兄妹共に仲良し殺し~伝説の殺し屋に憧れた俺、妹に仕事を奪われる~   作:新田トニー

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第11話

「やめろ!やめてくれ!」

 

 一は汗を拭き出しながら、目をカッと見開いて叫んだ。だがそこには頭を吹き飛ばされた愛海の姿は無く、寝室の天井が一の視界に映っていた。

 

「あ……?」

 

 一は最初こそ戸惑ったものの、すぐに今まで見ていた出来事は悪夢であると知った。

 そして、一がいつものやけ酒をした後、愛海が彼の寝室に運んだ事を。

 

「夢、ね」

 

時刻は既に8時を周っていた。

 

 一は寝室から出るとテーブルの上に目玉焼きとベーコンと緑と赤の野菜が乗っているラッピングされた皿があるのを見つけた。

 

 表面を触ってみると、まだ熱は死んでおらず、仄かに温かい。そしてその皿の隣にはメモ用紙が遺されていた。そこにはこう書かれていた。

 

「酒を飲むのもほどほどに……か」

 

 愛海は既に学校へと向かっていた。

 一は愛海が用意してくれた朝食を食べ、空にした皿を自分で洗った。

 そのあとはソファーの上に横になりながら呆っとしていた。スマートフォンの画面を惰性でスクロールしていた。

 

「小学校の体育教師の殺人20万、安すぎる。却下。浮気した彼氏の誘拐拷問、そして殺害で100万、面倒で手間がかかる上に安い。却下。金を持ち逃げした立ちんぼ女誘拐400万、気に入らねぇ、却下。どれもこれもブロンズかシルバークラスの仕事じゃねぇか。この俺をなめてんじゃねーぞ」

「そもそも殺しの依頼多すぎだろ。世の中どんだけ殺伐としてんだよ。命は大切にしろよバカ共」

 

 一は愚痴を零しながら殺しの依頼の電子メールの一覧を見ていた。

 

 しかし、一の御眼鏡に適う依頼は無く、今日は適当に夜になるまで外をブラブラしてしまおうか、と考えていると、一つの依頼が彼の目に留まった。

 

「大企業のCEO殺害で2000万……まぁまぁだな」

 

 一は起き上がり、やる気を見せた。

 思い立ったが吉日、一はすぐに行動に移す。シャワーで身体を清め、白のワイシャツと紺色のスーツを着用し、家を後にした。

 

 家からそう遠くない倉庫に入ると、自分の所有物であるコンテナの中に入り、地下の隠し部屋から自動拳銃二丁、散弾銃一丁、手榴弾二個、そして予備の弾薬であるマガジンを複数個携帯して依頼対象の元へ向かって行った。

 

 目的地に到着した一は暫しターゲットがいる建物を隣の建物の屋上から観察していた。

 

「…結構人数が多いな」

 

 双眼鏡で建物内を観察していた一はため息交じりに言葉を零す。

 ターゲットの居る建物は高層ビルであり、非戦闘員である一般市民と戦闘員のボディガード達を含めて何百人と居た。

 

 基本的なルールとして、一が所属する殺し屋の連合組合はボディーガードはルールの範疇だが、依頼対象以外の一般市民の殺しは禁じている。

 

 もしそのルールを侵せば減点、降格、最悪の場合永久追放、または抹殺である。

 

 仮に追放されれば組合に所属しない非正規の殺し屋に身を落とし、武器である銃や弾薬の調達、警察の捜査妨害、遺体のクリーニングサービスなど、連合組合のあらゆるサービスが使えなくなる。

 

 それは殺し屋にとって死活問題であり、そうなった場合、殺し屋として仕事をすることが極端に難しくなるため、実質的な引退を強いられることになる。それを避けるためにも、ターゲット以外の殺しは基本避けなければならない。

 

 長距離狙撃による暗殺、という手もあるが、一はこの殺害方法をあまり得意としていない。確実にターゲットを殺すには建物内に入るしかない。

 

「あのー」

 

 一がどうやってターゲットに近づこうが思案していると、彼の後ろから女の声が聞こえた。一は声がした次の瞬間バッと後ろを振り返り、懐に隠した拳銃のホルスターに手を掛けた。

 

「あーあー待ってお兄さん。あたし達同業者。敵じゃないよ」

 

 一の背後には二人の女がいた。

 

 一に声を掛けたのは両手を上げて降参のポーズを取る金髪で茶色の革ジャンと青のジーパンを履いた派手な服を着た女、首には黒のチョーカーを付けていた。

 もう一人は藍と白を基調とした学生服を着た長めの黒髪で黒縁の眼鏡を掛けた女だった。黒髪の女は一に拳銃を向けていた。

 

「お前ら何者だ」

「いや、だから同業者だって。殺し屋!」

「良子ちゃん。そんな大声で言っちゃだめだよ。誰が聞いてるか分からないから……」

「綾は細かい事ばっか気にし過ぎ。リラックスしなよリラックス」

 

 お互いを良子と綾と呼んだ二人組の女達は慣れ親しんだ砕けた口調で話す。一は最初は警戒をしていたものの、彼女等の顔と姿を見て目を少し見開いて何かを思い出した。

 

