生徒会室に帰ったら、来賓のうざかったお客さんの話でみんな盛り上がっていた。明日菜はそんな雰囲気は元々苦手だ。
「いやー、紫苑先輩に延々と親父ギャグ言ってた人、割とうざかったんじゃないですか?」
「そーよ。本当に、それなのにお偉いさんとかだから、気を使うし、本当に、その辺マジで生徒に押し付けないでよね。キャバ嬢じゃないのよ、こっちは。」
…聞くからに大変だったらしい。明日菜は少し罪悪感を覚えた。
「さて、休憩は終わりだ。これからはしばらく、文化祭の後片付けに入る。やるのは、遙と俺は文化祭実行委員の手伝い、悠仁は報告書の作成…愚痴は書くなよ?明日菜は会計報告書の作成だ。」
各々の作業が終わった5時、遙と操介が帰ってきた。ぐったりしている。
「集計作業、やばすぎ。」
「ああ、景品かかってるからチェックも何重にもするし、やばすぎ。」
どうやら、集計作業を手伝わされたらしい。
そして、結果発表が行われる。学校からは熱狂的な歓声が聞こえる。
「景品かかってるだけあって、みんな、やばいな。」
操介の言葉に全員頷く。
「もー、やりたくない!さあ、片付けて帰りましょう。」
遙は伸びをする。
その後、各々の片づけていたのだが…
「生徒会はいるか?!」
健吾の声が聞こえてきた。
「何だよ、終わったから帰るんだが?」
操介は呆れたようにため息をつきながら、ドアを開けると、健吾と桔梗が仁王立ちしていた。
「学校への抗議文を受け取って。」
桔梗が怒りに満ちた形相でこちらを見ている。
「あ〜明後日な。」
「じゃあ愚痴だけでも聞いてくれ。来年も景品と採点は行うってさ。」
それを聞いて生徒会も凍りついた。
「これ、来年もやるんですか?」
悠仁は泣きそうである。
しばらくの沈黙の後
「我々は、なぜ争ったのか?」
「もとはと言えば、先生たちが急に採点!景品!とか言い出したからでしょ!」
「「絶対に許さない!」」
実行委員と風紀委員の結託は硬い。
「よし、明日は生徒会と風紀委員と実行委員で被害者の会の打ち上げだ!盛大に愚痴ろう!でも抗議文は明後日な!」
操介のその言葉に、みんなが沸き立った。
そんな中で、明日菜はとてつもない虚脱感に襲われて座り込んでしまった。
「…明日菜、大丈夫か?」
「砂山は?なんで平気なんですか?」
「別に平気じゃない。…平気なわけあるか。けどな、割と元気だ。今は元気だ。山菊は、元気じゃないのか。」
「情けないことに。」
「情けないやつはここにはいない。こんなクソみたいな点数ゲームにされた文化祭を、俺達はやりきった。」
みんなを見ると、操介はため息をついているし、遙は珍しく不機嫌そうな顔をしているし、桔梗は叫んでるし、悠仁は泣きそうになっている。
「山菊も明日の打ち上げ行く?」
桔梗はあえて空気を読んでいない…という雰囲気をまとわせながら聞いてきた。
「…遠慮します。」
「オッケー」
「明日菜、明日は、まじで休めよ。」
「わかっています。操介。」
「じゃあ、帰る…明日菜?」
「すみません、ちょっと体が重いです。」
そういう明日菜は立っているのもやっとだ。
「…お母様に迎えに来てもらえる?」
遙は提案した。なんとなく、このままだと、なんか一人で這って帰りそうな予感がしたのだ。
「できます。あと、みんなは先に帰ってください。」
流石に帰れないとみんなが思った。
「まあ、保健室まで送るわ。」
そうして、結局みんなで保健室に明日菜を送ることになった。
「失礼します。」
操介は礼儀正しく、保健室に入ろうとする。
「…すごい人数で来たわね。」
たしかに、生徒会メンバー、健吾と桔梗の6人もいる。ただ、顔を見れば、誰もが明日菜が保健室に用事があるのだとわかる。
「…用事がある子は?」
