兄妹共に仲良し殺し~伝説の殺し屋に憧れた俺、妹に仕事を奪われる~   作:新田トニー

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第12話 

高層ビルの地下駐車場は、灰色のコンクリートで彩られた城のような広さだった。

 

 その中には大小様々、色も形も違う車が行儀良く横列に並んでいる。

 その地下駐車場にて、複数人の黒服の屈強な五人のボディガードが大仰な雰囲気を醸しながら歩いていた。

 その護衛達の真ん中に囲まれるようにして歩いていたのは黒のオールバックに白髪が混じった壮年の男だった。

 

「会長。こちらの車にどうぞ」

 

 護衛の一人が高級車の後部座席に乗るよう促し、男はそれに対し「ああ」とだけ答えて車に乗ろうとする。

 

「へぇ、随分良い車乗ってるじゃん」

 

 駐車場の中で明るく高い女の声が響いた。

 護衛とその対象の男は声の主に驚き、一斉に振り向く。

 

 声の主は良子だ。そしてその隣には綾がいる。

 

「でもその車ちゃんと見た方が良いよ?どこかの手癖の悪い奴がタイヤに穴開けたっぽいから」

 

 良子が指で車の前輪辺りに指をさす。

 その先には彼等が乗ろうとしていた車のタイヤに穴が空きタイヤとしての機能はほとんど果たせそうになかった。

 

「お前ら……殺し屋だな。誰の依頼だ?」

「あっもう何の用か分かっちゃうんだ。やっぱり大企業のお偉いさんだとやましいことがいっぱいで心当たりがあり過ぎるのかな?」

 

 良子と綾は背中から自動小銃を取り出す。

 良子はカービンライフルのM4カスタム、綾はクリスベクターを持って構え、護衛もろとも撃ち始めた。

 

「会長ォ!危ない!」

 

 護衛達は会長を車の陰に誘導し、車体を盾替わりにした。

 アサルトライフルの発砲音がコンクリだらけの空間に火薬と弾丸が怒号のように痛々しいほど響いた。

 護衛達はそれぞれスーツの下から拳銃を取り出し、撃ち返し始めた。

 

「応援を呼べ!」

 

 ボディガードの一人が別のボディガードの男に増援を呼ぶよう言った。

 言われた通り男は耳にかけていた無線を使って呼びかけを試みる。

 

「こちらA班!今地下駐車場で襲われている!至急応援を頼む!」

 

 男は無線を使って叫んだが、応答は無かった。代わりに無線の向こう側に銃声と怒号が飛んでいた。

 

『相手は一人だ!囲んで封殺しろ……ギャア!』

『撃て撃て!じゃないとこっちが殺されるぞ!』

『なんなんだコイツ!』

 

 B班の護衛達はたった一人に圧倒され、応援に駆け付けるどころではなかった。無線から聞こえる悲鳴が護衛の男に耳に入って行くばかりだった。

 

「そんなちっこい銃でアメリカ育ちのライフルに勝てると思ってんの~?」

「良子ちゃん。無駄口叩かず敵を叩く」

「はいはい」

 

 ライフルで牽制射撃をしながら茶化す良子を咎める綾。そしてそれに適当に答える良子。

 二人は護衛達と会長が隠れているであろう車に向けて銃弾をばら撒く。

 

「おっと弾切れ。リロードタイム」

 

 良子はコンクリートの壁に隠れてからのマガジンと新しいマガジンを装填する。

 

「綾、援護」

「了解」

 

 良子がリロードしている間、綾が代わりに護衛と会長が隠れている壁や車に銃弾をばら撒いた。

 銃の発砲音とむせ返るような硝煙の香りが地下駐車場を包む。

 しかし、このまま打ち合いをしても決着を早々に着けることは難しい。

 そう判断した良子と綾はお互いの顔を見合いながら、

 

「あれやろう、綾」

「アレ?あ、ピーカブー?」

「そうそれ」

 

 良子と綾が互いに頷くと、綾が学生服のスカートの中から閃光手りゅう弾を取り出し、護衛達の方へ投げつけた。

 

「まずい!お前ら目と耳を塞げ!」

 

 護衛の一人がそれに気づき、注意を促すが少し遅かった。耳を劈く轟音と眩い光が放たれ、一瞬彼等の聴覚と視覚が奪われる。護衛達はうめき声を上げ、目と耳を押さえていた。

 

「警戒しろ。近くにいるかも──」

「いないいないばあっ!」

 

 不意を突く形で護衛達の横から良子がゼロ距離から護衛の一人の頭を撃ち抜いた。

 

「一人やられた!撃ち返せ!」

 

 護衛達が良子に拳銃を向け発砲するが良子は彼女が頭を打ち抜いた護衛の死体を盾にし、彼等に突撃する。

 

 死体をぶつけられ体勢が崩れた四人の護衛は反撃をすべく立ち上がり拳銃を構えるが彼等の内一人が間に合わずに綾に眉間を弾丸で貫かれる。残った三人の護衛は目配せをし、一人がターゲットの会長の元に走り出し、残りの二人で良子と綾を相手取った。

 

「あっ!逃げないでよ!明日のおまんま食べるためのお金が逃げちゃう!」

 

