これは一人の朽ちるはずの人形が、命と心を貰う物語である。
C93で頒布したCCCコラボ一週目の小説です。
ここで全文を順次公開していきます。
まだ在庫が御座いますのでぜひイベントでお求めください!
また、C107で頒布予定の「メルトリリスは踊らない(https://syosetu.org/novel/393807/)とも若干の関連があります。
こちらも併せて読んでいただけると幸いです。
頭痛がする。がんがんと頭を悩ませるのは未来へのレイシフトという前例のない事象のためではない。先ほどのBBの、BBによる、BBのための、BBチャンネルの所為だろう。
今まで魅了《みりょう》や呪《のろ》いの類は少なくない回数を食らってきたが、あれはそういう類ではない。直接脳に映像を投射され、聞きたくもない一方的なハイテンショントークを捲《まく》し立てられる。新手の精神汚染系の攻撃なのではないかと勘繰《かんぐ》りたくなる。
「……っと」
だが、いつまでも頭を抱えてはいられない。BBの言葉が本当ならばこのSE《セ》.RA《ラ》.PH《フ》には128騎の敵となるサーヴァントが跋扈《ばっこ》している。加えてネロやエミヤ、玉藻の前はここにはいない。身を守るためにも周りの状況を確認しなければならない。
周囲は見たことのない空間だった。ガラスともプラスチックとも似つかない不可思議な半透明のブロックが敷《し》き詰められ、床と壁を作る。自分の居る場所は袋小路《ふくろこうじ》になっており、一本道が伸びている。三方を包む壁の向こうには別の通路が見えるが、よくは見えない。
天を仰ぐ。天井はなく、代わりに海の色が一面を塗りつぶす。まだ海面からそれほど離れていないようで、明るいブルーと光が散乱している。カルデアでのブリーフィングの通り、セラフィックスは海の中へと沈んでいっている。
人理を修復して迎えた翌年の五月。セラフィックスからの定期連絡は緊急事態を知らせるものだった。現代から消失したセラフィックスは2030年のマリアナ海溝へと沈み、特異点と化していた。
これが藤丸立香がセラフィックスへレイシフトした理由。特異点となり海中へと沈降するセラフィックスの真相を解明することが今回の任務だ。
レイシフト時にセラフィックスは海中約200メートルに位置していた。そして海溝の最低部が一万メートルと推測されている。
セラフィックスがどれぐらいの速度で沈降《ちんこう》しているか不明だが、悠長にしている暇はない。
「――よし」
頬を叩いて喝《かつ》を入れる。
通信もできず、サーヴァントもいない。知っているのはひたすらに怪しい謎のAIだけ。
この場で信用できるのは自分自身以外にない。油断しないよう気持ちを引き締め、一歩目を踏み出す。
床から光のテクスチャが浮かび上がった。
「……まるでゲームの世界だな」
心細いことは否定できない。けど、同じくらいにこの場所にワクワクしているのも事実だ。
過去の世界だけでなく、まさか未来の、それも電脳空間に行くことになろうとは。
気を取り直し、立香はSE.RA.PHへと踏み行ってゆく。
まさにその瞬間だった。
「――!」
身を切り裂く殺気に立香は反射的に転がった。
太刀の一閃が頭上を掠《かす》めた。
「へえ、人間のくせによく避けたじゃん!」
軽薄そうで朗らかな、けれど殺意に満ちた声が頭上から落ちてきた。
「な――」
見たことのないサーヴァント。それが、目の前に刀を突きつけて立っている。
女子高生制服に獣耳と尻尾となかなかに奇抜だ。。
もしかしたら、変なのは見た目だけかもしれない。思い切って話しかけてみる。
「あの……」
「問答無用!」
「うわあ!」
膠《にべ》もなく刀が襲ってきた。間一髪で避ける。
「雷落ちてきたから何かって思ってきたら、まさか人間がいるとか思ってなかったじゃん!とりあえず――」
何とか二振りは後ろに転びながら避けた。だが相手はサーヴァント。間違っても自分が勝てる相手ではない。
冷たい刃が自分を睨《にら》んでいた。
「殺すしかないし!」
振り下ろされた刃が、自分を襲う。
その痛みに身を固くして――甲高い音が響いた。
「――な」
「!アンタ、なんで――」
黒い影が立香の眼前で踊る。青の裏地が翻って、鋼の足が鈴鹿の太刀を受け止めた。
それは軽《かろ》やかで鮮《あざ》やかに、そして冷然と言った。
「ご機嫌《きげん》ようスズカ。なんで私がここにいるか。なんで私がそこの人間を助けるか。知りたいでしょうね。だったら教えてあげるわ。
私は屈辱を忘れない女、自分の心にだけ従うプリマ。
――文字通り、
「――っち!」
スズカ、と呼ばれたサーヴァントが飛び退いた。
「……」
「あら」
地面に座り込んだまま呆気に取られていた自分を、庇ってくれたその人は振り返って見下した。
青い髪。青い瞳。BBと瓜二つの容貌《ようぼう》。その表情には自信に溢れた笑みを浮かべて。
「アナタ、サーヴァントがいないのね。ちょうどいいわ、私も私に都合のいい人形《マスター》を探していたのよ。
ねえアナタ。あの女から助けてあげるわ。その代りに、アナタは私と契約しなさい。いえ、するべきよ。だって、そうしないとここで死ぬもの。ほら、時間がないわよ。一度しか言わないからしっかりと聞いて」
その少女はくるりとスカートを翻《ひるがえ》して回り、カンと高らかに鋼鉄のヒールを打ち鳴らした。
「私は快楽のアルターエゴ、メルトリリス。気まぐれでアナタの剣になってあげる。
だからーー奴隷のように頷き《こたえ》なさい?アナタが、私のマスターだって」
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