文化祭、当日!
「私が来たーー!!」
明日菜は朝、スマホから流れるオールマイトの声で目が覚めた。
明日菜は彼岸花が咲く時期の朝が大好きだ。暗すぎず、暑すぎず、寒すぎない。
いつも通り、走り込みと筋トレをしよう。明日菜は体操服に着替えた。なんか、違和感があるが、気のせいだろう。
朝早く、明日菜は階下に降りた。そしたら、新聞を読んでいる冬青がいた。
「おはようございます、お父さんがいるなんて、珍しいですね。」
明日菜のきょとんとした表情に冬青は絶望した。ああ、この子は多分一時的に記憶を失っている。
そして、明日菜は新聞の見出しを見てしまう。オールマイトの元相棒殉職の文字を。
「やっぱり、サー・ナイトアイ、死んでしまったんですね。」
明日菜の顔は昨日の無表情に戻ってしまった。
明日菜はなるべく日常を保つために走った。そして、無表情で用意して、家を出て行った。
その様子を家族は見ていて、どうしようもないほど辛かった。
朝の生徒会室。
「おはようみんな。」
生徒会長の操介が挨拶をする。
「「「おはようございます。」」」
「今日は来客対応がメインだな。」
それを聞いて明日菜はイライラする。私に対しての当て擦りか?!
「そして、明日菜、昨日頼んだ仕事はどこまで終わった?」
「違反のあったクラスに事情を確認したところまで終わりました。」
「そうか、何クラスあったかとかは見たか?」
明日菜は思った。まさか、私が全部見てないとでも思ったのか?馬鹿にしてるのか?
「全学年、全クラスの領収書を確認しました。」
「え?!」
明日菜は思った。何がえ?!だよ、そんなに仕事してないように見られたのか?
「そして、問題がありそうなクラスに確認をとり、証拠を集めました。」
「嘘でしょ?」
遙はポカーンとしている。というか、全員驚いている。明日菜、仕事、早すぎ。
「嘘じゃないですよ。なので、今日は点数管理をしている文化祭実行委員にそれを報告しに行きます。減点処理が終わったのを伝えますので。」
「そうか…」
操介は明日菜の仕事に対して感嘆する。
「みんなして…そんなに私がおかしいですか?まあ、良いでしょう、文化祭実行委員のところに行ってきます。」
「お、おう。それじゃあ、朝礼は終わります。」
「はい、お疲れ様でした。」
明日菜は不機嫌そうに生徒会室を出て行った。
そして、残された3人はポカーンとしている。
「明日菜、なんで怒ってたんだ?褒めようとしたのに、そんな余裕すら与えなかったぜ。」
操介は呆然としている。
「まあまあ、青い顔して呆然としてるより良いじゃない?」
「遙先輩の言う通りです。僕の目には、雪崩の前の地響きみたいにゴーッとしている明日菜先輩の心が見えました。」
「雪解けが近づいているってことかしら。」
遙と思水は笑い合う。ちなみに今の季節は雪解けの季節ではなく、彼岸花が綺麗な秋である。
「えー…」
明日菜が怒っていることに困惑している、俺がなんか、おかしいのか?と操介は考えた。
明日菜は文化祭実行委員のところに来た。不正防止のために、先生もいる。
「昨日の自腹の件ですが、確認して、減点処理お願いします。」
「今?なんで、昨日来なかったの?」
桔梗の明日菜はそれにかなりイラっとした。
「あんたが!」
明日菜はついかっとなって怒鳴ってしまった。
「無駄に喧嘩してたから、来たけど対応してもらえなかったんです!」
「それはごめんて。でも、健吾も結構、あれだったよ。」
それを聞いて、明日菜の怒りのボルテージが天井を突破する。健吾がどれだけ、辛い中で仕事をしていたと思っているのだ、目の前の馬鹿は。
「感情のコントロールすらできない…無能自慢はほどほどにしてください。」
「何?!その言い方!!」
喧嘩が始まりそうになって、先生が来た。
「山菊さん、ありがとう。減点処理は午後2時くらいには終わるから、その時どうなったか報告します。」
「せんせー、山菊さんが無能呼ばわりしてきましたー」
それに対して先生は呆れる。
「聞いたけど…あなたの砂山さんへの態度は申し訳ないけど、見ていて面白いものではなかったわよ。」
「はーい。」
「山菊さんも、言い過ぎです。頭を冷やしてくださいね。」
「…はい。」
腑に落ちなかったのはあるが、先生相手なのでちゃんと返事して、明日菜は文化祭実行委員の部屋を後にした。
明日菜は、今日の仕事は来賓対応中心で、それも外されてしまったので、減点処理が終わるまで、美術部のやっている喫茶店で時間を潰すことにした。とても立地が悪いので静かだ。たまに、先生がサボりにきているくらいで、たいして人はいない。
そして、作品の絵が飾ってある。絵の大規模なコンクールに油絵を出すのが、秀逸中学美術部の義務である。そのため、夏のコンクールから帰ってきた絵を喫茶店の中に飾っているのだ。さすが、大規模なコンクールに毎年出しているだけあって、特に上級生の子のは上手い。そして、キャンパスもとても大きい。これを書くのに何ヶ月もかけているらしい。その割には、美術部は地味な立ち位置を秀逸では保っている。ただ、明日菜は地味だけど凄い、美術部に対しては好感を持っている。
特に目を引く絵は超常黎明期に壊された建物が、そのまま残されている文化財の絵だ。壊れた建物だが、しっかりとその美しさが表されていて、空もちゃんと綺麗な夏空だ。現代的な背景がややしっかりしすぎていて、遠近感が薄れているような気がしたが、タイトルを見たら納得した。「止まった時間」、なるほど、それは背景もしっかり書いてこその作品なのだろう。
下級生の女の子が、明日菜にコーヒーとシベリアを渡す。
そして、明日菜はコーヒーを口に含む。
「っ…!!」
めちゃくちゃ不味かった。なんだ、この新聞紙のような味は?!絶対、去年開けたやつ特に何もしないで放置してる味だ。めちゃくちゃ酸化している。よくも、こんな不味いコーヒーで金をとれたものだ!
