エターナルフレイム   作:泰丸B

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夜の森の中、父も、母もなく、一人膝を抱えうずくまる。頼るものを失った少女は
 それでも、前へ進もうとするのか。それは、絶望の明日か、
 それとも、新たな試練の始まりか。


第5章 森の中で

とっぷりと日の落ちた森の中、

野生の鳥の鳴き声に混じり苦しげな人の息使いが響いている。

やがて、ザックを背負ったレリが走って来る。

前を照らすほのかな明かりが彼女の周りを飛んでいる。

もうかなりの距離を走ったらしく、つかれきった様子で、

足元もおぼつかなくなってきているようだ。

腕や、足にはたくさんの擦り傷、切り傷がある。

張り出していた木の根に思わずつまずき、倒れてしまった。

 

「わー!! レリ・・大丈夫?しっかりして」

明かりを灯していたクーが、人の形になって心配

げにレリの周りをふわふわ漂う。

レリは、倒れふしたまま苦しげに息をするのがやっとだった。

 

「もう・・・、走れないよ・・・。

もう・・・、動けないよ・・・。

今日のこの一日が悪夢なら、今すぐ覚めて・・・。

お母さん、・・・お父さん・・・。」

 

 

 あの時疾走する車から降ろされ、しばらく呆然としていた。

ほどなく離れた場所で閃光があり、爆発音が聞こえた。

そして、クーに急き立てられ、やっと立ち上がり

森の中を走りつづけてきたが、心の中は混乱の極みだった。

朝起き、畑で刈り入れをし家へ帰るまでは今までどうりだったのに

今はもう父も、母もいない一人ぽっち。

暗い森の中で、苦しげに倒れこんでいる自分だけだ。

レリは,千路に乱れる心の中で思っていた。

 

「あの兵隊たちはなに?

なぜ、私たちを追うの?なぜ命まで奪おうとするの?

父さんや、母さんはどうしたの?

又、会えるの?」

 

やがて、父ダクの言葉がよみがえってくる。

「私が王女?父さんや、母さんは本当の親ではなかった,

 

エザワイスの国王、王妃が本当の・・・?

・・・ほんとの私は・・・何?」

 

クーが心配げにのぞきこむ。

 

「レリ。大丈夫かい。どこか痛めたの?

僕の治療プログラムで治してあげるよ?」

 

 レリは、やっとの思いで身を起こし、木の根元に座り込んだ。

そして、クーを見つめてから、首を振り、

 

「ううん、そんな、痛くないし。」

「そう・・・よかった。どうしちゃったのか心配したよ。

・・・疲れたよね?ここで休もう。」

 

クーは、小さな体で精一杯レリに寄り添って、言った。

 

「ザックの中に、緊急キットがあるよ。水も食料もあるからそれを使って、あと

保温シートも。」

 レリは、肩からゆっくりとザックを降ろし、中の水で少しのどを潤した。

そして、これ以上自分の信じているものが、壊れてしまうのを恐れるかのように、

 クーを見つめためらいがちにたずねた。

 

「クー・・・あなたは変わってないよね?いつものとうり・・だよね?」

「うん、僕は変わってない、レリだって」

「私、・・・クー?」

「何?」

「小さいころからいっしょだった。知っていたんでしょ?

 ずっと前から、本当のこと・・・」

「うん」

「なぜ、話してくれなかったの、もっと早くに・・・。」

 

クーには、レリがいつか、こうたずねるだろう事は、ずっと前から分かっていた。

だけど、とクーは思う

 

  「僕は、プログラム体。だから、この秘密は、話せなかった。

   プロテクトが掛かっていたから。」

 

 クーはこう言うしかなかった。

 

「ごめんよ、でも僕には話せなかったんだ。

 だってそれは、ダク、や、ムメが話さなければならないことだったから。

 レリのお父さんや、お母さんから言ってもらうしかなかったんだ。

 でも、それが、レリをもっと苦しめることになって、本当にごめんよ」

 

レリは、今までの生活がすべて偽りで、ずっとだまされて生きてきたとは思いたくなかった。

でも、ついに、大きな声で叫んでしまった。

 

「いままでの、生活はみんなうそだったの?

