レリの心が砕けたとき、世界の理もまた砕けた。
ニトス・パゴレの元にジン13が到着したのは、日没後だった。
そして、ニトスは、今夜一気にけりをつける覚悟を固めた。
斥候部隊の兵士は、
「隊長。われわれだけで攻撃ですか?」
「いや、B隊とヒューマノイド、われわれとで挟み込む形になる。」
「じゃ、増援が来る前にかたずけてしまいましょうか?」
「ふ、ははは・・・われわれは、陽動だ、敵を2分するためのな。
プロの技を見せてやるさ。
よし、その岩を積んだトラップを爆破する。」
レリの背後に迫る、追っ手の気配はいよいよ濃厚になり、
これを撃退することは必至の状況になってきた。
クーは、ミラルに報告する。
「ギエスの斥候部隊の移動が早くなったよ、一気に来るみたい」
「部隊規模は、?」
「変化無しだよ。それに全員人間みたいだけど」
「他に変化は無い?」
「うん、進路上にも特に変化は無いよ」
そのとき、爆発音が静寂な山ろくの夜気を引き裂いた。
「ケイ、レリの保護を
カイ、アル、サキわたしと来なさい、
ジェイ退路の確保を。
クー、ルートの監視を」
「了解」
ミラルは、後方の敵の殲滅に向かった。
暗視装置にミラルたちの姿を認めたギエス兵は、
ニトスへ報告を入れた。
「ふ、はは・・・、うまくかかったようね、
ジン13、ルートAの前方より侵入し
レリ王女を確保しなさい、
警護は手薄なはず」
「障害は、殲滅しても良いか」
ジン13が淡々と確認する。
「もちろん、しかし、レリ王女の確保を優先すること」
「了解した。」
ジン13はブースターを起動し、瞬時にして
夜の山中へ分け入った。
一方、ミラルたちは、ギエスの兵士たちに猛禽のごとく襲い掛かる。
精鋭を自認するギエス兵たちは、
適当に応戦し順次後退しながら時間を稼ぐつもりだったが・・・、
ミラルたちの戦闘能力は予想をはるかに上回るものだった。
「後退!!、・・・いや・・・退却だ!!」
しかし、彼らにはその余裕すら十分に与えられなかった。
統制の取れた動きが崩れ、
パニックに陥った兵士たちは、
銃を乱射し、
グレネード投てきし、
いたるところで混乱した戦闘が起こる。
そんな中、ギエスの兵士がミラルの存在に気が付いた。
「あ・・・あれは・・・まさか・・・狂戦士・・・タギ?
・・・タギだあ!!!」
ミラルは、その短剣をくれないに染め
ギエスの兵士を切り刻み、
悪魔のような恐怖を振りまきながら
迫ってくる。
「あ・・・わあーー!!!」
彼は最後に、ミラルの瞳の奥に紅蓮の炎を見た。
ギエスの精鋭部隊も軽火器だけでは
ヒューマノイドとミラルの前では
障害ともなりえなかったが、
それでもある程度の時間を稼ぐことには
成功していた。
「大佐、右翼の殲滅を完了したよ」
アルからの報告が入る、
「左翼の殲滅完了です」
カイからの報告が入る。
サキが、手の汚れを払いながら戻ってくる。
ミラルが、ジェイを呼び出す。
「ジェイ、状況は?」
「レリさまの位置までのルートに障害なし」
「よし」
その時、クーがいきなりミラルの目の前に実体化した。
「ミラルっ
高速な移動物体が、
レリの位置へ向かったよ。
・・・あれは、ケイが報告した敵ヒューマノイド・・・」
瞬間、ミラルは恐怖に襲われた・・・「レリ!」
しかし、その思いを振り払い命令を発した
「全員、戻るぞ!」
ジン13が目標位置に迫った時、
ケイがそれを察知した。
ケイの緊張が一気にピークに達する。
「レリ、その岩陰で隠れていて、何があっても出てきちゃだめよ」
「ケイ・・・、はい」
その直後、ジン13がケイの目の前に現れた。
