9月21日午後8時過ぎ 洲本にある市役所 市長室
「あ〜〜〜〜〜つっかれた〜〜〜〜〜」
「はい、お疲れ様です」
市長の疲れ切った声と松野秘書官の労りの声が市長室に響き渡る。
市長は着の身着のままソファにダイブしている。秘書官は疲れを見せながらも向かいのソファに行儀よく座っていた。
見るものが見ればはしたないと思うだろうが、こうなるのも仕方のないことである。
今日はそれを許してしまう事態が発生したのである。
何せ今日は転生してから初となる「外国人」の、しかも「国家元首を」「国賓として」お迎えするのである。
丁重にもてなすのは勿論のこと、自分たちの威信を見せつけるために粗相の1つもあってはいけないし、何よりこれが大和としての初めての本格的な「外交」である。そして市長にとっても(前世も含めて)生涯で初めての「外交」である。初めてだからといってーーいや、初めてだからこそ欠片の失敗も許されないのだ。
故に国賓として招待する相手の食の好みやタブーを調べるのは当たり前で、相手国の文化、生活習慣、宗教を尊重し(これらは植民隊長や調査隊から掲示板で聞き出した。言語に関しては大和とさほど変わらなかったので通訳は要らなかった)、服装もお互いに失礼のない服装で装い、宿泊施設と迎賓館を厳選し、円滑なコミュニケーションを行うために言葉使いの練習もし、首都の警備を厳重にして不埒な輩を近づけさせないために細心の注意を払った(日本の宮内庁に勤めていた人がいたので上記の事は全て日本式で行った)。
そうして念に念を入れ過ぎるほどに入れまくってついにその日を迎えた。
時間は午前8時。市長とその他スタッフは万全の準備を終えて、迎賓館の前で国賓相手の到着を待った。
そして国賓を乗せた車がやってきた。
車は市長の前で止まり、中から今回の訪問相手の女性が出てきた。
彼女は市長の前まで来て、市長は儀礼通りに自分から手を差し出して握手を求めた。
そして彼女、エイジェ・アザク・アラウト(長いのでエイジェと呼ぶ)は握手に応じてくれた。
『ようこそ大和へおいでくださいました、エイジェ・アザク・アラウトさん。我々はあなたを歓迎いたします。どうかごゆるりをお過ごしください』
『歓迎感謝いたします。お言葉に甘えて存分に大和を堪能させていただきます』
と、お互い笑顔で挨拶をした。
そして大和にとって初めての国賓訪問が開始された。
そしてその結果はーーー
「とりあえず初日は成功、と言ったところか」
「そうですね。大成功です。ですが………」
「ああ、ああなるとは思わなかった」
2人ともあの時のことを思い出した。
それは歓待を開始して夜の、晩餐会の時に起こった。
この時は食事をしながらお互いの国?の良いところや悪いところを話し合っていた(こと時、掲示板の視聴共有の機能を使って他のスレ民たちも見ていた)。
お互いに相手の話しを聞いては驚いたり、笑ったりしていた。
そうやって話し合っていてたら次の予定の時間が迫ってきたのでそろそろ移動するかと思い行動に移そうとした時、彼女がいきなり立ち上がった。
私も含めたスタッフ全員が驚き、息を呑んだ。
これから何が起こるのかと身構えていると、
『市長様、私エイジェ・アザク・アラウトと出雲は大和に全面降伏することをここに宣言いたします』
と言って土下座をしてきたのである。それはそれは綺麗な土下座を、である。
部屋の中が空調機と時計の針の音以外の音を失った。
誰も彼もがその場で彫像のように固まっていた(スレ民たちも画面の向こうで固まっていた)。
固まってから1分ほど経った時、1人のスタッフ(上に書いた宮内庁に勤めていた人)が文字通り口から泡を吹いて倒れた。
その倒れた音で市長がハッとして
『エイジェさん、頭を上げてください!』
と大きな声をあげた。
これによって他のスタッフも動き出した。
と言ってもこのような状況など誰も想定してなかったので皆右往左往しているだけだったが。
