エターナルフレイム   作:泰丸B

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少女は、世界の終焉と再生の狭間で、命を賭して立ち上がる。
氷結の渦と灼熱の炎――相反する理が激突する中、
レリ・プロラは自らの存在を賭け、希望の未来を選び取った。

砲火の嵐を突き抜け、ミラルたちはただ一人の王女を救うために地獄へと挑む。
そして、すべてを終わらせるための最後の戦いが、静かに幕を開ける。

命を燃やし、世界を照らしたその炎は、やがて伝説となり、
人々の心に灯る希望の光となる――

運命に抗い、絆を信じた者たちが紡いだ、
祈りと誓いの物語、ここに完結。


終章 永遠の炎

 

エザワイス軍による総攻撃の開始時刻が刻一刻と迫っていた。

轟音と振動が大地を揺らす中、ミラル・タギ率いる第一小隊は、兵員輸送車を止め

最後の準備に取り掛かっていた。

ミラルは、輸送車の後部ハッチを開け、そこに座る一人の少女兵、ハルに向き直った。

 

「ハル、降りなさい。ここからは連れて行けない」

 

ミラルの声は冷徹な響きを持っていたが、その瞳の奥には、押し殺した優しさが

揺らいでいた。

ハルは弾かれたように顔を上げ、かぶりを振った。

 

「嫌です! 私も行きます! ミラルさんの役に立ちたいんです!」

「だめだ」

 

ミラルは短く、しかし強い拒絶の言葉を口にした。彼女はハルの小さな肩に手を置き

その目を見据えた。

 

「これから私たちが向かう場所は、地獄だ。生身の人間が耐えられる場所じゃない。

それに……」

ミラルは一瞬言葉を切り、視線を逸らさずに続けた。

「これ以上進めば、お前は自分の祖国の人間に銃を向けることになる。

同胞を殺させるわけにはいかない」

 

ハルの瞳が揺れた。彼女にとって、ミラルは敵国の軍人でありながら

地獄のような戦場から救い出してくれた恩人だった。

だが、自分がギエス生まれであるという事実は変えられない。

ハルは唇を噛み締め、俯いた。小さな拳が膝の上で震えている。

 

「……わかりました。ミラルさんの命令なら、従います」

「いい子だ」

 

ミラルはわずかに表情を緩め、ハルの頭を撫でた。

 

「ここで待機していろ。もし、私たちが戻らなければ……その時は戦線を離脱し、

故郷へ戻りなさい。お前には生きる未来がある」

 

ミラルは背を向け、車外へと飛び出した。第一小隊のメンバーがすでに展開している。

ハルは閉まりゆくハッチの隙間から、土煙の中へと消えていくミラルの背中を

見つめ続けた。

 

「……死なないでください、ミラルさん」

 

その祈りは、最初の砲撃音によってかき消された。

 

ヒュオオオオオオオオ……ズドン!!

 

大気を切り裂く鋭い音がしたかと思うと、数百メートル先で大地がめくれ上がった。

エザワイス軍の砲撃が始まったのだ。それは、手加減という言葉を知らない

破壊の嵐だった。

 

「ちっ、始まったか! 連中、時計の針を早めやがったな!」

 

ジェイ軍曹が怒鳴りながら、瓦礫の陰に滑り込む。

次々と着弾する砲弾は、物理的な破壊力だけでなく、青白い魔力の残滓を

撒き散らしていた。

 

「魔道貫通弾かよ! 物理障壁も貫通するやつをご丁寧に……本当にレリ王女に

直撃したらどうするつもりだ!」

「冗談じゃないわよ! 味方ごと吹き飛ばす気!?」

 

サキが巨大な瓦礫を怪力で薙ぎ払いながら叫ぶ。

爆風が熱風となり、第一小隊の頬を打つ。視界は土煙と魔力の閃光で遮られ

どこが道でどこが死地なのかも判別できない。

ミラルは、爆音に負けない声量で叫んだ。

 

「愚痴をこぼすな! 彼らは忠実に王命に従っているだけだ! 

