それに皆さん、暖かい言葉ありがとうございます。
これからも頑張っていきます!
夜蛾先生にスカウトされ、東京都立呪術高等専門学校に入学し、幾ばくかの時が過ぎ、俺こと焔瀬統弥は1級呪術師となった。
高専に入学して初めて本当の意味で友達と呼べる仲間もできたし、毎日が充実している。
悟に傑そして硝子、愛しい愛しい俺の特別達。
由基先生を除いて、はじめて出来た同格の存在。そんなやつらとの生活は呪霊を祓うことにのみ全てを捧げてきた俺にとっての青い春。まさに青春だった。
とかいうしんみりした独白は俺に似合わないしここまでにしておこう。
ちなみに今は補助監督さんの運転する車に揺られながら 1級呪術師としての任務に赴いている。
場所は東京郊外の廃工場、戦時中に稼働していた工場であり、その時に有害な物質を含んだ汚染水を垂れ流していたらしい。
それにより命を落とした住人も多数存在し、既に廃れた今でもこの地区の負の遺産として住人から負の感情を向けられているようだ。それに夜は不気味なことから心霊スポットとして若者達には人気であり、その者達が行方不明になると、それが瞬く間にインターネットにより拡散され、より負の感情が集まる。
詰まるところ負の連鎖によって強力な呪霊が産まれた、ということかな。
「到着致しました。焔瀬1級」
運転をしてくれていた補助監督が到着を伝えてくれる。もう彼女とは何度が任務を共にしているのでもっとラフにしてくれても良いと思うのだが
「あぁ、ありがとう高木さん。普通に統弥でいいよ?」
「いえ、私は補助監督ですので。」
うーん、やっぱり距離取られるよねぇ。
まあ術師は補助監督の数倍は死に近いから気を許し過ぎてその術師がうっかり死んじゃったら立ち直れなかったりするのかな?知らんけど
「ふーん、まあいいや。帳よろしくね」
手を後方に振りながら廃工場に向かって歩き出す。
うーん、これは凄い。まだ中にも入っていないのに凄まじい程の圧を感じる。
いつもより気を引き締めていかないと、簡単にやられる可能性もあるなこれは。
「汚ぇなぁ」
やはり廃工場、地面も汚れ、匂いも酷い。
「...本命以外にもうじゃうじゃと呪霊がいるな。」
至る所に呪霊の気配を感じる。2級以下の有象無象だが、非術師には充分に命を脅かす恐怖だ。別に非術師の命に興味は無いが、救えるものは救っておこう精神であり、そういうのを気にする親友もいる事だから祓ってやろう。
有象無象の呪霊を祓いながら深部へと歩いていく。深部へと近づいて行く程に鼻につく異臭が強くなる。
(...いるな)
明らかに増す、特大の気配。
だが、気配を感じるのに居場所がわかんねぇな。隠密系の術式か?
「...!」
後ろから殺気を感じ、前方へと飛ぶ。
「ッぶな」
しっかりと距離をとり、呪霊へと体勢を向ける。
眼前に映る呪霊は、様々な機械の部品のようなものが、汚れた水により結合された、巨大な獣のような姿をしていた。
「グロすぎだろ。なんで呪霊ってのはこうも嫌悪感を煽る見た目してるんですかね。」
触れたくもないなと考えながらも戦闘態勢に移る。
「術式解放」
その言葉と同時に俺の身体の至る所から焔が吹き出る。呪霊を祓う為に産まれたかのような能力を持つ俺の術式、俺の身体すらも焼き焦がす俺の術式。
あぁ、この痛みが心地よい。
「簡単に終わるんじゃねぇぞ」
焔を纏った拳を呪霊に打ち付ける。
「あ?」
攻撃の感触がない。ふーむ、身体の水が原因かな。
(なるほど、水の流動性か。打撃の威力が受け流されるな。)
「『禍焔』」
俺の術式『禍火却纏』の技の一つ、焔を圧縮し、ビームのように打ち出す。これなら水の流動性がいくら優れていても衝撃を受け流せない。
「流石に効くだろ」
これで祓えるとも思っていないが、無傷であるとも思っていなかった。
(マジかよ)
あてが外れたな。
(焔で焼けている箇所を適切に切除しやがった。)
厄介だな、と思考しながらも次の行動について考える。
威力が足りない訳じゃない、だが小規模の攻撃ではダメージを与えても、切除されて無傷の状態へと戻される。
(チッ、ジリ貧だな。)
俺は術式的に長期間戦闘に向いていない。速攻で終わらせる為の最適解を考える。
「グギャアァア!!」
呪霊が突進してくる。動きは鈍い。
「鈍いんだよ!テメェの攻撃は喰らわねぇ」
こっちもダメージを与えられず、呪霊も俺にダメージを与えられない。
(この工場破壊しても良いよな?別にもう使わないんだし)
よし決めた、破壊しよう。
先程までは一応工場は破壊しないで置こうと思ったが、力をセーブしたまんまだとこいつを祓えない。
「出力最大」
溢れ出る焔の出力を最大まで上げる。
指向性を持たせた焔を全方位へとぶちまける。
ズガガガーン!!!!!
