エターナルフレイム   作:泰丸B

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逃げた夜を越えて、今度は守る側に。少女の願いが、戦場を動かす。」


第29章 静かかなる決断

パトルカを脱出した、レリと第一小隊は補給のため、ギエス支配地域の

外延部にある、村に向かい、その近くの丘にたどり着いていた。

その丘の上に立つレリの髪が、風に揺れていた。

金髪のツインテールが、まるで陽光を受けた麦の穂のように揺れ、

彼女の碧い瞳は、眼下の村をじっと見つめていた。

けれど、誰も口を開かなかった。

眼下の村では、ギエスの兵士たちが若者たちを広場に集めていた。

訳も分からぬまま、ただ列に並ばされる少年少女。

その傍らには、抵抗したと思しき大人たちの亡骸が、無造作に転がっている。

「……あれが、セーフハウスのある村?」 レリの声は、風に溶けるように

小さかった。

ミラルが双眼鏡を下ろし、頷く。「そうよ。けど、先にギエスの徴用部隊が

入っている。未成年の徴兵……。見ての通り、抵抗した者は……」

言葉を濁すミラルの視線の先で、兵士が倒れた男の胸を無造作に

蹴りつけていた。

「ひどい……」 レリの手が、無意識に胸元を握りしめる。

「ミラル、どうするの?」レリが低く問いかけた。

ミラルは言う。「戦えば、村人を巻き込む可能性がある。だが、

見過ごせば、彼らはギエスに連れ去られる」

「待機が妥当でしょう。」ジェイは続けた。「敵の数は二十。こちらは八。

奇襲は可能だが、リスクが高い。補給が目的なら、ここは避けるべきです」

「でも……」レリが口を開いた。「あの人たち、きっと、助けを待ってる。

あたし……見ていられない」

沈黙が落ちた。 誰もが、レリの言葉に反論できなかった。

「レリ」ミラルが静かに言った。「私たちは、エザワイスの正義のために

戦っている。だが、正義には代償がある。守りたいものがあるなら

最後まで守り抜かねばならない。

レリ、あなたに命を賭ける覚悟があるなら、私たちは従うわ」

「命を賭けるって……」レリは言葉を詰まらせた。

「そんなの、簡単に言えないよっ。でも……でも、あたし、

あの人たちが泣いてるのを見て、何もしないでいられない」

「しかし、レリ様、感情に従って動くのは、戦場では危険です。」

ジェイが低く言った。

「でも、感情がなかったら、何のために戦ってるの?」レリが振り返る。

「あたしたち、ただ勝てばいいの? 誰かを救うために

戦ってるんじゃないの?」

ジェイは黙った。 その横で、カイが静かに口を開いた。

「……敵の配置は粗い。徴用部隊は正規軍ではない。訓練も不十分。奇襲なら、

成功率は高い」

「でも、村人が巻き込まれたら?」アルが不安げに尋ねた。

「だからこそ、私たちが動くのよ」ミルが言った。

「あの子たちを、あんな目に遭わせないために」

レリは、そっと目を閉じた。 風の音が、遠い記憶を呼び起こす。

──あの夜。

──父の思いつめた目。

──母の必死な顔、

──ギエスの兵士たちに追い立てられた夜、

──ダク、ムメの愛情を背に、逃げた。

──何もできなかった。誰も救えなかった。

「……あたし、もう逃げたくない」 レリの声は震えていた。

でも、はっきりと響いた。

「この人たちを、あんなふうにさせたくない。お願い、助けたいの」

その言葉に、誰も異を唱えなかった。

ジェイが静かに立ち上がる。「了解。第一小隊、戦闘準備。各自装備を着用。」

「作戦時間、十五分以内に完了させる」ケイが即座に応じる。

「敵の通信を遮断する。増援が来る前に終わらせる」

「やるなら、完璧にやるよ」アルがナイフを握りしめた。

「レリ」ミラルが振り返る。

「あなたはここにいて。私たちが、あなたの願いを叶えてくる」

レリは頷いた。 その瞳には、もう迷いはなかった。

「ありがとう……みんな」

ジェイが頷く。「目標は敵兵の無力化。村人の安全を最優先とする」

カイが地図を広げ、アルと共に敵の配置を解析する。

サキとエルは、自らの装備を実体化させ、

ケイは戦闘解析を開始。

ミルは医療キットを確認しながら、レリに微笑みかけた。

「大丈夫。誰も死なせない」

第一小隊の兵士たちは、丘を下り静かに、確実に村の中に入り込んでいった。

クーが、レリの隣にいて、心配そうに村を見ているレリに話しかける。

「心配かい?」

「うん、私のせいで、誰かが傷ついたりしたら、どうすれば・・・。」

「みんな、レリの言葉の正しさは分かってるのさ。

だからああして戦おうとしている。

レリの願いは、結局みんなの願いでもあるんだよ。

心配いらないよ、彼らは強いじゃない?成功するよ。信じて待とうよ。」

「そうね・・・。みんなを信じなきゃね」

 

