飛瑞サイド
《I・アイランド》内の弁理士事務所
飛瑞は伯父である山菊飛竜にインタビューするために、訪れた。
「飛竜山菊さんにインタビューしました…いや、するかもしれない、飛瑞山菊です。」
受付のお姉さんに少し辿々しい英語で頑張って伝えている。
「なんのために訪れたのですか?」
「旅行…じゃないや、宿題のためです。10時から飛竜山菊に来客があると聞いてますか?」
「飛竜山菊…山菊飛竜ですね、今お呼びいたします。」
そして、しばらくすると、伯父の飛竜が出てきた。
「久しぶりだね、飛瑞くん。」
「おじさんも元気そうです何よりです。」
しばらく談笑したあと、
「なんか、オフィスみたいですね、もっと研究所みたいなところだと思ってました。」
「あくまで、技術を法的に扱う専門家だからね。研究者じゃないんだよ。」
「法律の専門家…やっぱり舞台は法廷なんですか?」
「いや、飛瑞くん、多分それ、弁護士と少し混ざってるよ。」
「仕事内容はどんな内容ですか?」
「基本的には特許の出願のための仕事だね。」
「やりがいはなんですか?」
「産業の発展の縁の下の力持ちになれることかな。」
「この仕事の将来性はなんですか?」
「特許の出願は科学者の楽園《I・アイランド》では尽きることがない。将来性はあると思うよ。」
飛瑞は必死にメモしていく。
「特許のことで質問なんですけど、なんで、発明を独占的に実施する権利なんてあるんですか?みんながみんなの発明を実施できればもっと科学は発展するんじゃないですか?」
飛瑞の中1とは思えないほどのレベルの高い質問に飛竜は圧倒される。
「それはね、発明を独占して実施できないと、みんな発明を秘密にしちゃうからだよ。
「実験で使うのは大丈夫なんですか?」
「その辺、本当に難しいよね。」
飛瑞は首をかしげながらメモを取る。
「後で、その辺の解説している日本の特許庁のサイトあるから送っとくね。」
「ありがとうございます。」
飛瑞、一呼吸おいた。
「そして、最後に質問です。なんで、弁理士になられたんですか?」
「研究者になりたかったんだけど、なんか、挫折しちゃってね。私には大層な理想もないし、飛び抜けた才能もなかった。だけど、結構法律は面白くてさ。特許の出願書類作る時には、今まで勉強してきたことも生きるし、割と良い職業につけたと思ってるよ。」
そこには現実を受け入れた大人の姿があった。
「研究者になりたかったのに、悔しくはないんですか?」
飛竜は肩をすくめる。
「悔しいと言っても、挫折したのは結構良い大人だったからね、諦めもついたよ。それに、研究者としては《I・アイランド》ではやっていけなかったとは思うけど。弁理士としてはやっていける。研究では今の倍くらい努力しても得られなかった評価が、今得られている。」
「…僕、分かった気がします。僕も、認められたいです。そして、周りの人が笑ってて欲しいです。」
少しだけ笑って、飛竜は真剣な目で飛瑞を見た。
「君はヒーロー志望かい?」
飛瑞はその目に怖気付いた。
「もう、わかりません。僕の周りに、小学校の頃いろんな子がいました。中には本当に貧しくて未来に希望が持てないって子もいた。その子に、一緒に勉強して、親のことを喜ばせてあげようって言ったのに、僕だけ秀逸中学に受かって、その子は落ちました。そして、それっきりです。僕は…ヒーローになりたいのに、でも、身近な約束すら果たせない。こんなんじゃ、ヒーローなんて、きっとなれません。」
飛竜はため息をついた。
「飛瑞くん、若いね。仕事なんてさ、自分ができること精一杯やって、一番評価されるのに就けば良い。もちろん、職業倫理は大事だけど、ヒーローになるからと言って、完璧である必要なんてないんだよ。やりたくて、できるなら、やれば良い。挫折もするかもしれない。でも、本当に挫折しちゃっても意外となんとかしようと思えば、なんとかなるよ。」
「…おじさんは適当だ。」
飛瑞のインタビューという体の言葉遣いが崩れる。
「そりゃそうさ、飛瑞くんがあまりに頑張っているんだもの。」
「そうですか?」
飛瑞にとってそれは意外な言葉だった。
「そうさ。インタビューのために調べて質問して、すごく頑張っている。もし、飛瑞くんが準備も無しに雑に終わらせようとしてたら、もっと厳しいこと言ってたよ。だから自信を持って良い。」
伯父の言葉はあまりに嘘偽りの無いものだった。
「でも、僕はお姉ちゃんより頑張ってないです。」
伯父はそれを聞いて大笑いした。そして真顔になった。
「それは…飛瑞君が魂が震えるような出会いにはまだ出会ってないからだよ。明日菜ちゃんは、オールマイトとサー・ナイトアイにお熱だからな。」
その言葉に飛瑞はどう返せば良いのかわからなかった。沈黙の中、時計がチクタクと音を奏でる。
「そろそろ時間だ。飛瑞くん、楽しかったよ。」
「伯父さんも、忙しいところありがとうございました。」
そうして、飛瑞がロビーから出て行こうとした時だった。