 良子が追いかけようとするが、彼女の目の前にボディガードが立ち塞がる。

 良子はM4を構え、発砲しようとするが、男はガンファイトではなくインファイトに持ち込むために、銃身を握り、力いっぱい振り回した。

 

 良子は男の筋肉任せの力技に対応できず、武器を奪われてしまった。ボディガードの男は右の剛腕を良子に打ち込んだ。

 

「不味った…!」

 

 良子は両手で顔に入らないよう防御の構えを取る。男の一撃は重かったのか良子が華奢だったのか、重力を無視したかのように良子は殴り飛ばされる。

 

「良子ちゃん!」

「こっちは大丈夫!綾は自分の心配してて!」

 

 良子は綾に向かってそう叫ぶと、受け身を取って立ち上がる。

 ここからは時間の勝負だ。

 彼女達が最短時間で護衛達全員を始末できなければターゲットに逃げられ仕事は失敗する。

 

 失敗すれば経歴に傷が付き仕事が回って来なくなる可能性がある。そもそもここから生きて帰ることが最優先事項だ。

 

「クソ…!コイツ結構力強いな……」

 

 綾は舌打ちをしながらもう一人の護衛の男と戦っていた。

 距離を詰められベクターで仕留めることが敵わず、綾はベクターを護衛に捕まれる。

 

 綾は振り払おうとするが、死に物狂いで綾を倒そうとしている護衛の男の膂力にはさしもの綾も敵わなかった。

 

「ああもう、早く放して!これ買った後カスタムするのにいくらかかったと思ってるの?」

 

 綾は苛立ったのか、愛銃を不用意にベタベタ触られているのが気に喰わないのだろうか、声を荒げて護衛の男に向かって叫んだ。

 

「離すもんか!お前らはここで止める!」

「そんなにこの銃が欲しいの?」

「当然だ!」

「そう、じゃああげる」

 

 綾はそう言うとパッと手を放した。

 

 全身全霊を腕に込めて銃を奪おうとしていた男に身体は急に力みを抜かれ、一瞬足をぐらつかせた。綾は制服の袖を軽く振る。

 すると袖の下から小型拳銃であるデリンジャーを取り出し、二発の弾丸を護衛の男に撃ち放った。

 

 男は苦悶の表情を露わにし、綾はいつの間にやら奪い返されたベクターで男をハチの巣にした。男はすぐに死亡した。

 

「はぁ、めんどくさい。良子ちゃん。終わったー?」

「あともうちょっと!待っててね!」

 

 綾の言葉に良子は大きな声で答える。良子は銃を奪われ遠くに投げ捨てられた。

 

 丸腰になった彼女は拳を固く握りボクシングの構えを取った。

 

 護衛の男も触発されたのか同じくファイティングポーズを取り、タン、タンと小刻みに跳ねながらステップを刻む。

 

「へぇボクシングスタイルでやるんだ。じゃあ私も」

 

 良子は拳を握って構え、女と男による異性別格闘技が始まろうとした瞬間、ベクターの連射力の高い銃声が最後のボディガードの生命活動に終止符を打った。

 

「……綾ちゃんさぁ。せっかく燃えて来たのに台無しにするようなことしないでよ~」

「いや、本来の目的思い出してよ。会長さん仕留めないと」

 

 綾が呆れた顔で良子に思い出すよう言うと、良子は目を見開いて「ああヤバイ!」と言って綾と共にターゲットの会長を追いかけた。

 

 二人が急いで追いかけると、目の前には会長を逃がそうとしていたボディガードを一方的に殴り、蹂躙していた一の姿だった。

 

「も、もうやめてくれ……」

 

 タコ殴りにされて戦闘不能な上血だらけの状態で懇願する護衛の男に対し、一は申し訳なさそうな顔をしながら、

 

「ああ悪いな。さっき弾を使い果たしてな、拳でやるしかなかったんだ。それじゃおやすみ」

 

 そう言って一は右腕のスーツの袖を捲って強力な一撃をお見舞いした。

 男は意識を失って力尽きるように倒れた。

 

「お前ら何してんだ。ちゃんと真面目にやれよ。危うく逃がすところだったろ」

 

 一が二人に対して注意するように怒り、ターゲットは地下駐車場の壁に追いやられながら小鹿のようにぶるぶる震えていた。

 

「えっ、早くない?10人くらい居たボディガードの奴等どうしたの?」

「おねんねさせた。戦力が分散したお陰で5分で片が着いた」

 

「いや、アンタは足止めするだけで良いってあたし言ったじゃん。足止めするどころか全員やるなんて……想像以上だね、アンタ」

「元々一人でやれたさ。賞金を独り占めするのも可哀想だから一時的にコンビを組んでやったんだよ」

「本当は意地張ってんでしょ?ね、そうでしょ?」

 

 良子は一の肩を軽く拳で小突きながら言った。一は「うるせぇ」と言って一歩後ろにあとずさりする。

 

「ねぇ、この人どうする?」

 

 綾が二人の間に割って入るようにターゲットを指で示しながら言った。

 ターゲットの会長はびくりと大きく肩を震わせ、恐ろしい物を見るような目つきで三人を見る。

 

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