「スターーーート!!!」
騎馬戦が開始した。頭の鉢巻を奪い合う競技だが、ポイントがかかっており、さらに先の予選で一位だったものは一千万ポイントが与えられている。
「実質それの争奪戦だ!!」
「はっはっはっ!!緑谷くんいっただっくよーー!!」
緑谷が持つ一千万ポイントを狙い、飢えた狼のように群がっていく。緑谷は、チームである麗日の個性とサポート科、発目の機械を駆使し、逃げの一手で立ち回る。その様子を騎士チームは離れて観ていた。
「はしゃいでんなー、ヒーロー」
心操は、どこか達観した様子で口にする。彼は、ヒーローというものに憧れているのだろうか?ならば何故、ヒーロー科の連中に懐疑的な目を向けるのだろう。あれが、次世代のヒーロー候補生であることにガッカリしているのだろうか。騎士は、そう考える。
「おい、いつ動くんだ。話せなくても手で指示くらいだせるだろ。速くしろよ」
心操は、口でそう促すが本心は、『何で俺は、話せないコイツを騎手にしたんだ?』と自分自身に呆れていた。最初はもちろん、騎士のことは騎馬にするつもりだったが身長が低いため合理的に考えて騎手の方がいいか?と考えていると、仮面の奥に光る紫の瞳が心操の目をずっと見ていて、イヤな予感がした心操は、騎士を騎手にすることにした。結果このような棒立ち状態にある。
『クソッ、どうすれば良い…』
心操が、この状況を何とか打開出来ないか考えていると、
「隙ありすぎないA組」
後ろから颯爽と騎士の首に巻いた鉢巻を誰かが取って行った。
「!、バカかお前!何すんなり取られてんだ!」
「あれ?君の騎手、この競技のルール理解してるのかな?まぁ騎馬戦を知らない所から転校してきたのかもしれないね。残念だなぁ。君がB組に来てくれてたら上手い立ち回りを僕が教えてたのに。A組に転校してきたのが君の運の尽きだね。じゃあね、そこでずっと突っ立ってなよ」
鉢巻を取ったのは、B組の物間という生徒が奪っていった。何やら彼は、A組を目の敵にしているようだ。そんなこと騎士には、知ったことではない。例え騎士がB組に転校したとしても、何も変わらなかっただろう。物間が別の鉢巻を取りに、遠くに行くのを騎士はずっと見る。
「…オイアンタ。このまま周りが勝っていくのを見てるだけかよ」
心操は騎士の方を向くことなく、話を続ける。
「アンタヒーロー科なんだろ。ヒーロー目指してんなら今、負けてるこの状況をどうにかするべきだろ。じゃなきゃ悪いがアンタにヒーローなんて向いてねぇよ」
「なんでアンタがヒーロー科に入る事が出来たのかわからねぇ。たぶん個性が凄かったから入れたんだろうな。さっきのレースのアレだってアンタの個性だろ。ほんと恵まれてるよ」
「やっぱヒーローってもんはさ、個性も重要視されてんだろうな。俺の個性はヴィラン向きだからな。そんな個性持ったヤツがヒーロー科に居たら雄英も困るんだろ」
「………」
「………何言ってんだ俺。……わりぃ。アンタに八つ当たりして」
「さぁ!残り一分よ!どのチームが残るかしら!」
「……実は最初、アンタを操ろうとした。A組でヒーロー科だってことを利用して。個性もきっと強いはずだって」
「残り三十秒!」
「自分の目的の為にアンタを使おうとした。こんな行為最低だよな。最低でまさに…
「二十秒!」
ヴィラン…だよな…」
「十!、九!、八!、七!」
「……こんなんじゃあ……俺は………
「六!、五!、四!」
ヒーローになんて……」
「三!」
「ニ!」
「なれるわけ…」
ヒュン
「タイムアップ!!!」
「早速、上位四チームを見てみよか!!」
「一位、轟チームッ……てあれ?オイオイこれはどういう事だー!!」
「一位!心操チーム〜〜〜〜〜〜??!!」
「ッ??!は??」
「なに!!!」
「どういうことですの!」
「轟チームじゃねぇの?」
「なにが起こってんの?ミスなのこれ?」
困惑するチームたちと呼応するように観客もざわつき始める。
「少し待てリスナーたちー!今、採点機が正常かどうか調べてる所だー!」
「失敬な!私たちサポート科で作ったベイビーを侮辱する気ですか!正常以外ありえません!」
「発目さん、落ち着いて!」
「ッ!!轟さんアレ!!」
「どうした」
「騎士さんの左手を見てください!」
轟は、八百万の言う通り左手を見るとそこには、
轟が首にかけていたはずの一千万ポイントの鉢巻が握られていた。
「アイツいつの間に…どうやって…」
「もしかしたら葉隠くんのような透明の個性持ちがいたのかも知れない」
「ですが一切、轟さんに気づかれず盗まれたことさえ気づかせないなんてこと可能なんですか?」
