銀狼哀歌 AS   作:LR44(ゆっくり)

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【Tips】拙作において、『魔法』と『魔術』には明確な違いが存在する。
    魔法は、魔力というリソースを用いて世界を改変する術技。物理法則を逸脱した現象を起こせる代わりに、相応に魔力消費が重い。
    魔術は、魔力を媒介に物理現象を発生させる術技。物理法則の範囲内の現象しか起こせない代わりに、魔力の消費が軽い。
    尚、頻繁に名前が登場している『妖術』は、“既に発生している物理現象の利用”に長け、“魔力以外のリソースを支払う事で効果を強力にする手法”を有する、魔術の亜種である。



この手を差し伸べ、つかんで握る

 

「本当にフブキで良かったのか? 手加減が必要、って事ならお前が一番()()出来るだろ?」

 

 協会に併設された訓練所。その端にて瑞樹は石玆に問いを投げかける。

 かなたの症状を解決するために、フブキと模擬戦を行うという、一見すると何を言っているのかよく分からない状況。

 しかし、石玆にはしっかりとした考えがあるようで。

 

「ああ。今の天音くんは()()()()()()使()()()()()()()()()()状態だからね」

「自分の身体の使い方が分かってないって、どういう事なのら?」

「白上くんも話していたが、この手の状態は本来感覚的に切り替えれるものなんだよ」

 

 石玆にそう言われ、フブキが黒上との切り替えを感覚的に行っていると話していた事を思い出す。

 感覚的に切り替えれるフブキと、切り替え方が分からないかなた。前者が異常なのかと思っていた所、どうやら後者の方が異常だったらしい。

 

「じゃあ、何でかなたは元に戻れなくなってるのさ?」

所謂(いわゆる)イップスって奴だね。今まで出来てた事が急に出来なくなる症状。

 天音くんはそれも併発してる状態なんだよね。魔力回路の扱い方が分からなくなってる訳さ」

「それで、模擬戦で思い出させよう。って事か

 完全封殺するタイプな俺じゃダメな理由は分かったが……石玆でも、常闇や姫森でもダメな理由はまだ分からないぞ?」

 

 瑞樹の普段の戦い方は、相手に()()する隙を与えず一撃で命を刈り取るもの。“死んでも死なない”特殊な状況であるホロライブ学園のバトロワ以外では、模擬戦など出来たものじゃない戦い方である。

 かといってE.G.O(切り札)を切った場合はと言うと。彼の能力である“反粒子の生成”とは、即ち“すべての異能の否定”と同義であり。どちらにせよ、今回の状況には相応しくない訳である。

 

「僕じゃダメな理由は単純に、初見の相手だからってだけだね。

 今の天音くんに、相手の戦い方を探りながら戦う余力なんてないだろう?」

 

 あくまで、戦いを通して不調を解決するのが目的なのであって、一方的に蹂躙してしまっては仕方がない。と石玆は語る。

 石玆の方が手加減に向いているものの……ここの二人は、初見殺し性能が高い事に変わりは無いのだ。

 

「それで、残った3人の中で白上くんを選んだ理由だがね。天音くんにとって()()()()()になるんだよね」

「格上、ね。常闇や姫森じゃダメな理由は、ほぼ同格だから。って事か」

「そうだね。必死になった方が改善しやすいんじゃないか。って仮説があるんだよね」

 

 3人も学園の生徒(ホロラバにおいて)の中でも上(は、ホロメン=強)位の実力者(いの式が成立する)である事は確実なのだが、学園最強(本編終了後)の一角が(のメインキ)相手では(ャラなので)、流石に(他のホロメ)分が悪い(ンとは別格)と言わざるを得ない。

 特に、フブキの()()についてよく知っている石玆にとっては、その差はより顕著に表れて見えたことだろう。

 

「っと、二人とも準備が整ったみたいだよ」

 

 石玆のその言葉を受け訓練所の中央を見ると、二人は準備万端。いつでも始められると言わんばかりの様子であった。

 片や不調で、覚えたばかりの【闇魔法】が武器。片や万全で、そもそもが格上。結果はどうなるか火を見るよりも明らかだが……この模擬戦で何か()()()()()()見られそうだと。そんな予感が瑞樹の中には確かに存在していた。

 

 ◇

 

「《闇弾》っ!」

 

 戦いの火蓋は、かなたが放った一発の魔法によって切って落とされた。

 【闇魔法】の中でも基礎中の基礎に当たる、闇属性のエネルギー弾を射出する魔法。

 本人の才覚と合わさって、それなりの性能にはなっているが――

 

「せいっ!」

 

 使い慣れた術ではないために、フブキが持つ刀によって容易に斬り落とされてしまう。

 試しにもう2度3度と放つも、先ほどの焼き増しの様に斬り落とされる。

 