「挫折してもなんとかなるって、みんなには伝えといてくれ!」
「はい、わかりました。」
そうこうしてると帰りの時間が近づいてきている。飛瑞は空の家に戻ることに決めた。
「悔しいですか…ねぇ」
飛瑞が去ったあと、飛竜は呟く。
「父さんのこと考えると、まあ、悔しくはあるよね。」
そう言って仕事に戻って行った。
赤井サイド
約束の時間の5分前、赤井は空の自宅を訪れた。
「赤井花蓮と申します。」
「いらっしゃい。赤井さん。」
「本日はよろしくお願いします。」
「礼儀正しい子だね、飛瑞とも仲良くしてくれてるらしいじゃないか。」
その言葉に赤井のかおは真っ赤になる。そして、空はニヤニヤしだす。
「飛瑞は良い子だよ。自慢の孫だ、まず手始めに飛瑞の良いところでも話し合おうじゃないか。」
「揶揄わないでください!」
赤井は耳まで真っ赤にする。空はそろそろやめてあげようと思った。いやー、青春だね。
そして、赤井は空に質問していく。仕事内容について、やりがいについて、この仕事の将来性について…
「赤井さん、貴女、言葉遣いも丁寧だし、メモもちゃんとするし確認も取る。本当に中1かい?」
「恐れいります。学校でかなり練習しましたから。」
それに対して空は感嘆する。
「へえ、秀逸は昔からそうだが優秀だね。」
「中学から入ったので、ついて行くのに精一杯です。」
指導要領の内容を半分の時間もかけずに終わらせて、実験や議論やレポートを書かされる。それが秀逸だ。公立小学校出身の赤井の言葉には重みがあった。
「うちの子達も秀逸だったからね。よく課題に苦戦して夜更かししてたよ。ああ、飛瑞のお母さんと伯父さんね。」
「そうなんですね、飛瑞のお母様…」
また少し赤井の顔が赤くなる。何を妄想したのやら…
「最後の質問です。このような研究を志すようになったきっかけはなんですか?」
気を取り直して赤井が質問する。
「それはね、ちょっと長くなるんだが…しかも、これ、明日菜と飛瑞にはまだ言ってないし…」
空はモゴモゴ言っている。
「差し支えなければ、でよろしいです。」
少し考え込んだ後、空はまっすぐ赤井の目を見据えて言葉を紡ぎ始めた。
「いや、明日菜と飛瑞も、もう知っても良い年頃だ。伝えてくれるかい?」
「はい、できる限りのことは尽くします。」
それを聞いて空は頷いた。
「私にはね、個性婚で生まれた友達がいたんだ。その子とその姉と下の三人の子供は望まれた個性じゃなかった。だから、父親からは見向きもされなかった。母親はその子たちに、お前が望んだ個性なら、私は産まなくて済むのにと呪いの言葉を浴びせかけた。」
赤井は言葉を失った。
「六人目の子供が生まれた。その子は成功作だった。しかし、お産の時に母親を亡くしてしまってね、彼、なんて言ったと思う?」
「…もっと愛して欲しかった、とかですか?」
「自分が成功作だったら、母さん死ななくて良かったのにと言ったんだ。お姉さんがちゃんと面倒見ていただけあってね、優しい子だったんだ。」
「私は考えた、彼はどうすれば苦しまずに済んだのかと。個性婚をなくす?それまでにどれだけの女子供が犠牲になる?だから、私は考え抜いた結果、個性婚をなくさずとも、望まれない子供と望まない妊娠出産を強いられる女性を減らそうと。だから、デザイナーベビーを格安で作る技術を研究した。そんなところだよ。」
これは、伝えなければならない。赤井はそう心から、強く思った。飛瑞から聞いた。飛瑞が言うには、僕の祖父は優しくて賢くて、そして冒涜者だと。ただ、今の話を聞いて思った。彼は神の冒涜者かもしれない、しかし、根底にあるのは人を守るための人類への愛だ。
「本日はありがとうございました。」
「いいや、構わんよ。君は無個性だったね。」
「…はい。」
「私の孫世代では絶滅危惧種だ。私の時代はちょくちょくいたがね。苦労しただろう。」
赤井はため息をつく。
「苦労だらけですよ。学校では虐められるし、家では親からは『お前は人より劣っているんだから努力し続けなければならない』とか言われて習い事も勉強も詰め込まれるし…」
空の時代、無個性はそれなりにいたのでそれで虐めに会うことなんてなかった。空は驚いた。
「大変だな、飛瑞はどうしたんだ?」
「飛瑞はそんな私にも、『どうして、みんな無個性を見下すんだろう。ヒーローになれないから?博士や大臣にはなれるのに?』と言って、優しく接してくれました。」
なるほど、なるほど、ははーん、これが恋のきっかけか、と空は思った。
「あいつらしいといえばあいつらしい、期待を裏切らない孫で良かったわ。」
「飛瑞がいなかったら、秀逸になんて、私は受からなかった。」
だって、好きな人と一緒の学校に行くモチベーションがないと、勉強なんてやってられないもの。とは赤井は流石に言わなかった。
「これからも、飛瑞をよろしくな。」
「はい、そして、貴方のこと、ちゃんとみんなに伝えます。」
「よろしくな。」
そして2人は握手して別れた。