現実はその非情な姿を現し、
レリを波乱と激動の運命へと
追いたて始める。
レリが、駆け寄ってくる。
大きく豊かな金髪のツインテールを弾ずませ、
夕日の暖かなオレンジ色に染まり、美しく輝くように。
そして、ダクのたくましい体に抱きつくように手をまわす。
そこからは、日差しと、刈り取られた麦の香りが
レリの甘い香りと混ざり合って匂う。。
鮮やかなブルーの瞳を上げ、可憐な唇から言葉をこぼす。
「ただいま。父さんの分までやっておいたわよ。」
ダクは、そんなレリをこの上も無くいとおしく思う。
愛してやまないわが子。
レリをちょっとぎゅ~と抱きしめてから身を離し
そのかわいい金髪の頭を良い子良い子する。
「そうか。レリも少しは役に立ったかな?」
そんなレリをもう一度体の脇で軽く度ぎゅっと抱きしめ
再び、頭を良い子良い子しながら二人連れ立って
母屋へ入ってゆく。
「ひどーい、がんばったんだから。」
ちょっと、むくれた風にしながらも、ダクを見上げるレリの目は微笑んでいる。
そこに、クーがふわふわと浮かびながら現れ、
長い耳をぴくぴくふるわせながら、茶化すように話す。
「確かに、子供の割にはね。」
「ク~~!!」
レリはそんなクーをばたばたと追い掛け回す。
レリは、クーと何事か言い合いながらも仲良さ気に歩いてゆく。
その後姿を見つめながらダクは思った。
この平和な生活もおしまいだ。
今までの間本当の我が子のように愛し慈しんできた。
ムメも同じ気持ちだろうか。
彼女は人間ではない。精巧なアンドロイドだ。
あとわずかの時間、この残された貴重な時間を・・・
家族として過ごせる最後の時を・・・
抱きしめるように過ごしたい。
それがたとえ、あと僅かの間であっても。
畑仕事を終え、居間でくつろぐ家族団欒の時、
明るく笑っているレリ、
それを、穏やかに見つめている 、ムメ
笑い声が弾み、幸せが満ちている。
ダクは、この光景を・・・三人の様子を・・・かけがえの無い思い出のひとつとして
記憶に焼き付けようと思う。
せめて、今、この時だけは、穏やかに・・・。
・・・・・・しかし、その時はついに訪れる・・・・・・。
ダクは、居間を離れ、キッチンへ行き、妻ムメに声をかける。
「父さん、何か用ですか?」
ダクはこれを言うことは覚悟はしていたが、
それは想像以上につらいことだった。
ダクにとっても、ムメにとっても。
ダクは彼女をじっと見つめ、押し殺した声で言った。
「ムメ。コードレッド。プログラムSC1」
彼女の表情が一瞬凍りつき、そして諦めと、決断をこめた声で答えた。
「・・・はい、緊急退避モードに移行します」
突如、彼女の脳裏に今日一日の光景が、よみがえる。
そして、
その前の日も
先週も
先月も
昨年も
レリを始めてその手に抱いた日まで。
鮮明な映像となって思い出が再生される。
それらの日々は、光に包まれ、輝き、幸せにあふれていた。
その中で、ムメは、人の愛を知り
人ならざる身でありながらそれを体現し
レリに注ごうと勤めてきた。
宝石のように貴重な日々、これを失いたくは無い。
しかし、今、この先、自らの手で幸せを紡いで行くことは叶わなくなった。
ならばせめてこのきらめく思い出だけは、この胸に留めておきたい。
かなうなら・・・幸せを忘れたくは無かった。
ダクはそんな彼女を見つめながら、そっと両肩に手を置いた。
これが、夫として彼女に語りかける最後になるだろうと思いながらそっと話す。
「ムメ。」
「なにか・・」
ダクは、ともにすごした人生を思い返しながら、
その貴重な時間を心に抱きしめながら、
思いの全てを込めて、彼女に語りかけた。
「長い間、ありがとう。」
ムメは、はっとして顔を上げ彼の瞳を見つめた。
アンドロイドである自分を妻として受け入れてくれた夫
人ならざる機械人形である自分を人間として愛してくれた人
最初は任務だと、仮初の夫婦だと思っていたが、やがて
レリを愛する夫婦としてともに過ごした人。
ダクはムメを妻として・・女として・・愛している。
それは、ムメも同じだった。
「あなた・・・。ダク・・私こそ・・・幸せでした」
しばし見詰め合っていたが、ダクは彼女を抱きしめた。
「・・・あなた」
「レリをたのんたぞ、・・・」
「はい・・・」
彼女の瞳には確かに涙のきらめきがあった。
そして、ムメの心に宿った決意は、与えられた任務をはるかに超え・・・。
「私は、私の娘レリを愛している。
だから、レリを守り通す
たとえこの身がスクラップになろうとも。
かまいはしない。
国のためでもない、
世界のためでもない、
ただ、レリのために。
そして・・・
そして・・・、
それが、私のいとしい夫、ダクの願いだから。」
彼女は決然とした足取りでダクの元を離れ、装備を整えに行った。
居間に戻ったダクは、気持ちを落ち着け、勤めて平静な声を出そうとした。
「レリー。レリー」
レリは何の疑いも無くダクの元にやってくる。
農家の娘として、自然の移ろいとともに生きてきた。
春には芽吹きを喜び、夏には日差しの中、働き、学び、遊び、
秋には恵みを刈り入れ、冬には家族の絆を信じ新たな年を待ちわびてきた。
日常はこのまま何の変化も無く続くと信じ
両親への信頼も変わることなく
無垢な心のまま
ダクの前に立つ。
「何、父さん?」
ダクはレリを前にして言葉に詰まった。
いつかは言わねばならないことだった。
何度も心の中で繰り返してきた言葉を。
