かつては、狂戦士でも今は、あなたを守る剣となる。
ミラルは思った。
それにしても、最後にバスを使ったのはいつだったろうか。
いま、こうして体の汚れを落としてゆくと、
これまでの罪も過ちも洗い流され
新しく生まれ変わったような気分になる。
新たな、活力と、意欲が湧き上がってくるのが感じられる。
戦士としての自分が力強く立ち上がってくる。
「ミラルの背中広いのね、あ、傷跡がある・・・」
「戦闘中に受けたものですが、たいしたことではありませんよ。」
「痛くなかったの」
「そうね」
あの戦闘は激烈だった。
まだ実戦配備になって間もない時、
夜間にギエスのアンドロイド三体と
歩兵3マンセル2ペアーと対峙し渡り合い、
夜明け前に、けりはついたが、
背中から胸までの貫通銃創を負ってしまった。
生きて帰り着いたのが奇跡かもしれない。
「人並みには。でも
相手はスクラップになったけど・・・ねっ」
「すごいのね、ミラルって。私もミラル見たいに強くなれるかな」
「・・・私みたいになっては良くないです。レリ」
「・・・ミラル・・・」
「いいえ、レリは私なんかよりずっと強くなれますよ。
きっと。そして、もっと大きな大人に」
「そうかなあ、私、泣き虫で、怖がりなのに・・・」
「レリは、勇気と、意思の強さを
もう、持っているのですよ」
そう、あのとき、あの春の日。
私に少しでも勇気と力があれば、
もっと違った人生になったに違いない。
「あれ?肩と、足の付け根に、何か書いてあるの?」
「そのマーク気になりますか?」
「えっ。う・・・うん。何かなって思って」
「私の腕、足は作り物です。
戦士御用達の特注品ってところかな」
「本当なの、そんなこと、ぜんぜん分からない、」
「私も詳しいことは分からないんです。
感覚も自然のまま変わらないけど。
ただ、パワーと、スピードは尋常じゃないの」
あの日、私はギエスの兵士の酷く、
野蛮な笑いの中で、
もてあそばれ、
自らの手足と、
家族と、
友人と、
何もかもを失った。
・・・・・・私は人格すらなくし
何か別の生き物になった。
壊れてしまった心と、
自由にならない体で、
のた打ち回り叫び続けていた。
そして、再び人間に戻るのに
1年を要した。
失った四肢を代用品にし、
変わり果てた自分の心をとりもどした。
残ったものは、強靭な肉体と、
ギエスに対する凶暴なまでの復讐心。
私は救ってくれたエザワイスに忠誠を尽くし、
ギエスとは徹底的に戦った。
来る日も、来る日も
この手を血で染め続けても、
心を満たすことはできなかった。
それでも戦い続けるしかなかった。
そうすることが、生きている証であり、
自らを保つ唯一の方法だったから。
やがて、敵からは狂戦士タギと恐れられ、
味方からは世紀の英雄と呼ばれるようになったが、
心はからからに乾ききったままだった。
私は、いつの間にか、
機械的に戦い、
無感情に敵を倒し、
敵を見下し
あざ笑うようになっていった。
・・・そしてある日、
愕然として気が付いた!
あの日のギエスの兵士の嘲笑と
今の自分が重なり合っているのを!
「ミラル・・・どうしたの・・・?」
レリが前に回り、覗き込んだ。
「えっ、何でもありません。
・・・ん、髪洗わなきゃ・・・ね。」
目の前のレリの瞳は澄んでいる。
大変な経験の後なのに、
けなげに自分を保ち、
心の傷を表に出すまいとして、
それは、もう必死に・・・。
こんなにも、小さくて、か細い少女なのに・・・
ああ・・・、レリ、あなたを
・・・
なんとしても守ってあげたい。
えっ・・・・・・??
この感じは、いったい何・・・
何なの・・・??
私は、一兵士として
任務を遂行するはずなのに。
心に、
これまで感じたことのない
暖かく
潤沢な
感情が広がってゆく。
それは、
乾ききり、
ひび割れていた地面に降り注ぐ
慈雨のごとく、
心地よく、
甘美に
心にしみこんでくる。
何て、華奢で、可憐な体、
ぬれた髪が胸元まで下がり、
私の腕が、レリを抱き寄せようと伸びる。
私は、何を・・・。
レリの、その柔らかい
肌のぬくもりと
滑らかさを感じる。
「ミラル・・・?」
私は、レリのはかなげな
重みを感じている・・・
って・・・私は、何をしているのっ???
「はっ。申し訳ありませんっっっ・・・!!、
レリ様・・・つい気持ちが緩み」
レリから、身を離さないと、
けど・・・、
レリが、
胸元から私を
見上げている。
ううっ、
心臓が、
爆発しそう・・・。
「ううん、いいの、
嬉しいの、
・・・こうしてると、
ほっとするの・・・。」
「そ・・・そうですか」
やがて、二人はすっかりバスで暖まり
やや上気し出てきた。
それを見て、クーが
「ミラル、ベッドのメンテナンスプログラムを
調整しておいたよ。」
「・・・そうね、いちどメンテナンスしたほうがいいわね。」
レリが心配そうに、
「どこか具合が悪いの?」
「い・・・いいえ、そうじゃないの、
ブランクの間のわずかな狂いを
調整する程度よ、
心配しないでね」
彼女はベッドに身を横たえた。
即座にシステムが起動し
センサーが調整箇所を特定し、
コントロールを開始する。
その間、彼女は静かに眠っているように見える。
レリがそれを見つめ、
「ほんと、ミラルってきれいな人ね」
「そうだね、こうしてると
あの世紀の英雄ミラル・タギとは、
思えないくらいだよ」
ミラルは、結構大変な人生で歩んでます。手足、機械化したサイボーグですが、
守るべきものができて、よかったのかもしれません。