エルカトの町の中、スラム街にある部屋の窓から
女の子が一瞬明るくなった夜空を眺め、
つぶやいた。
「博士、何か爆発みたいです」
博士と呼ばれた老人が、作業台の脇から振り返る。
「そうか、場所はどの辺りだ」
「北部山岳地帯、中腹あたりかな」
博士は、今までの作業を中断し
レーダーサイトのような、装置を覗き込み
爆発現象の痕跡を精査した。
「うむ、レベル1と言ったところか」
「いよいよこれを、届けてやらんといかんな」
そう言いながら、整理棚から箱を取り出しふたを開けると、
その中には、銃の形をした法具が入っており、
博士は、それを確認するかのように手に取り
その後、彼女に手渡した。
「これを、急ぎレリ王女に届けなさい。
爆発地点の近辺にいるはずだ」
その法具を受取りながら答える。
「はい、では行ってきます」
そして、少し躊躇してたずねた。
「あの、・・・あちらに、重症の怪我人がいると思いますが・・・」
「では、お前が治療してやりなさい、わしはまだ手が離せん」
その子は、ぱあっと笑顔を浮かべ、
「はい、私、がんばります」
バックパックをガッとつかみ背負いながら、
弾むように飛び出してゆき、
ナース服の、その姿は、屋根を越え、
見る間に遠ざかってゆく。
ギエス警察部隊副長官ニトス・パゴレは
事態の掌握に苦慮していた。
「A,B部隊とも連絡が途絶しました。
ジン13のマーカー消失。
偵察機から報告
小規模な核融合兵器らしき物の使用を確認。
ターゲットロスト」
「増援部隊はまだ現地に着いていないのか?」
「5分後の予定であります。」
『一体なんだというの、
あいつらが核兵器を担いでいたとでも言うの?
しかもそれを自分たちの目の前で使用しただと
・・・ばかな!』
それは、夜空が真昼のようになった後わずか数分のうちに
事態は一気に不利なものになったことを示していた。
『敵兵力を過小評価したか?
そんなはずは無い、作戦遂行序盤は計算どうりだった。
もとよりA小隊は捨て駒だった。
しかし敵の2分には成功している。
ジン13の投入のタイミングも良かった。
護衛のヒューマノイドも倒し、
後はレリを捕獲するだけだった。
しかし、どうするか・・・
このまま追い続けるか、撤退するか?』
ニトスは、しばらくの沈黙の後命令を発した。
「本隊をサレンに向け移動させる。
先行している部隊にルートの確保をするよう命令、
本国ラボにジン13のの残骸を返送。
予備のヒューマノイドを可能な限り送れと伝えなさい。
旧タイプでもかまわない」
「はっ、了解いたしました」
仕官は敬礼をし、足早に退室して行った。
ニトスは、今回の事態を自らへの侮辱として捉えていた。
『このまま引き下がってたまるものですか、
なんとしてもあいつらの息の根を止めてやる』
その瞳には凶悪なまでの情念が燃えていた。
レリ一行は、場所を移し野営をしていた。
レリは、まだ意識をとりもどしてはおらず、
苦しげな表情のまま眠っていて、
ミラルはレリのそばに寄り添いながら尋ねた。
「クー、敵の動きはどう」
「うん、後続部隊の動きが止まったよ、
何が起こったか把握できていないみたいだし、
ずいぶんと慎重になったようだよ」
「カイ、ケイの様子はどう?」
「意識はありません、心肺停止の状態です。
もうすでに5時間以上が経過しています。
回復は不可能かと・・・」
「そうか・・・、」
その時、歩哨に立っていたジェイの誰何する声が響いた。
「とまれ、何者だ?」
夜明け前の薄明かりの中、
うっすら白い人影が浮かび、歩み寄ってくる。
「なによ、急いで駆けつけてあげたのにとんだご挨拶ね」
「それ以上の進入は許さん」
「あらあ、あなたは、戦闘看護士も射殺するつもりなの?」
「せ・・・戦闘看護士・・・?そんな階級は無いぞ」
「そう、昔なら・・・衛生兵~ってとこかしら。
それとも、看護婦さ~んとかあ、・・・お好き?」
妙に色っぽく迫ってくるナース服姿の女の子に、
どう対応していいかわからず、
つい赤面してしまうジェイ。
「まっ、純な人・・・。好きよそう言うの」
「ば・・・ばかにするな、貴様いったい何の目的で・・・」
「レリ王女に御届け物・・・、
それに、重症の負傷者がいるでしょう」
「レリ様にだと、」
そこへ、ミラルが現れた。
「大佐殿、これは一体?」
「あなた、どこから来たの・・・所属は?」
「あっ、ミラル大佐。ごきげんよう・・・、
と言っても覚えてないかなあ」
そこで、急に態度を改め、びしっと敬礼をし答えを口にする。
