文化祭!イブ!
夏休みの職員会議
道徳研究の第一人者の老教師は語る。
「私は、今年度から、文化祭にクラスごとに点数と順位、そして順位に伴う景品をつけように、提案します。」
周りはざわつく。一体何を考えているのだろうか?
「これは、私立の学校で幅広く導入されている制度である。我々もそれについて、知る必要がある。」
「意義があります!」
若手の教師が立ち上がった。
「文化祭に点数、順位、そして景品を伴う、それでは、祭りではなく過剰な競争につながります。そして、過剰な競争にさらされた、未熟な子供は…人格や人間関係に大きな悪影響が及ぶ可能性があります!どうか、お考えください。」
それに多くの教師は頷くが、老教師はさらに続ける。
「現に過剰な競争による影響はこの国の教育に確かに大きな打撃を与えている。一部私立中学では、道徳の授業で文化祭の会議をするような異様な光景がみられています。道徳の軽視…極めて重大な問題です。」
老教師の言葉に多くの教員はざわめく。
「『個性』社会において、道徳を身につけさせるのは、社会生活を送る上では重要なことなのに…」
「何が、彼らをそこまで熱狂させる?」
老教師は静まるように手を叩く。
「まあ、私立の学校にとって、文化祭とは集客のための大きなイベントですから、そうなるのは、理屈ではわかります。集金のために生徒を蔑ろにする…理解したくはありませんが。だからこそ、我々は示さなければならない。過剰な競争が、子供達に与える影響を。この国に蔓延る不義理を正すために!」
「待ってください!そのために、秀逸の生徒を犠牲にするのですか?」
若手教師はまた、立ちあがった。
「君ねえ、それが犠牲というなら、拝金主義によって、多数の子供が犠牲になってる現状についてはどう思う?」
「それは…!」
若手教師は言い返せない。
「だからこそ、我々は知って示すのだ、その、悪影響を。多くの子供達のために。」
「異議はないね。」
老教師の言葉に多くの教師は頷く。
新学期初日
「おはよう、明日菜。恋しかったよー参考書としか最近会ってなかったからさ。」
朝っぱらから抱きつかれる。遙は相変わらず距離が近い。
「おはようございます、遙。始業式の準備もあるので早く体育館に行きましょう。」
明日菜はよろけもせずに、スタスタと歩き出した。
2人は生徒会役員だ。始業式は自然と足が速くなる。
「そうね。」
遙の腕が離れる。明日菜と遙は並んで歩き、体育館に向かっていった。
二学期の始業式の体育館は涼しかった。
秀逸中学の体育館にはエアコンが入っている。災害の避難所としての設備だが、一番ありがたいのは生徒たちだ。
いつも通りの退屈な始業式だ。校長は頑張って面白い話をしようとして、いつものように滑ってる。
空気が変わったのはその後だ。
「文化祭実行委員からのお知らせです。今年のテーマが決まりました。全体のテーマは『持続可能』です!」
「各学年のテーマは1年生は『食』、2年生は『環境問題』、3年生のテーマは『平和』です!」
それを聞いた生徒たちは歓声をあげる。秀逸中学での文化祭は学年ごとにテーマについて、班ごとに探求し、模造紙にまとめて提示するのが通例である。
「あと、今年から、クラス間で投票により、順位が決められることになりました。」
それを聞いて、歓声が止まる。もちろん明日菜も思わず息を詰める。
「それと…優勝したクラスには高級アイスが1人ひとつもらえるようになりました!」
これを機に、体育館がどっと沸いた。
その熱気の中で、明日菜は素直に喜ぶ気にはなれなかった。
文化祭前日
11:00、大量に来る来賓客の対応のための準備が一段落した。5分間の休憩である。
「うへー、明日のことは考えたくない。あの量4人でさばくの?」
遙は打ち合わせの段階から明日を想像して疲れている。
「まあまあ、結局、僕達、一時間はみんなローテーションで休める予定ですし…我慢です。」
「休み時間何しよう。1時間時間あるといわれても…暇じゃん。」
「やいやい、悲哀に満ちたサラリーマンかよ。」
おもむろに、明日菜はパンフレットをカバンから出す。
「私は美術部のやっている喫茶店が気になります。」
「あ、そう言えばそんなのあったわね。」
「美術部、毎年、夏の展覧会に上級生は油絵でかなり大作を出しているので、それが見られるのは良いですね。」
休憩が終わったので、会計作業を進めるために、明日菜はなんとなく書類の山に目をやった。
「ちょっと待ってください。一年で全クラスの領収書、不自然に提出が減ってませんか?」