『なぜ……全面降伏などを?』
彼女ーエイジェは顔を上げた。その顔は微笑んでいて、そしてこう言った。
『市長様の御力をこの目で見たからでございます。鉄でできた四角い建物を一瞬で作り上げ、山を砂を押しつぶすように平らにした、神のごとき御力を。しかも聞いたところによると、そちらの秘書官の方は市長様に作り出されたと言うではないですか。それで私は確信いたしました。この御方はこの世界を導くために1000人の従者と共にこの地に顕現なされたのだと。ならば私たちのような只人はその足元に降るのは当然でございます』
と、彼女はその瞳孔が開き切った顔で微笑んで言った。
そんな顔を見た市長は、
『その意思は変わりませんね?』
『無論。変わることなど絶対にありません』
覚悟の決まった顔でそう断言したのを聞いた市長は1分ほど彼女ーエイジェと見つめあった。
そして、
『わかりました。市長である私、
市長はそう宣言した。
『感謝いたします、市長様。私のことはこれからはアラウトとお呼び捨てください。いえ、私に新しい名前をお名付けください』
『いいでしょう。名前に関しては考えておきましょう。ただしそれまでは貴方のことをアラウトと呼びます』
『構いません』
『ただ、今の貴方は私が招待した国賓です。あと7日は国賓でいてください。その後に貴方たち出雲は名実ともに大和の市民です』
『感謝いたします。8日後が楽しみです』
となり、国賓訪問の1日目は終わった。
「………何がいけなかったんだろうね」
「首都の案内の時にやった建物をポンと出現させたり、地形を変えたりしたのを目の前で実演したからでは?」
「やっぱり?地形を変えている時彼女の顔をチラリと見たけど、うちの市民の中でも特に俺を信奉している奴と同じ目をしていたからもしかしてと思ったけど」
市長は1日目ということで景気良く行こうとパラドゲーの力をまるで息をするかのように見せたのである。そりゃ見せられた方は脳を焼かれるよ。
「明日は勲章授与式か。大丈夫だよな?」
「はい。こちらも初めてですが、こちらに関しては国賓に比べれば問題ないかと」
「あんなレベルの問題がそうあってたまるか!」
市長は語気を強めてそう言う。
そう。この翌日には植民隊長と出雲へ行った調査隊たちに勲章を授与するのである(これまた日本の勲章をそのまま使っている)。
授与する勲章は、
「植民隊長には
「はい。それであってます」
「そんでもって勲章授与式にはアラウトも来るんだったな」
「はい。彼女も流石に大人しくしているでしょう」
「そうであることを願っているよ」
そうして、明日の予定の確認をしていると、
「市長、報告が」
と言ってスタッフが入ってきた。
「どうしたの?何か問題でも起きたのか?」
「はい、巫様からで……」
とスタッフが困り顔で言ってきた。
アラウトは出雲では巫と呼ばれているためそう呼んでいる。
市長も秘書官も困り顔になった。
「うん、嫌な予感がビンビンするが聞こう」
「はい。では……その…《今夜私の部屋で就寝なさいますか?》と」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
三人とも無言になる。さもありなん。
まさかそんなことを聞かれるとは思っても見なかったのである。
「場所はどこで?あと拒否権は?」
「場所は自分が宿泊しているところだと。それと拒否すれば自害すると」
市長は頭を抱えた。
「どうしますか、市長」
「そうだな………よし、アラウトに伝えてくれ。《明日は大和にとって初めての勲章授与式がある。この式は絶対に失敗できないので、心身ともに万全の状態でありたい。なので一緒に寝ることは許すがそれ以上は許さない。》と」
「わかりました。ではそのように」
そう言ってスタッフは退室する。
「問題が増えたな」
「ええ、ただいつか来る問題が今来た、と考えることもできるかと」
