レリたちは、山中に入り、
最初のキャンプ地点に達したところで、
日没となり、野営をすることとした。
そこから見上げる夜空は澄み渡り、
降るがごとき星空は、
満天にちりばめられた
宝石と見紛うばかり瞬き光り輝く。
しかし、それは地上のことなどまるで
意に介しておらぬがごとく、、
ただひたすら美しく、
そして、冷たく、冴え冴えとした
音楽を奏でているかのようだ。
岩肌に空いた洞の中で、第一小隊のメンバーと、
レリ、ミラルが車座にすわり焚き火を囲んでいる。
入り口付近にクーが陣取り
外を眺めているように見えるが、
結界を展開し監視を行っている。
ミラルがレリに声をかける。
「こちらが、第一小隊のメンバーです。
ジェイは、すでに一回会ってますね。」
「ええ・・・と、あっ、あのビーリカの宿の人。」
「はい、自分が第一小隊隊長を務める、
ジェイ軍曹であります。」
見かけによらず、硬く、大声での自己紹介に、
レリが思わずちょっと引いてしまう。
「ジェイ、もう少し力を抜いて、・・・。その隣がカイ。」
メイドの制服に、金髪のボブスタイル、
快活で利発気な女の子が自己紹介をする。
「はい、わたしは、上級情報技官、戦闘員を兼務しております。
分からないことは何でもお聞きください」
「彼女は、王立図書館並の情報量を持ってますよ、」
「すごいのね、でも、戦闘員って・・・女の子なのに・・・?」
カイがにっこり笑い答える。
「ええ、家の小隊は軍曹以外全員女の子ですから。」
さらに隣に座っていた、子供服のまだ幼さの残る少女が、
栗色の巻き毛をふわふわ揺らしながら
元気よく話す。
「はーい、わたしは、アルでーす。
情報技官、リンカーやってまーす。
戦闘はまあ・・・ふつう・・・かな
小隊内で一番年下でーす。」
黒髪を無造作に束ねたポニーテールで戦闘服姿の
一際大柄な女の子が落ち着いた声で話した。
「アル、われわれヒューマノイドが
年齢を数えるのは、意味がないぞ」
「ん~もう、サキって、女の子らしくないもん、
・・・そういう考え方は」
「ふむ・・・、そういうものか?」
「はは、サキらしいわね。」
「はあ・・・大佐もそう思われますか」
「彼女は、サキ、戦闘用ヒューマノイド、
その戦闘能力は重戦車にも匹敵します」
「わっ、すごい力なのね。」
「はい、私は、10トン程度なら通常速度で牽引可能です。」
「・・・」
その隣に、沈んだ様子のケイがいた。
かわいい、ゴシックロリータ調の衣装は
あちこちさけ、くすんで汚れていた。
眼は、泣き暮れた後のようにあかみがあり、
頬には何度もこすった後がある。
ミラルは、ケイが戦闘データの解析結果を
報告に来た様子を思い返した。
苦悩の末に、やっと仕上げた報告に
いかばかりの思いが込められていたのか。
エルの死へ至る戦いの非情なまでに正確なデータの蓄積は、
自らの命と引き換えの、彼女の遺言。
だが、ケイは、涙の中にも気丈にもそこに立ち、
顔を上げて報告をした。
されど、今、
ケイは心の断崖絶壁の縁に立ち、
後わずかで、その奈落へ落ち込もうとしていた。
ミラルが、語る。
「彼女は、ケイ、最後までエルカトに残り
ギエスをけん制する任務に就き
われわれ全員の脱出の後衛を
つとめていました。
そのときもう一人のわれわれの仲間、
エルを敵ヒューマノイドとの戦闘で
失いました。」
レリがそれを聞いて、息を呑んだ。
重苦しい沈黙が全員を覆う。
ケイが重い口を開いた。
「エルは、レリ様と、仲間のために
その命を懸けて戦いました。
勇敢に、誇り高く、
一歩も臆することなく。」
その眼には、再び、涙がにじむ・・・。
「エル・・・エルは、私の・・・エルはっ!!
