ここは魔術・魔法の発展したとある世界のとある王国。
国立魔術学院のパーティの場にてとある男が、隣の女性を庇うように、その肩に手を回しながら声を張り上げていた。
「ミーチア・リダー公爵令嬢!貴様は皇太子である私の婚約者でありながら陰湿ないじめや犯罪に手を染めていた!よってここに婚約破棄を宣言する!」
彼に睨みつけられ、指を刺された女性、ミーチア・リダーは無表情のままに固まり、言葉を失った。
(...え?本当になんの事ですの?)
困惑により動けないでいる彼女に男はさらに言葉をぶつけていく。
「バレていないとでも思っていたか?残念だが、彼女からの証言によって貴様の悪行は全てバレているのだよ!これがその証拠だ!」
そう言って彼が広げた紙には多くの悪行が綴られている。
曰く、学院から支給された魔術書やローブを裂かれたり燃やされたりした。裏社会の人間を雇って命を狙われた。禁忌の魔法を使い学院に悪魔を召喚しようとした。等などの内容が書いてある。
それを見たミーチアはやはり思う。
(...心当たりなんて一個もない。)
むしろ、皇太子が庇うように隣の侍らせている女性は一切関わりのない人で、婚約者がいながら別の女性の方を抱くように侍らせているのはいいのか?と問いたいほどだった。
ここまで絶句して言葉もないミーチアに対し、何を思ったか、皇太子は呆れたように頭に手を置きながら言う。
「...謝罪の1つでも発せば罰を軽くしてやろうとは考えていたものの、だんまりとはな...元々国外追放の罰を考えていたが、貴様にはそれすら生ぬるい!我が王宮魔術師の総力を上げてこの世界からその存在丸ごと追放してやろう!執行までせいぜい大人しくしてるんだな!衛兵、連れて行け!」
自身の身に覚えのない罪に対する罰を聞いて、ましてやそれがこの世界からの追放だと聞いて、ハッと我に返ったミーチアはようやくここで声を出す。
「お待ちくださいまし!先程の悪行とやら、わたくしにはひとつも身に覚えがございませんわ!」
そう声を上げたが、聞き入れて貰えずミーチアは地下牢に繋がれてしまった。
それから数日、ミーチアの繋がれる地下牢には多くの面会人が来た。ミーチアはそんな悪行はやっていない。もう一度調べてくれと懇願したが、学院の先生も、同級生も親ですらも、彼女の主張を信じず、怒りと失望の言葉をこぼすばかりであった。
刑が執行されるまで残り僅か、もはや彼女には出来ることは一つも残されていなかった。
そこに1人の王宮魔術師がやってくる。彼は王国内最高峰と称される老齢の魔法使いであった。
「ミーチア・リダーよ。そなたに罪がないこと、ワシはわかっておる。そなたは学院始まって以来の天才魔術師じゃった。そのまま成長しておれば大魔法ですらも簡単に行使する立派な魔法使いになったじゃろう。だが悲しいかな、この国は国王陛下が絶対。その命には誰も逆らえんからのう...代わりと言ってはなんじゃが...この世界とは異なる別の道を辿った世界にそなたの魂を繋げよう。そこで今度こそ悔いなく、生きると良いぞ。」
満足に食事も与えられず、疲弊しきったミーチアは頭が回らず目の前の魔法使いの発した言葉の意味を半分も理解できなかったが、「今度こそ悔いなく生きろ。」この言葉は彼女の心の奥深くに突き刺さったのだった。
それから程なく、王宮の地下深くに連れていかれたミーチアは多くの魔術師、魔法使いの行使する大魔法によって、異なる世界へその魂を飛ばされてしまったのだった。
(あぁ...一体何が悪かったのでしょうか...?これまで厳しい教育の数々に皇太子の婚約者としての礼節の指導、多くの時間をそれらに費やして、大好きな魔術の研究も満足にできなかったというのに...わたくし一体どうすればよかったのでしょう?
あれ?というかわたくし、生きて...?)
先程まで感覚のなかったはずの自身の身体の気配に違和感を覚え、目を開けるとそこには1人の女性が立っていた。
「あ、起きた!良かったあ!初めまして、私は浮島 雫。この児童養護施設の院長だよ。君が道路で倒れているのを見つけて保護したんだけど、大丈夫?自分の名前は言える?」
「...ミーチア・リダーですわ...って、え?」
ふと動かした自分の体に違和感を覚え、自分の手を見てみると...
