帰りの時間が近づいてきている。
机には緑茶と羊羹が置いてある。日本からの輸入品、羊羹は保存が効くために、《I・アイランド》の日本のお菓子愛好家達にも絶大な人気を誇っている。
4人はお菓子をつまみながら談笑していた。
「孫達や、ちゃんと勉強はしてるかい?」
「や…やってるよ」
飛瑞はちゃんとやってるかと聞かれたら、自分をちゃんと顧みすぎて必要以上に自信を失ってしまう。
「でも、飛行機の中ではずっとゲームしてたじゃないの。」
「だけど、宿題は職業インタビューと自由研究以外はちゃんと終わらせたよ!」
飛瑞だって、やってないと言われたら言い返せるほどにはやっている。
「ハハハ、良い子だよ。飛鳥なんて小学校の頃は絵日記最終日に全部やる、ドリルも1日で終わるのに最終週までサボるような子だったからな。」
「お母さん…」
空の言葉に、明日菜は完全に不良娘を見るような目で飛鳥を見る。
「そう言う明日菜はどうだ?ちゃんとやってるか?」
「ええ、サー•ナイトアイと同じ『個性』を持つものとして恥じない努力をしているつもりです。」
そう言った明日菜の目はどこか遠いところを見ているようだ。そして、空は明日菜を見た。手は鍛錬の跡だろうか、何度も豆が破けてを繰り返してボロボロになっている。
「明日菜、痩せたか?」
「お父さん、デリカシー!!でも、よく気がついたわ。この子、鍛錬しすぎて食べても痩せちゃうのよ。」
「明日菜、なぜそこまで頑張れる?」
空はついこぼしてしまった言葉を補うように続けた。
「いやー、私の中学生頃はね、夜通し可愛いクラスの女の子について話したりと、碌でもなかったからな。ちなみに、その、可愛い子がおばあちゃんだ。」
空はすこし誤魔化すように言う。
「勉強できて、力もあって、人当たりも良い。私は他者から認められるべき、サーと同じ『個性』を持っているから、ちゃんと有益でありたいんです。」
そう語る明日菜の言葉には異様な熱がこもっていた。
「さては、サーみたいになって、オールマイトに褒めて欲しいんだな。認知されたい認められたいオタク、明日菜もなかなかだな。」
「そんなんじゃありません。サーと同じ『個性』を持つ私が、サーの影響によって、有益な人間になる。それは、オールマイトとサーの正当性をこの身をもって、より表すことになるでしょう?」
空はそれを聞いて少し考え込んだ。
「オールマイトも、サー•ナイトアイも明日菜に正当性を示されなくても、充分認められていると思うのだが…」
「当然です。それでも、私は尽くしたい。」
明日菜の熱に周りは沈黙する。周りは悟ってしまった。明日菜のまるで、信仰のために生きる聖人のような歩みは誰にも止められないと。
「にしても、こんな可愛い娘にそこまで思われるとは、オールマイトもサーも幸せ者だな、けしからん!」
「お父さんふざけてるの?」
飛鳥は呆れている。明日菜も脱力する。空がふざけて訳のわからんこと言うのも、よくあることなのだ。
「オールマイトにも、サー•ナイトアイにも孫娘はやらんぞ!明日菜は、明日菜のこと1番好きな人にしかやらん!」
飛鳥は笑う。自分の時と同じことを言っているからだ。
「昔から変わらないのね、お父さん。じゃあ、フライトの時間も迫っていることだし、お暇させていただくわ。…フライト…」
飛鳥はまた、苦手な離陸を味わうことになる、と気分が落ち込んでいる。
「じゃあ、おじいちゃん元気でね。バイバイ。」
「では、また今度。体には気をつけてくださいね。」
「じゃあな、みんな、無理しない程度に好きにしなよ。」
空の独特な挨拶、それらは山菊家にとってはいつものことだ。そして、彼らは日常へと戻っていく。