「わからねぇ…取られた感覚がしなかった…」
『いつだ…アイツはいつ俺の懐に忍び込みやがった…。騎士……あいつは、何もかもが未知数だ。異形系の個性か?それとも俺のようなハイブリット型の個性なのか?」
轟は、改めて騎士の異質さに気づき警戒心を高めた。
「スマねーなー!リスナーたちー!どうやら機械に問題はねぇ!正真正銘!心操チームが一位だー!」
プレゼント・マイクの声と同時に沸く歓声。マイクが四位までのチームを読み上げているなか、心操は呆然としていた。もう諦めていたからだ。だが結果は一位通過。何が起こったか必死に思考を巡らせていると
ポンポン
心操は肩を叩かれたことに気づいた。振り返るとそこには一千万ポイントを持った騎士がいた。
「…まさかアンタが?どうやって…」
心操は理由を聞こうとした。だが聞き出そうとした瞬間、スッと騎士が鉢巻を心操に向けた。心操が手を出して、鉢巻を受け取る。意味がわからず困惑して、騎士の顔を見たらーー
どうでもいい
そんな声が聞こえた気がした。誰が喋っているのか、それは消去法で騎士しかいなかった。
『ッ!何だ、コレ。頭に響くというか心に響くというか…』
また困惑していると騎士は、心操の心情は気にせず話を続けた。
お前の話は長い。
長いし聞いてられない。
お前の個性がどうとか目的がどうとかヒーローだヴィランだとか
興味がない。
『………』
ただ、お前はヒーロー?というものになりたいだろう?
ヒーローになれないって言ってたが、
お前自身が個性を理由にしてヒーローの道閉ざしたらダメだろ。
『………ッ!!』
そう騎士に言われたような気がした。気がつくと騎士はすでに、次の競技のため帰っていっていた。心操は、先程の言葉を思い出していた。ずっとヴィラン向きだと言われてきた。それでもヒーローになりたかった。だからヒーロー科のあの態度が気に食わなかった。あんなのヒーローじゃない。ヒーローはもっと誠実で勇敢で、個性も良くて。
『そうか…』
俺は心のどこかで個性とヒーローは直結していると思っていたんだ。個性を理由に、どこか自分では無理な領域なんじゃないかと半ば諦めていたんだ。
けど、
ヒーローの道閉ざしたらダメだろ
心操は、鉢巻をギュッと握った。
「皆んなー!結局コレが見たかったんだろ?!一対一のガチンコ対決!!」
あれから色々あり最終種目である一六名のトーナメント対決が行われようとしていた。
「一回戦!!成績の割に何だその顔は!!ヒーロー科!!緑谷 出久!!
対!!
さっきの騎馬戦マジで分かんなかった!!どうやって一位を手にしたのか不明!!普通科!!心操 人使!!」
ルールは、相手を場外に落とすか、参ったと言わせるか、命に関わること以外は、OK。まさに血湧き肉躍る戦いである。騎士は、少しウズウズしていた。
『……?騎士くんなんか揺れとる。』
「レディーースターート!!」
緑谷は心操から適度な距離をとり身構えた。実は、緑谷は尾白から事前に心操の個性について聞かされていたのだ。
『個性【洗脳】、相手に受け答えをしただけで操られてしまう強力な個性!尾白くんの情報から推測するに衝撃で解ける可能性が高いって言ってた。なら僕に出来ることは相手に返答をしないこと!そして、彼が体術が出来るのなら僕はそれに反応できるようにすることだ!』
頭の中で相手の個性を基に戦術を組み立てる。
「…やっぱアンタ、アイツから俺の個性聞いてただろ」
『う、ズキ』
緑谷は事前に個性を知ってしまったことに罪悪感を感じた。真剣勝負であるのに自分は、ズルをしてしまったのではという考えが緑谷の脳内によぎる。
しかし、それこそ、心操の狙いだった。
『アイツは律儀に俺と組むことになった時、挨拶しようとした。尻尾の奴に口を塞がれてたが、少なくともアイツは、いい奴だということだ。初対面であるからこそ、優しく接しようという心遣いがアイツにはあった。
なら俺はそれを使う。アイツの心の中にある優しさを利用する。必ずアイツの口から受け答えを引き出してやる。ちょいと気が引けるが、コレこそが俺の個性の引き金だ』
心操は、考えていた。己の個性の長所と短所。相手がもし自分の個性を知っていた場合の対処はどうするべきか、と。体術で仕掛けてきた場合は、少しキツイ。圧倒的に不利。であれば心理で勝負する。相手は、恐らくお人好し。もし自分だけ相手の個性を知っていることに罪悪感を持っているのなら、
「俺は勝てる」ーー
「なんかガッカリだなぁ。いいよな自分だけ有利な立ち位置にいて。結局、ヒーロー科ってそういう手を使うんだな」