「使い慣れて無いから……精度が低いッ」

「だね。普段通りの《光弾》だったら、何発かは貰ってたと思うよ」

 

 普段から使い慣れている【光魔法】ならいざ知らず。低位の【闇魔法】では牽制程度にしかならず。

 肉弾戦を挑むにしても、普段は【光魔法】でバフをかけていたためそれが使えない現状では分が悪い。

 故にどう動くか決めあぐね。フブキもその状況を正しく理解し、かなたの出方を待つ静寂の時間がしばし続き。

 

「じゃあ、来ないならこっちから行くよ。《口寄せ(来て)》、クダギツネ」

 

 その静寂を破ったのは、フブキの一言。

 《口寄せ》――事前に物品との間に“繫がり”を作っておくことで、その物品を瞬時に手元に呼び出す、妖術の基礎。

 それを用いて呼び出された竹筒から出てきたのは、細長い浮遊する狐。

 フブキが使役する式神(シキガミ)の、クダギツネである。

 そして――

 

口寄せ(エンチャント)、『重型大槌・三式』!」

 

 クダギツネが刀に憑依した瞬間、刀が大槌へと変化する。

 フブキが持つ独自術式(オリジナル)が一つ、口寄せ(エンチャント)は、『クダギツネの憑依』という制約を付ける代わりに、非常に軽い消費で使えるように改良された、特殊な《口寄せ》の術式である。*1

 

「っ、それって確か!」

「“術式起動”。さて、行くよ」

 

とは言え、使われたのが独自術式だからと言えど、所詮は使い勝手を良くしただけの補助術。戦況には大した影響は無く。

むしろ、 かなたにとって一番の問題は、フブキが呼び出した武器にあるのだ。

 

 『重型大槌・三式』。“灰熊工房”*2と“ナミール工房”*3の合作で。

 重力操作を利用して、ある程度自由に重量を操作できる機能を備えた優秀な大槌(ハンマー)であるのだ。

 

 振り上げる時は軽く、振り下ろすときは重く。適切な重量操作によって、常識を逸した軌道を描く大槌は、耳をつんざく轟音と共に地面にたたきつけられた

 

「《模倣:大地激震(アースクエイク)》!」

不味(まず)っ!」

 

 かなたが翼を広げ、空へ避難した時には時すでに遅し。

 大地を揺らす衝撃波と、それによって打ちあがった石礫が。絶大なる威力を有しかなたへと襲い掛かった。

 

 《大地激震(アースクエイク)》。ホロライブ学園においては白銀ノエルが愛用している、地面を思い切り殴り、その衝撃を利用して広範囲攻撃を行う術技。

 あくまで《模倣》であるため、劣化コピーに過ぎないのだが……工房武器による後押しもあり、その威力はもはやオリジナルに匹敵するレベルであった。

 

「痛た……」

 

 結果として、かなたは訓練所の壁へと叩きつけられ。

 痛みに顔を歪めながら目を開くと……そこにフブキの姿はあらず。

 

「どっ、どこに――」

「こっちだよ、かなたん」

 

 声が聞こえた方――上空を見上げると、そこにいるのは長槍を手に持ったフブキ。

 狐の跳躍力は凄まじいと言うが、どうやらそれは()()()にも当てはまるようで。口寄せ(エンチャント)で呼び出した槍に太陽光が反射して、まるで後光のように煌いていた。

 

「『過式長槍・肆式』……だったっけ?」

「この間壊れて修理したから、今は『伍式』だね。まあ、大した違いは無いけど……さっ!」

 

 フブキはそう言いながら槍を上へと放り、自身も空中で上下反転するように半回転する。

 

 『過式長槍・伍式』。“灰熊工房”と“アラス工房”*4の合作で作られた槍で。

 任意のタイミングで“加速”できる機能と、一定の速度を超えると破壊力が増す(過速)機能を備えた長槍となっている。

 

「なんちゃって、蹴り穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)ッ!!」

 

 そんな逸品を、フブキは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 かつての愛槍への名付け(跳ね穿つ狐の槍)からも分かるように、某運命の物語(Fa●e)における槍兵の真似事である。

 とは言え、その身体能力から繰り出される一撃は、見様見真似だとしても凄まじい勢いであり。

 

まずっ、【闇壁】(壁ぇ)ぇっ!!」

 

 かなたがやぶれかぶれで使った、壁を作り出す闇魔法を貫き。

 蹴り飛ばされた槍はかなたの脇腹を掠め、訓練所の外壁へと突き刺さった。

 

