ウルサス帝国 午前10時15分
ここはウルサス帝国の首都サンクト・グリファーブルクにあるコシチェイ侯爵の屋敷。
この屋敷にはコシチェイ侯爵と娘(養女)たちと多数の使用人が住んでいる。
そこで1人のウルサスの若いメイドが人を探すために屋敷を探索していた。そして目当ての人物を見つけた。彼女は相手を確認して声をかける。
「おはようございますフィオレット様。早速ですがご当主様がお呼びです」
「おはようオリガ。ご当主様がお呼び?何かあったかな」
そうお互い挨拶を交わすとその人物ーーヒッポグリフのフィオレットーーは訝しんだ。
「さて?私はなんとも。執務室にご案内します」
メイドーーオリガーーはそう言ってフィオレットを案内する。
執務室についてオリガが「ご当主様、フィオレット様をお連れしました」と言うと、扉の向こうから「入れ」と言う声が聞こえ、タチアナが扉を開ける。
そこにいたのはこのウルサス帝国で有数の権勢を誇り、日本からも
「ああ、きてくれたか。さあ、座ってくれ。お茶を用意しよう」
「ありがとうございます」
コシチェイに促され席に座るフィオレット。そしてフィオレットが問いただす。
「それで侯爵閣下、私をここに呼んだ理由は?」
「そうだね、早速言おうか。お前に我が領地の運営を任せたいと思う」
「!!!」
フィオレットは驚愕した。そしてついにこの時が来たかとも思った。
「もちろん全てを任せるわけではない。我が領地の1割を任せようと思う。領地経営は不慣れだろうからこちらから補佐役を人を出そう。もちろんお前の方でも信頼できるものがいたら登用しても良い。私は反対しないよ」
「……そうですか。でもなぜ私なのです?他に
フィオレットが疑問を呈す。
「理由だがお前が優秀だから。大学で教授をやっていると言うのもそうだが、それ以外にも才能あるからな。他には後ろ盾が存在すること。私の後継者候補としてタルラと一緒に社交界に出た時に貴族や他の有力者たちと顔を合わせて仲良くなっている。これは跡を継ぐときに大いに助けになるからだ。これらがお前を当主に据える理由だ」
「……………そうですか、わかりました。領地の件、承ります」
「そうか。それは嬉しい。それで君に任せる領地なんだがーー」
「話はこれで終わりですね。では、私はこれにて」
「ああ、退室したまえ」
話が終わりフィオレットは執務室から退室した。
バタン、と扉は閉じられた。
「さて、フィオレットはこれでいいとして。あとやるべきは…………彼女を呼び出すか」
コシチェイは呼び出し鈴を鳴らした。
「(私の計画を成就させるためには彼女を優遇する必要がある。そうすれば巡り巡って日本の態度も柔らかくなるだろう。私は警戒されてるからな)オリガをここに呼んでくれ」
コシチェイはフィオレットを案内したメイドーーオリガを連れてくるように命じた。
「………ふむ。我が家を、ひいてはこのウルサスの繁栄のためにもういくつか手を打っておいても問題あるまい」
コシチェイはオリガがここにくるまでに策謀をめぐらす。全てはウルサスの繁栄のために。愛国者の黒蛇は今日も蠢いていく。
自分の部屋に戻ったフィオレットは逡巡した。
「私が領主か……」
彼女は信じられなかった。他の養女たちよりも優遇されてきたからそうかもしれないと思っていたが今回のことで判明した。私はこの家の後継者になるのだ。
「中流階級の出身の私が今や大領を持つ侯爵家の跡取りか。人生何があるかわからないな」
彼女はそういいながら自分の人生を振り返る。
「(でもなぜ私だ?あの男は色々理由を言っていたがそれが全てではないだろう。他に何か理由があるはずだ。となると…………)そういえばオリガは……。なるほどな。オリガと私は仲がいいからな。その縁を利用したいわけか」
フィオレットは納得した。
「いいだろう。ならばこちらも公爵家を利用してやろう。ヒッポグリフというだけで色々苦労してきたんだ。貴族の当主になって贅沢してやる」