「エザワイス、医療大隊、野戦救護班所属、
ミル・レイス看護士であります。
エルカトでは、大佐殿の衛生面のサポートを担当していました」
「衛生面って・・・あっ・・・」
ミラルに何か思い当たる節があったようで、
なぜか見る見る顔が紅潮しうつむいてしまった。
ジェイが問い詰めようとする。
「た・・・大佐殿・・・、貴様!大佐殿に何をしたんだ?!」
「ミラル大佐、説明いたしましょうか?」とミル。
ミラルは顔をがばっと上げ、ジェイに詰め寄り
その胸元をつかんで、ボソッと言った。
「余計な詮索はせんでよろしい。わかったな!!」
「はっ、・・・りょ・・・了解しました・・・」
あまりの剣幕に、圧倒されるジェイ。
ミラルは、ミルに眼で口止めを要求しながら。
「レリ様は、気を失ったまま、目覚めてはおられんが」
「では、お寝覚めの後にお渡しします。
先に負傷者を診ましょう」
「ケイは、すでにもう・・・。
護身プログラム、クーでもなすすべが無かったが」
「大丈夫です。ヒューマノイドはそう簡単には死ねませんから」
ミルは、緑の髪をリボンでキュッと束ね、
ナースキャップを被り、ケイの傍らに座った。
様子を確認すると、バッグの中から薬剤、
機材を取り出した。
すると瞬く間に自動展開をし、
医療機器というよりは、精密工作機械のような
装置が出来上がる。
ケイの着ている服をはさみで手際よく切り取り
肌を露出させると、
大きく痛々しい傷口があらわになる。
ミルは、振動メスを振るい胸部から腹部まで一気に切開した。
それを見ていた全員が顔を背けたが、ミルは一切動じない。
「派手に、やられたわね・・・、左肺も破裂・・・、
心臓もまっぷたつか・・・、背部の骨格も破損か、
よーしはじめるか!」
診断と言うよりは、修理箇所の特定と言った感想を
漏らしながら、器具を手にした。
原型を留めぬほどに破壊された臓器を摘出し、
装置の上で修復に取り掛かる。
やっと、顔を向けたカイがたずねた。
「その機械、背中に背負って来たの?
魔法実体化プログラムじゃなくて・・・」
「プログラムで実体化するには、
ちょっとばかり繊細すぎるのよね」
話しながらも、その手はまるで精密マザーマシンのごとく
緻密にすばやく動いてゆく。
破損した臓器が見る見る復元されてゆく。
それを見ていたクーが思わず声をかける。
「君は、ひょっとして、あのガエルス博士のとこの・・・」
それを聞きつけたカイが話す。
「あの天才魔法科学者といわれていた人?
確かもう亡くなっているはずだけど」
「あの先生がそう簡単にくたばりはしないわよ,
私が出てくるときもかくしゃくと仕事してたし」
「そうか、よかった、僕はあの人が作ったプログラム体なんだ。
いってみれば、お父さんみたいなもんだし。」
「あんたが、クー?へエー、
博士から話は聞いていたけど・・・
ふーーんよくできてるわ」
と、早くも修復を終えた臓器を培養液の中に入れ、
クーの顔をまじまじ眺める。
カイが再び口を開いた。
「データーベースによると、あなたは、
博士の助手の医療用ヒューマノイド
たしか、ミル型0番機」
「いまは、ミル・レイスって名前があるわ。
0番機なんてよしてよ」
そういいながらも、
無残に傷ついた心臓を手際よく修復してゆく様は
正に神の手と言ってもいいほどだ。
「でも今は、医療大隊の戦闘看護士って肩書きを持ってるわ、
博士が、私に改造を加えたの、医療能力の強化と
戦闘能力の付加。
おかげで今は、 戦う看護婦さんってわけ。
・・・さて、心臓も良しと」
正に、治療ではなく修理といた趣になってきた。
破壊されたパーツを修理し復元して、
元の体に戻して行く。
破損した骨格を薬剤で手際よく張り合わせ、
切れた神経をジョイントを使い継ぎ合わせる。
断裂した血管を縫い合わせ、切断した筋肉を接着し、
見事なまでに痕跡もなく直ってゆく。
最後に切り裂かれていた皮膚をナノマシン接着剤を使い
縫合してゆくと表面の継ぎ目も消えてしまう。
「さてと、一通り終了っと」
心配げに覗き込んでいた、ミラルが声をかける。
「それで、生き返るのか?」
「生き返るというのが正確かどうか、ヒューマノイドは製造されてから
システムを起動させて活動を開始するから、
システムの再起動が生き返るということになるのかな・・・」
輸血用のポンプを作動させながら、
体のあちこちに針のような端子を差し込んでゆく。
「起動用端子の接続終了と、はい、ケイさん、