むしろ、命令を無視して突っ込んでいる私たちの方が軍規違反だ!」

「違いない! ですが大佐、地獄への片道切符にしては派手すぎる演出ですよ!」

 

ジェイが毒づきながら、アサルトライフルで前方のギエス軍アンドロイドを撃ち抜く。

砲撃の合間を縫うように、ギエス守備隊が襲いかかってくる。彼らもまた、自軍の頭上に降り注ぐ砲火に混乱しながらも、侵入者を排除しようと必死だった。

 

「2時の方向、ヒューマノイド3体! 高機動型です!」

 

カイの冷静な分析ボイスがインカムに響く。

その警告と同時に、瓦礫の山を駆け下りてくる影があった。

 

「やらせない!」

 

エルが疾風のごとく飛び出し、振動剣を一閃させる。敵ヒューマノイドの胴体が

両断され、火花を散らして崩れ落ちた。

だが、敵は無数にいた。砲撃で吹き飛ぶ者、瓦礫に潰される者

それでもなお、ミラルたちの行く手を阻む者。

まさに阿鼻叫喚、地獄の釜の底を這いずり回るような進軍だった。

 

「突破するぞ! レリはこの先だ! 一歩も止まるな!」

 

ミラルの叫びに、小隊全員が咆哮で応える。

ミラル自身も、右手の直刀、左手のナイフで敵を切り裂きながら進んだ。彼女の脳裏には、たった一人の少女の笑顔だけがあった。

 

(待っていろ、レリ。必ず助け出す!)

 

その頃、戦場の中心点にいたレリ・プロラの王家の銃の発砲が、ふつりと止んだ。

周囲の破壊は凄まじかったが、彼女の周囲だけは奇妙な静寂に包まれていた。

彼女の目の前には、空中に浮かぶ小さな影があった。

 

「レリ! 無事か!?」

「クー!」

 

レリは、幼馴染であるプログラム体の少年、クーの名を呼んだ。

クーは心配そうにレリの周囲を飛び回り、その小さな体を震わせている。

 

「まったく、無茶ばかりして!」

「ごめんね、クー。でも、私……」

「わかってるよ。レリの決意は固いんだろ? でも、無駄死にはさせない」

 

クーは両手を広げ、複雑な魔法陣を空中に描いた。

 

「不可視の天蓋(インビジブル・キャノピー)展開!」

 

光の粒子がレリを包み込むと、彼女の姿は周囲の景色に溶け込み、完全に消え失せた。

エザワイス軍のセンサーからも、上空の偵察カメラからも、彼女の反応は消失した。

 

「これで少しの間、あいつらの目をごまかせる。今のうちに移動しよう、レリ」

「うん、ありがとうクー。目指すは、ギエス総統のいるテラスよ」

 

レリは王家の銃を握り直し、瓦礫の中を走り出した。

クーはその背中を追いながら、悲痛な面持ちで見守っていた。

彼は知っていた。彼女が進む先には、破滅しかないことを。

それでも、彼女の意志を守るのが、彼の存在理由だった。

 

攻撃目標を見失ったエザワイス軍の砲撃が、一時的に止んだ。

その静寂の隙を突き、ミラルたちは爆心地へと駆け込んだ。

 

「レリ!」

 

瓦礫の山の向こうに、少女の姿が見えた。

不可視の天蓋を解き、再び姿を現したレリだ。

ミラルは転がるようにして彼女のもとへ駆け寄り、その細い体を強く抱きしめた。

 

「ミラル……?」

「よかった……無事だったか……!」

 

ミラルは、レリの肩を掴み、真剣な眼差しで訴えた。

 

「帰ろう、レリ。今すぐここを離脱するんだ。これ以上は危険すぎる!」

 

しかし、レリは静かに、だが力強く首を横に振った。

 

「ううん、ミラル。私は行かなきゃいけないの」

「何を言っている! この砲撃を見たろう?

レリ一人が背負う必要なんてないんだ!」

「これは責務じゃないわ。私が、私にしかできないことをするために行くの。

私が守れる人たちを守りたいから」

 

レリの瞳は、かつての無邪気な少女のものではなかった。

そこには、王族としての誇りと、一人の人間としての覚悟が宿っていた。

 

「そんな……あなたが犠牲になるなんて、私は耐えられない!」

「犠牲じゃないわ、ミラル。これは生きるためよ。

希望を明日につなぐために、私は行くの」

 

レリはミラルの手を握り返し、微笑んだ。

 

「エザワイス王女として、最後の命令を下します。親衛隊大佐ミラル・タギ」

「レリ……」

「ギエス総統のもとまで、血路を開いてください。

そして、私が総統と戦えるよう、援護を」

 

レリの言葉に、ミラルは息を飲んだ。そして、彼女の瞳の奥にある揺るぎない光を見て、悟った。止めることはできない、と。

ならば、共に地獄へ落ちるまで。

ミラルは片膝をつき、恭しく頭を垂れた。

 

「……御意。レリ王女の命、この命に代えても遂行いたします」

 

それは、女王に仕える騎士の誓いだった。

 