フィオレットはそう決意した。彼女は贅沢したいという目的のためにこれからくる数々の
コシチェイとの話を終えてオリガは自分の部屋に戻りベッドにダイブした。
「メイドの職を解いて客人待遇にする……か。もしかしてと思ってたけど。……はぁ、なんでこうなったのかな?」
そう呟いてため息を吐くオリガ。なんでこうなったのか。考えを巡らせると、一つの答えに行き着く。
「やっぱり私がお祖父様の孫だからだよね」
執務室では解任理由を自分に才能があるからと言われたが、彼女自身はそうは思ってない。そう考えても祖父ーーボリス・ニコラエヴィチ・アンドロポフーーに配慮した形だ。
「(お祖父様が生きていてくれたことは喜ばしいけど、そのおかげなのかせいなのか面倒なことに巻き込まれたわね)」
オリガは昔のことを思い浮かべた。
オリガは由緒正しいアンドロポフ伯爵家に生まれた。幼少期は何不自由なくスクスクと育った。学業に関しても
それはタチアナが10歳になった時に変わった。
アンドロポフ家が寄子をしていたとある大貴族が権力闘争に敗北して失脚したのだ。その大貴族はお家取り潰し、それに近かった家も取りつぶしを免れなかった。オリガの家は寄親が敗北すると見るやすぐに縁を切って勝者であるコシチェイ侯爵家に取り入った。そしてそれは成功した。寄親寄子だけど政治力学の都合上でつかざるを得なかっただけで関係は薄かったのが功を奏して損害は少なかった。それでも敵対していたことは変わりないので制裁の対象になった。お家取りつぶしは免れたが、貴族内の地位が低くなり領地を削られ財産を一部没収された。オリガ自身も行儀見習いの名目で人質になった。侯爵家の取り計らいで学校は通学できたが、学校内での地位が低くなって教師や生徒に無視されたりいじめを受けていた(侯爵家のおかげで手酷く扱われなかったが)。
「(他に比べれば酷くなかったとはいえ辛かったな。靴や勉強道具を隠されるのは序の口で、食事に異物混入や無視されたり点数や成績を意図的に下げられたりしたし)」
そのような日々が変わったのは今年の初めに日本王国から発表されたヴァーリアという組織のことである。その組織が、というよりその組織の幹部に祖父がいたことが判明したからである。それを境にオリガの扱いが変わった。
生徒たちからは積極的に
「そう言えば少し前のテストで全部の科目で誰がどう考えても赤点取る答案出したら100点満点で返ってきたな。思わずあれは笑っちゃったよ」
それに加えて今回のメイドの解任である。どう考えても祖父の(というより日本の)状況を見て動いてるとしか言えない。
「でも侯爵様はタルラ様という人が竹前船団の幹部と結婚なされて子供までいるはず。日本との繋がりならそれでいいはず。……………いや違う。竹前船団は中央から離れてる存在。引き換え祖父は日本国王のご進講?をしていて権力中枢に近い。お近づきになりたいならそっちを選ぶでしょうね。メイド解任はその布石か」
オリガはこれから自分がどう扱われるか理解していた。客寄せというのは言い過ぎにしても確実に自分の勢力拡大のために使われることが目に見えている。
「メイドの身分から解放されたことによってこれからは各家からの接待攻勢が激しくなるでしょうね。お茶会とか舞踏会とか呼ばれそう。しかも最近は皇族からもお誘いがあるんじゃないかとの噂を聞くし。緊張でお腹痛い」
どう考えても権力闘争の種として扱われることが決定したオリガ。彼女の明日はどっちだ。
ウルサス 雪原
「お父様、お母様、見ていてください。我は必ずやお2人の夢の実現を。聖典の完遂はこのリィナがいたします。どうか天国で見ていてください」
タチアナは原作開始時期には20代中盤です。
容姿はクマ耳をつけた明るい金髪と明るい緑眼をしたタチアナ・ニコラエヴナ・ロマノヴァだと想像してください。