建物が崩壊する音が鳴り響く。
全力の焔が廃工場全体を破壊する。
コンクリートが融解し、鉄骨が赤く輝きながら崩れ落ちる。工場内に残っていた雑魚呪霊は、この炎の奔流に触れた瞬間、呪力そのものが焼き尽くされて消滅した。
その爆炎の中央、呪霊は形を保っていた。
だが、無傷ではない。
「効いただろ」
呪霊の巨大な体表の三割以上が蒸発し、吹き飛んでいる。やはり、流動性による衝撃吸収を突破し、切除が間に合わないほどの広範囲と高熱を同時に叩き込めば、流石に再生が追い付かない。
しかし、呪霊は残った部分から、周囲に溜まっていた汚染水を急激に吸収し始めた。その再生速度は異常。まるで、この場所全体が、奴の予備の肉体であるかのように。
「グギャアァアアア!!!」
再生を急ぐ呪霊の断末魔のような叫び。だが、その声は急速に力を持った、別の声へと変わる。
(呪力が不自然な程一気に増えた?
嫌々可笑しいだろ。今3割以上は削ったんだぞ、普通は回復するにしても呪力は減るはずだ。)
呪霊の巨大な身体の表面に亀裂が入る。
パキッパキッと音を鳴らしながら呪霊の身体が崩れ落ちていく。
「ハハッ、マジかよ。今の今まで呪胎だったってわけかよ。」
身体が割れ落ちて現れた姿は、先ほどの獣の姿とは似ても似つかない。身体の大きさは明らかに縮小し、手と足は以上に長い。
人型に近しい身体が顕現した。
「『纏朱禍』」
身体から吹き出る不定形の焔を固定し、鎧のように身体に纏うことで、防御と攻撃どちらにも適した近距離戦闘形態。
「身体の大きさが小さくなったなら打撃も通じるんじゃねぇか?!」
猛攻、徒手空拳は俺の得意とする分野だ。
悟や傑にも勝ち越してる。産まれたての呪霊に防がれる筈がない。
(チッ纏朱禍でも攻撃が受け流される。それにこれ、毒だな。焔で燃やしているが、厄介だな。)
一旦距離を取る。
(禍焔じゃ、範囲的にダメージを与えるのは厳しい。纏朱禍も同様。)
「『拡張術式 禍焔 刃』多重展開」
禍焔の拡張術式、『刃』。威力は通常に劣るが、操作性、攻撃範囲はこちらが上だ。
合計50の刃が呪霊に向かって突撃する。
「はっまじ?」
予想外のことが起きた。
呪霊が、水を槍のように形作り、『刃』を撃墜していく。
何本かの『刃』は直撃したが切除される。
「オマエ、ツヨイ。イママデココニキタドノニンゲンヨリモ。」
回復を終えた呪霊が話しかけてくる。
「お前、呪霊の癖に喋れんのかよ。」
「オマエノコトバヲガクシュウシタ」
片言だがしっかりと言葉を口にする。
由基先生に聞いたことがある。言葉を話す呪霊は総じて、厄介だと。
「めんどくせぇ、さっさと焼かれて燃え散れよ。」
強がってはいるが、状況は変わらずジリ貧だ。相手はノーダメ、こちらは反動による火傷多数、
「ワガサイオウヲモッテオマエヲコロス」
呪霊が手印を結ぶ。
「リョウイキテンカイ」
膨大な呪力が奮起する。呪術の最奥、生得術式の最終段階にして呪術戦の極致、それこそが領域展開。
それを会得するほどにこの呪霊は強い。
「まじかよ」
無意識に唾を飲む。
「『穢水機界』」
その言葉が紡がれると同時に世界が変わる。
黒く汚れ、穢れた水が周囲を多い、錆びて朽ちかけた機械類が乱雑に散らばる世界。
「これがお前の生得術式か。」
呪霊に語りかけながら、簡易領域を発動する。
表面上は余裕を装っているが、中々にピンチな状況だ。簡易領域を削り切られた瞬間、俺の命は潰える。
後方へと移動し、領域の端に辿り着く。
「ナゼコウゲキガアタラナイ?」
必中のはずの領域内で攻撃が当たらないのが不思議なのか呪霊が問い掛けてくる。
やはり、こいつは知識が弱い。簡易領域などの技術を知り得ないのだろう。
わざわざ教えてやる訳もないんだがな。
「さあな。お前の領域が不完全なんじゃないか?」
(今は無駄話を続ける。その間に領域の外殻を『侵蝕』で破壊する!)