そろそろ・・・おめざめの時間よ」
ミルは、装置の起動スイッチを押す。
ケイの神経回路に刺激パルスが送り込まれ脳が目覚め始める。
「やれやれ、脳の損傷はなかったようね。
順調なら、あとしばらくで、目覚めるはず」
レリのそばにいたクーが声を上げる。
「みんなレリが、気がついたよ、」
ミラルがレリの傍らに座り、心配気にのぞき込む。
それは、警護の兵士とは、とても思えない物腰だった。
そこはかとなく、優しさがにじみ出ている。
「レリ、・・・。お目覚めですか?」
レリは、自分を覗き込んでいる面々を見て、
ちょっと、驚いた様子だったが、身を起こそうとする。
「あ・・・、みんな、私どうしちゃったのかな」
ミラルが、華奢なものを扱うように、
レリの体を優しくそっと支えながら話した。
「ギエスのヒューマノイドに襲われた際に、
気を失なったみたいね、
とても危険な事態に直面したの」
「あっ、ケイは、ケイはどうなったの?」
ミルが、にっこりしながらレリに話しかけた。
「ケイさんなら、心配要りませんよ。
修復も完了して、もうすぐ意識も戻るはずですから。」
「そう・・・、よかった、また、ケイまで死んじゃうんじゃないかって、
ものすごく、悲しかったから」
レリの瞳に、また大粒の涙がうかぶ。
ミラルがレリを抱き寄せ包み込むようにしながら、
「もう、心配しないでレリ。
ケイはこのミルのおかげですっかり傷も癒えましたから」
「うん、ごめんね。また泣いちゃった。あなたが、ミルさん?」
「はい、レリ様。ミル・レイスって言います」
「ケイを助けてくれて、ありがとう」
そう言って、レリはミルを見つめ、
その手をしっかりと包み込むように握った。
ミルは、少し戸惑ったようにレリと眼を合わせたが、
その眼は、優しくも少し悲しげで・・・。
「レリ様・・・。お役に立ててうれしいです。
私は、医療及び、ヒューマノイド修復用の看護士ですから」
クーが、レリの前に現れちょっと考え込んでからたずねた。
「レリ、気を失う前のこと何か覚えている?」
「うん、それがあまりよくわからないの。
ケイが倒れた後、目の前が真っ白になってそれからは・・・
覚えていないの。
気が付いたらみんなといっしょにいた。
・・・なにがあったの?」
「あの時、ケイを救ったのは、レリだったんだよ」
「わたしが?・・・そんな、どうやって。
ううん、出来っこないよ、そんなこと」
ミラルが、レリを見つめながら話す。
「あの時、敵ヒューマノイドがケイに止めを刺そうとすると、
突如、局地的な高温エネルギーが発生し、
敵兵と、ヒューマノイドを倒したの」
クーが、話を続けた。
「それを行ったのはレリなんだ」
「わたしが・・・?あのとき・・・」とレリ。
レリは、思い出した。
あの時の感情の爆発を・・・
自己が消滅してしまいそうな感覚を。
『あのとき・・・、
わたし、
何も考えられなくなって、
何かが外れた感じがした
それから・・・
わたしは・・・・・・
あの、炎が・・・・・・』
レリは、自らを抱え込むようにし、小刻みに震えだした。
「だめ・・・。いけない・・・」
額には汗が光り、歯を食いしばり、
レリの体温が上昇しだす。
それは触れると熱いほどに。
クーが声をかける。
「レリ落ち着いて・・・もうすんだんだよ。
危険は去ったから。落ち着いて」
レリは、眼を開け、クーをミラルをみんなを見た。
全身に入っていた力がゆっくりと抜けてき、
陽炎が立つほどだった体温も下がってゆく。
「うん、もう大丈夫みたい・・・」
いつの間にか緊張していたメンバーも、ほっと肩の力を抜く。
「わたし、どうしちゃったのかな、変よねこんなの」
「レリには、大きな力が秘められているみたいなんだ」
「私に、なぜ?」
「それは・・・僕にも分からない」
ミルが、レリに語りかけた。
「レリ様、お渡ししたいものがあるんです」
彼女は、銃の形をした法具とりだした。
「これは、永久の力を統べる法具、王家の銃、
プロラ王の命を受け、ガエルス博士が考案し、
エザワイス王家に献上したものですが、
これをレリ王女様にお渡しするよう申し付けられ
今まで保管していたのです。
なぜ、レリ様にお渡しするのか
その理由は、聞かされておりません」
レリは、こわごわそれを手にとってみた。
別に何も起こらない・・・。
クーがレリに近寄り、しばし黙考の後話しかけた。
「レリ、それを使ってあの岩を狙ってみて」
「こ・・・こう?」
レリは立ち上がり、両手で銃を構え50メートルほど先の岩塊を狙ってみる。
