「...!」
落下していくミーチアは間一髪の所でシンリンカムイが受け止め、地面に激突することは無かった。
「1度ならず2度までも、本当に助かりましたわ!ありがとうございます、シンリンカムイさん!」
「それは構わないが、ドロシー、さっきの声は...」
「えぇ、彼女がこの戦場に来たようです。わたくしの魔法も、もう使えない。」
戦場にはいつの間にか雨が降ってきていた。
若返ったAFOとエンデヴァー、ホークスが退治しようとした瞬間、突如として黒い靄が現れた。
そこから荼毘、そして分身したトゥワイスが姿を表す。
荼毘の発する熱に怯んだミーチアとシンリンカムイが近くでピクシーボブの用意した土壁に待避しようとするが、そんなミーチアの身体を掴む少女がいた。
「どこ行くんだよ...お前は逃げられないんだぜ?ここで死ぬんだよ。」
「ドロシー!!」
シンリンカムイが咄嗟に聖女の腕を振り払おうと木の腕を伸ばしたが、それは目に見えない何かに弾かれてしまった。
周囲は増殖し続けるトゥワイスと荼毘の蒼炎によって混沌と化していた。
「あっつ...!ここだと邪魔ばっかだな。移動するか。」
そう聖女が言った瞬間ふたりは光に包まれ、ミーチアの見る景色が一変した。
そこはまるで元の世界で何度か入ったことのある女神に謁見を賜る謁見の間に酷似していた。
ミーチアは自分の腕を掴む聖女の手を振り払って彼女から離れるたあと、周囲を見渡す。
「ここは...」
「てめぇも記憶にあんだろ?謁見の間だよ。実際の場所じゃなくて私が再現した空間だがな。」
「貴女...本当に聖女なんですの?わたくしのクラスメイトのヤンキーと全く同じ口調ですわよ。」
「あぁ!?知らねぇよ!聖女ってのは口調で決まるもんじゃねぇ!運命だよ!私はヒロイン!選ばれた主人公だぜ?」
「それ前も言ってましたわね。どういうことなんですの?」
ここに連れてこられてミーチアは未だに魔法が使えない。そこでミーチアが選んだのは時間稼ぎであった。
目の前の少女は殺気こそ放ってはいるものの、今すぐ襲いかかろうとはしていない。だからこその時間稼ぎ、この空間を理解する為の、目の前の聖女の思惑を理解する為の。
そして 、彼女の為に用意した切り札を発動する為の。
「あぁ、そりゃてめぇは知らねぇよなぁ、教えてやるよ!
お前のいた世界は私の世界の乙女ゲームの舞台!架空の世界なんだよ!私はその世界に転生してきた日本人!
どういう訳かてめーがゲーム通りのシナリオを辿らなかったせいで苦労させられたもんさ、レオン様を振り向かせるのにてめぇのいじめは必須だったってのによぉ!」
「乙女ゲーム...とやらは知りませんが、転生してきた日本人...ということは貴女はこの世界出身でしたのね。でしたら個性もお持ちなんですの?」
「ハァ!?個性なんか知らねーよ!何があったのかは知らねーが私の知ってる地球じゃ無くなってんだ!国やら土地やらは全部おんなじなのに人が全然ちげーんだよ。気持ちわりー奴らもいるし、さっさと元の世界に戻りてーもんだわ。」
聖女の返答にミーチアは頭を回転させながら喋る。幸いにもミーチアの魔法を封じているという余裕からか、聖女は時間稼ぎの雑談に付き合ってくれていた。
「ここも貴女の知っている世界では無いんですのね。
