、それ以外の場所なら探索するのに十分な時間がある。そこでヒントを見つければいい。
隣のメルトもさっきまでの申し訳なさそうな雰囲気はない。普段のの調子の彼女がいれば百人力だ。
いつものように教会の扉を開けて、SE.RA.PHへと足を踏み入れ――
「どうもー!『突撃!隣のBBごはん』の取材で―す!」
BBが
◇◇◇
「……」
思考が止まった。いや、止まらないはずがない。
今まで姿を見せずにいたゲームマスターで黒幕っぽいこのAIが、まさか自分たちの拠点に乗り込んでくるとか考えられるだろうか。それも、どこかのテレビ番組のパクリっぽいことをしながら。
隣にいるメルトリリスをちらりと
「……」
呆気に取られ
「あっれー?どうしましたかー?『キャー!メイクしてなーい!』とか『部屋汚いんで映さないでください(苦笑)』とか、お決まりの反応とかしないんですかー?BBちゃん、つまらないでーす」
そんな二人をさておいて、当のBB本人はいつも通りだった。
「あ、もしかして」きゃるん、と効果音を立てて一回転した。
「SE.RA.PH選抜総選挙、堂々一位のBBちゃんが目の前にいて喜びのあまりに言葉を失っちゃいましたかー。それなら仕方ありません!このBBの美少女っぷり、しかと目に焼き付けて下さ、きゃー!」
余りにも余りな空回りっぷりに堪えかねたメルトが無言で膝を打ち込みに行った。しかしそれは軽々と
分かりやすいぐらいに怒りながらBBはメルトを叱る。
「メルト!いきなり何するんですかー!」
「それはこちらのセリフですBB!何故ゲームマスターであるアナタがここにいるんですか!?」
「おやおや~?気になっちゃいますか?気になっちゃいますよね?」
斜に構えて焦らし始めた。すごくむかつくけれど、それよりも隣のメルトリリスが今までにないくらいにキレているのが新鮮だった。
「いいから早く用件を話してください!アナタに構っているほど私たちは暇ではないのです!」
「うわ、夫婦アピールとか始めちゃいましたよ私のアルターエゴ……ちょっとどういうことなんですかセンパイ。夜な夜な『おかえりなさいマスター。ご飯にします?お風呂にします?それとも、ワ・タ・シ?』みたいなイチャラブ新婚生活とかしてるんですか?」
「なっ……!」
ニヤニヤと煽るBB。メルトが真っ赤になって、顔から湯気まで出ている。
それは断じてしてはいない。けれど、想像してみたら……。
……。
「悪くな、ぐふっ」
メルトリリスが
「……マスター、そういうことしたいんですか?」
メルトの視線が痛い。
「ノーコメントで」
「分かりました。それについては今度、ゆっくりと
それはそれとして、用件は何ですか」
蹴られた所をさする。BBは手で顔を仰いで暑いわーとジェスチャーしていた。
「あ、
しゅんとBBが鞭を振るうと、その手に一枚のカードが現れた。
メルトリリスが眉を
「それは何?」
自分が問うと、BBはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりのセールストークを始めた。
「表側の新婚旅行では物足りなくなった――あ、メルト、その棘ダメです。痛そうですから――ごほん、表側の探索を済ませたけど、裏側まで探索したい!けど裏側に行けない!そんなお悩みのマスターたちへ、この私が極秘裏に開発した特別なICカードです!このカードを持っているマスターとそのサーヴァントは、なんと裏側、背中側に行けてしまうのです!」
「――!」
絵に描いたような解決手段。今の自分たちが一番欲しているものをBBは持っている。
そんな自分たちの魂胆など見え透いているとBBは
「欲しいですか~?欲しいですよね~?でも、タダじゃあげませんよ。そこまでのイージーモード、センパイには許しませんから。
……ほんと、まさかそこの
BBが自分を見た。紅く光るその眼は、人知を超えた裁定者として、人類を見下すその眼だった。
「ムカつきます。虫けらは虫らしく、こそこそと這いずり回ってればいいのですよ。
最初こそ、哀れでしたから手心を加えてあげたのに、
そこには今までのふざけた雰囲気の彼女はいなかった。
メルトリリスから聞いたBBのかつての在り方。狂ったAIとして世界全てを呑み込もうとした
「ですから、この私自身がこうやって
メルトがにわかに緊張を
だが、自分たちの警戒を見てBBは鼻で笑った。
「でも、ご安心ください!このBBちゃんが直接手を下してしまえば、これ、この通りあっという間なのです」