俺の呪力の性質、『侵蝕』相手の呪力を侵して、塗り潰す。その性質は領域の外殻にも有効だ。多少時間は掛かるが、破壊出来ない道理はない。
「フカンゼンナドアリエヌ、ワガリョウイキノコトハ、ワレガイチバンシッテイル。」
止まらぬ猛攻、必中効果は付与されていないにしろ己の命を奪える攻撃の数々、それを撃ち落としながら外殻を割ることにも集中する。
極度のダブルタスク、防御に全集中すれば防ぐ事も容易だが、外殻の破壊を重要視していることで、防御がおざなりになる。傷が増え、腹に風穴があく。
(クソが、反転の使えない俺じゃ、領域を破壊出来てもどうせ死ぬな。)
そんなことを考えながらも破壊することを諦めない。血が逆流し、口から吐き出る。
(ゴフッ、まだか!…来た!)
領域の外殻がひび割れ、バキンッという音と共に崩壊する。
(折角、破壊出来たってのに、立つことすら、ままならない。)
破壊したのは良いものの、立つことすら辛く、膝をつく。
「ミゴトダ、マサカリョウイキヲハカイサレルトハ。ダガ、ココマデノヨウダ。サラバダツヨキモノヨ。」
呪霊が水を槍に形作り、こちらに放つ。
避けることも出来ずにそれは心臓に突き刺さった。
(……あぁ、ここで死ぬのか、
……何も成せずに、何も出来ずに消えていくのか、
……ふざけるなッ、そんなこと、俺が、俺自身が認めないッ!!)
感じる、あぁこれが呪力の核心。
なあ俺、今なら出来るよな?
「『反転術式』」
反転術式、負のエネルギーである呪力を掛け合わせることで正のエネルギーを作り出す技術。
使用することで、自身の傷を癒すことのできるこの技術を今、俺は会得した。
みるみるうちに穴の空いた腹と胸が修復していく。自分の術式によって焼かれた皮膚でさえも。
「ナゼイキテイル。
ハラヲエグリ、ムネヲエグッタハズダ。ナゼキズガナイ!!」
呪霊の態度から分かる、明らかな戸惑い。
そしてそんなものどうでもいいと思っている高揚している自分自身。
「反転術式って言うんだよ、お前は知らないみたいだけどなぁ!」
明らかな高揚、今ならなんでも出来てしまいそうに感じる。
そうだよ、今ならできるはずだ。
頭の中で描いた、自分の最奥、領域とはまた別の呪術の終局点!!
「お前も俺に自分の最強を魅せてくれたんだ。俺も俺の最奥でお前を殺してやる!」
「『極の番』」
己の呪力が膨れ上がるのを感じる。
人差し指を真上へと突き立てる。
人差し指に己の呪力を集中させ、圧縮し、更に圧縮する。
「ナンダ、ソレハ」
焦りと恐怖が混じる声色で呪霊は問いかける。
「お前を焼き滅ぼす、焔だよ。」
完成した、極小の光。
ただそこにあるだけで、全てを焼き焦がす、滅却の焔。
「『却』」
その一言と共に、腕を振り落とす。
極小の光は呪霊に向かって飛び立ち、己の全霊をかけて防御に徹する呪霊に衝突する。
……刹那の静寂
その数瞬後に巻き起こる、轟音と業火。
周囲の全てを焼き滅ぼし、灰すら残りえない、灼熱の業火。
呪霊は、廃工場のそびえ立っていた山の1部と共にこの世から完全に消滅した。
「…じゃあな、お前のおかげで俺は強くなれた。」
そう口にして、その場を後にする。
「おっ高木さん!祓除完了だぜ。」
山の麓で待機していた高木さんを発見して、祓除完了の報告をする。
しかし高木さんは黙っている。
「ん?どしたん」
「…あなたは、一体何者なのですか、」
明らかな動揺と恐怖、そして羨望。
「あれほどの威力の呪術、山を1部更地にしてしまうなど、ありえないッ!」
「んー俺たちは最強なんだよ。常人じゃあ理解出来ない事を出来ちゃうのが、【最強】ってもんでしょ。」
そう、俺達は最強なんだ。
アイツらに置いて行かれる訳には行かない。
アイツらが俺に置いていかれる訳がない。
俺の特別はそんなに柔じゃないからな。
「だからさ、俺の心配はしなくていいよ。高木さんは俺達術師が仲良くなった後に死ぬのが嫌なんだろ?俺は死なないから、安心してくれていいよ。」
「…あなたは、フッ確かにあなたは死ななそうだ。」
強ばっていた顔に笑みが溢れる。
これは仲良くなれる系かな?高木さん可愛いから仲良くなりたいもんね。
「統弥って呼んでよ、高木さん。」
「…分かりました。これからも死なずによろしくお願いしますよ、統弥さん。」
気を許してくれたみたいで嬉しいな。
さあてと、今回はめっちゃ疲れたし、早く寮に戻って休みたい。
高木さんの運転する車に揺られながら、俺は眠りについた。