 お父さんも、お母さんも、私をだまし続けていたの!」

 

レリの瞳からまた、大粒の涙が流れ落ちる。

レリは、うつむき嗚咽しながら小さな声で繰り返す。

 

「いやよ、こんなの、・・・。」

 

 クーは、そんなレリを見つめ続けていた。

今、レリにどんな言葉をかけられようか。

しかし、ここで、レリの心が崩れ落ちてしまうのだけは

何としても避けねばならなかった。

 レリの精神の保全、それがクーの最優先事項であり、

この事態において彼が存在している最大の理由だった。

クーは魔法プログラムの起動を準備し「癒しの紋章」を背後に結んだ。

しかし、発動させるのは、なんとしても避けたかった。

 クー自信でも分からない理由ではあったが、

レリ自身の力でこの苦難を乗り越えてえてほしかった。

それが、レリにとって辛いこととは分かっていたが・・・。

クーは言葉を続けるしかなかった。

 

「レリが、今まで生きてきた生活は、うそなんかじゃないよ。

 だって、その中で楽しいことや、大変なことや、びっくりするような事とか、

 大笑いするようなこともいっぱいあったじゃない?」

 

レリは、クーの言葉に少しだけうなずいていた。

 

「うん・・・。」

「そんな時の、ムメやダクの様子がみんなうそだと思うのかい?

 レリと同じように心に感じて笑ったり、怒ったり、

 泣いたりしたんじゃないかな。」

「母さんや、父さん・・・、一緒にわらったりしてた・・・。」

「レリを思う気持ちにうそなんか無かった・・・僕はそう信じているけど。」

「でも、父さんは、私に、だましてごめんって言ってた・・・。」

 

「・・・、レリを預かった始めは、命令だったかも知れない。

 でも、一緒に生きてきた長い年月は、それよりも

 もっと、重くて、大切で、かけがえの無い時間だったはずだよ。

 ムメやダクにとっても、レリにとっても。」

 

 レリは、最後に分かれた時の父ダクの顔、ムメの顔を思い出した。

思いつめ、レリをを必死に見つめていたその瞳を。

今までの、時間をその一瞬に凝縮したような、潤んだ瞳を。

レリは、理解できたと思った。

ムメ、ダクの苦しみと無念さを・・・。

 

「・・・ごめんなさい・・・、父さん母さん・・・私、

 信じられなくなってた・・・、あんなに必死で

 私を守ろうとしてくれたのに、ごめんなさい・・・。」

 

森の中の、闇と静けさの中にレリの小さな声が吸い込まれてゆく。

やがて、レリは泣きはらした顔を上げた。

 

「クー、ごめんね、私辛いこと聞いちゃったよね・・・。」

「ううん、そんなこと。レリのほうずっと辛くて大変だったんだから、僕なんて」

 

レリは、しばらく森の中を静かに眺めてから、クーに話しかけた。

 

「私、もう父さん、母さんには会えないよね・・・」

 

その時、クーは、自分自身がもうこれ以上耐えられないかもしれないと思った。

プログラム体が崩壊してしまうかもしれないと思った。

 

 レリが、クーに瞳を向けた。

悲しみと、混乱と、恐怖が渦巻くその瞳の底には、

それで、もなを家族を思いやる気持ちが、きらめいていた。

そして、クーに語りかけた。

 

「ありがとう、クー。いつも一緒にいてくれて、

 いつも励ましてくれて、・・・。ありがとう。」

その瞬間に、クーは大きな暖かいもので包まれたような感覚を覚えた。

そして、今、レリに自分が救われたことを知った。

「レリ、君は・・・。」

クーは、言葉もなく、レリの顔を、その澄んだブルーの瞳を

見つめることしか出来なかった。

 

森の夜は徐々に更けてゆく、その闇に全てを溶かし込むかのように。

 

ややあって、レリは再びクーに尋ねた。

 

「クーは、いつから私のそばにいたの?」

 

「うん・・・僕は、レリが生まれた後、養育用の魔法化護身プログラムとして作られたんだ。

 本体は今でもエザワイス王宮の地下深くにメモリーされてね。

 いつでもどこでもレリのそばにいるようにって、言われてるんだ。

 それは僕にとって大事なことで、

嬉しいことでもあるんだ。

 ・・・その、レリが・・・大切な人だから」

 

   言いながら、頬が火照ってきてしまう。

 

 お互い、目を見合わせているのが急に気恥ずかしく思えた。

 思わずレリも、頬を赤らめうつむいてしまった。

 

クーは、大切なことを思い出していた。

 

   レリに伝えるべき大事なことを

 

「・・・レリへのメッセージがあるんだ。

  ダク、ムメからと、

     国王夫妻から。

 

