彼女こそ、君を守るにふさわしい戦士だよ——その言葉が、すべてを変えた。
ギエス警察部隊との名称を持ってはいるがその実、軍隊である。
警察行動を行うことが建前なのでこういった名称になっている。
敵は全て、犯罪者というわけだ。
そのギエス警察部隊の長官 ルゴル・ロタフは、
部隊司令室の中、革張りの椅子に腰掛け、
大柄な体で磨き上げられた大理石のテーブルにかがみ込み、
丸太のような腕を曲げ、
節くれだった指を組み
太く濃い眉を眉間に寄せ、
獰猛な目を光らせ、
憮然とした表情で
レリ・プロラ追跡捕獲チームからの
報告を受けていた。
「つまり、レリ王女は姿をくらましたと、言うことだな。」
太く、粗野な声だ。
通信機画面の中の相手は、動揺した様子で
「はっ。なにぶん大変強力なやつが警護についていたようで
チームの60%を消耗し、追跡も困難を極めまして」
「うるさいっ!!!
それを見越して十分な装備と
兵力を投下したはずぞ。
それを、みすみす
うらをかかれおって。」
司令室の仕官たちも青ざめてくる。
「申し訳ありません。この失敗は必ず取り返して・・・」
「当たり前だ!!ばか者!!」
マイクも割れそうな大声だ。
「ともかく、子供のことだ、それほど遠くには行けまい。
近辺の町を徹底的に洗うのだ。いいな」
「はっ。直ちに実行いたします。閣下」
「以上だ」
通信が切れ、ルゴルは壁をにらんでいる。
「愚か者め。逃げられおって」
部屋の秘書官が、来室者の入室許可を求めている。
警察部隊副長官 ニトス・パゴレ。 レリ・プロラ追跡捕獲チーム人員補充の件
「入れ、ニトス」
長身に、赤毛をなびかせ、特別オーダーの制服をびしっと着こなし、
モデルも真っ青の美人である。
突き出た胸を誇示するように、優雅に歩を進めながら、
「捕獲部隊からの報告ですか?」
美しい顔立ちだが、その目は冷ややかだ。
「ふん!補充計画は出来たのか?」
「今回の失敗は、連中のせいばかりでも無いようでうすが?
ルゴル長官?」
そう言いながら、手にしたファイルを差し出す。
半ば、いまいましげに睨み返しながら受け取り、目を通す。
「戦闘用ヒューマノイド製造投入計画だと?
ニトス、これは何だ
部隊の兵員の補充を命じたはずだぞ」
「長官、現在、全土に起こっているゲリラの
鎮圧掃討作戦で大部分の人員が
駆り出されています。
補充にまわせる予備兵などおりませんわ」
「そこを、何とかするのがお前の・・・」
「無理ですわっ」
しばしにらみ合う。
さながら美女と野獣。
ルゴルはにんまり笑い、
「どうするつもりだ?出来ませんとなきをいれるか・・・?ん?」
好色そうな目で突き出た胸元を眺め回す
「あなたの、不足している想像力を補うのが
私の任務ですわ。」
「いけすかん、女だな。
以前行った機械人形の実験は失敗したはずだぞ」
「エザワイスで入手したものの中に、
戦闘ヒューマノイドのデーターが有ったのです。
今や、その解析は終了し実用段階に入りましたわ。
一体で、兵員100名分の働きを期待できますわ」
「しかし、所詮操り人形だろう?」
「知的レベルは、人間並みあるいはそれ以上かも。
あなたよりましかも?」
「言葉が過ぎるぞ、ニトス!」
「そのファイルに、内務大臣の指示がありますわ。
ギエス総督も関心を寄せておられるとか」
「・・・。総督までがな。」
「これで、失礼いたしますわ、閣下」
踵を返し、退出するヒップについつい目が行ってしまう。
「生意気な、貴族娘め。いつか泣きを見させてやるわい。」
森の中の野宿の後、レリとクーは、エルカトへと向かった。
未開地最大の町エルカトは、大陸の西北部にあり、
広大な森林地帯の中に忽然とある砦のような町だ。
城壁のような壁が町のぐるりを取り囲んでいる。
大きな木製の門があるが開いたままで、
長年風雨にさらされ
苔生し
半ば土に返っているみたいだ。
街路は狭いところが多く、舗装はなく、
年季の入った石造りの建物が並んでおり、
日陰には、湿った地面が露出している。
至る所に行く当てのない人々がうずくまり、
物乞いをしているが、この町で施しなんてあるのか?
住民は、まともな世界ではうまく暮らせなかったり、
落伍したり、あるいは、お尋ね者だったりと、
およそ普通の市民とは言いがたい連中がほとんどだが
しかし、それはかえって身を潜めるには好都合ともいえる。
レリがたどり着いたころは、そろそろ日も傾きかけた夕暮れ時だった。
こんな町へ、クーの魔法化プログラムの保護があるといえ
少女が一人入るのは、あまりに危険ではないか。
しかし、なんとしても行かねばならなかった。
外套を深くかぶり、ザックを背に腰を折ると
一見、年寄りのように見える。
声をかけるものもない。
この町の住人は他人には無関心、
むしろ警戒している。
レリは、非実体化したクーの案内ここまで来たのだが
・・・探す相手はどこに・・・?