ひょいと鞭を振るう。すると目の前に食事中の緑色のサーヴァントが現れてた。
「え?」
彼が困惑する間にその足元が大穴を開けて吸い込んでしまった。
「なんとおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
エコーをかけて落ちていく緑茶。分かりやすいデモンストレーションだったが、必要かどうかは定かではない。
「こんな大人げないことはやらないのでご安心ください!センパイはムカつきますけどルールを破っていませんから。
ですので、BBちゃんの腹いせはこの方にやっていただきます」
再び振るった鞭は新たなサーヴァントを呼び出した。
「
「待たせたわね、子ブタ!」
その声を聞いて背中が冷や汗で濡れる。色んな方面でヤバイ敵が現れてしまった。
「
そう、あのエリザベート・バートリーだった。
彼女が何者かはもはや語るまい。
そのエリちゃんが敵として現れたのだ。あらゆる意味で警戒もするし、げんなりもする。持ち物の中で耳栓の代わりになりそうなものを探しておかねばならない。
何度も出てきて恥ずかしくないんですかと叫びたくなった。
それはそれとして、立香はエリザベートにその姿について質問した。
「エリちゃん、なんでそんなに真っ黒なんですか」
エリザベートは不愉快そうに声を尖らせた。
「はあ?何言っているのかしら。その眼は
そこまで言って自分の体を見下ろした。右腕を見た。左腕を見た。振り返って尻尾を見た。懐から取り出した手鏡で最後に自分の顔を見た。
俯いてわなわなと震え出す。隣のメルトリリスはあきれ顔のまま様子を伺っている。自分はと言えば、この後の展開を予想して耳を塞いだ。
「――なんで真っ黒なのよおおおおおおおお!!!!????」
SE.RA.PHがその咆哮で震えた。後ろの教会がミシミシと嫌な音を立て、ダンジョンの壁と床にノイズが走る。メルトリリスはびくりと跳ねた。
「BBィー!なんで私こんなに真っ黒なのよ!」
がくがくとBBを揺さぶるが、本人は目を合わせようとせず棒読みで
「えー今回、エリちゃんさんには経費削減のために白黒になっていただきました」
「何が白黒よ!黒一色じゃない!黒よ!真っ黒!!」
「対センパイ用に特別なスキルとか付与したらSE.RA.PHでも演算が追い付かなくてスキルを切るか、白黒になるか、8ビットになるかしかなかったのです。ですので、BBちゃんは泣く泣くエリちゃんさんをグレースケールに……」
「おかしいでしょ!?SE.RA.PHの演算出力でも追い付かないスキルって凄くない!?私凄すぎない!少し感心したわよBB!でも、これってグレースケールじゃない色合いよ!もうブラックスケールだわ!」
「はい、ではセンパイはこれからエリちゃんさんと戦っていただきます!」
強引だな、とメルトリリスに目配せすると、彼女も強引ですねと頷いた。相変わらずBBはがくがくと揺さぶられている。
「ですが、見た目に
それではセンパイ、無駄だと思いますけど頑張ってください!」
まるでそこにいなかったかのようにBBは消えた。バランスを崩したエリザベートがその場に倒れて、立ち上がると明後日方へ不満を吠え散らかした。
「……ま、いいわ。この鬱憤は子ブタたちで晴らさせてもらうわ」
真っ黒なエリザベートがこちらに向き直った……と思う。
だが、エリザベート・バートリーは油断ならないサーヴァントなのは事実だ。今まで何度も戦ってきたからわかる。
その彼女がBBからバックアップを受けているのならばなおさらだ。
「メルト、気を付けて」
「分かっています、マスター……こんなふざけたサーヴァントには負けられません」
最後はぼそりと呟いてメルトリリスは腰を落とし、臨戦体勢に入る。
エリザベートがマイクスタンドの槍を振り回し、その意気を知らしめる。
「かかってきなさい子ブタ。無残に無慈悲に、悲鳴を上げるといいわ!」
「――」
僅か一拍ほどの空白がSE.RA.PHに満ち、次の瞬間、二人はぶつかった。
◇◇◇
「強敵だった……」
BBのスキルが与えられたエリザベートが今までにない強敵だったことは間違いない。メルトリリスにも疲労の色が濃い。
「無辜の怪物」によって筋力を強化されているとはいえ、さらにBBによって補強された一撃は文字通りの必殺。さらにスキルによって特殊な耐性を与えられたエリザベートにはメルトリリスの攻撃はほぼ通じず、立香の機転がなければ勝敗は逆転していたかもしれない。