十分承知はしていたはずだがいざとなると、
なんと言えばいいんだ?。
父親と信じている人間が実は他人で、
母はアンドロイドだったと・・・。
あの時、王宮で国王から命を受けた時から分かっていたのに。
ダクは、今更にしてこの勤めの残酷さをかみ締めた。
「父さん?」
ダクは、彼女の肩に手をおき、そっと抱きしめた。
「レリ、・・・よく聞いておくれ
私も、母さんも心からおまえを愛している。
これは、どんなことがあっても永遠にかわりはしない。
決して消えはしない。いいね」
彼は一歩下がり、ひざまづき、王族への敬意を表し頭を垂れた。
レリは、その父の変化に戸惑い、わけが分からず混乱した。
澄んだ青い瞳は、不安に揺れ、声は細く震えていた。
「と・・・父さん ? どうしたの?」
ダクは、床をにらみ未だ躊躇していた。
しかし、今はもう真実をありのままに語るほかは無い。
そう思いを定めて顔を上げ、レリを見つめる。
「レリ、・・いやレリ王女様。
あなたは、エザワイス王国の正当な王位継承者、
レリ・プロラ王女なのです。
先の大戦で国土こそ憎むべきギエスに奪われましたが、
王国の兵士、国民は未だプロラ王と、その王族に忠誠をしめし、
何時の日かエザワイスを再興し、
かつての繁栄と平和を取り戻すため、
活動を続けているのです。
ギエスに捕らえられはしましたが、
王女様のご両親であらせられる、
プロラ国王と、皇后ビナ様のは生きておられます。
そして、レリ様・・・、
あなたこそエザワイス国民の希望の光なのです。」
ダクは、語りながらもレリに対し
自分が途方も無く非情な仕打ちをしていると言う思いにとらわれていた。
王国への忠誠を誓い、いかなる困難も厭わぬと決心し、国王の命を受けたはず。
何も後悔することは無いはずだ。
しかし、
父として過ごしたこの年月は、あまりに重く貴重な日々だった。
それは、レリにとっても同じことだった。
レリは、両手を胸の前に組み、祈るように握り締め、
大きく見開かれたその瞳には
みるみる大粒の涙があふれだしてきた。
「え・・・何なの・・?私が王女、父さん、母さんは本当の両親じゃないって・・・?」
レリには、父ダクの語っていることが理解できなかった
・・・いいや、理解したくなかった。
「レリ様。・・・つらいことですが、事実なのです。
私たちは、あなたをお守りする、盾のメンバーなのです。
私はエザワイス王国親衛部隊大佐ダク・リヒト、
母親を勤めさせていただいたのは
・・・ムメ・・・T362戦術型汎用アンドロイド。
13年間あなたを欺きとおしたこと
礼儀を失する言動、振る舞いをお詫びいたします。」
ダクは、後悔の念にとらわれていた。
言わねば良かった。
しかし、
言わねばならなかった。
「いやよー!!。そんなのないわ!父さんうそでしょ??ねー!」
レリはダクに駆け寄りその腕に抱きつき、涙でぬれた瞳で見上げた。
ダクの心に、いっそ、このままレリとムメを連れ海のかなたへ逃げようと言う
思いが駆け抜けた。
しかしギエスは諦めはしない。海の底だろうと、地の果てだろうと追ってくるだろう。
出来はしない。
彼は、レリを真正面からみすえた。そして無理なことだとは承知の上で怒鳴った。
「レリ様・・・レリ!!
私はおまえをそんな弱い人間に育てた覚えはないぞ。
これは私の父としての最後の言葉だしっかり聞いておくれ。
いいかい。
どんなことがあっても決して、諦めてはいけない。
どんなに辛くても負けてはいけない。
何時いかなるときも希望はある。
そして多くの人がお前を愛し、
お前のために戦っている。
それを忘れてはいけない。
レリ、私も母さんもお前を決して忘れはしない。心から愛している。」
ダクは、自分の心が今にも崩れ落ちそうになっているのが分かった。
それを、使命感と、レリを最後まで
守り抜こうとする決意で必死に支える。
レリは、今までの生活が、日常が崩れ落ちて行く音を聞いているようだった。
それは、自分に向かって世界中の騒音が一斉に襲い掛かってくるかのように。
レリの心は、足場を失い平衡を欠き底知れぬ奈落へ落ち込むがごとく。
しかし、必死に手がかりを探す。崩れ去る日々を取り戻そうと。
父に呼びかける。
「父さん・・・。」
あふれる涙にぬれる瞳は、
すがりつくようにダクを見つめる。
その瞳は、訴える・・・。
「なぜ突然、こんなひどい仕打ちをされねばならないのか・・・」
ダクは、心を締め付けられるような苦しみを感じる
レリの涙は今にもダクの理性を、使命感を、責任を
溶かし、流しさってしまうほどつらいものだった。
しかし、危険は確実に迫ってきている。ここで、心折れてしまうわけには行かなかった。
ダクは、自らの内にあるすべての力をかき集め自らを律し、レリに語りかける。
「レリ王女。一刻も早くここを脱出し、次の保護者の元へ、
たどり着いて頂かないとなりません」
レリは、呆然としながらも
今ダクの話していることが現実なのだと
徐々に、心の中に染込んで行くのを感じた。
多感な少女の心は未来への恐怖に震え、
大きく傷つきその現実に慟哭する。
「レリ様!」
「母さん・・?」
彼女は、バトルスーツに身を固め現れた。
「レリ・・・。さあ早くこちらへ。車に装備は用意してあります。」
大変な、運命に突如投げ込まれたヒロイン、ものすごい精神的ダメージですが、
大丈夫なんでしょうか。彼女を救う道は何なのでしょう?