『う、うぅ〜ズキズキ耐えろ、耐えるんだ。確かに真剣勝負の舞台で僕は事前に尾白くんから聞いてしまった。も、もしかしてこれって反則とかになるんじゃないのかな』
緑谷は冷や汗を出してそんなことを考える。別に反則ではない。確かにヒーローのほとんどは、ヴィランが行使する個性なんて知らないが、知っておき、事前に対策するヒーローだっている。しかし緑谷はまだ、一端のヒーローではない。あくまでもこの対決は学生らしくという固定概念があるのだろう。そこを心操はとことんついた。
「ヒーローであろうものが正式な舞台でそういうマナーも守れないのかよ。もっと幻滅してきた」
『ズキズキ』
「結局、ヒーローってそういうものなのかな。簡単なルールも守れないようじゃこの先、ヒーローとしてどうよ」
『ズキズキズキズキ』
「アイツらさっきから会話ばっかしてねーか?というかなんか緑谷の奴にナイフが刺さってるような感じに見えるのは俺の気のせい?」
『上手いこと考えたな、あの心操とかいうヤツ。緑谷は優しいヤツだ。もし自分に非があると思ったら、その罪悪感に耐えきれなくなって自ら負けを認めようとする。心理を上手いこと突いてる。ただこれは緑谷だからかかる戦法だ。全員が緑谷のようにお人好しの優しさ野郎じゃあない。どうする』
『クソッ、マズイ。決定打がない』
心操は、少し追い詰められていた。恐らく自分の言葉の攻撃は効いているんだろうが、それでも負けを認めたり、受け答えしない辺り、どうやら勝つことだけは絶対だと感じられる。
『これならどうだ』
心操は、これまでの緑谷の顔の歪みや汗の流れなどを見てこれなら通じる決定打を出した。
「あの上に上がるとか言ってたアイツもほんとにヒーロー志望なのか?言葉の使い方といいまるでさぁ
ヴィランみたいじゃね?」
ピク
「何でそんな事を言うんだ!!!」
『かかった!!』
「緑谷!注意しろって言っておいたのに!」
緑谷は先程の荒げた声とは思えないほど静かに静止していた。
「ごめんな。ほんとは俺もアンタのクラスメイトの事、悪く言うつもりはなかった。でも、アンタなら我慢できず声を出してくるって思ったんだ。これは俺の作戦勝ちだ。まんまと乗せられたな」
緑谷に命令する。このまま場外まで歩けと。
『クソッ!クソッ!勝っちゃんをバカにされたから思わず言ってしまった!全部、心操くんの作戦だった!乗せられた!』
緑谷は場外に乗り出そうとするも、謎の爆発と共に静止する。見るとどうやら指を暴発させたショックで洗脳を解いたらしい。これには心操も動揺を隠せなかった。緑谷は心操に向かって全力で突進する。
「『マズイ!』なぁアンタ、スゲェなあ!指だけでそんな威力かよ!羨ましいよ!」
嗚呼、ほんとに羨ましいよ。
『僕は、僕は!色んな人に助けられてここにいる!僕だけの力じゃない!』
「俺はここで負けるわけにはいかねぇんだよ!この個性でも!一番になれるって示さないといけねぇーんだよ!」
『僕だって!多くの支えがあった!だから僕はここで
負けるわけいかないんだ!!』
緑谷は心操の攻撃を受け流し、背負い投げで場外へ追い出した。
「心操くん!場外!!緑谷くん、二回戦進出!!」
『……負けた』
心操は、緑谷との対決を思い出した。だが負けた悲壮感はない。今の心操は、どこか晴れやかだった。観客席に戻っていると、
「お」
騎士と会った。
「観てたか。今の」
騎士は頷く。
「負けたよ。普通に体術で。でもまだだ。俺は、諦めてない。俺は、この個性で必ずヒーローになってみせる。課題点が多いからまずは積極的にこなしていく」
そうか、とでも言うように頷く。
「わかんねぇなぁ、アンタのこと。でも一つだけ言わせてくれ。アンタのおかげで目標が定まった。もう迷わない。だから
ありがとう」
「………」
「わりぃ。もう戻るわ」
「アンタ、名前なんだっけ」
ス-
「名刺?…フッ面白いな」
「またな。騎士」
とあるBAR。ここで雄英の体育祭を観ている男がいた。手を顔にはめている奇妙な男。名を死柄木弔。ヴィラン連合のリーダーであるが、どこか子供っぽい感性を持つ男である。
「あ〜クソ。マジでイラつくよ。ヒーロー共がこうしてワイワイ楽しくやる様に反吐が出る」
「死柄木弔。今は行動をしてはいけません。ヒーローの警戒網は今回はかなり高いので」
「分かってるよ黒霧。それ以上お節介を言うな」
イライラする死柄木を宥める黒霧という名の男。顔がほぼ霧で見えない変な特徴を持っている。そんな二人は静かにテレビを観ていると、
「ほ〜。ここが噂のヴィラン連合なのサ?」
「…誰だよ。お前」
「?僕かい?僕はマルク。イタズラ好きのピエロ、マルクなのサ。よろしくね♪」