「自腹の疑い?ちょっと、みんなで確認するわよ!」
秀逸中学では、自腹で文化祭の備品を買うのは重大なルール違反だ。とにかく、生徒会総出で、急いで領収書を確認すると、やはり、提出の減り方が、今日に入ってから不自然である。
「これは、自腹の疑い濃厚ね。」
遙がそういったときには、操介は校内チャットで文化祭実行委員に連絡し始めた。
その数分後、
「告発元はここかしら!」
文化祭実行委員の長夜月桔梗が入ってきた。
「ええ、会計の作業していたら気が付きました。」
明日菜が淡々という。
「そりゃあ、あるわよね!うちの中学一年生の頃、予算を心配して、自分のお金で買っちゃった子がいた。でも、今回は景品ありの競争でのルール違反よ。調査して確認をとり、減点の処理をしないと。調査は確実な証拠を取らないと…考えただけで恐ろしい!その余裕が、この採点班には今のところないわ!あ!パソコンのデータをスマホに移して、採点処理を家でやれば!」
「規則違反を減点するやつが規則違反してどうするんだよ。書記の悠仁、今日の予定は?」
操介に真顔で突っ込まれる。
「意外と今日は余裕がありますね。僕達の地獄は明日以降にあります。」
「じゃあ、俺達が今日どこまで手伝えるのか、検討するから、20分くらい待ってくれ」
「すごく助かるわ!ありがとう!」
そう言うと、桔梗はすごい勢いで帰っていった。前例のない採点業務はとんでもなく大変なのだろう。
そのあと、生徒会メンバーで急いで、予定を組み直したところ、採点処理は無理だが、調査して、確認するところまでは、今日のところは手伝ってみると判断した。
その趣旨を文化祭実行委員に送ったら、速攻で、桔梗からの感謝のレスポンスが来た。さて、もう昼休みの時間だ。午前もたくさん仕事をした。とりあえず、休もう。
「邪魔するぜ。」
午後の予定は、昼休みが終わったすぐ後に、生徒会と実行委員と風紀委員による当日の安全面の打ち合わせだ。だから、生徒会メンバーと仲の良い、健吾は弁当を持って遊びに来た。
「一年やべーよ…」
そして、来てそうそう愚痴を言う。
「お疲れ様です。」
悠仁は麦茶を出している。
「ありがとう。」
「やっぱり揉めてたんだ。どんな感じ?」
「B組がA組の景品パクったのがバレて大揉め。クラスにブラインドかけてパクられないように厳戒態勢だ。」
「うへー…。」
「山菊の弟頑張ってたぞ。」
「何をどうですか?」
明日菜は思わず眉を顰める。穏やかな弟が揉め事の渦中にいるのが思い浮かばなかった。
「喧嘩の仲裁。」
「あいつも大変ですね。」
「あー、なんか面白い記事ね〜かな。」
健吾はおもむろにネタ探しのためにスマホを開いた。
その直後だった。
「うわーー!!」
砂山の叫び声が聞こえた。
「どうしたんですか?」
明日菜たちは慟哭する健吾に驚いた。
「スナッチが、殺された!」
健吾とスナッチは似た個性だ。そのため、健吾はスナッチのことをすごいヒーローとして見ていた。
「そうですか。この場はとりあえず安全ですので、泣きたければ泣いてください。」
明日菜はそれしか言えなかった。同じ個性の尊敬すべきヒーローを喪うこと、それは、もう、同情しようもないほどの惨劇だったからだ。なので、とりあえず安全なことを伝えるのが大事だろう。
「ああ、少なくとも、ここにはヴィランはいない。」
操介は落ち着いた声色を装って、健吾を安心させようとする。
「死穢八斎會のオーバーホールを護送中に、敵連合に殺された!」
「そうですか。」
砂山は見開いた目から大粒の涙を流している。かなり憔悴しているがどうしよう。そこで明日菜は学校専用アプリで緊急時にはカウンセラーや保健室の先生呼べるシステムが秀逸中学には導入されてることを思い出した。
「山菊先輩、僕温かいお茶淹れてきます!」
「ありがとう、。」
悠仁は本当に気が利く後輩だ。
そして、明日菜はスマホを開いてしまった。
「明日菜!だめ!」
遙が健吾の見たニュースの内容をざっと確認し、思わず叫んだ。だが、遅かった。
エンパスの思水が山菊を見た時、山菊の周りには霜が降りていた。
明日菜はスマホを見たときに、目に飛び込んできたのは、サー・ナイトアイの死亡の速報の文字だった。
視界がぐらりと揺れて、ただ、凍ったような表情の自分を上から見ていた。悠仁が何か言っているけど、全く聞き取れない。今、一体何が起こったのだろうか?
虚ろな目、ぼんやりと開かれた口、真っ青な肌…操介や遙から見た明日菜はまるでゾンビのようだった。