「…私です。」
「じゃあ、山菊さん…だけ?」
「大丈夫です。俺達は明日、文化祭の愚痴…じゃない!打ち上げパーティーです。」
保健室の先生の言葉に健吾ははっきりと答える。健吾も前日は泣いて、そして保健室の先生を召喚した身だ。
「…そう、じゃあ、他の子達は最終下校時刻だから帰りなさい。」
「…わかりました。じゃあ、お邪魔しました。」
「…じゃあ、明日菜、明後日ね。」
みんなは少し不満そうに明日菜を置いて帰った。
「…」
明日菜は、その姿を見て、なんと言えばよいのかが思い浮かばなかった。
「お母様に連絡しますね。」
「許可するわ。」
明日菜が携帯を開くと、もう、飛鳥からメッセージが入っていた。操介が飛鳥に連絡したのだろう。もう、メッセージには、『迎えに行くから保健室で待たせてもらって』と書いてある。多分、今は車を運転中だろう。電話はしないほうが良い。明日菜は『はい』とだけ返した。
飛鳥は本当にすぐに来た。
「失礼します!」
多分走ってきたのだろう。息が切れている。
「大丈夫?」
そう、飛鳥に聞かれても明日菜は答えられない。
「力がなかなか入りません。」
「すぐに来てくださって、助かりました。山菊さん。」
「いえ、こちらこそ、娘がお世話になりました。」
その後、明日菜は飛鳥の肩を借りて、少し軽くなった足取りで車に向かった。…飛鳥の『個性』は浮力操作である。その影響で体は物理的に軽くなる。
そして、車の中で、
「明日菜、アイスあるけど食べる?」
「…私のクラスは優勝してませんが。」
「買っておいたのよ、私が。」
「…食べる力がありません。」
「そうよね。」
車は家へと着いた。明日菜は家につくなり、飛鳥に運び込まれる形で自室に着いた。そして、明日菜は力なく眠ってしまった。
飛瑞は文化祭後クラスの打ち上げに行く。優勝したこともあって、パーティだ。格安イタリアンの店で節度をわきまえて騒ぐ。もちろん、飲酒は厳禁だ。
しかし、そんな楽しい時間も終わってしまう。
あー、帰りたくない。
飛瑞はそう思ってしまった。
いつもなら、家に帰ったらみんな、飛瑞を労うだろう。去年なんて、明日菜の文化祭の後には冬青はいなかったけど、ご飯食べに行った。
でも、今は…明日菜は心ここにあらずだ。パーティなんかできやしない。
飛瑞以外の家族全員で、お通夜でもしているような暗さだ。
確かに、サー・ナイトアイが死んだのは悲しいけど、確かに飛瑞も蕁麻疹出た。けれども近親者が死んだわけでもないのに、お通夜な家には帰りたくないのだ。
飛瑞は帰り道、携帯を開く。意外なことに、冬青から『私は仕事に戻ったから、今は家にはいない。だが、飛鳥から聞いたぞ、飛瑞、優勝おめでとう。』とメッセージが来ていた。
それに、お礼のメッセージを返して、飛瑞はトボトボと家に帰る。
「ただいま。」
「おかえり、明日菜は寝ているわ。」
飛鳥は声のトーンを落としてしゃべっている。
「さあ、アイス食べましょ。」
そして、飛鳥と飛瑞はダイニングに入った。
「僕たちのクラス優勝したんだよね。」
「おめでとう、でも、好きな味は選べないかもしれないから、塩キャラメル、買っておいたわよ。おめでとうのアイスよ。」
「で、勝てなかったら?」
「慰めのアイスよ。」
飛鳥の言葉に飛瑞は心からホッとする。勝っても負けてもアイスがある。それが、ありがたいことだと、切実に感じられる毎日だったのだ。
「…お姉ちゃんはどう?」
「さあ?ぐっすり寝てたけど、どうやら…」
飛鳥は心配そうである。
「でも、今は飛瑞のお疲れ様パーティだから。文化祭であった嫌なこととか楽しかったこととか、聞かせてちょうだい?」
「実はね…」
その静かなパーティは飛瑞のいつも寝る時間まで続いた。