だが、真に恐ろしかったのはエリザベートの新宝具『
しかし、この宝具も「音楽」という枠にとどまっていたためにメルトリリスには効果は薄かった。流体をつかさどる女神、「パールヴァティー」を内包するメルトリリスは流体に属する攻撃に高い耐性を持つ。そのおかげで致命傷には至らなかった。
宝具を放ち、勝利を確信したエリザベートの油断をメルトリリスは見逃さなかった。その一撃が決定打となり、エリザベートに勝ったのだ。
「戦闘シーンカットとかひどすぎる―!」と叫びながら消えていったエリザベートをメルトリリスは経験値として吸収し、この戦闘は終了した。
エリザベートのデスボイスから頭がまだ立ち直っていないが、メルトのところへ向かう。
「……お」
ふわふわと目の前に一枚のカーが浮いている。それはBBの持っていたあのカードだった。
ちゃんと約束を守る辺りはAIらしい。
「メルト、お疲れ様」
彼女の傍へと駆け寄る。だが、ふいにその足が重くなった。
「……メルト?」
その背中から感じるメルトリリスの気配が違う。今までのものとはその色を別にしている。上手く言葉にできないが、まるで人が変わったかのように……。
「あら、どうしたのかしら?」
振り返るメルトリリス。それは間違いなく彼女のはずだ。
けれども、その口調は違う。表情も、今までにない顔だった。
「メルト、どうしたの」
素直にそう聞いてしまった。
メルトは柔らかく、けれど冷たく微笑む。
「別にどうもしないわよ。ただ、元の私に戻っただけ」
「――」
これが、本当のメルトリリス。
まるで氷の女王のように彼女は
「あら、驚かせてしまったかしら?ごめんあそばせ。でも、これが本来の私なのよ」
ヒールを鳴らしながらメルトは自分の前に立った。見上げて改めて、彼女の背の高さを思い知る。
「私、本当はこうやって見下すのが好きなの。弱いものを、弱いものとして
――どうかしら。よもや、アナタのサーヴァントがこんな女だと知って、幻滅してしまったかしら」
試すみたいに彼女は唇を吊り上げ
確かに、今あるメルトリリスは今までの彼女とは打って変わって、本当に人が変わったみたいだ。触れれば傷つく
けれど、その前に言うことがある。
「元に戻れたんだね。良かった」
胸を撫で下ろして、安心しながら呟いた。
メルトリリスはきょとんと
「――そう、そうよね。アナタはそういう人間よね。あー、本当に面白いわ、アナタ」
「……変なことでも言ったかな」
「いいえ。全然」
「うん、そうか。それじゃあ」
と立香は手を差し出した。
「これからもよろしく」
「――」
メルトはその手を見ながら言う。
「私は御覧の通りの女なのよ。
「別に、それぐらいなら」
さも当然と立香は言うが、メルトリリスは
「……分かっていないから教えてあげる。アルターエゴがどうして怪物なのか。それは見た目だけじゃないのよ。BBの感情を元に複数の女神を
メルトリリスは自らの胸をその手で押さえた。
「造られた心は、決して本物にはならない。私は快楽と奉仕を基礎にこの心を造られたの。それはとても歪な形で、ね。
だから――」
決別を告げるようにメルトリリスは言う。
「ええ、最後までアナタの剣ではあり続けるわ。けど、アナタが思うような
それが私たちが怪物である
冷たい青色の目が立香を覗き込む。自分を軽蔑するはずの瞳を
けれど――
「でも」
立香は思う。どんなに歪でも、それは心だ。メルトリリスの心だ。
何のために彼女はそんなことを聞いてきたんだろうか。きっと彼女は心のどこかで、恐れていたんだろう。いつか、本当に自分になったときに訪れるかもしれない決別を。
それを思えば、今までの彼女の不安の幾つかも理解できる。
メルトリリスの深い青色の瞳を
「辛いのに笑ったり、嬉しいのに泣いたりするのは人形じゃない。生きた心だよ」
それが自分の答えだ。
「――」
立香の言葉にメルトは少し当惑して、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
「……ほんと、アナタのそういう所が憎いのよ」
「そうかな。でも、これは本心だよ、メルト」
「気安くしないことよ、人間」
カン、と
「アナタが思っているほど、私の心は単純でないわ。思い上がらないで。
……でも、ね」
その口ぶりは、少し前の彼女のようで。
「アナタをSE.RA.PHから必ず帰す。これだけは誓って本当よ」
改めて誓った彼女の頬には夕日のような朱が差していた。
◆◆◆