「行くぞ、第一小隊! 総統のテラスへ突入だ!」

 

ミラルの号令と共に、戦いは再開された。

ギエス総統の私室があるテラスへ続く道は、精鋭部隊で埋め尽くされていた。

だが、今のミラルたちには迷いがなかった。

 

「どけえええっ!」

 

サキが巨大な柱を引き抜き、敵の群れに投げつける。

アルとケイの連携射撃が、敵のセンサーを正確に破壊する。

ジェイとエルが前衛を切り開き、ミル・レイスが負傷を即座に修復する。

そして、その中央を、王家の銃を構えたレリと、彼女を守る盾となったミラルが疾走する。

それは、誰も止めることのできない、一条の閃光のような進撃だった。

 

一方、エザワイス軍総司令部では、異様な空気が流れていた。

レリの反応が消え、砲撃を停止してから数十分。

ギエス軍からの反撃が一向にないのだ。

 

「どうなっている? なぜ敵は撃ってこない?」

「罠か? 誘い込んでいるのかもしれん」

「しかし、このまま進軍を止めていては勝機を逃すぞ!」

 

司令官たちの議論は紛糾していた。モニターに映る戦場は静まり返り、

不気味な沈黙を守っている。

その様子を、国王カド・プロラは無言で見つめていた。

彼は、進軍停止の命令を黙認していた。

内心では、この停止を良しとしていたのだ。

 

(許してくれ……レリ)

 

カド・プロラは、玉座の肘掛けを強く握りしめた。

これは、つまり、すべての決着をたった一人の少女

レリ・プロラに託すということだ。

世界の命運を、か弱い肩に背負わせ、親である自分が安全な場所で待っている。

その事実に、王の心は引き裂かれそうだった。

だが、王として、彼は冷徹であらねばならなかった。

この作戦こそが、世界を救う唯一の道なのだと知っていたからだ。

 

そしてついに、レリとミラルたちは、ギエス総統のいるテラスへと到達した。

そこは、戦火の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

豪華な調度品が並ぶ広いテラス。その奥に、天幕が揺れている。

周囲には、まだ多数の守備隊アンドロイドが残っていたが、彼らは動こうとしなかった。まるで、何かに怯えるように。

 

「ギエス総統は……いないのか?」

 

ミラルが周囲を警戒しながら呟く。

だが、レリは真っ直ぐに天幕を見据えていた。

 

「いるわ。……感じる」

 

その時、天幕が内側から凍りつき、バリバリという音を立てて砕け散った。

現れたのは、かつて人間であったものの成れの果て。

ギエス総統。

だが、その姿は異様だった。皮膚は蒼白を通り越して透明になり、

血管の代わりに冷気が脈打っている。それには、吸収された部下たちの残滓があった。

彼が歩くたびに、床が大気中の水分を凍らせ、霜の花を咲かせていく。

 

「ようこそ、我が愛しき炎よ……」

 

総統の声は、風が吹きすさぶ音のように空虚で、冷たかった。

彼の輪郭が徐々に崩れ、渦を巻き始める。

人の形を捨て、全てを凍りつかせる意思を持つエネルギー体、

「氷結の渦」へと変貌していく。

 

「化け物か……!」

 

ミラルが呻く。

氷結の渦は、嘲笑うようにうねり、レリに向かって語りかけた。

 

「さあ、よこせ。その灼熱のエネルギーを。全て食い尽くしてやる」

 

渦の中心から、絶対零度の冷気が噴き出す。それは、死の宣告だった。

 

「世界を絶対無の闇へ落とし、永遠の平穏をくれてやる。

争いも、苦しみもない、静寂の世界だ。素晴らしいとは思わんか?」

「そんな世界、誰も求めていない!」

 

レリが叫ぶ。彼女の持つ王家の銃が、赤熱し、激しい光を放ち始めた。

 

「みんなが求めているのは、未来よ! 泣いたり、笑ったり、傷つきながらも、

より良い世界を築いていく……変化と流転のある世界が、私たちの望みよ!」

「愚かな。その変化こそが苦しみを生むのだ……ならば奪い取ってやる。

その熱を、希望ごと!」

 

氷結の渦が咆哮し、冷気の奔流を放った。

同時に、レリは王家の銃のトリガーを引いた。

 

ズガアアアアアン!!