「金髪のギャルと黒髪JKの二人組…お前ら、雷我姉妹か」

「おっ?お兄さんあたし達の事知ってんの?私達結構有名なのかな!?」

「デビューしてから五年でゴールドクラスまで到達した才能あふれるうら若き女殺し屋コンビ。音に聞いてはいたが実物をこうして目にすると、未だ信じられないな」

 

 一は才能という言葉に自分の心臓に小さな針が刺さったような痛みを感じた。彼女達は一よりも若く、そして彼よりも早く自分と同じゴールドクラスになった天才。

 

 今の自分と比べるとそれがとても羨ましく感じ、それを否定するべく彼女達の目的を聞くことにした。

 

「何故俺の所に来た?悪いが今俺は仕事中でな、プリクラを撮る時間はないんだ」

「……?なんでプリクラを撮るの?」

 

 綾が首を傾げながら一に聞いた。

 

「……じゃあこう言い換えよう。俺はお前らと一緒にタピオカを飲んでインスタに上げるヒマはないんだよ」

「いや、タピオカってすっごい古くない?お兄さんってよりおじさんかな?」

「流石に流行に後れ過ぎ」

「あぁもう!うるせぇな!ジョークだよジョーク!お子様達には伝わらなかったかな!?そもそもそんなことどうでもいいんだ!お前ら何しにここに来たんだよ!?」

 

 女子高生に流行の遅れを指摘され、彼なりの冗談も通用せずにいたたまれなくなった一は屋上の上で叫ぶなり銃を彼女達に向けた。

 すると綾もそれに呼応するかのように一に拳銃を向けて構えた。

 

「貴方が撃つ前に私があなたの眉間に穴を開けますよ」

「そうか。なら俺はお前の両眼玉に鉛玉をぶち込んでレーシック手術してやるよ。風通しを良くしなきゃな」

「ちょちょちょ!からかったのは悪かったから銃は向けないでよ!何も意地悪しに来たり殺そうとしに来たわけじゃないんだから!」

 

 良子は一に弁明するように両手を上げながら懸命に喋った。

 

「お兄さん、いやフェイスレス、私達と一時同盟を結ばない?」

「……話だけは聞いてやる」

 

 一は銃口を二人に向けつつ、「ほら、言えよ」と言って耳を彼女達に傾ける。

 

「本当はもっと楽しくお喋りしたいけど時間もないし手短に話すね。私達とアンタは同じ依頼を受けてるの」

「依頼内容は見た。複数の業者に依頼する場合もあり。それはつまり早い者勝ちという意味だ。お前らは自分が報酬を得るためにハイエナみたいにタイミングを見計らって俺を殺そうとしてる。違うか?」

「ハイ残念違います。お兄さんは探偵に向いてないね。殺し屋が性に合ってるよ。第一もしそれが目的だったとしたらお兄さんもうウチらに殺されてるから……いや違う違う!挑発するつもりじゃあないんだよ!?とにかく!あたし達とお兄さんで、あのビルの中にいる対象を処理しようってこと。報酬は山分けにね」

「なんで俺がお前らと協力して金を半分こなんかしなくちゃいけないんだ?俺は一人でやれるぞ」

「でもお兄さん、一人で行ったらちょっと手こずるよね?だからこんなビルの屋上に上って観察なんかしてるわけじゃん」

「違う。ちょうど作戦を考えていただけだ。それより喧嘩売ってるのか?なんなら買うぜ?」

「少しは紳士らしく振る舞えないの?私達と一緒に協力すれば、無傷で、しかもかなりらくーに依頼を達成できる。私達、腕にはかなり自信があるんだ」

 

 一は良子の提案を聞いて黙り込んだ。完全に無下には出来なかった。

 彼女達の言い分には納得出来る部分があったからだ。あのビルの中にいる暗殺対象の報酬は2000万円。

 

当たり前だが、依頼報酬が高ければ高い程その分達成難易度も跳ね上がる。

 一は依頼内容を読んでいる中で、ある一文を思い出した。

 

『過去に同じ依頼をしたが、当時依頼を引き受けた業者が始末し損ねたせいで殺害対象が護衛の数を増えてしまったのでゴールドクラス相当の業者のみに限る──』

 

 つまりはアマチュアのマヌケがヘマをして金額と達成難易度があがったというわけだな、

と一は鼻で笑う。

 彼女達が来る前に、双眼鏡でビルの中の護衛達を確認していた。

 

 依頼のメールの中では護衛は20人ほど。その中でも10人は一も知っているほどの強力なボディーガードの顔もあった。

 一は数秒眼を瞑り、「ああクソ」と悪態を突きながら彼女達を見

てこう言った。

 

「分かった。お前らと組む。ちんたらしてる間に新たな同業者が参戦してきたら厄介だしな」

「やった。話分かる人で助かったよ。それじゃあ作戦立てなきゃね」

「あぁ、だがお前らが来たおかげでスムーズに事が運ぶ名案を思いついた。聞く気は?」

「ちゃんと名案だったらいいよ」

「私は良子ちゃんが良いと思ったならそれに従う」

「よし。それじゃあ説明するぞ。まずは──」

 一は雷我姉妹に作戦内容を説明し、行動に移した。

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