パラレルワールド...と言うことでしょうか?」
「あぁ〜?んなもん知らねーし興味もねー。せっかく好きなゲームの舞台に転生出来たんだからそこで好き勝手生きんのが一番だろ。...それを!てめーが邪魔したんだよ!!」
そう言って聖女が突然掴みかかってきた。
ミーチアは咄嗟にその手を受け止め、授業中に麗日に教えてもらった技術で押し倒した。
「危ないですわね...あまり手荒にはしたくありませんので暴れないでくださる?」
「はぁあ!?なんだテメェ!魔法がなきゃなんもできねー貧弱野郎じゃなかったのかよ!?」
「昔はそうでしたが、今は違いますのよ。ヒーローになるため、日々訓練をしていますので。」
「ふっざけんなや!これなら無理だろうが!炎!焼き殺せ!」
聖女が組み伏せられた状態から手から炎を出しミーチアを焼こうとする。ミーチアは普通に避けるが、その身一つのミーチアに対して魔術も万全に扱える聖女。最早決着は時間の問題かと思われた。
「ほらほら!炎!焼き尽くせ!一帯全部!あいつが死んでもまだまだ!!殺せぇえ!!!」
聖女はミーチアに向けて、いや、その先にミーチアがいるかどうかなんて関係なく周囲に向けて炎を噴き上がらせる。
ミーチアはかろうじて直撃は避けているが、それでも足や腕、腹など体の至る所に火傷跡を少しづつ増やしてしまうのだった。
「ぐぅ...!貴女、完全狂っておりますわよ!」
「あぁ!?そんなことねぇよ!!私は普通だぜ!お前をようやく殺せるってんだ!そりゃテンションも上がんだろ!!」
聖女は尚もミーチア目掛けて炎を噴きあがらせる。これまで以上に広範囲なそれにミーチアがついに被弾してしまうかと思われたその時、なんとミーチアが炎を目の前に生成させた水で防いだのだった。
「...あ??」
「ラグズ。ルーン文字、つまりこの世界の魔術ですわ。
...やはり貴女が無効化できるのはわたくし達の世界の魔法のみでしたわね。」
「っとにてめぇは私の神経を逆撫ですんなぁ!!」
激昂した聖女が噴きあげる炎の火力をあげていく。
それに対抗してミーチアもルーン文字を更に重ねて水や氷を混ぜ鎮火の手を早めていく。
その攻防が数度続いた後、聖女が突如として炎の噴出をやめ、頭を掻きむしりながら叫んだ。
「あああああ!!だっるいなぁ!!
...もういいや。お前、なんで私がここにお前をわざわざ連れてきたと思う?」
「...まさか、女神様の力を...」
「いーや、私が使えるわけじゃねぇ。
まぁ、原作知らねーとわかんねーわな。
私は十女神なんかをゆうに超える!あいつらでも敵わない復活した魔王を殺すっつー役目がなぁ!!
そのための儀式をする場所が
聖女がそう叫んだ瞬間、謁見の間の床に描かれた魔法陣が凄まじい光を放ち出した。
「この魔法陣の術式...まさか...!!
いけませんわ!!」
ミーチアがその光をその身に受ける聖女に向けて手を伸ばすが、その手は届くことなく発生した衝撃波によってミーチアは吹き飛ばされてしまった。
衝撃波によって巻き上がった煙が晴れた時、そこに居たのは黒い2本の角にドラゴンを思わせる赤い翼、手足の先は赤と黒の入り交じった鱗に覆われ、それでも尚輝きを放つ純白の髪を持つ聖女の姿だった。
「その様相...まるで魔王ですわね。」
「あぁ...!?なんかちげーな...