「何も起こらないけど・・・」
すると、銃が突然作動しだす。
レリの目の前にホログラムの照準機が浮かび上がる。
ターゲットの岩までの距離とロックオンを示すマーカーが現れた。
「な・・・何、どうすればいいの?」
「その、照準の岩に意識を集中して、
そして心の中で引き金を引いて。
ケイが倒れた時の
感覚を、感情を思い出して。」
レリは思った。
『あの時
悲しくて、
つらくて、
悔しくて
・・・そして・・・
何かが心の中ではずれた・・・』
次の瞬間、銃の先端から糸のような閃光がほとばしり
岩を貫き通した。
後には、反対側まで見通せる穴が開いていた。
レリは、銃の反動でしりもちをついてしまった。
「きゃー。何なの今の?」
クーが心配げにレリを見つめる。
「レリ、なんとも無い・・・、気分とか悪くない。」
「それは・・・平気だけど・・・。これって、私の力なの?」
「そうみたいだね、力のほんの一部だと思う。」
ミルが、その様子を見ながらちょっと心配げな表情でレリを見つめ
「博士が、その銃は、永久の力をコントロールして
発現するためのものだって言ってました。
それともうひとつ、
あまり大きな力を発現しようとすると
銃のコントロールが利かなくなって、
暴走する可能性があるって。」
「暴走・・・?どういうこと、それ?」
「あはは・・・、ええっと、
あんまり深刻に考えないでいいんじゃないかな、
また、気を失っちゃうとか、そんなことだと思うけど。」
ミラルが、レリの傍らに立ち手を貸して立ち上がらせた。
「私たちが、レリを守ります、その銃を使うことが無いように、ね。」
「ありがとうミラル。でもね、これで誰かを救ったり、
守ったり出来るんだったら、私、使うの怖くは無いわ。
ううん、そんな時は、迷わず使っちゃうかもしれない。」
レリは、誰かを守ることが出来ると言う、
そのことが無性にうれしかった。
『これで、守ってもらうばかりじゃなくて、
一緒に戦えるかもしれない。
ミラルの力になってあげられるかも
知れない。』
そう思うだけで、レリの心は弾んだ。
クーは、そんなレリを傍らから見つめていた。
今まで、意識を失っていたケイが眼を覚まし、
そばにいたジェイが、声をかけると、
全員がケイの回りに集まった。
ケイが、笑顔のみんなを見回し、ちょっとあっけに取れられた顔をしている。
「私は、もう、死んでいるはずではなかったのですか?」
ミルは、手際よく接続端子と、輸血パイプを取り外しながら答える。
「そんなはず無いでしょ、この私、
ミル・レイス戦闘看護士が死なせはしないわよ」
「えっ、そうなの・・・,ありがとう。」
ミルは、勢い良くレリに振り向き、
その大きな緑の瞳をきらきらさせて言った。
「レリ様、私も一緒について行っていいですか。
お役に立ちます。絶対に自信あります!私。」
レリはミラルを見上げ
「いいかなあ、一緒でも。」
「いいですよ。小隊付きの看護士ということで。」
レリは、ミルを見て
「一緒に行きましょ。ただし、ひとつ条件があるの」
「じょ・・・条件ですか・・・?はい何なりと」
「私を、レリ様って呼ばないで、レリって、言って。
様はつけないでほしいの」
「は?・・・いいのですか」
いつの間にか立ち上がっていたケイ答える。
「いいのよ。最初みんなちょっと面食らうけど、
それで、除隊になったりしないから」
「はい、では、レリ、よろしくね・・・って。
いいのかな?」
そこで、レリが、笑顔で答える。
「いいのよ」
ケイが、ミルに困惑気に言葉をかける。
「あの・・・私の服は?」
ミルが、そっけなく答えた。
「ああ、あれねぇ。ありゃ修復の際に服を脱がすため、
ずたずたに切っちゃたから、もうだめね。
私の守備範囲外だし」
「ええーっ!じゃ、私このままなの ? ?そんなあー・・・」
見れば、彼女は一糸まとわぬあられもない姿のままだった。
「サレンに入ればスタイラーで服なぞすぐ手に入るだろう。
それまでのがまんだ」
とそっけないミラル。
「大佐あ・・・」
「何なら、私の上着をかしてやろうか。」
とジェイ。
「こちらを見ないでください軍曹殿!!」
ジェイは、いまさら何を言うかという面持ちだった。
なにせ、眠っている間ずっとそばにいたのだから。
「そ・・・そうか。ま、これを着ておいてくれ。
それでないと、任務の執行に支障をきたしそうだ」
それを見ていた全員から笑いが起こった。
ヒロインのとんでもない能力の覚醒ですが、その力の代償は大きそうです。