アーマーで身を包み、強大な力を内に秘めたその姿は、
エルと対峙したその時のままだった。
「レリ王女を引き渡されたい。
妨害をしなければ攻撃はしない」
ジン13は、淡々と要求を述べた。
ケイは、その姿を見てエルの最後の意識、
苦痛が心に蘇り、
怒りが全身を満たしてゆくのが感じられた。
「あいつが、
私のエルを・・・殺した」
彼女は、瞬時にアーマーをまといジン13に挑みかかった。
その手にはエルの太刀が光っていた。
ジン13は、相手の戦闘能力の計測を開始する。
ケイは、情報技官としての冷静さを失っていた。
ヒューマノイドとしては異例のことだったが、
彼女の内に渦巻く記憶は
その理性を凌駕するに十分だった。
「この~お、うおーー!」
雄たけびとともに切りかかる。
ジン13は、大剣を手にケイの一撃を弾き返した、
その衝撃でケイは、大きく後ろへ吹き飛ばされ、レリの潜む
岩に激突し倒れ伏す。アーマーは大きく破損し生身の肌が露出する。
「この、・・・化け物め・・・、」
ケイの全身に苦痛が走る、意識が途切れそうになるのを
彼女の怒りが持ちこたえさせる
そして、ケイは、何とか手足に力を込め立ち上がり、
今一度の攻撃を試みようとする。
「エルばかりか、レリまで奪うようなまねは
・・・この命に代えてもさせない」
ジン13は、相手の攻撃能力を自らの54パーセントと算出した。
その結果をして、次のように考えた。
「これならば、このヒューマノイドの殲滅を行っても
対象の捕獲に支障はない」
レリの眼にも力の差は歴然だった。
「お願い、ケイ止めて、これ以上は無理・・・」
そのとき、ギエスのB小隊が現れ、
ジン13を迂回しレリに迫ろうとする。
ケイの内蔵通信機にミラルの声が響く。
「ケイ、状況は?」
「敵ヒューマノイドと、交戦中・・・ギエス部隊侵攻中・・・」
「あと、40秒でそちらへ着く、持ちこたえて」
「了解・・・」
ケイは、自らの視線をジン13から無理やり引き剥がし、
レリに迫るギエスの兵士に立ち向かう。
先頭の兵士たちは、半裸の女が
剣を構え突っ込んでくるのを見て
一瞬と惑ったようだが、
その間が彼にとって致命的なものとなった。
ダメージを受けいるとはいえ
ヒューマノイドの力は人間のそれを大きく超える。
瞬く間に、先頭の1人が切り伏せられ、
他の兵士が反応するより早く、
二人目へ襲い掛かる。
まったく発砲する猶予はなかった。
が・・・、
次の瞬間ケイの目の前にジン13が現れた。
ケイは、ジン13をも切り伏せようと太刀を振るうが、
ジン13の大剣に
鋭い金属音を響かせ
大きく弾かれる、
そして、
体がわずかに開いた瞬間
大剣がケイの体を深々と貫いた。
そして、その切っ先は背中へと抜けた。
ケイの体はその衝撃で持ち上がり、
前のめりに折れ曲がり
大量の吐血をした。
ジン13は、何のためらいもなく
ケイの体から
大剣を引き抜いた。
傷口から血飛沫があがる。
ケイは、急速に力自分の力を
失ってゆくのが分かった。
暗くなってゆく視界の中に、
レリが岩陰から飛び出してくるのが見える。
「レリ・・・、出てきては・・・だめ・・・」
倒れながらも、レリの元へ戻ろうとし、
レリに向かい手を差し伸べた。
レリは、ケイが無残にも剣に貫かれるのを目の当たりにし
悲鳴を上げた。
「いやあああああああああーーー!
ケーーーイイイイイイイイイ!!!」
そして、ケイの元に向かい夢中で駆け出した。
ギエスの兵士たちがレリを捕らえようと
駆けてくるのが見えたが、
それでも止まらない。
「今は、ケイのもとへ行ってあげたいっ!