「でも、本当に言葉遣いも雰囲気も、まるっと変わっちゃったね」
教会に戻り椅子に座ったマスターが呟いた。
「ご不満かしら?でも当然です。これが本来の私なのですから。アナタの努力のおかげよ」
すとんと私はリツカの隣に腰掛けた。彼は私をちらっと見て
「急に変わるんだから、不安にもなるさ」
「でも、根本にあるものは変わらない。弱かったメルトリリスも、
「その割には、さっきは妙に食ってかかってきたよね」
「それは――その、私も少し、混乱していたので」
そこを突かれてしまうと私としても痛いのです。
あの時の言葉は本心だった。本来の私となり、醜い心が表になってしまうことがとても恐ろしかった。あの人が私を幻滅して手を離すのではないかと恐れていたのです。
けど、あの人は私が思っていた以上に優しくて
「でも、よくここまで来れたものね。これまでに40騎ものサーヴァントを撃破したのよ」
「うん、びっくりだ」
「本当に。最初の頃の私は絶望的な戦いで、何度も心が折れてしまいそうだったけれど」
そうそう、とリツカはおかしそうに頷いた。
「夜になると『私、不安なのです』って言ってたもんね」
「し、仕方ないでしょう。弱音ばかり言っていたのは忘れてください!」
思わず顔が熱くなってしまいます。火が出る、とはこういうことなのでしょう。
「再起動した私は思考も性能も初期化されていたと説明したのに。ほんと、口ばかり強気なのだから、アナタは。
でも、そういう所が私にはよかったのでしょう」
振り返る記憶は、まだ色鮮やかに刻まれたばかりの日々。
「アルターエゴは作り物から生まれた作り物。その
でもね、とアナタを見て私は微笑む。
「そんな私に、アナタは新しい存在意義を与えてくれた。偶然か打算か、それがどんなものにしろ、ね」
「……」
リツカが私を見つめる。違うと無言のうちに告げてくる。
「私がアナタに付き合うのはそんな
立ち上がり、演者のように一礼《レヴェランス》。
「改めて――私は快楽のアルターエゴ、メルトリリス。自分の喜びのために踊り続けるバレリーナ。そんな怪物を目覚めさせたマスターの期待にせいぜい応えるとしましょう。まあ、残りのサーヴァントたちに勝ち続けるのは相変わらず絶望的だけど、そこはマスターに頼るとするわ」
立ち直り、立香へと笑いかける。けれど彼は少し浮かない表情で、私にこんなことを問うてきた。
「ねえメルト。僕がマスターでよかった?」
「――」
その質問は心底不愉快だった。
「あのね、もっと自分に自信を持ちなさい」
呆れながら肩を
「私が許容する人間は二種類いるわ。どんな時でも諦めない、それでいて気負わず、できることを全うする人。一人で最善を見つけた人。一方、どんな状況でも
私は前者のほうが好みよ。エレガントだもの。
でも――たまには、騒々しい
リツカの隣に座る。首を
力なさげに微笑む彼に私も笑みを返す。
「せっかくの
「……ありがとう、メルト」
「感謝されるほどのことじゃないわよ。それよりも、私のほうこそ」
ずっと言いそびれていた言葉を漸く私はあの人に伝えたのです。
「ありがとう。教会で私を見つけてくれて。今まで見捨てずにいてくれて」
「それこそ僕のセリフだ」
知っているわ、と私は答える。
彼は苦笑しながら
「メルト、可愛げなくなったね」
「あら、可愛げのあるメルトの方がお好みだったかしら」
「大丈夫。今のメルトも十分魅力的だよ」
「あまり甘い言葉をかけすぎないほうがいいわ。
「ご忠告、痛み入ります」
「それじゃあマスター、そろそろ寝なさい。今日は
「うん。そうするよ」
立ち上がって彼はベッドの中へと潜り込む。私はその隣の椅子に腰かけて、背凭れに半身を預けながら彼を眺める。
「ああ、そうそう、寝るまで昨日の続きを私に語り聞かせて、ね」
「ふつうは逆なんだと思うんだけどな」
それでも彼は話してくれる。昨日はどこまで話したっけ、と言えば私は師子王たちから逃れて隠れ村へ着いたところよ、と答える。
そして始まる彼の物語。あの人の
気づけば語りの声は眠りの呼吸に代わっている。
「……おやすみ、立香」
私はその横顔に言う。
きっとアナタなら、オデットに扮したオディールだって見抜けるでしょう。
そうでないなら、私にあんな言葉をかけてはくれないから。
もし、アナタの言葉が正しいのなら――
この心の感情は、きっと“恋”とでも言うのでしょうか。
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