『ミーチア・リダー。どうか起きて。』
薄れゆく意識の中聞こえてきた声にミーチアは意識を覚醒させた。場所は変わらず謁見の間であった。そのはずだが、戦闘前のようにどこにも争ったような形跡はなくミーチアの前世の記憶にある謁見の間そのものであった。
「わたくしは...負けてしまったのですね...ぐっ...!」
『あぁ...どうか動かないで。貴女は未だ、生死の境を彷徨っているのよ。』
そう言ってミーチアの前に姿を表したのは原初の女神だった。そしてそのまわりにはそれ以外の9柱の女神の姿もあった。
「女神様...ということは、まさかここは...」
『えぇそうよ、ここは貴女の元いた世界。貴女が生死の境を彷徨っているところをネスちゃんが連れてきてくれたの。』
『ここに居るあなたは魂だけの存在。肉体は未だ向こうにあるわ。...こちらにあったあなたの肉体はもう失われてしまったから。』
そう言って死の女神、ネス様が前に出てきた。
「ありがとうございますわ、ネス様。」
そう言って頭を下げるミーチアの元に叡智の女神、ノーリア様がやってくる。
『早速で悪いのだけれど、よく聞きなさい。
聖女ソニア、分かるわね?』
名前までは知らなかったが、聖女といえば先程までミーチアが戦っていた彼女だろうと考え、ミーチアは首を縦に振った。
『現在彼女は、世界そのものを脅かす魔王として覚醒した。...今はあちらの世界で暴れているわ。それが終わったらこちらにもやってきて世界を破壊するでしょうね。
...情けない話だけど、私達でも彼女には敵わない。
全く女神が聞いて呆れるわね。』
「それも仕方の無いことでしょう?あの魔法は世界の流れそのものに対するカウンター、善悪の区別なく
『...驚いた。貴女あの一瞬で術式を理解したのね。』
『雑談もいいけれど、時間もないわよ?早く本題に入りなさいな。』
『そうね。...さっき言った通り、私達ではあの子を止められない。でも幸いなことに
そう言って床を指さす叡智の女神、ノーリア様の意図をミーチアは理解した。
「...まさか。」
『そのまさかよ。ただ、問題の脅威が今この世界にはいない。上手くあれのカウンターになれるかどうかは分からない。...だからこそ、貴女には私たち全員を統合して、新しい女神になってもらうわ。そうやって彼女を止めて欲しいの。』
「...ですが、わたくしは最早、この世界に関心などありませんわ。女神様の居なくなったこの世界がどうなるか...」
『そこは心配しなくて大丈夫。だってあの子がこの世界から去る時にこの世界の魔法の概念を壊してしまった。魔力に連なるものはいずれ全て崩壊し、この世界もあの世界のように、魔力に頼らない道を進むことになるでしょうね。私達がこの世界を管理する意味もなくなってしまうわ。
...個性と言ったかしら?ああいった能力が生まれるかは分からないけれど。』
『それにこの世界の魔法の概念が壊れたってことは、今この世界で魔法を使える人なんて一人もいないんだよ。
...唯一他の世界にいて、その影響を受けていない君を除いてね。』
「なるほど、どちらにしろわたくしにしか出来ないことなんですのね。
それでは...えぇ、今すぐ始めましょう。」
『あら、一切の迷いもないのね?』
少し驚いた表情を見せる女神の質問にミーチアは魔法の準備を進めながら即答した。
「えぇ、必ず勝つと、約束しましたもの。ね、常闇さん。」
そう言って笑顔を見せたミーチアは全力で魔力を床の魔法陣に込めだした。
「ミーチア...なのか...?」
「えぇ、少し姿は変わりましたが、わたくしですわよ。
お待たせ致しました。早速反撃と行きましょうか。」
そう言ってミーチアが両手を広げると辺りを緑色の薄い光が差し周囲の負傷者をあっという間に癒していく。
「あぁ!?ふざけんなよ!!その姿は私のもんだろうが!!とんじゃねぇよ!!」
なにやら激昂した聖女が突っ込んできたがミーチアはそれを視線を向けることもなく指の動きのみでいなす。
続けざまに聖女が口から炎を吐き出したが、炎はまるで意志を持っているかのように、ミーチアだけでなく周囲のヒーロー達を避け立ち上っていく。
つい先程までの全能感は薄れ、自身の行動全てを何でもないかのように返された聖女は怒りを募らせ上空に飛び上がって力を溜めた。
「てめぇ調子に乗りやがって...!!
これで地球ごとぶっ壊してやるよ!死ねぇ!!!」
そう言って聖女が咆哮と共にはなった光弾はミーチアの手の一振りによって一瞬で消えてなくなってしまった。
「...は?ふざけんなふざけんなふざけんなぁ!!!