 

灼熱のビームと絶対零度の冷気が衝突し、凄まじい衝撃波がテラスを吹き飛ばした。

ミラルたちは吹き飛ばされそうになるのを必死で耐えた。

これは、もはや人間が介入できる戦いではなかった。

世界の対極にある理の衝突だった。

 

「レリ!」

 

レリは一歩も引かずに撃ち続けていた。

だが、氷結の渦の力は強大だった。放たれた熱エネルギーさえも凍らせ

吸収しようとする。

レリの王家の銃が、悲鳴を上げるように軋んだ。

エネルギーの過負荷により、銃身が赤熱し、やがてドロドロと溶け始めたのだ。

 

「くくく……見ろ、その脆弱な器を。お前の力など、私の虚無の前では無力だ」

 

渦が嘲笑う。

銃が溶け、レリの手の中で金属の塊となっていく。

唯一の武器を失えば、終わりだ。

 

「レリ! 逃げろ!」

 

ミラルが絶叫し、自身の武器を構えて飛び出そうとした。

その時、レリが叫んだ。

 

「クー! 防炎の法球(ファイア・プロテクション・スフィア)を!」

 

「了解! 最大出力だ!!」

 

クーが空中に現れ、手足を大きく広げた。彼の小さな体から、目もくらむような魔力の光が溢れ出す。

 

「全ての厄災を拒絶し、聖なる炎を護りたまえ! 展開!」

 

ブォン!!

 

レリを中心として、巨大な球状の結界が出現した。

その結界は、物理法則を無視した拒絶の力を持っていた。

範囲内にいたミラルや第一小隊のメンバーは、弾き飛ばされ、結界の外へと放り出された。

結界の中に残ったのは、レリと、氷結の渦だけ。

 

「ぐっ……!」

 

地面に叩きつけられたミラルは、すぐに起き上がり、法球へと駆け寄った。

透明だが、鋼鉄よりも硬い魔力の壁がそこにあった。

 

「レリ! 開けてくれ! レリ!!」

 

サキが渾身の力で拳を叩きつけるが、傷一つ付かない。

ジェイが銃を撃ち込むが、弾丸は虚しく弾かれる。

この法球は、レリ自身のゲートとしての莫大なエネルギーによって強化されており、外部からの干渉を一切受け付けないのだ。

 

「やめろ……止めてくれ、レリ! 死ぬ気か!」

 

ミラルは法球を叩き、涙を流して叫んだ。

その声が届いたのか、法球の中のレリが、ゆっくりとこちらを向いた。

溶け落ちた銃を捨て、彼女は静かに微笑んでいた。

その唇が動く。

 

『ありがとう』

 

声は聞こえなかったが、ミラルには痛いほどにその言葉が伝わった。

それが、別れの言葉であることを理解してしまったから。

 

レリは再び氷結の渦に向き直った。

彼女は目を閉じ、心の中にある「鍵」に手をかけた。

今まで、自らの崩壊を防ぐために閉ざしていた、ゲートとしての最後の安全装置。

 

『後悔はないのだな?』

 

彼女の内なる声――灼熱のエネルギーの意思が問いかけた。それは、太古より存在する威厳ある響きだった。

 

「もちろん。これが、私の答えだから」

 

パキン。

 

心の中で、硬質な音が響いた。最後の掛け金が弾け飛ぶ音。

次の瞬間、レリの体から、太陽のごとき輝きが噴出した。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

レリの姿がかき消え、純粋なエネルギーの奔流、伝説の「エターナル・フレイム」が世界に顕現した。

それは、全てを焼き尽くす炎ではなく、生命の源とも言える暖かく、かつ圧倒的な力だった。

 

「なんだ、その力は!? よこせ! 全て私によこせえええ!」

 

氷結の渦が狂喜し、炎に襲いかかった。

狂った笑い声を上げながら、その全てを飲み込もうとする。

だが、エターナル・フレイムのエネルギーは、渦の許容量を遥かに超えていた。

 

「飲み込めない……!? 熱い、熱いぞおおお!」

 

法球の内部で、二つのエネルギーが衝突し、次々と大爆発が起こる。

外にいるミラルたちは、眩い閃光に目を覆うことしかできなかった。

無限とも思える灼熱のエネルギーは、容赦なく氷結の渦を内側から破壊していく。

 

「貴様ら……未来など……呪われてあれえええええ!!」

 

怨嗟の叫びを残し、氷結の渦は過剰なエネルギーに耐えきれず、閃光と共に爆散した。

法球の内部が真っ白に染まり、やがて静かに光が収束していく。

 

そして、防炎の法球そのものも、役割を終えたかのように粒子となって消えていった。

 

「レリ……?」

 

ミラルが恐る恐る目を開ける。

そこには、ガラス化した地面が広がっているだけだった。

氷結の渦も、そしてレリの姿も、どこにもなかった。

ただ、暖かい風だけが、呆然と立ち尽くすミラルたちの頬を撫でていった。

 