あっ・・・ご・・・ごめんなさい、わたし・・・」
そんな平静さを欠いたケイの様子を見て、
レリが立ち上がり、
ケイの傍らに移り座る。
ケイが、思わずひざまずこうとするが、
レリは、手を差し伸べそれを制し、
その手を握り締め、
涙にぬれたケイの瞳を見つめる。
「ケイさん・・・。
エルさんのこと好きだったのね、
大切な人だったのね」
それを聞いたケイの顔が悲しみにゆがみ、
眼を伏せ、嗚咽を繰り返した。
「ごめんなさい、わたしのために、
・・・あなたの大切な人を奪ってしまった。
また、人が犠牲になった・・・」
ケイが、はっとして顔を上げた。
「レリ様それは違います、
レリ様のせいではありません。
わたしたちは、エザワイスのため、
レリ様を守るため
そして仲間を守るために戦うヒューマノイドです。
時には倒れ、命を失うこともあります、しかし、
それは決して犠牲などではありません。
自らの責務を全うした
結果なのですから。
・・・ただ、私は・・・エルを 愛していた・・・」
愛するものを失った少女と、
戦士としての宿命の間でゆれる、
ケイの瞳。
レリは、ただケイを抱き寄せることしか出来なかった。
「私、いつもみんなに守ってもらうばかりで、
そのせいで、誰かが傷ついても手助けもできないの、
せめて、今は、少しでもあなたを癒してあげたい・・・。
ごめんなさい。
こんなことしか出来ないの」
「・・・ありがとう・・・ございます、
でも、謝らないでください、
私たちは、誇りを持って、
自らの意思で戦っているのですから」
ケイは、ようやく顔を上げることができた。
見詰め合う二人の少女の心の中に、
新たな絆が築かれたようだった。
そして、暗く、曇っていたケイの心に、
柔らかな光がうっすらと
差し込んでくるようだった。
ミラルがその様子を見て、
意を決したように立ち上がり、語る。
「私は、エザワイスのため、
仲間のため、命を懸けて戦った、
エルの勇気と、忠誠を称え、又、
誇りに思う。
私は、ここに誓おう、
この困難な任務を全うし、
必ずや、エザワイスを復興し、
あの平和な国を取り戻すことを。
エルの勇気と忠誠にかけて。」
隊員から声が上がる
「おおー!!エザワイスとその栄光に誉れあれ。」
外は、山ろくの静寂が支配し、
夜空には冷厳な三日月がかかり、
星は冷淡に瞬く。
地上の人々の苦悩など見知らぬがごとく。
明け方に、クーの監視結界に人間の反応が現れた。
「ミラル、どうやらギエスの小部隊が
麓までやってきたみたいだよ。」
「部隊規模は分かる」
「小隊規模、人員15名プラスマイナス3名
装備は、ギエス標準軽火器および、携帯型ランチャー・・・それから、
未成年者が数人いるよ」
「どういうこと?」
「成人の兵士じゃないね。17から19歳程度の・・・男女」
「なんですって、ギエスの兵員不足はそこまで悪化しているのか。
子供を駆り出すほどに・・・」
「・・・軍曹」
「はっ、大佐殿」
「移動準備、全ての痕跡を消去。」
「はっ、大佐殿」
ミラルは、レリの手をとり、
その柔らかな感触をいとおしむように握り、
その瞳を見つめ語りかける。
「レリ、出かけましょう、
後二日、がんばれますね」
「うん、みんなも一生懸命やってるんだから、
わたしも絶対に負けない」
「そうね、レリならきっと大丈夫ね」
そこへ、ジェイが現れ、ビシッと敬礼し
大声で報告を始める。
「大佐殿、!痕跡の消去完了、
撤収完了、移動準備完了いたしました!」
「ジェイ、もう少しやわらかくならない?」
とミラルがやんわり諭すが、
ジェイは、赤面しながら、
「自分は、その・・・そういうのは・・・苦手でありまして」
それを見ていたレリが、思わずくすりと笑ってしまう。
「なんか、そのままの方が、ジェイさんらしいかも」
「そ・・・そうでありますか?」
「ええ」
ミラルも、
「それも、そうですね」
二人に微笑まれ、ますますヒートアップしそうなジェイ。
「いいわよ、ジェイ、・・・ケイを呼んできて」
「はっ、ケイ情報技官を、出頭させます」
と・・・またビシッと敬礼し引き上げる。
ミラルが、後姿を眼で追いながら、
「彼は、兵士としては超がつくほど一流なんですが、
あの硬さも一流なんです」
「でも、なんか、とってもいい人みたい」
「確かに、絶対の信頼を置ける人物には違いないです」
そこへケイが現れる。
「大佐殿」
「ケイ、レリ王女のセカンドガードを命じます。
私が王女のそばを離れたとしても
あなたは、決して離れないように」
「アイ、マム、セカンドガードの任に付きます」
ミラルはレリに向き直り、
「これからは、私と、ケイが、レリのそばに
いつもいることになります、
レリも私たちから離れないようにね」
「はい、ケイさん、よろしくね。
それから、私のことはレリって呼んで。ねっ」
「よろしいのですか」
「うん、わたしもあなたを ケイって呼ばせてね」
「は・・・あ、もちろん結構ですが」
ミラルのほうをちらりと伺うケイ。
「私も最初はちょっと戸惑ったけど、
大丈夫よ、それで首になったりしないから」
「はい、了解しました。レリ・・・って、いいのかしら」
「いいの、ケイ」
レリの、ぱあ~っと輝くような笑顔が
ケイを包み込む。
まるで、暖かい陽だまりのように。
失った仲間を思い、忘れず、さらに先に進んでゆく。しかし、ヒロインたちの行く道は険しい。