「エル、第一目標、北側の見張り塔。まずこれを排除する」ジェイが

内蔵通信機ごしに囁いた。

エルは腰のホルスターから、黒いナイフを抜いた。刃渡りは短く、だが極限ま

で研ぎ澄まされたその刃は、骨すら音もなく断つ。彼女は塔の裏手に回り込み

、足音を殺して接近する。

見張りの兵士は、退屈そうに煙草を吸っていた。だがその煙が揺れた瞬間、

エルの影が背後に迫る。

「……っ!」

兵士が振り返るより早く、エルの左手が口を塞ぎ、右手の刃が喉元を横一文字

に走った。血が噴き出す前に、彼女はその体を抱え、塔の影に静かに横たえた。

「北塔、クリア」

「次、南側の倉庫裏。二名」カイが低く指示を出す。

サキは装備してきた背中のホルダーから、巨大なスチール警棒を引き抜いた。

通常の人間では振るうことすらできない重量だが、彼女の筋力ならば一撃で

壁を砕く。

アルは腰に装着した多関節ナイフを展開。刃が蛇腹のようにしなり、

狭い隙間でも自在に動く設計だ。

倉庫裏の兵士たちは、交代の時間を確認しながら談笑していた。

「……でさ、あの徴用されたガキ、泣きながら──」

その言葉が終わる前に、サキが突進。金属の警棒が一人目の腹部にめり込み、

兵士は呻き声も出せずに吹き飛んだ。もう一人が銃を構えたが、

アルのナイフがその手首を切り裂いた。銃が落ちる。

アルはそのまま兵士の背後に回り、首筋に刃を当てた。

「動いたら、次は喉だよ」

兵士は震えながら膝をついた。

「南側、制圧完了」

ジェイの命令が通信機越しに届く。

「西側、民家裏に三名。カイ、ミル」

「了解」カイは眼鏡を押し上げ、腰のホルスターから二丁のサプレッサー付き

小型拳銃を抜いた。精密射撃用に調整されたカスタムモデルだ。

ミルは左手に注射器型の麻酔銃を持ち、カチリと音を立ててプランジャーをセ

ットする。二人は、気配を消して幽鬼のごとく忍び寄る。

民家裏の兵士たちは、村人の家を物色していた。

「この家、食料あるぞ。持ってけ──」

カイの銃声が、乾いた音を立てて響く。サプレッサーが音を抑え、発射音は

風の中に溶けた。弾丸は一人目の膝を正確に撃ち抜き、兵士が崩れ落ちる。

「敵襲──!」

二人目が叫ぼうとした瞬間、ミルが飛び出し、麻酔針を首筋に突き立てた。

三人目が銃を構えたが、カイの二発目がその手を撃ち抜き、銃が地面に落ちた。

「西側、完了」

「残り六名、広場に集中。村人の近くにいる」ジェイが眉をひそめる。

「ここが正念場だ」

──その頃、広場の兵士たちは異変に気づき始めていた。

「おい、北の見張りが戻ってこねぇぞ」

「南の連中も応答しない。おかしいな……」

「まさか、反乱分子か?」

「馬鹿言うな。こんな辺境に……」

その瞬間、ミラルが姿を現した。

「私は、エザワイス親衛隊、大佐ミラル・タギ。貴様らの行為は戦争犯罪だ。

今すぐ武器を捨てろ」

「ミラル・タギ、だと?!、あの狂戦士の悪魔か?!」

彼らは、パニックに陥ったかのように銃を乱射した

「撃て!撃て!撃て!・・・うわー!」

銃声が響いた。だが、ミラルはすでに身を翻し、弾丸をかわしていた。

義手の装甲が火花を散らし、彼女は地面を転がって物陰に身を隠す。

その隙に、第一小隊が四方から突入した。

サキが正面から突進。警棒がが兵士の銃を弾き飛ばし、次の一撃で胸骨を砕く。

兵士は呻き声を上げて倒れた。

エルは屋根の上から飛び降り、剣を抜いて敵の背後を取る。刃が閃き、

敵の肩口を切り裂く。彼女は無言で次の敵に向き直った。

アルは物陰から飛び出し、ナイフを振るって敵の足を切り裂く。倒れた兵士に

馬乗りになり、喉元に刃を突きつけた。

「動かないで。お願いだから」

カイは高台から正確な射撃で援護。

ジェイは最後の一人を背後から羽交い締めにし、ナイフを喉元に押し当てた。

「動くな。終わりだ」

兵士は震えながら銃を落とした。

──静寂が戻った。

村人たちは、恐る恐る顔を上げた。誰もが、信じられないという表情で、

第一小隊の姿を見つめた。

ミルは倒れた村人を抱き起こし、応急処置を施す。

レリは丘の上から、その光景を見つめていた。涙が頬を伝う。

──ありがとう、みんな……ありがとう。

村人たちは泣きながら、解放された家族と抱き合っていた。

ミラルがレリのもとに戻ると、彼女はそっと頭を下げた。

「ありがとう、ミラル。あたし……この村の人たちが、

あんな目に遭うのを見たくなかった」

「わかってる。レリの願いが、みんなを動かしたのよ」

その夜、セーフハウスでの補給を終えた一行は、再びギエスの支配地域へと

足を踏み入れる。

レリの瞳には、もう迷いはなかった。




もう逃げないで、戦う、それは、救うため、守るため、そのために戦う。
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