まあいいや、これで...お前を殺せる!!」
そう言って聖女がミーチアに飛びかかる。
ミーチアは最初に口から吐いてきた炎をルーン魔術で防ぐが、火力が先程とは桁違いであり、貫通してきた炎をその体に受けてしまう。
ミーチアは痛む手足に鞭を打ち無理やり動かして聖女の拳や蹴り、引っ掻きをいなしていく。
雄英の授業で格闘訓練と麗日の指導によりある程度の格闘戦をこなせるミーチアに対して、おそらく喧嘩もしたことが無いであろう聖女の直線的な攻撃だからこそ、いなす事が出来ていた。
しかしミーチアの体力も限界が近付いている。
「はっはぁ!力が湧いてくる!今ならなんでもできそうだ!お前の仲間を殺すのなんかも赤子の手をひねるよりも簡単だろうなぁ!!」
「それを...させない為に...!わたくしは今戦っているのでしょう!!」
聖女が大振りな攻撃を外した隙をついてミーチアがルーン魔術で強化した拳をその胸に叩き込んだ。
しかし聖女には全く効いておらず、密着してしまったことでミーチアは
...その腹を聖女の爪によって貫かれてしまうのだった。
場所は変わり群訝山荘跡地。
徐々に若返っていくAFOがこの場を去り、学生らの奮闘により荼毘、トガヒミコが止められて戦場が一時落ち着いてからわずか数分後、負傷者の把握とその治療に移っていた現場に、とある少女が急に姿を現した。
「はぁぁ...あ?なんだボロボロじゃねぇか。殺り甲斐ねぇな。」
静まっていた戦場に少女の声はよく響いた。
それを聞いたその場のヒーロー全員が戦闘態勢に移る。
「なんだこいつは...」「何この重圧...AFO並...いや、まさかそれ以上...!?」
AFO、トガヒミコ、荼毘との先頭で負傷していないヒーローは1人もいなかった。むしろ全員が全員、限界だと言っても過言ではないだろう。
それでも彼らはヒーロー。目の前の敵に立ち向かう。
しかし彼らは目の前の少女、ドラゴンを思わせる角や翼、鱗を持つ敵の吐く炎やその手によって蹂躙されていく。
「女!止まれ!」
「あぁ?なんだてm...」
心操が聖女を止めようと声をかけ洗脳に成功する。これで終わるかと思われたが、心操の言葉を待つことなく再び彼女は動き出す。
「んあぁ?あぁ...なるほどな。マインドコントロールってとこか?残念、もう耐性が着いちまった。」
そのまま聖女が心操を吹き飛ばしてしまう。
その矛先はやがて鳥の顔を持つ少年、常闇へと向いた。
「お前は...何者だ!何故こんなことをする!?」
「あぁ...お前だよお前。トリ頭野郎。あのクソ女と幸せそうにしやがって、お前も殺してやらんと気が済まねぇなぁ!」
目の前の敵の言葉に常闇はハッとする。
「まさか...ミーチアの言っていた聖女とやらが貴様なのか...!?
ミーチアは...ミーチアはどうした!?」
「あっは!!...もう殺したよ。恨むなよ?私の物語の過程で必要だったんだ。」
「...な、何を...言って...まさかそんな...そんな訳ないだろう!約束したのだ、絶対に勝つと!!」
「そんな端役同士の約束なんかが守られるわけねぇだろ。このストーリーの主人公は私!世界は私を中心に回ってんだよ!!」
そう言って高笑いを上げる敵を前に常闇は目の前が真っ暗になる。
(まさかそんな...嘘だと言ってくれ!まだ...まだやっていないことばかりだ!まだ話したいことが...!約束したのに...!!)
そこにホークスが走ってきて常闇の手を取った。
「ツクヨミ!今は逃げることを優先して!この戦力じゃああんな敵!とても敵わない!!」
ホークスを常闇を連れていこうと手を引っ張るが、常闇は俯いたまま動かない。
「ツクヨミ!動いて!頼む!」
「あはは!絶望しちゃったか!?動かねぇじゃねぇか!
逃げねぇってんならお望み通り、殺してやるよ!!」
そう言って聖女が爪を常闇に振りかぶるが、寸前の所で何者かの力によって止められたのだった。
「...必ず勝つと、約束したではありませんか...とは、先に負けてしまったわたくしが言えたことではありませんわね。
ですがあの約束はまだ有効です。どうか立ってください。常闇さん。」
常闇は聞こえてきた今一番聞きたかった声に顔を上げた。
そこには天使を思わせる羽を携え、全身から薄くも力強い光を放つミーチアの姿であった。
ルーン文字は私全く知らないところからちらっと調べた所だけで書いたので詳しい人には変に思うかもしれないけど許してね☆