そこにあったのは明らかに4~5歳ほどの子供のものと言えるほどに小さな手であった。
「...なんですの、これぇぇええぇぇぇ!!!?」
あれから約10年。ミーチアはそのまま児童養護施設に入り、そこで育ててもらった上に学校にまで通わせてもらっている。ミーチアは浮島院長にはいくら感謝をしてもし足りない程だった。
ミーチアにとってこの世界は元いた場所とは全く違う世界。故に1度整理しよう。
まず、この世界には魔術・魔法がない。それを知った時ミーチアは膝から崩れ落ちたが、幸いなことにとても薄いが空気中にも魔力は宿っているし、自身の体にも魔力は流れている。それを駆使して、彼女は以前使えた魔術を行使できたし、魔法ではなく科学の発展したこの世界ならではの魔法も開発、研究ができている。
そしてもうひとつ、この世界の人間にはその多くに「個性」と呼ばれる特殊能力が宿っていた。その能力とは火を起こす。ものを浮かせるなど多種多様。例えばミーチアのいる施設の院長である浮島院長の個性は水滴を動かすことのできるものだった。
今、ミーチアは生前(?)から身につけていた魔術を個性だと言い張って使用、研究している。ちなみにミーチアは無個性である。魔法により回復ができるため、これまで病院で受診したことが無く、周りにはバレていない。
そしてこの世界にはその能力を駆使して人を手助けする職業、ヒーローという物があった。ヒーローとは日夜テレビやネットニュースでその活躍が報道されて止まらないほどに注目の的となっている職業。故にミーチア程の年齢となると周りの同級生の会話の話題はほとんどがそのヒーローに関するものだった。ミーチア自身は魔術の研究にしか興味が無いため、ヒーローと聞かれても知っているのは最も有名なヒーロー、オールマイトと同級生の会話からよく名前の上がっているホークス位のものだった。
それでもどういうヒーローなのかなどの情報は一切持っていなかった。
ミーチアにとってはヒーローとはよく分からない存在であったが、それと同時に惹かれる要素もあった。
それが「個性使用の許可」である。個性は基本的には公共の場においては使用禁止となっており、研究は独自のラボを持っているため問題はなかったがそれとは別に、街中使用可能というのは彼女にとってかなり耳によく聞こえたのだった。(彼女は普段から隠れて研究をしているが)せっかく研究した魔術も使えなければ意味がないのである。ましてやこの世界においては既に魔術は廃れており、魔術に関する資料をまとめたところでミーチア以外理解もできず意味のないものと化すだろうことが容易に想像できた。彼女にとって魔術は我が子も同然。その活躍の場を見てみたいと常々思っていたのだった。
だからこそ彼女は自身の通う学校で配られた進路希望調査には将来ヒーローになれるような学校を、第1志望にはその最高峰である雄英高校を記入していた。
ちなみに浮島院長にヒーローを目指すという内容を話すと快く受け入れ、応援してくれるとの事だった。またそれに合わせて同じ児童養護施設に住む兄弟姉妹たちも応援してくれた。
「ミーねぇなら絶対かっこいいヒーローになる!」「先にサイン貰っとこうかな?」「私ファン一号!」
子供たちは口々に言い、それに笑みをこぼすミーチアなのであった。
「みんなありがとう。わたくしもやる気が湧いてきますわ。ヒーローになれば今より大きな研究を...」
そう言ってまだ見ぬ魔術に夢を膨らませるミーチアに苦笑いを向け浮島院長が言う。
「自分の個性のことになるといっつもそうなんだから。
もう寝なさい。明日、雄英高校の試験でしょ?早く寝て明日に備えなくちゃ。」
「そうですわね。それではおやすみなさい。浮島院長」
魔術の研究のため、魔法での補助も含めてショートスリーパーとなっているミーチアには珍しく、しっかりと8時間の睡眠を取り、明日の試験に備えるのであった。
翌日、ミーチアは雄英高校の試験を受けるため、件の高校に来ていた。
(これは...王立魔術学院よりも大きいのではなくて...?)
約10年日本で暮らしてきてこの世界の施設、生活の規模を理解したと思っていたミーチアだったが、それを凌駕する大きさの高校に困惑の色を浮かべながら高校内に入っていく。
筆記試験終了後、実技試験説明会場にて...
『今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!』
シーン...
(え?なんですのこれ?本当にこれが実技試験?)
『こいつあシヴィーー!!
受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!アーユーレディ!?
Yeahhhh!!!』
シーン......
(これ、答えた方が良かったんですの?でも周りも全然答えてないですし...)
ミーチアが困惑しているうちに実技試験の説明は進んでいく。
『入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の模擬市街地演習を行ってもらうぜ!
持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!
OK!?』
シーン......
『演習場には仮想敵を3種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!