「会えば分かるって・・・?」
いきなり、前方の酒場の入り口から、人が蹴り出され
道端の水溜りに、ころがり倒れこむ。
酒場の店主らしき男が怒鳴る。
「この、薄汚い乞食野朗!
そいつを持って、さっさと失せろ。
汚れきったぼろをまとったその人物が、もそもそ動き出した。
手には、中でめぐまれた古く硬くなったパンを握り締めて、
おぼつかない足取りで路地へ入って行くが、
そのときちらっと
顔が見えた。
レリは、思わずひき込まれる様にして後をつけていくと、
その人は、路地の奥の壁の穴のようは場所へ入っていった。
恐る恐る覗き込んでみると、それは、背を向け
さっきのパンにがつがつかじりついている。
中は、狭く長年過ごした痕跡があり
それにしても汚い。
異臭が鼻を突き、
どこを触っても油じみた汚れが
染み付きそうだ。
「この人が・・・? 本当??」
そのとき、それが不意に振り返えり
目が・・・合った。
汚れにまみれてはいるが、
意外と若く整った顔立ちで
・・・やはり女のようだ。
パンを抱え込み、恐れと
警戒の表情を浮かべ、じたばたと
隅へ行こうとするが、
しかし、目は、
深く澄んだ輝きを宿していた。
レリは、思わず一歩踏み出した。
「お願い、怖がらないで
大丈夫よ。
そのパン取ったりしないから」
その女も、レリの瞳を見つめ返し、
そして、ゆっくりうなずくと
おとなしくなった。
やがて、顔を上げ
じっとレリを見つめ
そして、目を閉じた。
レリは、自らも分からない衝動に駆られ
その額に手を触れた。
しばらくすると、
彼女は目を開いた。
瞳は輝きを増し、
表情はなにか確固としたものが
現れてきたようだ。
しかし、その女は、突然悲鳴を上げた。
「きゃーっ。ああ・・・・。
あああああああー!!」
次の瞬間突然立ち上がり、
手足を引きつらせ、
恐ろしい幻覚を見ているかのようにに
悲鳴を上げ続け、
自らを抱え込むようにして倒れ、
苦しげに、のた打ち回り、
床を引っかき、
はいつくばり
自らの体を打ち据え
苦しげに、
衣類を引き裂こうとする。
恐ろしい発作を見ているようだ。
あまりの光景に、レリは言葉を失い
凍りついたように立ちつくした。
女は、大きくのぞけり
最後に、
「ああー・・・!!」
と叫び、気を失い倒れ付した。
衣類はあちこち裂け
汚れにまみれた肢体が
あらわになっている。
レリが我に返り、クーを呼び出す。
「大変だったね。レリ」
レリは、まだ彼女を凝視したまま
「この人、大丈夫・・・?
本当にこの人なの?」
「うん、彼女能力の90%封印してたんだ。
それで、記憶も全て失っていたんだけど
レリとの接触で全ての封印が解けたんだ。
自分を取り戻すため
全ての記憶を追体験するんだけど
・・・彼女の記憶は
悲惨な部分が有るみたいで。
もう一度、
苦しみを味わったみたいだね。」
「そんな・・・、可愛そう・・・。
あんなに苦しんで。」
「でも、それも彼女の使命。」
「・・・・・・」
倒れこんでいた女にレリが近寄ろうとすると
意識を取り戻したようだ。
ゆっくり身を起こし、
レリに向かいひざまずき
顔を上げる。
そこには先ほどまでの、
哀れな人間はいなかった。
端整な美しい顔立ち、
強い意志と力を秘めた目。
愚鈍さなど微塵もない
戦士がそこにいた。
「彼女こそ、君を守るにふさわしい戦士だよ」
女が声をかける
「レリ・プロラ王女ですね。
お越しをお待ちしておりました。
父君カド国王より
あなた様の警護を命ぜられました。
私は、エザワイス王室親衛隊大佐
ミラル・タギ。
命に代えてお守りいたします」
レリは、驚きの表情を浮かべ、
「待っていたって。
一体いつからここで・・・?」
「王国崩壊後からです。」
「じゃあ・・・、
ここで・・・何年も・・・!!」
レリは、改めて周りをみまわした。
牢獄よりひどいこの部屋を。
レリは、ミラルをじっと見つめた。
「・・・ごめんなさい・・
私のために・・
こんなひどいとこで」
レリはミラルに駆け寄り抱きついた。
ミラルはとまっどった。
「レリ様、汚れが付きます。
私はただ・・・」
「いいの、構わない、
・・・本当は・・・
嬉しかったの、
・・・ごめんなさい。」
「今まで、怖かったの。
そして寂しかった。・・・
父さん、母さんと別れてから。
あなたに会いたかった
・・・たった一人
頼れる人だと聞いたから。」
その胸は、汗と、汚れにまみれていたが、
レリは、かまわす顔を埋める。
悲しみ、
苦しみ、
恐怖を
洗い流そうと、
小さな胸を振るわせながら。
涙が止まらなかった。
ミラルは、理解した。
少女は、この小さな体で
耐えがたい思いをし、
ここにたどり着いたことを。
そして、・・・そっと手を回し
・・・レリを抱きとめた。
とんでもない人物が戦士だと告げられたヒロイン。しかし、この二人は困難な道を手を携えて歩んでゆく・・・はずですが。