大事な人を失い
その上自分もひどく傷つくなんて
あまりにも可哀そうで、理不尽よ。
こんな事が、あってはいけない。
こんな事は、間違いよ!」
今まで、レリの心に積み重ねられた
悲しみ、
悔しさ、
無念さ、
恐怖、
が入り混り
沸騰し
臨界点を超え
レリの中で、今正に、爆発しそうになっていった。
ミラルたちが、到着したとき
ギエスの兵士はまさに
レリに手をかけようかとしていた。
それを阻止しようと、一斉に襲い掛かる。
ジン13は、目の前の倒れ付した
ヒューマノイドが
まだ動いているのを見て、
わずかだが驚きそして、
それは怒りへと変わった。
「なぜ、止まらない?
私の力が不足だとでも言うのか?」
再び、長剣を構えケイを切り裂こうとする。
そして、
レリがそれを眼にし
ギエスの兵士がレリに迫り、
その手をつかもうとした
その時、
レリの心の中で押さえ込まれていた感情が
一気に爆発した!
「ああっ・・・・・・うああああああああああああ!!!!!!」
そのあまりの激しさに自らが
消え去ってしまいそうだ。
そして次の瞬間
「ガチン」
という音とともに自分の中の
掛け金が一つ外れた。
炎の奔流がほとばしるのを感じる。
レリの視界がぐにゃりと歪む。
その端で、クーが何か叫んでいるが、
よく聞き取れない。
「わたしは、どうなったの
何が起こったの・・・」
クーがレリの前に実体化したとき
それはもう始まっていた。
彼は、プログラム体に許される
最速の演算速度で事態を解析し
対処しようとしていた。
しかし、クーは、その現象が信じられなかった、
あらゆる想定を超越しており、
そしてそれは、あってはならないと
されていた事だった。
「レリっ!だめだ、止めるんだっ」
しかし、レリは答えることなく、意識を失った。
だが、現象は休む間なく発現しようとしていた。
「くそおっ、間に合えっ!」
クーは全身を使い、
自らの魔法プログラムを組み立て瞬時に解放し、
全力を以ってレリと第一小隊メンバーの保護を行おうとした。
「マキシマムレベル!防炎の法球その力を示さん!」
そして、次の瞬間、
高温の炎が立ち上り
太陽と見まごうほどの白熱した球体が出現した。
その光は夜を駆逐し
あたりはまばゆいばかりに照らし出された。
立ち木は一瞬にして炭化してしまい、
岩肌は溶け、赤く輝き、
ガラスのように流れ出す。
ギエスの兵士は、何が起こったも分からぬうちに
蒸発してしまった。
ジン13は、最大出力で回避をするが、
その放射エネルギーはジン13の機能を
あらかた破壊してしまい、
彼女は半ばスクラップ同様となり岩肌に落下した。
その間はわずか一瞬の出来事だった。
球体が吸い込まれるように消滅した後には
信じられない光景が残された。
炭化した木々は風に吹かれ見る見る崩れて行く。
あたりの岩肌は溶け、
滑らかなガラスのようになっていた。
後には、意識を失ったレリと、
瀕死のケイ、
ミラルたちが奇跡のように残されている。
クーが、レリの傍らで状態を診断しようとしている、
そこへ、ミラルも駆けつける。
「一体、何が起こったの。これは、まるで・・・核兵器のよう」
「良くは分からないよ、でもこの現象は知ってる。」
「現象・・・。それは何のこと?レリは、どうなったというの。」
「エターナルフレイム・・・聞いたことある?」
「ええ、前文明期の崩壊をもたらした最終兵器」
「うん、高エネルギーの塊。
レリがそれを開放したみたいなんだ。
ほんの一部だけど」
「ばかな・・・、なぜレリがそんな
危険な能力を持っているの?」
「それは、僕にも分からない、
メモリーにも、データベースにも記録がないんだ。」
「大佐、ケイが、・・・!」叫ぶカイの声が聞こえる。
ミラルは、弾かれるようにケイのもとに駆けつけた。
彼女は血の海に沈み、正に死の淵にあった。
「大佐、レリ様は・・・・?」
「大丈夫、お前のおかげで、無事だ。」
「そう・・・よかった・・・」
そういい残して、彼女は静かに眼を閉じた。
ヒロインの、とんでも能力の覚醒が、彼女の苦悩を救うのか、否か。