各々なりの個性で仮想敵を行動不能にしポイントを稼ぐのが君たちの目的だ!もちろん他人への攻撃等アンチヒーローな行為は御法度だぜ!?』
「...質問よろしいでしょうか!?」
その時、ミーチアの後ろの方の席から声が響いた。彼女も周りと一緒にその方向を見るといかにも真面目と言った風貌の背の高い男子がいた。
「プリントには4種の敵が記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!
ついでにそこの縮れ毛の君!...先程からボソボソと...気が散る!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
後半はともかく、前半についてはミーチアも気になっていたところだった。
『オーケーオーケー受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!4種目の敵は0ポイント!そいつはいわばおじゃま虫!スーパーマリオブラザーズやったことあるか?レトロゲーの。
あれのドッスンみたいなもんさ!各会場に一体!所狭しと大暴れしているギミックよ!
俺からは以上だ!最後にリスナーへわが校、校訓をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った!真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていくものと!
"
それからミーチアは案内された試験会場にいた。
(広すぎる...完全に街ですわ...校内にこういう会場が複数あるんですの!?)
困惑しながらも、試験に備えて地面に魔法陣を描いて待っているミーチア。待ち時間は有効に使おうという事で仮想敵に攻撃するための準備であった。
(仮想敵の情報は資料にあったからちゃんとターゲットとしてマーキングは出来ますわ。あとは、魔力を流し込めば...)
試験開始も待ち、演習場の入口に待機する一団から少し離れたところに魔法陣を描き終わったミーチアの元に声が届いた。
『はいスタートー。』
唐突すぎてミーチアも周りの誰も反応できていない。
『どうしたァ!?実践じゃカウントなんざねぇんだよ!走れ走れぇ!賽は投げられてんぞ!』
その声に前で待機していた一団が一斉に会場内に走り出した。
ミーチアも用意した魔法陣に魔力を流し込み起動させる。
すると魔法陣から礫のようなものがいくつも現れ、前方の模擬市街地内に飛んで言った。
(これで何ポイントになったかは分かりませんが...少なくとも30の仮想敵は倒せましたわね。)
地面に描いた魔法陣を消したミーチアは走って模擬市街地内に入っていく。
市街地内では多くの受験生が仮想敵と既に戦っていた。
ミーチアは誰とも対峙していない仮想敵に狙いをつけ、雷の魔術でその機能を壊していきながら、時々危なそうな受験生に助け舟を出しながら進んで行った。
それから数分たったところで市街地中央から大きな音が響いた。そこに目を向けると巨大なロボットが街を壊しながら進撃していた。
(な!?あれが0ポイント敵ですわね、ビルが壊れてる!あそこに人がいたら危ないですわ!)
そう思い0ポイント敵に補足されないように近づき巻き込まれている人がいないかを探ると、0ポイント敵の足元で腰を抜かして動けなくなっている少女がいた。
そこにすぐに向かい声をかける。
「大丈夫ですの!?すぐ動きますわよ!」
手を貸しながらそう言うと0ポイント敵に補足されたようで0ポイント敵は彼女らを踏み潰そうと足を持ち上げた。
(これは退避してる暇がないですわ!なら...)
「ちょ!ウチはいいから逃げなって!」
少女が声をあげるがミーチアはそれに構わず魔術の準備した。
「大地よ!わたくしの声に答え、隆起なさい!」
その声と同時にせり上がった地面が0ポイント敵の足踏みを阻んだ。そしてそのまま態勢を崩した0ポイント敵は転倒する。
「今のうちですわ。退避しましょう。」
「えぇ...すっご...」
少女はミーチアを見て声を零していたが、ミーチアは気にせず肩を貸して逃げようとした。
その時、会場に声が響く。
『終了〜〜!!』
それからミーチアは動かなくなった0ポイント敵をよそに助けた少女と話していた。
「助けてくれてありがとう。うちは耳郎響香。」
「ミーチア・リダーですわ。怪我などは大丈夫ですの?」
「うん。これくらい平気だよ。」
耳郎はそういうが、彼女は足を若干引きずりながら歩きにくそうだった。
「お待ちくださいまし、捻挫しているのではありませんか?私が治します、回復魔法ですわ。」
そう言ってミーチアは患部に手を添え魔力を流し込んだ。
「え?ありがとう...回復もできるなんてすっごい強い個性だね」
「ありがとう存じますわ」
それから試験会場を後にしたミーチアは帰宅し、浮島院長に無事終了と告げて彼女を安心させるのだった。
魔法・魔術については私独自のもののなります。いつか作品内で説明しますので今はお待ちを。
主人公の名前は「Hero academia」のアナグラムで「Meacia Redoah」です。ミーティアとかのほうが呼びやすいし可愛いけどまあいいやと。
悪役令嬢として登場しましたがぶっちゃけ悪役令嬢らしいとこ最初だけじゃね?っていう苦情は受け付けません。私も思ってます。