     ・・・見るかい?」

 

    クーは、やや心配そうにレリのほうを見る。

 

「うん、・・・見る・・・」

 

クーは、ザックの中から小さな体で

メモリーパックを取り出し起動させた。

3Dホログラムが浮かび上がり

解除コードの入力を要求する。

「このメッセージは、王室最高機密事項のため

 レリ王女しか開くことは出来ません。

 身分を証明してください」

クーが促す、

  「レリ、タッチパネルにさわって」

 

「DNAコード認証中・・・コードが特定されました。

レリ王女様と確認されました。メッセージを再生します」

 

 

     空間にダク、ムメの姿が現れた。

 

     レリは、思わず身を乗り出し、

     手を映像に向かって伸ばした。

 

      「父さん、母さん・・・」

 

「レリ様、このメッセージを御覧になっておられる時は、

 私たちはおそばにはいられないものと思います。

  私ダクと、ムメはレリ様の育ての親として、

 また盾の一員としてその使命を立派に果たし終えていると思います。

  今レリ様は、あるいはお一人かもしれませんが、

 私たちの仲間がいつもレリ様のため働き控えております。

 決してお一人ではありません。

 一刻も早く次の保護者の元へ急がれますよう」

 

「私ムメは、母親としてレリ様を慈しんでお育て出来たでしょうか。

 人の愛情をわすかでも注げたでしょうか。

 レリ様。これからは又別のものがお守りします。

 その者もきっとレリ様を大切に

 心をこめお守りするでしょう。」

 

画面消え、若い国王と后の姿が現れた。

 

「レリ、私がそなたの父、カド・プロラだ。

 このような形でしか話せないことを許しておくれ。

 

レリよ,お前を一人手放すのは

 心引き裂かれるようにつらく

  ・・・苦しい。

 

 しかし、このままでは、

 われわれもギエスの手に落ちるのは明らかだ。

 せめてお前だけでも逃げ延びておくれ。

  お前が世界の最後の希望の光だ。

  父の苦しいこの気持ちわかっておくれ。」

 

「私が母のビナよ。

 

    レリいま何才なの?

   どのくらいの大きさなの?

    辛くはないの?

    空腹ではないの?

    怪我なんかしてない?

   着るものに不自由してない?

 

  ああ・・・私が付いていて、あげられたなら・・・。

  あなたは強い子のはずよ。

  お願い、なんとかして生き抜いて」

 

「レリよ、お前も王家の一員、

 人々の心の支えなのだ、

 苦しいやも知れぬがその人たちの思いに

 報いねばならん。

 又再び、あの平和な国を取り戻すために。

 早く、次の保護者の元へたどり着くのだ。

 そして、その者の心の鍵を開き、

 ともに運命と戦うのだ。

 きっと又、会えると信じ、

 ビナとともに待っている」

 

 

   「メッセージ終了・・・」

 

画像は消え、レリは森の闇を見据えている。

 

  「レリ・・・」

 

  「クー、私、本当の父さん母さんに会う。

 

    それが、育ててくれた父さん、母さんのためだって思うから

 

     けど、まだ王女って・・・分からない。

 

     でも、ギエスに捕まるのはいや。

 

     ・・・父さん母さんのためにも

 

     私、その保護者って人に会う」

 

  「レリ・・。君ってやっぱり強いんだね。」

 

  「自分でもわかんないけど、

   ここで立ち止まっても何もならないから。

   だから、今は前へ進みたいの」

 

   レリの瞳に、希望の光・・・

  いやむしろ意志の炎が灯ったようだった。

 

「レリ。その保護者は 、エルカトにいるんだ。

 今はその能力の90パーセントを封印してるけど。」

 

「その人、人間じゃないの?」

 

「彼女は人間だよ、その力は人並みはずれて強力だけど。」

 

 

「女の人?」

 

「そうだよ、すっごい美人・・・

 レリも会えばその人だって分かるはずなんだ。

 でも最初は大変かも。

 彼女を起こせるのはレリだけだから。

 レリ自身が起動キーだから。

 

 でも・・・今は、少し休もうよ。

 

  僕の迷路結界でこの付近に

  誰も近づけないようにするから。・・・ね」

 

「・・・そうね。少し・・・やすむ・・・。」




いきなりの波乱万丈な、ヒロインの行方。追われて、逃げての連続ですが、何とか次への希望とつなげてゆきたいものです。
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