流石に残すのは申し訳ないので、無理に喉に流し込む。目は覚めるだろう。
そして、疲れた顔でシベリアを食べた。これは普通に美味しかった。
2時間ほど美術部の喫茶店で時間を潰した。コーヒー一杯でかなり居座った方だろう。昼時になって混んできたので、流石に移動することにした。その間ずっと絵を見ていた。スマホも緊急用には持ってきたが、残酷な現実を示すだけの光る板を眺める気にはならなかった。
あまりに明日菜がマジマジと絵を見ているものだから、後輩の男の子から、どの絵がお気に入りかと聞かれた。正直話しかけてほしくなかったので、集中したいので話しかけないでくださいと言ったらしょんぼりしてた。多分言いすぎてしまったのだろう。一応謝っておいた。
明日菜は移動して、中学一年生の自由研究、職業インタビューの優秀者のレポートがおいてある部屋に来た。
途中で死に物狂いで一年生が自分のクラスに呼び込もうとしているのを見て、かなりうるさかった。これではお客さんも動揺してしまうだろう。
最優秀賞は知らない人のものだったが、優秀賞の中に飛瑞と赤井さんのものがあった。パソコンで書かれたレポート形式の宿題。小学校上がりの子は慣れているが、中学校から入った子は慣れていない。小学校は秀逸ではなかった飛瑞と赤井が一年生で優秀賞に選ばれているのはかなり凄いことなのである。
暇だから読んでやるか、と飛瑞のレポートを読む。そこには弁理士の仕事について、しっかりとした文体で書かれていた。
次に赤井のレポートを読む。「冒涜の学者の人類愛」…中々に情熱的なタイトルをしている。読んでみると、レポートというより伝記に近いものだった。しかし、文章は確かに上手い。祖父の研究者を目指したきっかけが知れて、とても良かった。よく調べたものだ。
時計を見ると、そろそろ2時だ。実行委員の部屋に行こう。
文化祭実行委員の部屋に行くと、桔梗はぐったりしていた。
「山菊さん、お疲れ様…」
明日菜はまたムッとした。遊んでいた私への当てつけか?!
「お疲れ様です。」
「山菊さん、さっきはごめんね?報告書が完璧に近かったから、本当、早く終わっちゃった…でも、マジで聞き込みごくろー。」
彼女は本気でそう言っているのだろう。というか、ぐったりしすぎだ。
「何があったんですか?」
一応明日菜は聞く。
「集計作業5時の発表までにやんなきゃだし、例年の仕事もあるし、ブラック企業だー!!」
「お疲れ様です。では。」
「あと、ごめん。」
「何がですか?」
明日菜と桔梗の間に気まずい空気が流れる。
「私、どれだけ辛くても、やることはやらなきゃってそればかりだった。」
「事実でしょう。」
明日菜は即答した。
「でもそれは、きっと、人を追い詰めて良い理由にはならないよね。」
明日菜はなんと言えばよいのかわからなかった。
「…知ったことじゃありません。」
「いや、ほんと、明日は休みだから、ちゃんと山菊も休んでね。」
「ええ、お互いに。」
そう言うと、明日菜は逃げるように文化祭実行委員の部屋を去った。
蛍の光が流れ始める。そろそろ来賓のお客様は帰ったところだろう。生徒会の事後処理には合流しなくてはならない、そんな約束だった。