畑仕事に、励んでいた。やがてくる、暗雲を知りもせず、母と、幼馴染と楽しい一日を
終わろうとしていた。
世界は秋を迎え、澄んだ青空に陽光がさし、さわやかな、そして、
豊かな収穫の時期を迎えていた。
この未開地にも、自然の恩恵は行き渡り開墾された畑には
豊かな銀色の小麦が、穂をたれ日差しに輝いている。
小麦の穂の海の中、幾人かの人々が釜を振るい、刈り入れをし、
吹き渡る爽やかな風の中、釜が茎を切るザックという音がそこかしこにしている。
その中の1人が声をあげる。
「レリー、レリ」
「何、かあさん」
「麦わらを車に運んでちょうだい」
「はーい」
年のころは15才ほどの少女が、
カモシカのようなすらりとした手足を振りながら、畑の中を駆けてゆく。
豊かな金髪のツインテールが、陽光に輝き、
青く澄んだ瞳は、海のように深く
頬はほんのり上気しうっすらとピンクに染まり
色白の肌が眩しい。
「やれやれ、今年も豊作だね。さあ、これもって」
母であるムメは、娘レリの体格には、つりあいそうも無いほどの麦の束を抱えている。
それを、レリに、どかっと、ばかりに手渡す
「わっ、重たーい」
「なに言ってるの、もう子供じゃないんだから、がんばりなさい」
ムメは腰に手を当て、レリの眼を覗き込みながら、
よろめきながらも何とか踏ん張るレリを叱咤激励する。
「え~、だって。もう、・・・、父さんも来てくれればよかったのに。」
やっとの思いで、むぎを車の荷台に乗せたレリが、ちょっとむくれた表情で言う。
「父さんは、今日、車を修理するから来られないって、言っていたでしょ。」
ムメは、これまた大量の麦束を荷台にこともなげ積み上げる。
毎度の事ながら、そんな母の力技にちょっとびっくりなレリである。
「細いのに、母さんの馬鹿力」
なんてことを、ボソッと言う。
そこに、不意に小さな人影が現れた。
身長50センチほどで、空中に浮かんでいる。
長い耳と、緑の髪、紫の瞳。日焼した顔の少年のようだ。
彼は、クーと言う。この世界の魔法科学の産物で人格を有した、プログラム体だ。
「ははは・・。レリお嬢様は未だに、子供だってっさ。」
いたずら好きの子供のようにな眼をしながら笑っている。
「うるさい、クー!!、あんたはいいわよね、何にもしないんだから。」
レリも負けじと、眼を見開き、ふわふわ浮かび落ち着きの無いクーを
指差しながら怒鳴ってみる。
幼馴染のクーなんだが、このいたずらっぽい物言いは
どうかと思うレリである。
もともとは仲がいいのだ。
物心付いたころからいつも二人で遊んでいて、
必要な時にはいつもそばにいてくれる。
そんなクーは大好きだ。
しかしだ、
「ぼくには、無理さ。肉体労働は向いていないんだ。
知恵と情報が専門なんでね。頭脳労働者ってとこかな。」
空中で椅子に腰掛けふんぞり返るようなそぶりで、
生意気そうなのを見ていると
ちょっぴり腹も立つ。
「体の割に、生意気なのよ」
「無駄に、でかいよりいいよ。」
「このー! これあんたの分よ!!」
どさっと、背中に麦の束を乗せられた。
「わっ。無理だって~~」
そばでムメは、荷台の麦に幌をかぶせ固定しながら
二人のやり取りを、見ている。
その目は優しげで、口元もほころんでいた。
彼女は、そんな様子をずっと、見ていたい気もしたが
そろそろ、かえって夕飯にしないといけない。
日没の遅いこの世界でも、やがて、夕闇が迫ってくるだろう。
ムメは、また明日もこんな光景が見れるといいなと思いながらレリ、クーに声をかける。
「二人とも、いいかげんにしなさい。さあ早く車に乗りなさい。」
母、ムメは、今、幸せなのだ。
そのころ家では父ダクが、工具を片手にもち複雑な
姿勢制御用ジャイロの調整をしている。
40歳を超える年齢を感じさせない、鍛え上げられ引き締まった体は
一切の緩みを示していない。
刈り込まれた髪は暗い褐色、日に焼けた肌がその容貌に
いっそうの精悍さを与えている。
髪と同じ褐色の瞳は、厳しくも優しげだが、今は、口元も引き締められ、
緊張感をたたえている。
とてもただの農夫とは思えない容貌である。
ダクは、大国ギエスに敵対するレジスタンス組織「盾」の指揮官なのだ。
今、その彼が、ヘッドセットを介して、「盾」のメンバーと緊急の
連絡を取っていた。
そこには、切迫した雰囲気が漂っている。
相手が、ややあせった様子で話す。
「ギエスの警察部隊が、隣のポテ市に入ったらしい。」
ダクは、半ば予期していたかのように慌てるそぶりも無い。
手元の作業を休めることなく、落ち着いた声で答える。
「ついにやってきたか。」
「急いで、その隠れ家を引き払って次のプログラムに移行したほうがいい。」
「残り時間はどのくらいある?」
「ターゲットを探り当てた後のギエス警察部隊の動きは早い。
今の状況ならば、夕暮れまでには、そちらへ到着するだろう」
ダクは、しばし考え込んだ。手元の作業を一時止め、
自らの思いを確認するかのように瞑目する。
やがて、見開かれた瞳には確固たる決意が現れ、
鋭く、厳しい光を放っていた。
そして、力強く話す。
「この地区の、盾の戦闘員に招集をかけろ。
ギエスの警察部隊を迎え撃つ。」
「了解。」
通信を終えた後、ダクの頭の中に今後の作戦計画が
次々と組み立てられてゆく。
そして、その最終目的は、彼の愛娘の脱出であった。
ダクは思う。
「レリをギエスの手からなんとしても守らなければならない。
祖国エザワイスを復興するためにも。
なんとしてもこの任務は完遂せねばならない」
調整を終えたジャイロを車に取り付ける。
その車、見た目は、ただのミニバンだが、中身はモンスターだ。
最大出力50キロ馬力を優に超える反物質エンジン、
戦闘機並みの運動性能、
強化チタン製ボディ、装甲ウインドウ、最高速度は音速を超える。
これは、人間の反射能力をはるかに超える操縦テクニックを必要とする。
人が乗る車ではないのだ。
コクピットには、メタル製の頑丈なシートに、
5点ハーネスのベルトがつけられている。
計器類が見当たらない、それどころかハンドルらしきものさえない。
いくつかのコネクターから伸びたケーブルがあるだけだ。
後部座席は普通のシートだが、走り出せば座っている人物を完全に
保護できるよう可変型形状記憶樹脂で作られている。
音速でがけに激突しても中の人物は無傷だろう。
ドライバーは・・・粉々だ。
外で、戻ったムメと、レリの声が聞こえる。
ダクは曇った表情を笑顔にし、出迎えに行った。