「そうだねえ。やっぱり後継者とか作らないといけないか。だけど彼女は12歳だぞ。肉体的にも精神的にも倫理的にもダメだろう」
これは数ヶ月前からスレ民からも(からかいまじりに)言われていたことで来るべきものが来たと言う感じである。
(こう言う立場になったからには避けて通れない道だとわかってはいるんだけど、いざ来るとなると足踏みするな。せめてもう少し覚悟が決まる時間が欲しかったが)
と、市長が思っていると、
「巫様から返答をいただきました。《お断りする理由は理解いたしました。添い寝の件も理解いたしました。では待っております》と」
と、代案を出してきた。
「そうか。わかった。そうしよう。ただここで少し休んでから行く」
「承知しました」
「…いいのですか」
「大丈夫。添い寝ならどうにか耐えられるし、仮にあちらが何かしてきても対処できる」
「わかりました。ご武運を」
「大袈裟だね」
そう言って市長は市長室で少し休んでからアラウトの宿泊している場所に行った。
結果だけ言うと、市長は耐え抜いて、勲章授与式に共に出席した。
こちらはつつがなく進行して、勲章授与式を終えられた。
翌日。勲章授与式が終わった後の市長室
「いやー、昨日は災難でしたねwww。同情しますよwww。」
「黙れ。増税すんぞテメェ」
「おお、こわいこわいwww」
市長室に軽口と暴言が飛び交う。
ここにいるのは市長と先ほど勲章を授与された植民隊長である。
「っと、こんなやりとりをするためにあなたを呼んだわけではないのです。呼んだ理由は今後の進出先を選ぶためです」
「……聞きましょう」
真面目な表情でいう市長に真剣な顔になった植民隊長。
「あなたの計画では兵庫・中国地方を確保した後、大阪・和歌山に進出してそのまま近畿地方全体を確保、近畿地方と中部地方の境目を防衛線としてさらに東にいるであろう敵対勢力との防衛戦に利用する、というのがあなたの計画で間違いないですね」
「ああ、そうだ」
「だけども出雲に友好的とはいえ他勢力がいたことによって状況が変わりました。前世の日本でも吉備や出雲に潜在的にヤマト王権に対抗できる勢力がいたようですからこれと同じなら、九州地方にも熊襲と隼人・筑紫がいるはずです。彼らが古代日本と同じなら高確率で敵対してきます。もし私たちが東進に夢中になってる間に彼らが襲いかかってきたら大変です。ですので東は一旦切り上げて九州地方を併呑しようかと思います。あなたの意見はどうですか?植民隊長」
「私の意見も相違ありません。ただ、九州に行くからといって近畿を疎かにするわけにはいきませんから、調査隊くらいは派遣して地形や天候などを把握してきましょう」
「そうですね。そうしましょう。では、近畿へは他の調査隊に任せましょう」
「?調査は今回受勲されたものたちでいいのでは?」
「いえいえ、その受勲されたのを見た他の調査隊の人たちが触発されたのか奮起しているので手柄を奪うのはどうかと。そもそも他の隊から《仕事を奪うな》と陳情されてますし」
「なるほど、ならば東は他の隊に任せましょう」
「ありがとうございます。さて、あなたを呼んだのはもう1つ理由がありまして」
「はて、なんでしょう?」
「軍人になってみませんか?」
「は?」
泡を吹いて倒れたスタッフは復活後、1週間ほど休暇を与えました。
国賓の歓待の細かいやり方がわからなかったのでそれっぽくやりました。
皆さんはもし自分がどこぞの国の国家元首になった時、天皇皇后両陛下が国賓訪問してきた場合、しっかりとした対応ができますか?感想でのご返答、お待ちしております
私は緊張のあまりアメリカ大統領のジェラルド・フォードのように歩いてしまう自信があります。(その時の写真を見ながら)
さて市長、とんでもないことになりました。これから市長の外交()はどうなるのか。そしてその外交()相手は何人増えるのか(笑)
エイジェ・アザク・アラウトの名前は