「いってて……やっぱり低級の術じゃぁ、基礎出力が足りないかぁ」

「授業で言ってた、『いきなり使う属性を変えた時に起こる失敗』そのまんまだね。

 調整されて無い低級術を、調整された威力感で使っちゃうって」

「そうだよね……とは言え、【闇魔法】の高位術なんて全く知らないし……あっ!」

 

 普段との感覚の違いをぼやいていると……突然()()を思い出した雰囲気のかなた。

 その直後に構築し始めた魔法を見るに、かなり高位の魔法を思い出したようで。フブキはワクワクした表情を浮かべる。

 

「いいねぇ、かなたん。打ってきなよ。しっかり受け止めるからさ」

「じゃあ……遠慮なくっ!!」

 

 慣れない魔法が故に、実戦ではまず役に立たないほど術式構築に時間がかかっているが……そんなの知った事かと、フブキは両手を広げ待ち構える。

 その様子からは、何が起こるか楽しみな雰囲気が目に見えて読み取れた。

 

 そして、ついに術式が完成する。

 

「行っけぇぇっ!! 《常闇ノ黒球》っ!!!」

「ちょっ! それは流石にマズ――」

 

《常闇ノ黒球》、常闇トワが得意とする『全てを飲み込む黒球を生み出す』【闇魔法】。

 常闇トワという人間([魔族])を象徴する魔法として知られているソレが、無抵抗の白上フブキへと直撃した……が。

 

「って、あれ? そんな、痛く無い……?」

「うっそぉ、無傷!? 直撃したのに!?」

 

 2人は、想像よりも威力が無かった事に驚愕の表情を浮かべる。

 発生させた被害は、軽く見積もっても普段見る“ソレ”の百分の一以下。

 一体どういう事が分からず、立ち尽くしていると、観客から声が上がった。

 

「ごめん、それトワに合わせた独自術式だから、他の人が使っても強くないの!」

「うっそぉ!? 僕、これしか高位の術式知らないんだけど!?」

 

 魔力回路は人によって異なっており、適性のある属性や術式が異なっている。

 《常闇ノ黒球》は常闇トワの魔力回路に合わせてチューニングされた独自術式であり、他人が使っても十分な効果を発揮しない。という訳である

 

 と、このタイミングで観客席から声がかかる。

 

「う〜ん、余り良い兆候は見えないね。フブキくん、一発全力で攻撃してみて貰ってもいいかい?」

「いいんですか? 正直、今のかなたんだと大怪我じゃ済まないと思いますけど……?」

「ああ。常駐の回復術師がいるし、万が一のときは僕の権限でK社のアンプルを持ち出すからね」

「じゃあ、そういう事なら……」

 

 このままではいい結果は得られそうに無いと思った石玆の頼みを、渋々といった雰囲気で引き受けたフブキは、《口寄せ》で呼び戻した刀を、腰溜めに構える。

 その刀に、光の輪が3つ巻き付いたのを見た途端、観客にどよめきが走った。

 

「三(まん)……」

 

 望、『“気”とか“オーラ”とかみたいな物を纏って、身体能力を強化する()()』である(しん)の応用で、これを使った状態での攻撃威力を大幅に引き上げるもの。

 練度が上がるほど一度に展開できる数が増え、三本ともなるとかなりの実力者にあたるのだ。

 

 つまりはそれ程本気の一撃と言う事であり。

 万が一、億が一にもあり得ないだろうが、フブキが手加減を誤れば大怪我では済まないという事であるのだ。

 

「《霜刃柱(しもばしら)》!」

 

 そうして放たれたのは、『氷の刃を飛ばす』フブキの得意技。

 喰らえばひとたまりもない事は、ソレが放つ威圧感からも一目瞭然であり。

 かなたは、ヤケクソ気味に叫ぶのであった。

 

「あぁ、もう。どうにでもなれぇぇぇぇっ!!」

 

*1
《口寄せ》には、物品の質量や重量、転総距離が大きくなるほど、指数関数的に消費が大きくなる。という欠点が存在する

*2
拙作のオリジナル工房。特色フィクサー【灰の鉄腕】によるワンオペ工房で、その気になればS級工房に匹敵する銘品を作れるヤバい所

*3
プロムン原作に登場する工房。G社特異点を利用した、重力を操る装備を作る

*4
プロムン原作に登場する工房。物体を加速させる技術を持っている……? 情報不足により、詳細不明





 やっぱり、戦闘シーンを書くのは楽しいですね。
 思ったより筆が乗って、文量が膨れちゃいました。(実は、戦闘終了まで今話で描く予定だった)

【Tips】拙作における白上フブキのスペックは、ルイナ(Library of Ruina)で例えると『“紫の涙”と“シャオ”を足したような性能』をしてる。
    本編ではメインヒロインを張っていた事もあり、“別格”の一人である。
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