これは私の物語だぞ!!私が主人公だぞ!!!」
「何を勘違いなさっているのですか?人生を物語だと言うのならその主人公は自分自身でしょう?貴女だけが特別だなんてことはありません。みんな特別なのです。」
そう言ってミーチアも上空にあがり、手を空に掲げて言う。
「神代に根差した十の神罰、それらは最早過去の話。これからは今を、その先を見つめましょう。これこそが、十の女神の先にありて、行く先を照らす正しさの証。
わたくしの行いは語られずとも、正しきは紡がれていくでしょう。
これは、善の女神の最初の善行ですわ。」
その瞬間、空は晴れ、大地は潤い、空気が澄んだ。
その光景に聖女は言葉を失い、ただただミーチアを見つめるばかりだった。
そのままミーチアは聖女に近づいていき、ゆっくりと彼女を抱きしめる。
聖女は最後まで、ミーチアを口汚く罵りながら、やがて光の粒子となって消えていくのだった。
それから数十分、各戦場の負傷者を治療して回っている時に黒霧のワープゲートによる迎えとともに、警察から"まだ戦える者は緑谷の元へ"という要請があった。
当然ミーチアもそこへと向かうため、ワープゲートの中へ飛び込むのだった。
ミーチアはワープゲートを出た先、隣を見ると地面にしゃがみこむ緑谷とミーチアと同じくワープゲートをくぐってきたクラスメイトの姿があった。
「お前らもかよ...」「そっちもな」「警察からまだ動ける者はって...」「相澤先生が黒霧を味方につけたって聞いて。」
「友達がまだ戦ってんの見て...」「行かずにいられましょうか!」「意識があるうちはどこへだって!」
「まだ、勝ちきっておりませんものね。」「そうだな。これで終わらせよう。」「勝つためにここまでやってきたもんね」
「今日踏ん張れなきゃ...何のためにヒーローを夢見たか分かりゃしねぇよ...!
だから...オイラ達が、来た!!」
続々と集まってくるヒーローを見ながら死柄木(AFO)が言う。
「灰色の肉が並んでいる...執心を喪い、故に喪失の穴に通る攻撃はなく...僕はトドメを免れた。
今ならわかる。緑谷出久。悲劇こそが人を強くする、そう思わないか?」
浮き上がって数々の個性を展開する死柄木(AFO)の言葉に瀬呂が返した。
「どうだろうね。あんたらみたいに起伏に富んだ人生じゃねぇから、明日の実技、置いていかれねーようにとか、そういうことでしか俺は頑張ってこなかったな...
それに、今日まで大変そーだったよ、かつてガンギマリだった彼は!」
その言葉と同時、死柄木(AFO)の左右から出てきた轟とエンデヴァーが炎と氷を両側から浴びせかけた。
そのまま最後にワープを通ってきたプレゼントマイク先生が叫ぶ。
『ガイズ!今日が分水嶺だ!
行こう!!最後の大仕事だ!!!』
そしてヒーローのみんなが一斉に駆け出した。
緑谷もみんなに手を引っ張られながら駆け出す。
一方でミーチアはその様子を後ろから飛び上がって見ていた。
『最後はわたくしの仕事ではないでしょう。えぇ...わたくしはただ、正しい道を示して差し上げますわ。』
善の女神としてのミーチアの言葉が緑谷に届いたかどうか、緑谷は振り返ることなく突き進んでいくためミーチアには分からないが、ミーチアの示した淡く光る筋道、それを緑谷は辿っていく。
途中AFOの複数個性を併用した妨害が幾度となく降り注ぐが集まったヒーロー全員で協力して凌ぎ、緑谷を1歩1歩と前へ進めていく。
『緑谷さん、頑張れ...!!」
そうして遂に緑谷の拳がAFOに届いたのだった。
AFOの消滅と共に地面に倒れこんだ緑谷のもとに、皆が走って駆け寄った。
「緑谷!大丈夫か!?」
「緑谷ちゃん!」「緑谷!?」
皆が心配する中、最後尾にいたミーチアが遅れてゆっくりとやってきた。
『緑谷さん、お疲れさまでした。
...貴方の善行は、確実に報われるでしょう。どうかそのまま、正しく在ってくださいな。』
「ミーチアさん...?」「あれっ!?ミーチア何その翼!?」
皆の疑問の声にミーチアが事情を説明した。
『わたくしはわたくしを狙う敵と戦う際、彼女に勝つためにわたくしの世界の女神を統合してわたくしが吸収、新しい女神となったのですわ。』
「女神...!?」「えっ...と?」
『まあ理解する必要はありませんわ。今はそれよりも、優先することがあるでしょう?』
それからみんなで協力して事後処理を行うのであった。
ミーチアちゃんは新しい女神となりました。
一番最初に考えていたストーリーとは全然違いますが、元の世界の設定だとか、そのストーリーだとかを考えているうちにこうなった。まあ後悔はないし、なんなら満足。