ギエス軍は、総統の消滅と共に統率を失い、敗走を始めていた。

だが、ミラルはその場から動くことができなかった。

勝利の歓声など、今の彼女には何の意味もなかった。

 

一方、エザワイス軍は、敵の敗走を見て猛然と追撃を開始した。勝利は確定的だった。

総司令官からの報告を受けた国王カド・プロラは、短く労いの言葉を述べると、自室に閉じこもった。

 

「……終わったのか」

 

王は窓の外、遠くの空を見つめた。

これは確かに、思い描いた通りの結末だ。国も、世界も救われた。

だが、その代償はあまりにも重かった。

我が子の分身、我が子と同様の存在を、この勝利のために利用し尽くし、

死地へと追いやった。

罪の意識と贖罪を求める心が、王の胸を締め付けた。

彼は膝をつき、誰にも見せぬ涙を流した。

 

       ***

 

それから、数ヶ月後。

 

ギエスとの戦争は終結し、エザワイス王国は復興の道を歩み始めていた。

ミラル・タギは、その功績により叙勲を受け、少将へと昇進を遂げていた。

新しい軍服に袖を通しても、彼女の心に空いた穴は塞がっていなかった。

脳裏に焼き付いているのは、あの最後の日の、レリの笑顔だけだ。

 

総司令部の執務室で、ミラルが窓の外を眺めていると、不意に背後で声がした。

 

「やあ、閣下。ご立派になられて」

「!?」

 

ミラルが振り返ると、そこには空中に浮かぶクーの姿があった。

 

「クー……! まだ存在していたのか?」

「ご挨拶だねえ。ボクだって不思議なんだよ」

 

クーはふざけた調子で肩をすくめた。

 

「レリの保護が目的のボクは、レリの消失と共に消えるはずだった。それなのに、まだ消えない。これってどういうことだと思う?」

 

ミラルが答えようとしたその時、王宮からの急使が部屋に飛び込んできた。

国王夫妻が呼んでいるという。

 

ミラルが急ぎ謁見の間へ向かうと、そこにはカド国王とビナ王妃が待っていた。

国王の表情は、以前のような苦悩に満ちたものではなく、どこか晴れやかだった。

 

「ミラル少将。急ではあるが、明日、重大な布告を行う」

「布告、でありますか?」

 

国王は頷き、王族の控え室の方を指し示した。

 

「会わせたい者がいる」

 

扉が開き、一人の少女が静かに入ってきた。

金色の髪、碧眼、そして可憐な容姿。

ミラルの目が大きく見開かれ、心臓が早鐘を打った。

あり得ない。彼女は、あの時、光となって消えたはずだ。

 

「……レリ?」

 

国王が厳かに告げた。

 

「我が娘、エザワイス王女、レリ・プロラである」

 

その少女――オリジナルのレリ・プロラは、ミラルの前まで進み出ると、優しく微笑んだ。

その笑顔は、あのレリと瓜二つだった。

 

「ミラルさん。あなたをよく知っています」

 

少女の声は澄んでいた。

 

「もう一人の私……彼女を通じて、いつもあなたと一緒にいました。あなたがどれほど彼女を大切にし、守ってくれたか。そして、最後まで尽くしてくれたか……心から感謝しています」

 

ミラルは呆然とした。目の前の少女の瞳の中に、確かに、共に戦ったあのレリの魂が見えた気がした。

二つの魂は、どこかで繋がっていたのだ。あの日、消えたのではなく、彼女の中に還ったのかもしれない。

 

「あ……ああ……」

 

言葉にならなかった。思わず抱きしめそうになり、ミラルは自制した。

彼女は跪き、震える手で王女の手を取った。そして、その甲に口づけをした。

 

「……再び、王女のために、この身を捧げます。我が剣は、あなたのものです」

 

それは、失われたものへの鎮魂であり、新たな希望への誓いだった。

 

「わあ! レリだ! 本物のレリだ!」

 

クーが突然実体化し、レリに飛びついた。

 

「会いたかったよー!」

「ふふ、クー。元気だった?」

 

王宮に、久々の明るい笑い声が響き渡った。

窓から差し込む光が、彼らを祝福するように包み込んでいた。

 

翌日、国王は奇跡の王女レリと、それを救った英雄ミラル・タギの名を国中に知らしめた。

エザワイスの、そして世界の復興の象徴として。

永遠の炎は、人々の心の中で、希望の灯火となって燃え続けるのだった。

 

エターナルフレイム (完)

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